image

実際に購入したのはお盆前ですので、すでに1ヶ月ほど経っていますが、福井の自宅と、東京の単身赴任先用でそれぞれバックロードホーンのスピーカーキットを購入して作成してみました。

■「Stereo」別冊バックロードホーン・エンクロージャとToptone「F77G98-6」をあわせる
「Stereo」誌2016年8月号の付録スピーカーユニットとの「組み合わせ」を想定した「別冊」扱いの「スピーカー工作の基本&実例集2016年版」(4,900円)です。 
_SL250_
同紙のスピーカーユニットの付録は毎年の夏の定番となっており、そのユニットと組み合わせるためのエンクロージャ(ケース)も別冊も同様に毎年出版されています。ただ、ここ数年はケースの「別冊」だけをみると10cmユニットだったり、フルレンジとツィーターが上下逆のセッティングだったりと多少のキワモノ感があったのもの事実ですが、ここへ来て「8cmフルレンジ用の小型バックロードホーン」という、いかにも入門用には最適な「ド定番」を持ってきたという感じです。
実際スピーカーターミナルなどの配線まわりもついてこの価格はAmazonなどで見る8cmユニットのスピーカーキットの中でも最安に入りますし、いまのところ地方の書店でも買える入手性の良さは群を抜いています。
今回、福井の自宅でのサブスピーカー用に購入。

ユニットにはあえて、「コスパ最強の8cmユニット」として知られる秋月電子で販売される「F77G98-6」を使用。
このユニット、単品価格1個300円。ペアで買えば500円(1個あたり250円)。もう安いなんてレベルではありません。
私は秋葉原の店頭で購入しましたが、通販でも同じ価格で購入できます。その場合送料がかかりますが中華アンプ用のACアダプタなど「ついで買い」できるアイテムも多い秋月ですから充分コスパ的には満足いくでしょう。
この構成で満足がいく音が出れば、5千円台でスピーカーが作れることになります。 

エンクロージャの作成は初めてでしたが、説明はわかりやすく、木工用ボンドがあればサクサク組み立てることができます。ニトリやIKEAとかの最近の棚などの組み立てを思えばむしろ相当に簡単な部類ではないでしょうか(お盆に自宅のAVラックを組み立てましたが数十倍しんどかった・・・笑)。
最終的に重しを載せて密着させますが、私は雑誌などを載せた上に自分で乗って自身の体重で固定。
30~40分ほどで作成し、あとは1日ボンドを乾燥させてできあがり。

■F77G98-6の装着
その後スピーカーユニット(F77G98-6)を装着します。
image8Ω10W広帯域用スピーカーユニット「F77G98-6」(Toptone、東京コーン紙製作所製)は価格からは想像も付かない「いい音」で鳴るフルレンジのユニットとして広く知られています。なにしろ価格が安いのでたくさん買っていろいろなエンクロージャと組み合わせて楽しむなど自作スピーカー派にはもはや定番商品と言って良いと思います。
データシート(秋月電子サイト)を見ると、中域から高域まで80db付近で安定したレスポンスを持っていて、フルレンジとしての使いやすさと、バックロードホーンによる低域増強の効果が得やすいユニットであることがわかります。

ただ、このユニット、Stereo付録のFostex製ユニットなどと比べてネジの固定位置がひとまわり小さいため、そのまま装着するとエンクロージャとユニットの間に若干の隙間ができてしまいます。※「F77G98-6」は正確には8cmではなく「3インチ」(7.7cmくらい)ユニットのため。
そこで、ホームセンターで窓サッシ用の戸あたり防音テープを購入し、ユニットの外周に貼り付けてから装着。ケースとの隙間を埋めました。

■室内を包み込む広がりと癖のないサウンド
さっそく福井の自宅で使用している「CarotOne ERNESTOLO」とDENON「PMA-390RE」に接続して聴いてみます。想像以上にエンクロージャとの相性は良いようで「F77G98-6」の特性である癖のない中域から高域の心地よいサウンドに加え、バックロードホーンによる低域が予想以上の広がりを見せます。
imageimage

自宅のアンプでも実は最も駆動力の高いCarotOne ERNESTOLOでは、ターンテーブル(私はオーテクの安価な「AT-PL300」を使用)で再生した70年代のABBAのLPレコードが再び息を吹き返したような生き生きとしたサウンドで蘇り(機器の総額を考えると驚異的な音かも)、PMA-390REではメインで接続している「JBL Control One」と比べ、解像度こそ劣るものの中低域の広がりは遜色ないレベルで再生できます。
特にControl Oneの場合の気持ちよく感じる音量より2段階くらい小さい音量でも十分に楽しめるため、特に夜間のリスニングで家族に迷惑をかけないのは隠れたメリットです。この辺は「バックロードホーンの強み」といったところでしょうか。とにかく、5000円そこそこで作れる音ではないですよ。

その後、「Stereo」2016年8月号付録のFostex製ユニットに換装してみました。image

もともとこのユニット用に作られたエンクロージャですから当然相性は抜群で「F77G98-6」と比べ、解像度は大幅に向上し、ニアフィールドも含めかなり広い用途で「メインでも行ける」くらいの音に向上しました。ただ、解像度が向上した分「F77G98-6」であったような「ぶわっ」という感じの音の広がりは相当に押さえられ、ある意味「普通のスピーカー」になったとも言えます。個人的にはこの組み合わせも「好きな音」ではありますが、部屋にある他のスピーカーとの棲み分けができなくなったとも言えるので、とりあえず「F77G98-6」に戻し、「Stereo」付録ユニットはこのケースをもうひとつ作って別の部屋に置いてみようかな、などと考えています。


■似て非なる、もうひとつの8cmバックロードホーンキット
福井の自宅でのスピーカー製作に気をよくして、東京の部屋でももうひとつ作成してみることにしました。
_SL160_せっかくなので、同価格帯の別メーカー品、というわけで、Amazonでも評価の高かった吉本キャビネットの「BW-800」を選択。こちら、スピーカーターミナルなどは別売りですが5000円台で購入できるキットで、見た目も「Stereo」別冊と外観・サイズなどもよく似ています。というかこのBW-800があって別冊の商品が生まれた、という気もします(Stereoのキットも実は同じ吉本キャビネット製だそうです)。
今回、はターミナルやスピーカーユニットも付属する「BW-800D」のほうを購入しました。また予備に買ってあった「F77G98-6」も換装して比較してみます。

キットが届くと、ぱっと見Stereo誌別冊とよく似ている気もしますが、中の設計は結構異なります。組み立ては別冊の方はエンクロージャ内にいれる部分を先に組み立てて順番に固定する方式ですが、BW-800では片方の側板にガイドに従い木工用ボンドを塗り、一気に中の板を張り付け、反対側の側板を乗せる方式。左右で微妙に板がずれないか、筐体の密閉性を確保できるかという点では若干ですがBW-800の方が難易度が高いです。また別冊の方では説明で「木工用ボンドがはみ出ないように」という記述が随所にありましたが、BW-800の場合は意図的に多めにボンドを付け、接着時に多少はみ出るようにした上であとから拭き取るほうが良いようです。
今回は組み立て後、木工用のカラースプレーでペイントをしてみました。
ものぐさなので特に下地処理などはしていませんが、できれば組み立て後サンドペーパーで表面をならして、下地用のスプレーなどを塗ってからペイントした方が遙かによい仕上がりになります。 

■「そっくり?」かと思いきや全く異なるスピーカーユニット
キットに入っていたスピーカーユニットを見て「これはF77G98-6じゃないのかしらん?」と思いました。Fostex製などと比べネジ穴がひとまわり小さいユニットのサイズも3インチと同一で正面から見た感じもそっくりです。
しかし実際はこちらは「F02108H0」というユニットで、「北日本音響」という全く別のメーカーのものであることがわかりました(写真は左が付属の「F02108H0」。右がToptone「F77G98-6」)。
imageimage

またデータシートを見てみると特性も「F77G98-6」とは多少異なります。
これを見ると付属ユニット(F02108H0)のほうが低域の立ち上がりはより高い周波数から始まっており、いっぽうで中域の反応は全般的に「F77G98-6」より良いのがわかります。

image実際セッティングを行い、再生を行ってみます。東京では中華アンプの「SA-36A pro」を使用します。
中華アンプは他に「Lepy LP-V3S」を持っていますが「SA-36A pro」のほうが駆動力が高く、手持ちのどのスピーカーに合わせても一定の音質で鳴ってくれるため気に入っています。まずキットに付属するユニット(F02108H0)実際に鳴らしてみるとStereo別冊のキットとは全く異なるサウンドにこれだけ似ているキットなのにこうも音が違うのかと驚かされます。
エンクロージャ内での音の響きがBW-800の方が非常に豊富で低音も厚く、「ハコで奥行きを表現する」バックロードホーンらしさは確実に実感できます。
image「ハコで鳴らしている」のを多く感じるのは、スピーカーに近づき真上で聴くと全く響きが異なるなどリスニングポイントで結構音が変わる点。また、東京の部屋(だいたい8畳くらい)でそれほどボリュームを上げない環境では多少「低音が響きすぎる」感じもあるため、下部に樹脂製のインシュレータを、正面の開口部に吸音材を敷いて音を少しすっきりさせました。それでもデスクサイドなどの極端なニアフィールドでの使用より部屋全体で聴くタイプのスピーカーであると思います。
いっぽう、ユニットを「F77G98-6」に換装すると、このボックスの特性の「悪い点」が顔を出してきました。つまり「ハコ鳴りがひどい」という状況です。上記の特性の違いの通り、付属ユニットに比べ「F77G98-6」はより低い音から立ち上がっており反応が若干低いため中高域にボリュームを合わせると低音が響きすぎて不快なハコ鳴りが起こるものと思われます。
ただ、東京の設置環境の問題もあるようで、過剰な響きを抑えるため、吸音材を多めに敷き、インシュレータから吸音性の高い樹脂製のシートに交換することで相当に緩和されました。
image
その後、BW-800Dユニットも福井の自宅に移動したのですが、こちらの設置環境では少し部屋が広くなり、壁の反響も相当押さえられていることもあり、今度は付属スピーカーユニットだと低音がすこし物足りなく感じるようになり、「F77G98-6」に換装した方がよい結果が得られました。この環境ではアンプに「Lepy LP-2024A+」を使い、さらに上海問屋の真空管アンプ(CarotOneのヘッドホンアンプとそっくりで真空管がロシア製)を通して再生しました。
自宅での設置環境では、この組み合わせはなかなか正解です。

このように、同様の価格帯(で同じ製造元)の2種類の8cmフルレンジ・バックロードホーンのキットですが、個性はずいぶん異なることを実感しました。搭載するスピーカーユニットはもちろん、設置環境でも印象が相当変わりますので、実際の環境でいろいろ試されることをお勧めします。