KZ AS10

こんにちは。私のブログも更新頻度を月ベースでならしてみると今年に入ってからも極端に変っているわけではないのですが、何故か更新頻度を遙かに上回るペースでイヤホンやケーブルなどが届いたりします。最近は有り難いことにレビュー依頼等を受けさせていただくことも増えてはいますが、それを差し引いてもやっぱり買いすぎかなぁ、と自戒する日々です。
なにより同じイヤホンで「カラーバリエーションを買い揃える」とかケーブルで「とりあえずMMCXと2pinの両方を押さえる」とか、挙げ句の果てに「個体差を確認する」とか言い出したら完全に病気です(笑)。

・・・というわけで、今回は私を毎回カラバリと個体差の世界に誘ってやまない、今や「低価格中華イヤホン」を代表するブランドとなった「KZ」の「KZ AS10」です(ぉぃぉぃ)。
実はその「カラバリが届くまで」と「個体差を確認するまで」、半月以上も書きかけのまま保留していたネタになります。ほんと、我ながら困ったものですね(^^;)。

KZ AS10KZ AS10」は数多くの常識を打ち破る低価格イヤホンを発売してきたKZが初めて「ダイナミック」でも「ハイブリッド」でもなく、ダイナミック型ドライバーを搭載しない「マルチBA」のイヤホンとして発売した製品です。しかもいきなりの「5BA」構成で、1万円を大きく下回る価格設定。やっぱり非常識が過ぎます。
ネット上では発売開始以降、賛否両方の評価が入り乱れている印象もありますが、個人的には「この価格にもかかわらず、結構ちゃんとした5BAイヤホンに仕上がっているな」という感想です。現在は落ち着いている可能性がありますが、初期のロットには例によって個体差が結構あったようですし、かなり再生環境でも印象が変る傾向もあります。とはいえ「ZS6」系のメリハリの効いたサウンドとは多少異質のものですがひとつの選択肢としては十分に「アリ」のイヤホンだと思います。

ところで、KZは今年に入って「4BA+1DD」構成の「ZS10」を販売しており、当初は大きな話題になりました。今回の「KZ AS10」は単純に「ZS10」のダイナミック(1DD)部分を変更しただけでなく、さらに新しいドライバーを投入し、すべて自社(KZ製)バランスド・アーマチュア型ドライバーを組み合わせることで「5BA」構成を実現しています。

ドライバー構成は高域×2(KZ 30095)、中高域×1(KZ 31005)、中域×1(KZ 296898)、低域×1(KZ 22955)とそれぞれドライバーの型番が公表されています。ツィーターの「KZ 30095」は「KZ ZS6」をはじめ非常に多くのKZ製ハイブリッドイヤホンに搭載されているお馴染みのBAドライバーですが、それ以外はほぼ今回が初登場の型番となります。
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春頃に発売された「4BA+1DD」構成の「ZS10」は、「KZ AS10」同様にフェイス部分に貼り付けられた基板のネットワークによりサウンドコントロールを入念に行った同社としては最初の製品でしたが、構成するドライバー自体は過去のモデルで使用実績のある2種類の自社BAとZST以降の同社ハイブリッドモデルで定番となっている10mmダイナミックドライバーの組み合わせでした。つまりZS10は「既存ドライバーを組み合わせネットワーク制御での多ドラ化に挑戦したモデル」という言い方も出来るでしょう。そして「ES4」などのモデルの経験を踏まえて、「KZ AS10」ではいよいよ「新しい自社BAを使ったマルチBAに挑戦したモデル」、という姿が見えてきます。この点からも「KZ AS10」が今後のKZ製イヤホンを担っていく上で非常に重要な意味を持つ製品であることが伺えますね。

というわけで「KZ AS10」のオーダーはカラーごとにいつもお世話になっている2つのイヤホンセラーにて。ひとつは「NICEHCK(HCK Earphones)」、もう1個は「WTSUN Audio(Easy Earphones)」です。
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KZ AS10」は現在「ブラック」と「シアン(グリーン)」の2色が販売されています。AliExpress(中国発送)での表示価格はどちらも 66ドル(マイクなしモデル)です。AliExpressでの購入方法はこちらを参照ください。購入方法に記載の通り、どちらのセラーでも購入時に「フォロワー値引き」より表示価格より値引きをした金額で購入できると思います。
AliExpess(NiceHCK Audio Store): KZ AS10
AliExpress(Easy Earphones): KZ AS10

またアマゾンでもそれぞれのセラーのマーケットプレイスより購入できます。アマゾン倉庫に国内在庫があれば直ぐに手元に届きますし、少し割高ですがアマゾン経由での保証が得られるので安心感がありますね。価格は 7,890円(マイクなし)~7,980円(マイク有り)となっています。
Amazon.co.jp(NICEHCK): KZ AS10
Amazon.co.jp(WTSUN Audio): KZ AS10
※NICEHCKでは9月7日20:00~9日23:59まで購入時に値引きされ販売価格6,900円となるキャンペーンが実施中です。
※WTSUN Audioでは購入時に700円引き(販売価格7,190円)+「YYX4753 6芯純銅ケーブル」を無料でもらえるキャンペーンを実施中です。


また、HCK(@hckexin)、Easy Earphones(@hulang9078)およびWTSUN Audio(@Zhuo520X)のTwitterアカウントでは特価情報なども頻繁にツイートされていますのでこまめにチェックされることをお勧めします。


■ZS10よりコンパクトになり、装着性も少しだけ向上。

KZ AS10」はこれまでのKZ製イヤホンと比較して、価格的にも性能的にも最もハイスペックなモデルと言うこともあり、パッケージも従来のコンパクトな白箱からしっかりしたボックスになりました。
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ボックスを開くと金属プレートで「KZ AS10」の記載があります。今後登場予定の「BA10」など、このモデル以上の製品では同様のパッケージを採用しそうですね。
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パッケージは多少豪華になりましたが、内容については特に変化はなく、イヤホン本体、ケーブル、イヤーピース(S/M/L)、説明書、保証書と相変わらずの最小限の構成です。
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付属ケーブルは「ZS10」以降で採用されているブラウンの撚り線ケーブルでコネクタ形状も「ZS10」などと同じ「ZSTタイプ」を採用しています。

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KZ AS10」のシェルサイズは「ES4」を細長くしたような形状で(某6○AUDIOのイヤホンに似てるという説もあります)とにかく大振りだった「ZS10」よりひとまわり小さくなった印象です。そのため、多くの方は「ZS10」より装着性が向上しているのではと思います。
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ただ、「KZ AS10」ではなぜかステム部分が空洞の筒状になっており、先端にメッシュパーツなども取付けられていません。そのため、イヤーピースによっては耳垢がステム内部、奥の方まで入ってしまう可能性があるため、お手入れは少し気をつけた方が良さそうですね。
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イヤーピースは例によってKZ付属のものは装着性のうえでも音質面でも物足りなさが大きいですので交換は必須ですね。私は耳穴が小さいため奥まで装着できるようAcoustuneのダブルフランジ「AET06」を使用しましたが、他にもAcoustuneの「AET07」、JVCの「スパイラルドット」、さらに最近人気急上昇中のAZLA「SednaEarfit」などがお勧めです。装着性で困った場合はコンプライですが「Tsx-400(耳垢ガード付き)」などは「KZ AS10」にはまさにうってつけですね。


■手元の個体は「当たり」&「ハズレ?」。当たり個体はKZ史上最高の中高域を実現

KZ AS10さて、「KZ AS10」の音質傾向についてですが、残念ながら今回も初期のロットにはかなり激しい「当たり外れ」があったようです。一部は内部結線に問題のある「不良品」も若干存在したようですが、それ以外にも「低域が極端に強く、高域が弱い個体」は初期ロットで比較的多く流通していた模様です。かくいう私の手元に届いている2色の「KZ AS10」も音が多少異なっており、片方はその「低域が強く籠もりがちに感じ、高域がいまひとつ伸びない」個体で、もう1個は「低域の印象はそのままですが中高域が格段に出ていてバランスも良く、音量もより大きく感じる」個体です。
おそらく前者がよくネットでいわれていた「低音が籠もりがち」のほうで、後者は「当たり(本来の「KZ AS10」のサウンド)」の個体だと思われます。

販売開始からしばらく期間が経過しており、すでに初期ロットは無くなってそうですので、今後は普通に当たりが・・と思いたいところですが、正直なところまだ予断を許さない「AS10ガチャ」状態は続いているかもしれませんね。

KZ AS10というわけで、手元の2種類の「KZ AS10」をそれぞれ聴いてみます。まず「当たり」と思われるほうの「KZ AS10」ですが、ひとことで言って「KZ史上最高の中音域」と、それを支える全体のバランスを実現したイヤホンだと思います。個々のKZ製BAドライバーはKnowles等の有名メーカー製品と比べると価格なりの品質・音質であることは間違いないですが、限られたリソースをピンポイントに絞ったチューニングをすることで十分に高い完成度を得ていると感じます。

一般的に5BA構成のイヤホンともなると非常に敏感な製品になりがちで、CIEM等にも対応したDAP等の再生環境が必須というケースが多いですが、「KZ AS10」はスマートフォン用のマイク付きモデルもある製品のため、一般的な音量で利用できる点は便利ですね。ただ、やはり安定して高い出力が出せる駆動力の高さとホワイトノイズが発生しないS/Nの高いプレーヤーを使用することで本来の実力を発揮できる、という点では「KZ AS10」もより高価格帯のマルチBAイヤホンと同様と考えた方がよさそうです。
また私のように耳穴が小さい方や、逆に大きめのイヤーピースを使用される方は装着角度によって音の印象が変りますので、奥までしっかり装着するように調整をしてください。

KZ AS10KZ AS10」(当たり個体)の高域は、「ZS6」のようなデュアル「KZ 30095」が暴れている感じも、「ZS10」のようにちょっと押さえ込まれている感じとも異なり、ツィーターとしての仕事に専念しているのか少し派手めの音ではありますが良く伸びていると感じます。そしてミッド&ハイの「KZ 31005」とミッドの「KZ 296898」という2種類の新しいBAドライバーが中心となっているとされる中高域は若干離れて定位するものの自然な距離感で、比較的解像度が高いフラット寄りのサウンドを実感します。音場はそれほど広くはありませんが多少前後に展開するタイプで、奥行きだけで無く前に折り重なるような立体感があります。
KZらしい派手さも若干感じる音ですが、ZS6などのハイブリッドと比べても表現力のある中高域ですので、ピアノ、ギター等の音はかなり心地よさを感じます。さらにボーカルの伸びも非常に良く、音の良い女性アーティストの楽曲などはかなり気持ちよいのではないかと思います。
そして「KZ 22955」という、Knowlesの定番ウーファーBAと同じ型番の新ドライバーを使用した低域ですが、「KZ AS10」の評価を分けそうなポイントはこのBAのようです。低域の印象は十分に量感と存在感はありますが、沈み込みは浅く全体的には軽めの音です。KZのハイブリッドに比べると解像度の高いBAらしさを感じますが、全体的に中高域のクオリティに比べると低域は粗さが目立ち、低域の音数の多い曲だと再生環境によっては過剰に響くような暴れやすい傾向にあり、籠もったような音に感じる場合もあります。
KZ AS10後述の通り駆動力のあるDAPやポータブルアンプを使用し、情報量の多いケーブルにリケーブルすることでかなり改善することが出来ますが、この辺に「KZ AS10」の限界を感じなくもないですね。
昨年後半に登場した「MaGaosi K5」以降、5BA以上で100ドル台の中華イヤホンなどコストパフォーマンスに優れた製品が多く登場し、私のブログでも何種類かのレビューをしていますが、たとえば中高域の4BA部分に無印の中華BAを使用している「MaGaosi K5」でも低域だけはKnowles製のウーファーを使用しています。もともとバランスド・アーマチュア型(BA)ドライバーは構造的にダイナミック型ドライバーのような低音域を表現することが難しく、通常はオリジナルの「Knowles CI-22955」など実績のある製品を使用するか、さらに低域のBA数を増やして厚みを増すなどの「多ドラ化」のアプローチが一般的です。この低域も自社製BAにこだわったKZの心意気には敬意をもちますが、現状ではなんとかネットワークでギリギリ制御している(できている、ではないかも)印象で、完成形に至るのはもう少し製品を待つ必要があるかもしれませんね。

特徴としてはボーカルなどの中音域が優れたイヤホンですが、全体としてはエッジの効いた高域と存在感のある低域という「KZらしい派手なドンシャリ傾向」と感じる音にまとめられています。ただ「派手な音のイヤホン」と考えると「ZS6」のような突き抜けた分りやすさは無く、最近の「PHB EM023」や「BQEYZ KC2」「RevoNext QT2」といった特徴的な進化を遂げた「ZS6系イヤホン」のほうが良い印象を受ける方も多いのではと思います。ポジショニングの難しさを感じる製品ではありますね。

KZ AS10そして、もうひとつの「低域が強く感じるほうの個体」は、端的に言うと、「KZ AS10」でもっとも「美味しいところ」と思われる「中高域」、特に「高域」が十分に出ていない個体でした。そのため「当たり個体」と同程度の音量を確保するためにさらにボリュームを上げて聴く必要があり、結果的に前述の「低域が暴れる」「籠もったように感じる」現象が発生しやすくなります。ただ印象としては中高域のBAから音が出ていないわけではなく、出力バランスのチューニングが少し違っている、という程度なのかなと感じました。正直なところこの低域が強いほうの個体のみを持っていたら「このイヤホンは(低域の強い)こういう音なんだ」と認識しただろうと思います。なかなか困った話ですね。

私の手元の低域が強い方の個体については、リケーブルによってかなり印象を改善することが出来ました。ポイントとしては中高域の伸びが向上しやすい傾向のケーブルを選択することで、最近増えている低価格のケーブルの中ではHCKが販売する「NICEHCK TDY1」および「TDY2」、または「NICEHCK 8芯OFC純銅銀メッキ線」などの比較的特徴がハッキリした銀メッキ銅線ケーブルが相性が良いようです。
KZ AS10KZ AS10
また、「当たり」個体のほうはこれらの銀メッキ線ケーブルの他、「NICEHCK 8芯純銅線(OFC)ケーブル」や「NICEHCK TYB1」8芯ミックスケーブルなどもお勧めです。これらのケーブルは情報量が多く、「KZ AS10」のポテンシャルをより発揮してくれるため、駆動力のあるDAP等であれば小ボリュームで十分な音量を確保できるため、結果的に低域の乱れや籠りも感じにくくなります。


■KZらしい派手めの傾向ゆえの微妙な評価。でもより多くの方に聴いてほしい完成度の高いサウンド。

本来のサウンド(当たり個体)の「KZ AS10」は低価格5BAイヤホンとして良く出来た製品だと思いますし、1万円以下の価格でこのサウンドを実現できていることに驚きを感じます。いっぽうで特徴的にKZのイヤホンのなかでのポジショニングが少し難しい製品かもしれないと思いました。

KZ AS10前述の通り「KZ AS10」も「KZらしい派手めのサウンドのイヤホン」と考えると、なかなかマルチBAであるメリットを感じにくく、中途半端な製品に感じてしまうかもしれません。いっぽう、普段から多くのマルチBAイヤホンを聴かれている、このクラスのイヤホンの音に「聴き慣れている」方々からは「この価格にしては良く出来たイヤホンじゃないか」と評価される人も多いのではと思います。ただ、そのようなマニアな方ほどあえて「KZ AS10」を使う理由は少ないかもしれません(他にもいろいろイヤホンを持っていると思いますので)。この辺も特にネット上のマニアな人たちの間で「KZ AS10」が良い評価なのか悪い評価なのかいまいちパッとしない理由のひとつかもしれませんね。
とはいえ、個人的には「KZ AS10」はこれまでになく圧倒的に手が届きやすい価格の5BAイヤホンで、完成度も十分に高い製品だと感じました。ですので、リケーブルなどでの音の変化を感じる楽しみも含め、より多くの方に実感してもらえると嬉しいなと思います。