title


■ハイレゾの良し悪しはよくわからない。だから「ダイナミックレンジ」で比べてみよう。
442133e1-s家電量販店に行くといつの間にかオーディオコーナーはどんどんスペースが拡大し、「ハイレゾ」対応商品が所狭しと並ぶようになってきました。同時に日本では「e-onkyo music」や「mora」などの配信サイトを中心にハイレゾ音源が数多く販売されており、私自身もいつの間にか相当数の楽曲を購入していることに気づきました。
ハイレゾというと特に人間の可聴域を大きく超えるサンプリング周波数が意味があるのか(倍音効果的な話など)などを中心に技術的・感覚的などさまざまな視点での解説がネット上に多く見つけることができます。

ただそういう「難しい話」はさておき、だれでも簡単に確認できる方法で、かつ私自身のような「おっさん」も始まっている、老化により高周波の音がどんどん聴こえなくなる耳でも確実に聴き分けられるもの、という点で「ダイナミックレンジ」に着目しました。

36一般的にダイナミックレンジとは最大値と最小値の比率ですが、「音源におけるダイナミックレンジ」とは最大音圧と平均音圧(rms値)の差をみれば良いようです。
よりS/Nが高いプレーヤーやアンプでよりワイドレンジのイヤホン・ヘッドホンやスピーカーを使うことで聴き分けられる、という点で極めてオーディオ的な指標といえるのではないかと思います。また「音量」のデータなので、ハイレゾかどうかに関係なく、同じ楽曲で簡単に比較が可能です。今回私は音楽データの波形編集の定番フリーソフト「Audacity」を使用。同じ曲のCDなどの通常音源とハイレゾの両方を持っていれば誰でも簡単に比較ができます。
(コントラスト解析で簡単にrms値との差を確認できます)

同じ楽曲で「ダイナミックレンジ」が高い音源は前提としてS/Nが高く、音場感(広がり)や奥行き、さらに定位感といったレコーディング時の情報をより正確に表現します。また微弱な音も表現できるわけですから、解像度や分離感の高い再生環境(DAP・アンプおよびイヤホン・ヘッドホン)であればより分析的に聴くことが可能になると思います。つまり良いマスタリングであれば高周波の音が聞こえるかどうかに関係なく(笑)、「ダイナミックレンジ」が高い音源は「再生環境がよければ確実にいい音に聞こえる」のではないかと思うわけです。


■ハイレゾ音源はより高音質なマスタリングがされているのでは、という「仮説」。
ここで、ひとつの「仮説」を考えました。ハイレゾ音源は基本的に「ハイレゾ対応機器」で再生することを前提にしています。つまり、ハイレゾ音源はより高性能な環境で再生するわけですから、CDより音作りの制約は少なく、よりレコーディング音源に近いマスタリングがされているのではないか、しいてはCDより音圧を下げ、高いダイナミックレンジで制作されているのではないか、という「仮説」です。特に古いCDなどにみられたコンプレッサー処理(ダイナミックレンジを圧縮して低音質なプレーヤーでも聴きやすくする処理)などを行わない分、「良い音」になっているのではないかと考えたわけです。このことは私が2014年に書いた「SE535LTD」のレビューでも触れており、改めて確認しようと考えました。

image私の場合、上記のShure「SE535LTD」やAKGのモニターヘッドホンなどで基本的にフラットでモニターライクの音を「Astell&Kern AK300」のような味付けの少ないDAPを使い好んで聴いています。もっともスピーカー環境ではもうすこし低音が厚いリスニング寄りの音にしていますし、いっぽうで味付けの濃いイヤホンやポータブルアンプの多段構成も実は結構好きではあります。
ただ料理にたとえると、「味付けの濃い料理も時折はさみながら普段は素材の味を楽しみたい」みたいな感じでしょうか。普段から和食で素材の味を楽しんでいれば、たまのフレンチは新鮮ですし、ファーストフードもおいしいと思いつつそればかり食べることはないだろう、そんな感覚です(例えが大げさですねw)。
ですから、「ハイレゾ音源」がCD音源よりDAPやポタアンで追加の味付けをしなくても楽しめる「素材」なのかどうかは結構意識したいと感じるわけです。


■ハイレゾの量子化ビット数およびDSD形式の「音の密度」は今回は考えない

ハイレゾ音源はCDより高いサンプリング周波数とあわせて、通常「24ビット」などCD(16ビット)より高い量子化ビット数で提供されています。ビット数が高いほどより細かくデジタル化されていることを示し、より原音に近い精度になります。また、実際のレコーディング現場で最もよく使われるマスタ音源は「24bit/48kHz」と言われており、そういった意味でも24ビットの音源のほうがマスタに近いといえるでしょう。ただし実際には広いビット数で記録できる微弱な音や大音量を余すことなく再生するためには相応の再生環境(徹底的にノイズや騒音を排除し、かつかなりの大音量を音割れなしに出せる環境)が必要で、スピーカーはもちろんヘッドホン・イヤホンでも相当にハイエンドな装備が必要になります。
3730bd56またハイレゾPCMと全く異なる方式のフォーマットであるDSD形式も、SACDの内部フォーマットやDSDの配信音源で多く使われるDSD64(2.8MHz)は高周波ノイズをローパスフィルタでカットするため実際には可聴域外の音はカットされサンプリング周波数的にはCD音源に近い(ハイレゾではない)ものの、アナログ音源に匹敵するレベルの極めて高密度な録音がされています。例えばわたしはSuaraなどのアーティストの作品を手掛けるF.I.X.RECORDSのSACDやDSD音源をいくつか購入していますが、そのこだわりの音はいつも魅了されています。
ただし、この「音の密度」の違いをどの程度プレーヤー・アンプやイヤホン・ヘッドホンで再生できるか、そしてリスニングで感じることができるか、は全く別の概念であるため、ここでは触れないことにします。


※以下の文中で紹介する曲のCDジャケット等はAmazonのアフィリエイトの画像を利用しております。あらかじめご了承ください。

■ハイレゾ化にあわせて旧音源の「実質リマスター版」になっている音源
これまでに結構な数のハイレゾ音源を購入しているのですが、実際にCD音源と比較してみると想定通りにわかりやすく高音質化している楽曲が驚くほど少ないことがわかりました。

ただ、私の場合80年代~90年代の古い楽曲のハイレゾ版を多く購入していることもあり、これらの曲の多くは「実質的にリマスター版になっている」ケースにあたるため、単純にダイナミックレンジでは比較できないことが多かった、というのもあります。
1980年代~90年代の「最後のアナログマスター」音源からのハイレゾ版の多く(一例をあげると、宇多田ヒカルの「シングルコレクション」やTM NETWORKの「CAROL」、レベッカの「REBECCA-revive-」など)は、ハイレゾ化にあたって徹底したリマスタリングを行っており、「ハイレゾ版」というより実質的な「リマスター版」といえる仕上がりになっています。
例えば、上記TM NETWORKの1988年のアルバム「CAROL」から「Gia Corm Fillippo Dia」という曲を1988年当時のCD版と2014年に作られたハイレゾ版(24bit/96kHz)で比較してみると、元が80年代のアルバムということもあり、ハイレゾのほうが音圧はむしろ高めで、さらに波形の違いから、単純にアナログマスターからハイレゾ化を行っただけでなく、曲全体でも相当に手を加えているだろうことが確認できます。
36 
このような音源の場合、ハイレゾかどうかというより、最新のリマスター版として好きなアーティストの作品であれば購入する価値はあると思います。ただ、裏を返せばリマスター化されたCD音源がすでに存在する場合、さらにそのハイレゾは・・・というのはちょっと疑問かもしれません。


■古い楽曲は2000年以降のベスト盤CDで音質傾向が激変している
特に、このように80年代以前の古い楽曲の場合、2000年以降に発売されたベスト盤などで既にマスタリングしなおしている可能性があり、わざわざハイレゾを買わなくてもレンタルCD店や中古CD店などで安価によりよい音源が入手できる可能性がある、というケースも存在します。
2000年頃以降のCDはより「音圧」を高めにマスタリングされるようになり、波形をとると音圧が非常に高い「真っ青」な波形がでてくることが増えてきます。この頃「ラウドネス戦争」と呼ばれた、当時の新譜でどんどん音圧を上げていきそれが競争のようになった時期がありました(それを批判的に捉え「戦争」と呼んだそうです)。音圧が高く録音されていること自体は現在では当たり前になってしまっているので仕方ないのですが、この時代に作られたベスト版などのアルバムでは真面目にダイナミックレンジの向上にも取り組んだ作品も少なくはありません。

例えば、e-onkyo、mora双方でハイレゾが販売されているマイケル・ジャクソンの1980年代の代表曲を数多く集めたベスト盤「The Essential Michael Jackson」は、2005年のCD発売時点で80年代のCDより確実に高音質化しており、同じアルバム同士ではハイレゾ音源との差異は非常に少なくなっています。

また、上記のように2000年以降に「新しいCD音源」で単純に音圧をあげることでメリハリをつけるような修正が行われたケースもあります。実はこの頃の音がほぼそのままハイレゾ版になっているケースもあります。1984年に上映された劇場版「超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか」のサントラ盤のCD音源が満足のいく音質ではなかったため、飯島真理の主題歌「愛・おぼえていますか」と挿入歌「天使の絵の具」のハイレゾ音源を購入したのですが、実はこれが2002年のベスト盤「マクロス ソング・コレクション 2002」に収録のCD音源と中身的にほぼ同じ内容だった、ということがありました。
 
オリジナルのサントラもベスト盤もすでに廃盤になっているため、ハイレゾがこのような内容でも新規で購入可能な最高の音源、という意味で嘘はないかもしれません。しかし個人的には無理してハイレゾを買う必要はない、というわかりやすい事例として大変教訓になりました。


■ハイレゾ化時の「脚色」が良いとは限らない
また別のケースでは、ハイレゾ化する際に、購入者が「CD音源とは違う音」と感じるように意図的に味付けを変えているのでは、というパターンもあると思っています。例えば、絢香の休養前のワーナー時代の曲を集めた「ayaka's History 2006-2009」に収録された「三日月」を比較した場合、手持ちのCD音源と同アルバムのハイレゾ音源(24bit/96kHz)では、ハイレゾ音源のほうが全体的に中域を持ち上げ音圧を上げており、そのためコントラスト差はCDが-13.04dbなのに対し、ハイレゾ音源は-11.77dbとむしろハイレゾ音源のほうがダイナミックレンジは圧縮されています。つまり典型的な音圧アップのパターンです(正直あまり好きな音ではありませんでした)。
39 
絢香は復帰・独立後、自主レーベルで各種配信サービスでのリリースにも力を入れていますが、こちらのハイレゾ音源はすべて24bit/48kHzになっており、よりレコーディング時のマスタに近い音源であろうと思われます。個人的に絢香の独立後の楽曲の配信音源は非常にクオリティが高いと感じており、いくつかの曲はイヤホンのリスニングテスト用のプレイリストにも入れて活用しています。これら独立後の楽曲にワーナー時代の曲も含めて収録された新しいベストアルバム「THIS IS ME~絢香 10th anniversary BEST~」のほうに収録された「三日月」(24bit/48kHz)を見ると、CD音源に非常に近い波形で、コントラスト差も-13.4dbとわずかですがCD音源よりダイナミックレンジが高い内容になっています。おそらくこの音源が最もオリジナルマスターに近い音なのではないか、と感じます。
56 


■わずかだが、ハイレゾがCDより純粋に「高音質かつマスターに近い」と思われる音源
そんななか、手持ちの音源で「レコーディング音源がハイレゾ」でCDに比べすべての項目でハイレゾのほうが(マスタに近い)高音質ではないかと思われたアーティストのひとつが「fripSide」でした。
   
アルバム「infinite synthesis 3」に収録された「Luminze」について同じアルバムのCD版とハイレゾ版で比較してみると、他のアニソン同様に非常に高い音圧の「真っ青」な波形なのはどちらも同じですが、中央の色の薄い部分(波形の下の部分)がハイレゾのほうが少し細いのがわかります。さらに曲全体から時間を絞って拡大していくと、波形の違いはよりはっきりと認識できました。
49スクリーンショット-2017-04-
※波形データは曲全体のものを貼っています。真っ青でこの大きさではわかりにくいのでクリックして拡大してください。

実際ゲインのコントラストを比較するとハイレゾのほうがきちんと大きくなっており(CDが-10.47dbに対しハイレゾは-11.12db)、わずかですがダイナミックレンジが高いことがわかります。この違いを聞き分けるためには、レンジの広いマルチBAドライバのイヤホンが真価を発揮しそうです。

また「Luminze」という曲はシングルカットでもハイレゾ版が配信されていますが、他のアルバム曲とのゲイン調整が不要なシングル版のほうが音圧は低めで、音量のコントラストも-11.21dbとさらに高いダイナミックレンジで収録されていました。
なお、fripSideについては過去のアルバム「infinite synthesis 2」も同様の傾向で、すべてのハイレゾでダイナミックレンジだけでなく、サンプリング周波数などあらゆる部分でマスターにより近い音源となっていると思われます。


■ところで、ランティスのハイレゾは「アリ」なのか

いっぽうアニソンといえば、数多くのアニソンアーティストを抱えるレーベルであるランティスが代表的で、同時にハイレゾの配信にも極めて積極的なレコード会社であることも知られています。ただ、同社のハイレゾのアルバムは6,000円台など他のレーベルのハイレゾより高額が作品が多いのもまた特徴(?)。さらに音質面についての(主にネガティブな)指摘も掲示板やSNSで良く見受けられます。

ランティスの中でもオーディオ的に特にこだわっていそうなアーティストのひとつ「fhána」のアルバム「What a Wonderful World Line」から「虹を編めたら」を同じアルバムのCD音源とハイレゾで見てみると、ほかのランティス作品同様に限界まで音圧を上げた、ピーク近くを埋め尽くす波形が確認できます。
51 
ただ、同様に「真っ青」だったfripSideと異なり、波形の形状もダイナミックレンジもCDとハイレゾではそれほど大きな違いはありません。実際サンプリング周波数も含め中身的にはCDとさほど変化はありません。この程度の違いでハイレゾのアルバム価格が6000円台、と思うとちょっと首をかしげずにはいられません。


■「Mastered for iTunes」という優れたマスタリング配信音源(ただしAAC)
54ところで、fhánaの曲はAppleのiTunes Music Store(iTMS)では「Mastered for iTunes」の曲としてAACで配信されています。「Mastered for iTunes」とは、より高音質(要するにハイレゾ)のマスター音源からiTunesに最適な音質になるようにAppleがマスタリングをして配信している音源のこと。iTMSの中でも「Mastered for iTunes」対象楽曲は限られていますが、他の曲同様にiTMSで購入するほか、「iTunes Match」を契約していれば、iTunesにCDなどからインポートした音源を自動的にAppleがマッチングしiCloudミュージックライブラリへ登録することで正規に利用できるようになります。

私は「iTunes Match」経由で「Mastered for iTunes」版の楽曲を入手。こちらとさきほどのハイレゾ音源を比べると、「Mastered for iTunes」版AACのほうがピークの音圧は低く、その分ダイナミックレンジはハイレゾ音源より高い、という結果になりました。つまり量子化ビット数やサンプリングレートなどのハイレゾ要素を度外視すれば、「Mastered for iTunes」版AACがハイレゾを超え、最も良い音に聞こえる可能性が高い、ということを意味します。
53

ちなみに、この「虹を編めたら」という曲はシングルとアルバムとで音圧の差が大きくダイナミックレンジも含めて同じハイレゾ版ならシングルの音源のほうが圧倒的に高音質です。しかし、こちらも同様にシングルの「Mastered for iTunes」版AACのほうがさらにシングル版ハイレゾを上回る音質になりました。
58 
以前から「Mastered for iTunes」の音質の良さは認識していて、「iTunes Match」でマッチングして入手した曲データを普段使っているDAP「Astell&Kern AK300」に転送して聴いていたりしていたのですが、その実力を改めて確認した結果となりました。


■感想。正直なところ、もうちょっとだけがんばって欲しい。
今回の記事を書いたきっかけは、私が普段使っているイヤホン(Shure SE535LTDなど)やスピーカー(DALI ZENSOR1など)の多くは周波数の上が20kHz程度と可聴域内の製品がメインの中で、確実に聴き分けられる「ダイナミックレンジ」でハイレゾ音源の優位性を確認しようというものでした。
また趣味とはいえオーディオにあれこれお金を使っている以上、そこで聴く音源という「素材」は上記の料理の例えで言えば「良い食材、おいしい食材なら多少高くても買いたい」と思います。
ただ、実際に購入した音源を聴いていると、レコーディングマスター自体がDSDやハイレゾ化しているなかで、ちゃんとしたクオリティの音源を販売しているアーティストもいるいっぽうで、実はCDとほぼ変わらない音源も少なくはないと感じます。多くの場面ではCDレベルでマスタリングの品質は格段に向上しており、「ダイナミックレンジ」のようなわかりやすい指標ではハイレゾとCDとの差はほとんどないことは仕方ないのかもしれません。としてもハイレゾをCD音源より高額で販売する以上、相応のエビデンスは欲しいものだと思いますし、アーティストによってはダイナミックレンジだけをとらえれば「Mastered for iTunes」版AACでの圧縮音源での配信が最も優れているケースがあったりすると、いよいよもってハイレゾの意義を問いたくなってきます。より購入者が満足できる商品をレコード会社も販売してくれたら嬉しいなと思う次第です。