TRN X6

こんにちは。今回は「TRN X6」、低価格ながらハンドメイドのクリアシェルと片側6BAを搭載したマルチBAイヤホンです。低価格中華イヤホンブランドのひとつである「TRN」は、元々は私のブログではすっかりお馴染みの「KZ」出身の人がスピンオフして作った会社といわれています。そのため、「KZ」への対抗心の表れか、毎回いろいろな意味で話題となる製品を投入しつつも、結構やっつけ感のあるラインナップやビルドクオリティの製品が多く「当たり外れ」の大きいブランドとしてもマニアの間ではお馴染みです。そのため、割と何でもアリの中華イヤホンの世界でもちょっと好き嫌いが分かれる存在かも知れませんね。
とはいえ、TRNの新モデルが出ると毎回話題にはなりますし、マニアが思わずチャレンジしたくなってしまう「狙った」製品をタイミング良く投入し続けられるフットワークの軽さは同社の強みかも知れませんね。
TRN X6TRN X6
さて、そんななか今回の「TRN X6」は、KZが姉妹ブランドのCCAと合わせて着実な多ドラ化やハイブリッドモデルのリファインにより「手堅いブランド」への進化を進めている中で、KZと同等の価格レンジながら、中華イヤホンでも100ドル~200ドルクラスの製品を彷彿とさせるハンドメイドのレジン製シェルに6個のBA(バランスド・アーマチュア型)ドライバーを搭載した「ひとクラス上に見える」製品としてリリースされました。

TRNでは既に「TRN IM1 Pro」(1BA+1DD)を20ドル台の価格で販売しており、「TRN X6」も同じラインで作られている製品と考えるのが妥当でしょう(ちなみに「TRN IM1 Pro」は販売当初は「なんちゃってTFZ SECRET GARDEN」(笑)的なデザインだったのですが、AliExprssで現在販売されている黒と青はシェルカラーと同じフェイスプレートに変更され、見た目の印象はだいぶ変わっています)。
TRN IM1 ProTRN IM1 Pro

「TRN IM1 Pro」は1BA+1DDのシンプルなハイブリッドで実質的に「ハンドメイドのシェルだけが売り」のイヤホンだったのに対し、「TRN X6」では「6BA」という60ドルそこそこの製品としてはかなりインパクトのあるスペックを実現してます。ドライバーはすべてTRNロゴ入りの中華BAユニットで構成されており、高域(30095)、中音域(30018)、低域(31602)で2BAずつを配置する構成となっています。すべてのドライバーで自社ロゴ入りの中華BAユニットを使用している点は低価格を実現する上での大きな理由だと思いますが、同時に音質面では若干の不安材料でもあります。
TRN X6  TRN X6
ただそれ以上に「TRN X6」がちょっと気になるポイントは「インピーダンス 58Ω、感度 96dB/mW」という、6BA構成のマルチBAイヤホンとしては相当に「鳴りにくい」仕様になっている点です。
BAドライバー数の多い「多ドラ」イヤホンは一般的にはインピーダンスが非常に低く、感度がとても高い、「ものすごく鳴りやすい」製品になる傾向があります。これはマルチBAイヤホンの構造的に複数のドライバーを並列で鳴らすことで、より低い出力で音圧が得られるいっぽうで全てのドライバーを稼働させるために相応の電力(電流の流れ)が必要になるためです。

TRN X6しかし「TRN X6」の場合は、搭載している中華BAがKnowlesやBellsing等のBAユニットよりインピーダンスが高く感度が低い特性であることももちろん考えられますが、各BAの出力を制御するネットワーク基板で一般的なマルチBAイヤホンよりかなり強めに抵抗をかけている可能性が高そうです。おそらく付属のTRNの標準ケーブル(特にマイク付き)でスマートフォンなど通常のマルチBAで普通に使えることを考慮したチューニングだと考えられますが(通常のマルチBAイヤホンの場合はスマホ直挿し等ではホワイトノイズが大量に発生する場合が多いですね)、ここまで極端なチューニングだと音質面でどの程度影響するのかとても気になるところです。

今回「TRN X6」は中国のイヤホンセラー「LuckLZ Audio Store」にオーダーしました。カラーはブラックフェイスの1色のみで、ケーブルがマイクなし、マイク有りが選べます。価格は61.07ドル(マイクなし)です。AliExpressでの購入方法などはこちらをご覧ください。
AliExpress(LuckLZ Audio Store): TRN X6


■厳しいコスト制約の中で「見た目イヤホン」としても楽しめる美しいハウジング

TRN X6」のパッケージは最近のV30と同じサイズのタイプ。V30では「パッケージで盛ってる」という感じがありますしたがこのクラスの製品になると相応感があります。
TRN X6TRN X6
パッケージ内容は本体、ケーブル、イヤーピース(Mサイズのみ微妙にデザイン違い)、説明書・保証書など。この辺の最小構成の内容はほかのTRN製品と同じです。
TRN X6TRN X6
レジン製のシェルは軽量で、雲母模様のフェイスパネルはぱっと見た感じの印象では比較的高級感のある仕上がりとなっています。とはいえビルドクオリティ自体は「IM1 Pro」同様「厳しいコスト制約ので結構頑張ってるね」という感じが伺えるレベルで、当然ながら同じ中華イヤホンでも200ドル以上で販売されているクリアシェルの製品と比べると価格相応のアバウトさを感じる印象です。
比較的多きめのサイズですが耳へのフィット感は良く、装着性は良好です。まあパッと見の印象で攻めるというキャラクターは「TRNらしい」とも言えますし、この価格でこの見た目なら十分アリ、という方も結構いらっしゃると思います。
TRN X6TRN X6
クリアなハウジングからは6BAのユニットを確認することができます。2基ずつ組み合わされた高・中・低3種類のBAユニットからはそれぞれ音導管が伸びている3wayの構成となっていて、音導管にフィルター等は取付けられていません。各ユニットの制御はネットワーク基板による抵抗等に寄って行われているのが確認できます(基板自体は上面をカバーで覆ったうえにレジンを充填して配線などは見えなくなっています)。付属するイヤーピースおよびケーブルはTRN製の他のイヤホンと同様なものです。


■スマホOKのチューニングは裏目に? 本領発揮にはリケーブル&しっかり鳴らせる環境が必須

TRN X6TRN X6」の印象ですが、前述のとおり「インピーダンス 58Ω、感度 96dB/mW」という6BA構成のイヤホンとしては異常に鳴りにくい仕様(別の言い方をすると、6BAながらスマホでもホワイトノイズが出ない仕様)が完全に裏目に働いていて、開封直後に付属ケーブルで聴くとピントが合っていないぼやけたようなサウンドになります。
16芯ケーブル等「できるだけ情報量の多いケーブル」にリケーブルし、できればヘッドフォンなどもしっかり鳴らせる駆動力のあるDAPのハイゲインモードや、出力の高いポータブルアンプを併用して「覚醒」させることが「必須」のイヤホンだと思います。またエージングにより100時間以上しっかり鳴らし込むことで1音1音の明瞭感が多少向上します。

ケーブルについてはTRN純正のミックスケーブルやアンダー2千円クラスミックスケーブルの「KBF4824」などもありますが、「TRN X6」との組み合わせで劇的に変化を実感できたのは16芯ケーブルでした。中華16芯ケーブルは、中華ケーブルの中でも特にイヤホンの特性を敏感にさせる(イヤホンによっては感度が高くなりすぎて派手になる)傾向があるため、「TRN X6」のような製品にはぴったりです。
TRN X6TRN X6
16芯ミックス線「Knboofi KBF4746」や銀メッキ線「NICEHCK TDY3」「Yinyoo YYX4820」、そして「HiFiHear HiF4827/HiF4828」など、カラーリングも含め選んでみるのが良いと思います。ちなみに、よりハイグレードの「YYX4810」などのOCC線の場合は逆に本体のインピーダンスの高さからあまり良い効果は得られませんでした。この辺はイヤホンの傾向に合わせて選びたいところです。

TRN X6TRN X6」の音質傾向はフラット寄り。ただこれは、特に標準ケーブルでの組み合わせで顕著ですが、わざとメリハリを殺してフラットに寄せているような若干ネガティブな意味での印象です。
駆動力のある環境に再生環境を整え、16芯ケーブル等にリケーブルすることで(さらにバランス接続することでDAPによってはさらに出力を稼げます)、「ぼんやりした」印象は払拭され、解像度が高く明瞭感のある音に変化します。
この状態での高域は刺さり等は抑制されているものの2BA+2DDハイブリッドモデルの「TRN V80」を少し思い出すような派手さのある鳴り方をします。解像度もそこそこ高く煌めきなどもありますが、音が近いこともあり、曲によっては歪みを感じやすく、少し騒がしい印象も感じます。スッキリした高音を好まれる方には最近のKZやCCAに比べるとチューニングの粗さを感じる部分だろうと思います。
TRN X6中音域は、開封直後のエージング前の段階では何とも言えず「ぼんやりとした音」という印象で、ちょっと我慢できずすぐに16芯ケーブルにリケーブルしてしまいました。リケーブル後の印象ではマルチBAイヤホンらしい分離性と解像度の高さは感じる明瞭感のある音になりました。ただ、エージング後に標準ケーブルを戻しても、やはり「ぼんやりした印象」は残っていたため(多少は改善されましたが)、もうこういうチューニングなんだな、と理解しました。たぶん標準ケーブルではスマートフォン直挿しのほうが多少の歪みはあっても良く感じるかも知れませんね。
リケーブルおよびエージング後の「TRN X6」の中音域は結構派手めに鳴り、かなり近くで定位し、音場は狭く感じます。ボーカルの立ち上がりや分離は良いですが余韻などは少なめのため、テンポの速いロックやポップス、アニソンなどとは相性が良いですがバラードなどは今ひとつに感じそうです。
低域は量的には少なめに調整されており、比較的解像度は高いものの沈み込みは浅く軽めの印象を受けます。いっぽうでマルチBAイヤホンにありがちな籠りのようなものはほぼ感じないチューニングとなっています。


というわけで、「TRN X6」は見た目イヤホンとしての期待値の高さに対して、音質的にはちょっと厳しめの評価となりました。とはいえ60ドルそこそこの価格でこの内容であれば本来は「アタリ」の製品と捉えて良いと思います。前回の「TRN V30」では音質よりデザインとビルドクオリティをウイークポイントに挙げましたが、「TRN X6」も音質そのものは価格的にもまずまずで、リスニングイヤホンとして好感を持つ方も結構いらっしゃると思います。
TRN X6それだけに、せっかくの6BAのサウンドが活かされないような、過剰にスマートフォンでの利用を意識したようなチューニングを残念な点と考えています。これまでも「TRN」はわりと「アタリ」と言われるモデルでも今ひとつツメが甘く、毎回最低ひとつくらいは「残念な要素」があったりしますが、今回の「TRN X6」の場合は、間違いなくこのチューニングでしょう。おそらく「KZ AS10」や「CCA C16」などがスマホでもなんとか使える仕様なのに対抗しようとしたのかもしれませんが、完全にどっちつかずになってしまった感があります。ここは見た目同様にもっとハイグレードな製品に方向性を振った方がよかったかもですね。
ただしリケーブル後のサウンドについては特にボーカルが聴きやすく、装着感も良いことから屋外でのBGM的な用途ではなかなか便利なアイテムだと思います。16芯ケーブルも含めた場合は価格的にも少し微妙に感じるかもしれませんが、「TRN X6」の「見た目」および「6BA」という仕様でこの価格自体は十分に安価な製品ですので、興味があればトライしてみるのも良いと思います。