iFI-Audio nano iDSD BL

今年も残すところあと数日となり、書きかけレビューをなんとか年内に消化したいな、ということで、今回は iFI Audio「nano iDSD BLBlack Label)」です。「nano iDSD」の後継モデルとして、「nano iDSD BL」は特に音質面において劇的な向上がされた最新モデルとなります。

英国iFI Audioの「nano iDSD」といえば、数年前のデビュー時にはポータブルオーディオだけでなくデジタルオーディオ全般で爆発的にヒットし、同社を一躍有名ブランドに押し上げたエポックメイキング的なUSB-DAC&ポータブルアンプ製品だったと思います。同製品の発売時点での異常なまでのハイスペックに対してのコストパフォーマンスは衝撃的でしたが、それ以上に内部設計の完成度の高さは特筆に値するものでした。iFI-Audio nano iDSD BL
実際、「nano iDSD」で採用された、XMOS製I/Fとバーブラウン(TI)製DACの両チップコンビネーションをベースとしたデジタル部分に、同社独自の技術でアナログ性能を高める手法は、以降の「micro iDSD(および同BL」「micro iDAC2」などの上位モデルにもそれぞれの用途に特化しながらそのまま採用され(micro iDSD/BLはチップをデュアル化することで性能を大幅に強化)、今回の「nano iDSD BL」にも受け継がれています。つまりソフトウェア的な部分はともかく、デジタル処理部分の基本設計は数年前の「nano iDSD」の時点ですでに完成していたといえます。

多くのUSB-DACやポータブルアンプは搭載するDACやオペアンプICなどのチップ性能がそのまま機器性能のひとつの指標になっていますが、iFI-Audioは全く別のアプローチでサウンドクオリティを磨き上げることで新しい「nano iDSD BL」を生み出しました。にもかかわらず、さらに別の考え方でデジタル性能に特化したCHORD「Mojo」と並んで、現時点でも「ハイスペックUSB-DAC」のひとつとして挙げられることが非常に興味深いですね。


■「nano iDSD BL」のアップグレードしたポイントを確認する

閑話休題、つい前置きが長くなってしまいました(すいません)。
nano iDSD BL」はなにしろ思い入れの深い製品の後継ですので、発売前から予約注文で購入しました。手元に届いたのは11月の初旬、使用開始から約2ヶ月になりますね。
Amazon.co.jp: iFI-Audio nano iDSD BL 

iFI-Audio nano iDSD BLiFI-Audio nano iDSD BL
パッケージのサイズは従来モデル度同様。付属品には本体用のポーチやゴムバンドなどのほかPC接続用ケーブルや変換コネクタなどが入っています。

外観は上質なブラック塗装を施されたメタリックボディ。底面はフラットでゴム足が最初から付いていました。
iFI-Audio nano iDSD BLiFI-Audio nano iDSD BL

本体サイズは従来の「nano iDSD」とほぼ同じですが角の凹凸がなくなりスッキリした印象に。またボリュームダイヤルの質感も向上しています。
iFI-Audio nano iDSD BLiFI-Audio nano iDSD BL
CHORD「Mojo」と比較すると本体の奥行きこそ大きいですが、幅はほぼ同じでiPhone6/7/8と合わせやすいサイズ感をキープしています。

フロントには最大600Ωのヘッドホンにも対応するDirectコネクタと、CIEMなどの反応の高いイヤホンでホワイトノイズを軽減する同社の「IEMatch」を内蔵した端子の2系統を搭載。「nano iDSD」では本体上部に非常に小さく付いていたLEDも前面配置となり、再生周波数などのモードがはっきりと分るようになりました。
また背面には2種類のデジタルフィルター(「MEASURE」と「LISTEN」)の切替スイッチがついています。
iFI-Audio nano iDSD BLiFI-Audio nano iDSD BL
「nano iDSD」には搭載されていたデジタル出力(COAX)は廃止されているため、「nano iDSD BL」は正確には「nano iDSD LE」の高性能・高音質バージョンというとらえ方もできます。ラインアウトはRCAタイプから3.5mmのステレオミニコネクタ(ボリューム非連動)に変更となり、ほぼポータブル利用を中心に捉えた仕様となっています。

USBインターフェースは「micro iDSD」等と同様のUSB-Aオスコネクタタイプで、iPhone等の接続で必要な「Lightning - USBカメラアダプタ」等がそのまま接続できるタイプとなっています。
iFI-Audio nano iDSD BLiFI-Audio nano iDSD BL
そのためOTG対応のAndroidデバイスやAstell&KernのDAP(デジタルオーディオプレーヤー)等USBトランスポートに対応したプレーヤーに接続する場合は「USB-Aメス - micro USB」タイプのOTG変換ケーブル等を利用する必要があります。この辺は「micro iDSD」ですっかり定着した方式ですのでおなじみですね。

また、Shanling M2s/M3sのようなUSB-Cタイプのコネクタについては、もともとUSB-Aメス-USB-CメスタイプのOTGミニケーブルは持っていたのですが今ひとつ使い勝手が悪かったので、新たにUSB-CコネクタがL字になっているタイプのOTG変換ケーブルを購入。20cmとちょっとだけ長かったのですが写真のようにつないで使用しています。
iFI-Audio nano iDSD BLiFI-Audio nano iDSD BL
ケーブルも含めたサイズ感的にしっくりきていることもあり、現在はこの「Shanling M3s」と「nano iDSD BL」のコンビがいちばん多い組み合わせになっています。


■あくまでナチュラルに「クリア」さと「パワー」を得た「nano iDSD BL」の進化

iFI-Audio nano iDSD BL「nano iDSD BL」はその名称の通り、384kHzの高ビットレートのPCMに加え、DSD256(11.2MHz)までのDSDや最新のMQA等にも対応する高スペックDACである点はお馴染みですが、以前の「nano iDSD」より出力面と音質、特にS/Nの向上においては特筆すべき進化が見られます。
新たに「nano iDSD BL」では従来単独の製品として販売されていた「IEMatch」が内蔵されたことで、手持ちの「SE535LTD」など反応の良いマルチBAイヤホンでも全くホワイトノイズのない快適なサウンドで利用することができます。さらに「IEMatch」ポートに接続した場合、これらのイヤホンで非常に透明度の高いサウンドを確認できました。

iFI-Audio nano iDSD BL音質傾向に味付けはほぼなく、空間表現も非常にナチュラル。イヤホンやヘッドホンの特性をきちんと捉えているのが感じられます。サウンドに変な歪みを感じず、音像の描写には据置型のヘッドホンアンプのような余裕すら感じます。
また「nano iDSD BL」はヘッドホンアンプとしての機能に注力した仕様になっていますが、この傾向は「micro iDAC2」などには及ばないもののラインアウトでもほぼ同様で、DSD等の音源をラインアウトからプリメインアンプを経由しスピーカー出力すると「nano iDSD」からの劇的な進化を実感することができました。

後述しますが「nano iDSD BL」では同社が「Sバランス」と呼ぶ技術により、アンプ部分はデュアルモノラルの構造になっています。そのため通常のポータブルアンプより、左右の分離性(セパレーション)を向上し音質向上をはかるだけでなく、駆動力の向上にも一役買っていると思われます。iFI-Audio nano iDSD BL
実際「nano iDSD BL」では新たに600Ωのヘッドホンに対応するなどスペック面での出力強化が行われており、手持ちの600Ω仕様のヘッドホンであるAKG「K240 Monitor」でも「Mojo」と同様に余裕を持った出力で使用できました。ですので、普段使用している同「K712 Pro」あたりのモデルでは非常に快適で、駆動力の上で不安を感じることは全くありません。
従来の「nano iDSD」ではこのクラスのヘッドホンでも十分な駆動力を確保するために「nano iCAN」などのポータブルアンプを併用する必要があったことを考えると「全く似て非なる」製品だとつくづく実感します。
またデジタルフィルターによる切り替えも効果的で、例えば「K712 Pro」の場合、より正確なMONITORサウンドで聴きこみたい時は「MEASURE」、多少高域を抑え気味で長時間のリスニングを楽しむときは「LISTEN」にセットすることで使い分けることができます。

iFI-Audio nano iDSD BLこれまではAKGのヘッドホンは「Mojo」に接続して聴くことが多かったのですが、曲によっては「nano iDSD BL」の登場頻度も確実に増えています。以前私のブログで「Mojo」について取り上げた際も記載しましたが、CHORD社はiFI-Audioとは全く逆の「徹底的にデジタルで処理する」考え方で「Mojo」以外の何物でもない、独自のハイクオリティなサウンドを実現しています。しかしどんなヘッドホンやイヤホンでも「Mojo」の味付けになってしまう、という側面もあります。もちろん「Mojo」のサウンドは個人的にとても気に入っているのですが、いっぽうで「nano iDSD BL」のナチュラルな音で楽しみたい、というケースも増えてきています。


■「nano iDSD BL」の「Sバランスを試す」

nano iDSD BL」には「iEMatch」「Direct」双方のヘッドフォン出力で「Sバランス」(以前は「Qバランス」と呼ばれていましたが名称変更になったそうです)に対応しています。この「Sバランス」とは要するに前述の通り内部構造をデュアルモノラルにすることで分離性を向上し、クロストークや歪みを抑えると同時に、3.5mm 4極(TRRS)コネクタのバランスケーブルでヘッドホン・イヤホンを接続することでその効果を最大化する考え方です。
技術的な詳細は同社のレポートを参照ください。
iFI-Audio : nano iDSD BLの3.5mmTRRS四極接続「Sバランス」

私は3.5mmのバランスケーブルは持ち合わせていなかったので、oppoのHA-2SE/HA-2用変換ケーブル「OPP-CC-2535BI」を使用しました。これは、2.5mm 4極バランスケーブルコネクタを3.5mmのTRRSコネクタに変換するアダプタです。
iFI-Audio nano iDSD BLiFI-Audio nano iDSD BL
ちなみにoppo社のHA-2SEやHA-2はバランス接続ではなくあくまで「GND分離」接続への対応ですが、コネクタの「3.5mm TRRS 4極」の仕様はSバランスと同じなのでそのまま利用することが可能です。

「Sバランス接続」で聴いてみた印象はとにかく「透明感が向上」するイメージでした。

iFI-Audio nano iDSD BL一般的にバランス接続の場合、左右の分離性の向上と併せて最近はイヤホンへのより効率的な出力の確保という側面も大きく、聴いた印象としてはよりメリハリの強いエッジの立ったサウンドになる傾向にあります。逆に言うと通常のバランス接続では曲によっては過度なエッジが立つことで人工的な音への変化を感じてしまう場合もあります。いっぽう、Sバランス接続の場合は非常になめらかにセパレーションしている印象で、(クロストークや歪みに起因する)雑味が抜けてよりクリアになるようです。とくにマルチBAイヤホンでの通常のバランス接続ではちょっと不自然さを感じるようなオーケストラ演奏も、Sバランスなら全体的に非常にナチュラルで美しいサウンドながら、個々の音もきちんと聴き取れる明瞭さを感じることができました。


■iPhoneやMac/PCだけで使うのはもったいない。USB接続可能なDAPでどんどん持ち出そう。

iFI-Audio nano iDSD BL冒頭に記載の通り、かつのて「nano iDSD」は低価格ながらポータブルでも据置型でも使える、当時としては圧倒的ともいえる高スペックを「売り」にした製品でした。その後、iFI-Audioの製品はさらに数多くの用途やニーズに特化した製品がラインナップを埋め尽くすようになりました。
今回の「nano iDSD BL」は同社が積み重ねたノウハウをポータブルに特化して凝縮することで「正統進化」したモデルで、価格的にも手が届きやすい製品となっています。また、音質面ではキャラクターの違いはありますがCHORD「Mojo」と遜色ないレベルを実現していると思います。ただし、あくまでUSB-DACの枠内の製品で「Mojo」のようにSPDIF入力等はできないため、DAP用のポタアンとしてはいまひとつ認知されていない気がするのは残念なところです。
できれば、iPhoneやMac/PCといったデバイスに限らず、「Astell&Kern」のプレーヤーはもちろん、「Shanling M2s/M3s」や「Cayin N3」など、USBトランスポートに対応したDAPと積極的に組み合わせて活用も大変オススメです。他のポタアン等を愛用されている方も「nano iDSD BL」の完成度の高いサウンドには感心されるのではと思いますよ。