LZ-A5

到着からすこし間が空きましたが、中国LZ社の最新イヤホン「LZ-A5」です。29,800円とパッケージ製品の中華イヤホンとしては高価格帯のイヤホンとなりますが、年明けの販売開始と同時にマニアの間では多くのオーダーが集中しており、まさに今年最初の注目アイテムといえるでしょう。個人的には現時点で3万円クラスの中華イヤホンではベストバイの製品だと感じています。

LZ(老忠)」といえば 中華イヤホンのなかでも高級グレードの製品を得意としており、前モデルの「LZ-A4」(2BA+1DDハイブリッド)も奇抜なデザインに対して抜群のサウンドクオリティとノズルおよび背面フィルタ交換によるサウンドコントロールができる仕様でこちらも2万円台の価格設定ながら好評を博したことで知られます。
LZ-A5そして今回、満を持して発売された「LZ-A5」では「4BA+1DDの5ドライバー・ハイブリッドに大幅にスペックアップを果たしました。同時に4種類のノズル交換によるサウンドコントロールも健在です。
また好みの分かれたA4の形状から「LZ-A5」ではSHURE SEシリーズ等に近いデザインに収まったことで、装着性も含めより多くの人が利用しやすい形状となりました。ただし、シェルに描かれた「どう見てもH○NDA(伏せ字になってない)の2輪車のロゴマーク」がこのイヤホンが紛れもなく中華イヤホンであることを実感させます(大人しくLZのまるいロゴマークとかを刻印しておけば良かったのに・・・)。
この辺のことはさておき、「LZ-A5」のイヤホンとしての完成度はとにかく抜群に高く、「このサウンドが3万円で買えるのであれば全然惜しくない」と感じるレベルです。それにしても、いまこの価格帯のイヤホンはかなり熱いですね。

購入はいつもお世話になっている中国のイヤホンセラー「Easy Earphones」より。
今回の「LZ-A5」についてはメーカーの方針により値引き等は行われず、日本国内ではどのショップでも 29,800円 での販売となります。ということで、今回は「Easy Earphones」がアマゾンに出店している「WTSUN Audio」より購入しました。
Amazon.co.jp(WTSUN Audio): LZ-A5

アマゾン「WTSUN Audio」マーケットプレイスでは後述しますが「LZ-A5」に加えて、「LZ純正のアップグレードケーブル」も各種販売しているため、リケーブルによるグレードアップ、特に2.5mmまたは4.4mmのバランスケーブルでの利用を検討されている方は併せて購入できる点が良いかもしれませんね。


■重量感のあるアルミ削り出しのハウジングながら装着感も良好

到着したパッケージはとてもシンプルなもので、ふたを開けると本体ハウジングと4種類のカラーノズル、そしてLZロゴ入りのメタルケースが目に入ります。
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決して豪華、というものではありませんがイヤホンの完成度で勝負というメーカーの想いが伝わってくるようです。
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同梱される付属品などは、本体、カラーノズルに加えてイヤーピースはS/M/Lサイズの3種類とブルーのウレタン製。さらに標準のMMCXケーブル、イヤホンケースと説明書、保証書といった内容です。
MMCXケーブルは布製の被膜で覆われており取り回しは良好ですが、耳かけ部分の針金がちょっと硬いのとMMCXコネクタ部分がもう少し高級感のあるものだったら、と言う部分がちょっと残念。
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イヤホン本体は厚めのマットブラック塗装が施されたアルミ削り出しのハウジングで金属質な重量感がありますが、SHURE SEシリーズ同様に装着性は良好です。とはいえ、おなじSHUREタイプでも例えばMaGaosi K3 HDとEE846あたりと比べると結構形状も大きさも違うことが分ります。
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4つのBAとダイナミックドライバーを収容する「LZ-A5」はサイズ的にはわずかですがEE846(SHURE SE846と同じ形状)より大きいのがわかります。

また、「LZ-A5」ではステム部分のノズルが脱着式となっており、回して取り外す方式で4種類の音質傾向のカラーノズルに交換が可能となっています。前モデルの「LZ-A4」ではノズル部分と背面フィルターが交換式で合計18パターンの調整ができましたが、個人的には今回の「LZ-A5」のように4パターンくらいにまとめてくれたことでむしろ使いやすくなったなと好感を持っています。
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各色のノズルは「3kHz~10kHz」の周波数帯域に対してプラスまたはマイナスの変化を与えます。
各ノズルの仕様は、「ブルー: +2dB」、「ブラック: +1dB」、「グレー: -1dB」、「レッド: -2dB」となっています。ということで、さまざまな再生環境で実際に各カラーのノズルのサウンドを確認しながら「LZ-A5」の特徴を深掘りしてみたいと思います。


■「苦手がない」サウンド。全てのジャンルで威力を発揮する高音質ノズルの凄さ

LZ-A5LZ-A5」のベースとなる周波数特性は弱ドンシャリ傾向ですが、とても自然に低域と高域の聴きたい領域を押さえてくれているような、非常にうまい音作りをしているイヤホンだと思います。
付属の標準ケーブルはそれほど解像度を強調してくれるタイプではないようで、マルチBA的な個々の音の細かさという点では「本気を出してない」感じを受けますが(後述しますがリケーブルで化けます)、それでも非常に上品というか「オトナ」な印象です。抜けるように広がる音場感と定位の良さはもちろんですが、何よりエモーショナルに感じさせるサウンドに思わず聴き入ってしまいます。

また、それぞれのカラーのノズルで高域が変化することにより、ボーカルの定位が異なって聴こえます。ざっくり言うと高域の強いブルーがいちばんボーカルが近く、低域が強くなるレッドがいちばん遠くなります。ただし、インピーダンス16Ω、感度105dB/mWと比較的鳴りやすいイヤホンですのでDAP(デジタルオーディオプレーヤー)等の出力によっても多少印象が変化する場合もあるようです。

LZ-A5まず「ブラック(+1)」と「ブルー(+2)」の違いですが、これは再生環境、特に「主に聴く曲」と「DAPとの相性」でかなり印象が変わるのではないかと思います。傾向としては「ブルー(+2)」のノズルを使用すると「ブラック(+1)」より高域のキレが向上し解像度がアップしたような印象を受けます。ロックやポップスなどのボーカル曲ではさらに近くに定位し、とても元気なサウンドに感じるのではないかと思います。ただし、出力の強いDAPで「ブルー(+2)」のノズルを使用すると多少乱暴なサウンドに感じて、少し落ち着いた「ブラック(+1)」のほうが聴きやすいと感じるかもしれません。また「ブルー(+2)」のほうが聴き疲れしやすい、という側面もありますね。

いっぽう、マイナス側の特性をもつ「レッド(-2)」や「グレー(-1)」のノズルを装着した状態で聴いてみても、高域が曇るということはなく、高域の刺さり等の刺激的な要素が抑えられるいっぽう、中低域の分離の良さが印象として強くなることで、より音場の広さを認識するように感じます。
実際に各カラーのノズルでの周波数特性を測定してみると、確かに3kHz以上の高域でのみ特性に変化が現れ、それ以下の帯域ではノズル間でほぼ変化がないことを確認しました。つまり低域はもちろん、中高域と感じるようなボーカルが含まれる帯域はどのカラーのノズルでも変化はないことを意味します。

LZ-A5また、各ノズルごとの特性の違いについては、プラスの「ブルー(+2)」と「ブラック(+1)」、およびマイナスの「レッド(-2)」と「グレー(-1)」同士は実はそれほど大きな違いはないのですが、「ブラック(+1)」と「グレー(-1)」の間にはかなり顕著な変化があります。
このようなことから、実際の利用では、4種類のカラーノズルのうち、「高域タイプ(=プラス)」と「中低域タイプ(=マイナス)」でそれぞれどちらかのカラーを利用される再生環境や曲の印象などで選んでおく感じになるかもしれませんね。私の場合、標準ケーブルでは、高域タイプは「ブルー(+2)」でしたが、逆に中低域タイプは「グレー(-1)」のノズルが良い印象となりました。
標準ケーブルで「グレー(-1)」のノズルを装着した場合、低域から高域までの見通しが最もよい印象のサウンドに感じました。この状態ではクラシックを含めあらゆるジャンルの曲を楽しめるサウンドではないかと思います。また高域成分が強い女性ボーカルのアニソンなども相性も良く、「fripSide」も気持ちよく聴くことができました。

LZ-A5いっぽう「レッド(-2)」ノズルは低音強調タイプ、というわけではなく、「グレー(-1)」よりやや中低域に厚みを持ったような印象を受ける程度の変化です。そのため相性についても「グレー(-1)」とあまり違いはありません。標準ケーブルの場合、個人的にはボーカル推しの曲やウッドベースが効いたアコースティックな曲などはいちばん相性が良いと感じました。ただ、「ブルー(+2)」「ブラック(+1)」のノズルを聴いた後だとどうしても物足りなさを感じてしまうのも仕方のないところかな、とも思います。
このように好みや再生環境によっての違いはあるものの、どのノズルを使用した場合も「ハズレがない」というのはなかなか凄いことだと思います。「LZ-A5」は本体のサウンドクオリティの高さに加え、この優れたノズル交換方式を採用することで「苦手なジャンルが無い」非常に希有なリスニングイヤホンに仕上がっていると感じました。


■「LZ純正アップグレードケーブル」でさらに進化。各カラーのノズルの相性を確認してみた。

そして「LZ-A5」はMMCXコネクタを採用することで様々なリケーブルへの対応が可能です。しかも、私のブログでも過去に何度か紹介していますが、LZは同社製イヤホン向けを中心としたMMCXコネクタ仕様のアップグレードケーブルをいろいろ販売しています。すべて8芯タイプの高品質線材を使用しており、3.5mmステレオはもちろん、2.5mm/4極、さらに一部モデルでは4.4mm/5極のバランス接続に対応したケーブルも販売しており、「LZ-A5」のバランス接続用としても最適だと思います。

このLZ製ケーブルは単純にMMCX仕様(一部モデルでは2pinタイプもあり)のケーブルしても、販売価格より1ランク上の製品に匹敵しそうな高いクオリティで、私自身以前より愛用しています。現在発売されている製品の中ではシルバー(銀メッキOFC線)、ブラック(銀メッキ6N単結晶銅線)、ブラウン(6N単結晶銅線)ピンク(銀メッキ線&単結晶銅線ミックス)、の各種を購入しています。
これらのケーブルの詳細については、「LZ製イヤホンケーブルのまとめレビュー」でも紹介しています。

ということで、これらの「LZ純正アップグレードケーブル」を実際に「LZ-A5」と組み合わせてサウンドの変化を確認してみました。なお、今回はすべてのケーブルでよりリケーブル効果を得やすいバランス接続のタイプを選択しています。

① LZ 8芯 銀メッキOFC(無酸素銅線)アップグレードケーブル(LZX42031)
AliExpressAmazon(WTSUN Audio)
まずは価格的にも最も手軽にアップデートできるシルバーの8芯銀メッキ銅線(OFC)ケーブルです。見た目も美しく「リケーブル映え」するのは嬉しいところ。また、とても柔らかいケーブルで標準ケーブルより使い回しもかなり良くなると思います。従来は3.5mmと2.5mmバランスのみでしたが、最近4.4mmバランス仕様も追加されました。音質傾向としては標準ケーブルに最も近いサウンドで味付けのようなものはほぼありませんが、ケーブルの情報量が大幅に向上することで解像度がアップし、多少メリハリが強調された印象になります。
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LZの8芯銀メッキ線ケーブルでバランス接続を行ったところ、標準ケーブルでは「ブルー(+2)」に比べて少し中途半端だった「ブラック(+1)」ノズルの印象が大きく改善され、個人的にはかなり好みのサウンドになりました。音のメリハリが効くことで各ノズルの特徴がより強化されるイメージですね。とはいえ基本的にこのケーブルは「標準ケーブルでの印象をあまり変化させずに解像度を向上させたい」というニーズや、同様に「バランス接続をしたい」というケースに最適だと思います。

② LZ 8芯 6N 銀メッキ単結晶銅線 アップグレードケーブル
次にシルバーと同じ「銀メッキ銅線」ですが、こちらのブラックは「6N 単結晶銅線」を使用しています(線材の材質の違いによる音質傾向については過去記事の「中華イヤホンケーブルのまとめレビュー【解説編】」にて多少説明しています)。非常にクオリティの高いケーブルで、OFC(無酸素銅線)よりさらに高純度で解像度が高くクリアな音質が特徴です。また見た目も「LZ-A5」と同じブラックで見た目のマッチングは最適でしょう。国内代理店の七福神商事では3.5mmのほか2.5mm/4極、4.4mm/5極のバランスケーブルも販売しています。また同一線材の2.5mmバランスケーブルについてはAliExpressのEasy EarphonesおよびWTSUN Audioでも販売しています。
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シルバーのケーブル同様に非常に柔らかく、さらに被膜の感触もなめらかでとても触り心地のよいケーブルです。このケーブルを「LZ-A5」に装着して聴いてみると、解像度の向上とともに低域が少し濃くなる印象を受けます。ただ実際には特に味付けはなく、分離性が向上することで各音域をより明瞭に感じさせているという表現のほうが正確かもしれません。各カラーノズルの傾向を下支えしてよりサウンドクオリティを向上させる、と言う意味では最も「LZ-A5」と相性が良いケーブルだと思います。

③ LZ 8芯 6N 単結晶銅&銀メッキ銅線ミックスケーブル(LZX47191)
AliExpressAmazon(WTSUN Audio)
AliExpress/Amazonで現在販売されているLZ製ケーブルのなかでは最も新しい製品。こちらは2.5mmおよび4.4mmのバランス接続仕様はもちろん、MMCX以外に2pinタイプも販売されています。上記の銀メッキ銅線より少し硬めのケーブルです。全域にわたって明瞭さがアップし、とにかく「情報量がものすごく多い」という印象のケーブルです。解像度の向上だけでなく、ひとつひとつの音を精緻に表現する印象で改めて「LZ-A5」のポテンシャルの高さを実感しました。
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このミックスケーブルで「ブルー(+2)」のノズルを使用すると、細かい音までさらによく聴こえてくるため曲によってはちょっと騒々しい印象となり、さらに聴き疲れするかもしれません。いっぽう、標準ケーブルで「グレー(-1)」が相性が良いと感じた曲も、このミックスケーブルでは「レッド(-2)」での印象がかなり良くなりました。「LZ-A5」が「非常に濃い音」になる印象ですね。これはこれで結構好みです。

④ LZ 8芯 6N 凍結単結晶銅線ケーブル(ブラウン)
AliExpress / Amazon(WTSUN Audio)
現在AliExpressのEasy Earphonesで販売されているブラウンのLZ製の単結晶銅線ケーブルとなります。ブラックの銀メッキ単結晶銅線ケーブル同様に非常に柔らかく触り心地も良いケーブルです。
一般的に高純度銅線のケーブルは中低域が強くなる傾向が多いといわれており、LZの単結晶銅線ケーブルも「LZ-A5」との組み合わせにより、標準ケーブルより解像度が向上するのはもちろん、上記のブラックのケーブルと比較しても顕著に低域が一気に厚みを増す印象となります。また全体的にサウンドにエッジが立つことで音場が近づき、より元気なサウンドに化けたように感じます。落ち着いた見た目も含めて、個人的にはいちばん好みの組み合わせですね。
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LZの単結晶銅線ケーブルと「LZ-A5」との組み合わせでは、どのカラーのノズルを使用しても相性は良好ですが、やはり「レッド(-2)」または「ブルー(+2)」の両極端を使用するのが醍醐味だと思います。特に「ブルー(+2)」ノズルとこの単結晶銅線ケーブルとの組み合わせは、分厚くなった低域とよりパワフルになった高域で楽しさも一気にアップした印象となります。


■とりあえず、あらゆる方にオススメできる、現時点で3万円リスニングイヤホンのベストバイ。

というわけで、「LZ純正アップグレードケーブル」での変化も含めて「LZ-A5」を深掘りしてみましたが、前モデルの「LZ-A4」を見事にアップグレードし、改めて素晴らしいイヤホンに仕上がっているなと感じました。
LZ-A5聴いてすぐにわかるサウンドクオリティの高さ、そして思わず聴き入ってしまうエモーショナルな深み。各カラーのノズルによりあらゆるジャンル、あらゆる嗜好に対応できる隙の無いつくり、そしてリケーブルで発揮されるポテンシャルの高さ。リスニングイヤホンにおけるひとつの回答として間違いなく同価格帯の最高レベルの製品だと思います。唯一残念なのは冒頭に記載したハウジングの「例のマーク」で、日本の代理店さんは店頭に並べるため関係各所に許可を取付けるなど大変な苦労をされたとも伺います。このようないかにも「中華イヤホン」ぽい要素を受け入れることができれば十分に3万円クラスのベストバイと言って良いと思います。
私自身も、遮音性も良好でサイズ的にもとても使い勝手の良いイヤホンですし、中華イヤホンとしては高価格とはいえ、(価格的に)なかなか外へ持ち出せない「RE2000」や「RE800J」などのフラグシップ機に代わり、普段から色々な場所で使えるアイテムとして、どんどん活用していきたいと思っています。