SIMGOT EM2

こんにちは。今回はSIMGOTの最新ハイブリッドモデル「SIMGOT EM2」の紹介です。
レビュー掲載時点では日本国内では発売予定の段階で、今回はSIMGOT JAPAN様より発売前の実機をサンプル提供いただいての紹介となります。
※国内正規版の発売開始は5月22日からとなりました。現在アマゾンにて購入が可能になっています。

SIMGOT EM2SIMGOT EM2」は中国のイヤホンブランド「SIMGOT」が展開する「洛神シリーズ」の最新モデルで、美しいクリアデザインのハウジングに、同社の人気モデル「EN700 Pro」と共通の10mmダイナミックドライバーおよびKnowles製バランスド・アーマチュア型(BA)ドライバーを搭載した1BA+1DDハイブリッド構成となっています。ただその音作りは通常のハイブリッドイヤホンとは大きく異なるもので、非常に個性的なチューニングとなっています。
SIMGOT EM2」は、全体的にスッキリとした印象ながらパワフルな音場感が楽しめる、とてもバランスのよいサウンドに仕上がっています。同社のシングルダイナミック仕様の「EN700 Pro」も完成度の高さで非常に好評を博したイヤホンですが、今回の「SIMGOT EM2」も全く異なる音質傾向ながら同様に音作りの上手さを感じる製品だと思います。SIMGOTが満を持して日本向けの展開を再開するのに相応しいイヤホンだと感じました。

SIMGOT」は中国のイヤホンブランドで、主にミドルグレード以上の高品質な製品をリリースしていることで知られています。日本国内ではかつてシングルダイナミック仕様の「EN700」シリーズを販売しており、そのきわめて個性的なデザインと音質面の完成度で高い評価を得てきました。
SIMGOT EM2SIMGOT EN700 Pro
EN700シリーズについては私のブログでも過去記事にて紹介しています。
過去記事:「EN700 Pro」のレビュー / 「EN700 BASS」のレビュー

SIMGOT EM2」では、「EN700 Pro」に搭載された10mm ダイナミックドライバーを採用しており、さらにKnowles社製のBAドライバーと組み合わせることで音質面の強化を行っています。搭載する10mmダイナミックドライバーは高分子複合チタン複合振動板と強力なN50磁性体を使用しており、同社製イヤホンが質の高いサウンドを生み出すベースとなっています。さらにBAドライバーとしてはめずらしいベント(空気孔)を持つ小型フルレンジユニット「RAF-32837」を採用。
これまでも海外で以前から「EM1」「EM3」「EM5」といった製品が「洛神シリーズ」として販売されていますが、今回の「SIMGOT EM2」では従来モデルや通常のハイブリッド構成のイヤホンとは「全く異なる方法」でのサウンドチューニングを行っています。
SIMGOT EM2SIMGOT EM2
通常のハイブリッド構造の場合、高域用、低域用、といったように音域ごとに中心的な役割をもつドライバーを配置し、それぞれのドライバーの音域が重なる部分(クロスオーバー)はフィルターや電気的ネットワークを用いることで出力を調整し全体のバランスを作ります。しかし、「SIMGOT EM2」では10mmダイナミックとフルレンジBAドライバーという種類の異なるドライバーを並列に配置し、クロスオーバーを相互補完的に活用しています。そのために、両方のドライバーの出力およびインピーダンスや感度をコントロールし、さらにベント(空気孔)の配置などの微調整を行うことで、他には類を見ない「2種類のフルレンジドライバーによる絶妙なハーモニー(あるいはユニゾン?)」を実現しています。

SIMGOT EM2
このように非常に独創的なサウンドデザインをおこなっている「SIMGOT EM2」はカラーバリエーションも豊富で、同社公式サイトでは「紫」「緑」「ピンク」「透明」「透明黒」の5色が設定されています。購入はアマゾンのSIMGOT JAPANの公式ストアにて。
価格は 12,800円5月22日の発売を予定しているとのことです。
Amazon.co.jp(SIMGOT JAPAN): SIMGOT EM2


■今回は「奇抜さ」より「美しさ」。クリアシェルの美しいデザイン。コンパクトで装着感も良好。

SIMGOT EM2」のパッケージは今回もデザイン的にもこだわった印象で相変わらずの質の良さを感じます。パッケージ構成はイヤホン本体、ケーブル、イヤーピース(「Eartip 1」「Eartip2」の2種類。それぞれS/M/Lサイズ)、レザーケース、説明書、保証書など。
SIMGOT EM2SIMGOT EM2
SIMGOT EM2SIMGOT EM2
SIMGOTのレザーケースは作りがよく、ほかの付属品もひとつひとつ丁寧な印象があります。

SIMGOT EM2」のシェルは樹脂製のハウジングでステム部分はアルミ合金製。フェイス部分に金属製プレートが組み込まれたデザインとなっています。淡いクリアカラーの透明シェルはとても美しく全体的なビルドクオリティも高い印象です。
SIMGOT EM2SIMGOT EM2
個人的には「EN700 Pro」が少し装着で苦労したのですが、「SIMGOT EM2」はとてもコンパクトなデザインで装着性も良好でした。EN700シリーズのような個性的で奇抜な印象はありませんが、とても美しく使いやすいデザインだと思います。

コネクタは0.78mm 2pinタイプでケーブル側の楕円形のカバーで覆う「qdcタイプ」のコネクタ形状となっています。そのため、純正ケーブル以外にも2pinタイプおよびqdcタイプのケーブルでのリケーブルが可能です。「SIMGOT EM2」の付属ケーブルは4芯の「高純度銅銀メッキ線ケーブル」を採用しています。
SIMGOT EM2SIMGOT EM2
また今回もイヤーピースは「Eartip1」(開口部の広い中高域タイプ)、「Eartip2」(低域タイプ)の2種類が各サイズ付属します。「Eartip 1」はステム部分が太くなった関係でEN700シリーズよりさらに開口部の大きいタイプとなっていて、イヤーピースによる音の変化もより実感できる仕様になっています。


■2種類のドライバーが奏でる、パワフルで心地よいバランス重視のサウンド

SIMGOT EM2SIMGOT EM2」の音質傾向はパワフルで明瞭感のあるサウンドですが、ハイブリッドにありがちな派手な音ではなく心地よく感じるバランスにチューニングされています。また、適度に鳴らしやすく、かつ感度が高すぎることもないため、再生環境にあまり依存せず楽しめる点もこの製品の意識しているポイントだと思われます。
驚いたのは前述の通り2種類のフルレンジドライバーを同時に鳴らしているのもかかわらず、ゴチャついた感じではなく、全体的に非常にスッキリした印象のサウンドであることで、想像以上にしっかりとしたチューニングがなされているようです。また、このような構造もあって、各音域のつながりはよく、明るく鮮やかな印象でありながら人工的なサウンドではない点も印象的です。

SIMGOT EM2」の高域は明瞭感のあるスッキリした印象の音です。「EN700 Pro」より強さがありますが、いかにもハイブリッドといった人工的な感じではなく、伸びのよい綺麗な音という印象です。シャリ付きなどはほとんどありませんが高域成分の多い打ち込み系の曲では刺激を感じる方もいらっしゃるかもしれませんね(その場合、EarTip 2タイプのイヤーピースを使うと少し軽減されます)。
SIMGOT EM2中音域は全体的には元気な印象ですが、「SIMGOT EM2」のキャラクターがいろいろな意味で最も現れている部分でもあります。特定の音域に手を加えるような味付けではなく、2つの異なるドライバーによって要所を押さえるような主張の仕方を感じます。いっぽう分析的に聴くと音の分離性は決して高いわけではありませんし、ピアノの高音の余韻やハイトーンのボーカルなど中高域の抜けに今ひとつな部分はありますが(異なるドライバーで同じ帯域を並列的に鳴らす構造からもある程度仕方ない部分でしょう)、しっかり前に出て主張するボーカルやギターなどの存在感と独特の音場感がとても特徴的です。
ボーカルが近くに定位ししっかりと主張することもあり実際の音場は決して広くないものの、同時に見通しの良さを感じる空間表現があるため「広さを感じる」音作りになっています。そのため音数の多い曲やテンポの速い曲でも籠もることなくスッキリと聴きやすい印象にまとめられているのが楽しいですね。
低域は解像度が高く締まりのある音で、「EN700 Pro」「EN700 BASS」のような少し広がりのある印象の低域とは異なり、かなり力強さを感じる印象になっています。重低音の沈み込みも深くしっかりと重量感のある音で聞かせどころでしっかり鳴ってくれる心地よさは「SIMGOT EM2」の特徴のひとつだと思います。いっぽうで過度な主張はなく全体的なバランスが非常に良く、とても質の良い低域に仕上がっている印象です。

SIMGOT EM2このように、「SIMGOT EM2」は幅広いジャンルの曲で「楽しさ」と「心地よさ」を両立したリスニングができるイヤホンで、テンポの速い曲やスピード感のある曲との相性の良さを感じます。ロック、ポップスやアニソンなどのボーカル曲では存在感のあるボーカルと独特の音場感の組み合わせに楽しさを感じるのではと思います。いっぽう、多少元気に鳴りすぎる感じもありますが、ジャズなどでベースやサックスなどの力強い低音もとても気持ちよいですね。中高域などで多少割り切ったような部分はありますが結果的に全体のバランスは非常に良く、改めてSIMGOTの音作りやまとめ方の上手さを実感します。同社サイトでも「SIMGOT EM2」に関しては「スマートフォンでの鳴らしやすさ」について言及していますし(「EM5」等のページには記載されていません)、いくつかのウィークポイントについてはこの価格帯のモデルでのニーズに併せたバランス重視の選択という感じがします。

(追記)ところで、「SIMGOT EM2」は付属のケーブルで非常に良いバランスのため、ほとんどの場合リケーブルは不要ですが、音質傾向に少し変化を加えたい場合やバランス接続などで他のケーブルに交換することも可能です。
SIMGOT EM2」では「qdcタイプ」の2pinコネクタを採用していますが、最近ではKZなど互換コネクタを採用した中華イヤホンが増えていることもあって、比較的手頃な価格でさまざまなリケーブル製品を選択することが出来ます。お勧めは低価格16芯タイプのケーブルで、非常に情報量が多く、「SIMGOT EM2」のグレードアップには最適です。アマゾンでは3千円以下の価格で販売されており手軽さも魅力ですね。「KBEAR 4842」や「YYX4849」「KBF4851
(すべて2,990円)などは非常に柔らかい線材で見た目にも良い組み合わせだと思います。
SIMGOT EM2 / KBEAR 4842SIMGOT EM2 / YYX4849
これらのケーブルにリケーブルすることで中音域がより近くで定位し、全体的に鮮やかさを増した印象のサウンドになります。再生環境によっては多少派手めに感じる可能性もありますが、中高域の明瞭感が増すことで抜けの良さも向上するようです。

SIMGOT EM2 / KZ-HD BluetoothケーブルSIMGOT EM2 / KZ-HD Bluetoothケーブル
また余談ですが、「SIMGOT EM2」のコネクタと形状的に互換性のある中華イヤホンブランド「KZ」のBluetoothワイヤレスケーブル、「KZ-HD Bluetoothアップグレードケーブル」(3,000円)も問題なく利用可能でした。高音質なハイレゾ対応の「aptX HD」コーデックにも対応しており、手軽にワイヤレス化できるのが良いですね(なお、リケーブルおよびワイヤレス化についてはメーカーの保証外ですので、あくまで自己責任でお願いします)。


SIMGOT EM2」は個性的な構成も含め、メインで使うイヤホンとして、またマニアの方がコレクションに加えるアイテムとしても、1万円そこそこの価格設定の製品としてはかなりお勧めできるイヤホンに仕上がっているのではと思います。
また、「SIMGOT EM2」だけでなく、SIMGOTのサイトには「洛神シリーズ」以外にもさまざまなイヤホンが記載されていますが、今後日本で展開される製品にも期待したいですね(^^)。