「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)

こんにちは。今回は「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)という片側10BAを搭載するマルチBAイヤホンの紹介です。中国のイヤホンセラーEasy Earphonesなどが展開する「Yinyoo」ブランドではさまざまなシリーズのオリジナルイヤホンをリリースしていますが、今回の「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)はユニバーサルタイプのイヤホンながらカスタムIEM同様にひとつひとつハンドメイドで小ロット単位で製造されるハイグレード仕様のモデルとなります。また既存モデルで同様に10BA仕様の「HQ10」のリニューアルモデル、という位置づけでもあります。
「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)
Yinyooブランドではこれまでも多くの自社企画またはOEM/ODMによるイヤホンを販売していますが、なかでもハイグレードの「HQシリーズ」は自社オリジナルの高品質マルチBAイヤホンのシリーズとして、5BA「HQ5」/6BA「HQ6/HQ6s」/8BA「HQ8」/10BA「HQ10」/12BA「HQ12」とラインナップを拡充してきました。これらのイヤホンはマルチBAらしい高密度なサウンドとひとつひとつ手作りされた美しいシェルが特徴的です。さらに最近はハイブリッド仕様の「HXシリーズ」として「HX5」(4BA+1DD)、「HX4」(3BA+1DD)、「HX3」(2BA+1DD)といった製品をリリースしています。
過去記事(一覧): Yinyoo Hシリーズ/HQシリーズ/HXシリーズのレビュー

Yinyoo HQ10Yinyoo HQ12Yinyoo HX5

今回の「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)も片側に10個のバランスド・アーマチュア型(BA)ドライバーを搭載する「マルチBA」または「多ドラ」イヤホンとよばれるジャンルの製品です。そのドライバー構成はKnowles製8BA、Bellsing製2BAの組み合わせで、高域にはこれまでもHQシリーズで幅広く採用されてきたBellsingの2BAツィーターユニット「BRC210C30017」(「Bellsing 30017」)を、中高域はKnowles製の2BAユニット「DTEC-30265」を2基、低音域に同じくKnowles製2BAの「HODTEC-31323」を2基の3Way仕様となっています。従来のYinyoo HQシリーズと比較すると、「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)は「HQ10」とは大きく構成が異なり、全く新しいチューニングがされていることがわかります。いっぽうで12BA構成の「HQ12」と比較するとツィーター用のBellsingが2基(4BA)から1基(2BA)に減らしてチューニングを変更したモデルが「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)だという見方もできそうですね。

YQ10 (10BA) : Bellsing 30017 (2BA) ×1 + DTEC-30265 (2BA) ×2 + HODTEC-31323 (2BA) ×2
HQ12 (12BA) : Bellsing 30017 (2BA) ×2 + DTEC-30265 (2BA) ×2 + HODTEC-31323 (2BA) ×2
HQ10 (10BA) : Bellsing 30017 (2BA) ×2 + GR-31587 (2BA) ×2 + HODTEC-31323 (2BA) ×1
HX5 (4BA+1DD) : Bellsing 30017 (2BA) ×1 + GR-31587 (2BA) ×1 + DD
HX4 (3BA+1DD) : ED-29689 (1BA) ×1 +  DTEC-30265 (2BA) ×1 + DD


「HQ12」はアマゾンで5万円近くの価格設定になっていますので、「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)も決して安価なイヤホンではありませんが1万円近く低く抑えられた価格設定は結構魅力的にも感じますね。後述しますが、音質傾向においても「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)はドンシャリ寄りの「HQ12」よりフラット傾向に近づけるため、低音域をより抑制した設定になっており、BellsingのBAを超高域のツィーターに専念させる「よりKnowles製BAメインのサウンド」にチューニングされている点もポイントですね。
「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)

購入はAliExpressの「Easy Earphones」またはアマゾンの「WTSUN Audio」にて。価格はAliExpressが 329ドル、Amazonが 39,800円 です。AliExpressでの購入方法およびフォロワー値引きについてはこちらを参照ください。またアマゾンの場合、万が一の場合もアマゾン経由でのサポートが受けられるメリットは大きいですね。
AliExpress(Easy Earphones): Yinyoo YQ10
Amazon.co.jp(WTSUN Audio):Yinyoo YQ10(Yy-YQ10)


■デザインもドライバー構成も一新。従来のHQシリーズから大きく変更したサウンドチューニング

Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)のパッケージ構成は最近の「HX」シリーズなど1万円以上のYinyooイヤホン共通のボックスタイプ。付属品はイヤホン本体、MMCXケーブル、イヤーピース(白色・S/M/Lサイズ)、ケース、交換用ノズルメッシュ、説明書、保証書。あとEasy Earphonesのカスタムイヤホンではお馴染みのオマケイヤピース(シリコン2種類各サイズ、ウレタン4色)もついてきてケースの中にびっしりと詰まっています。ケーブルはYinyoo HQシリーズと共通の8芯銀メッキ銅線ケーブルです。
「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)
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Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)の本体のビルドクオリティは従来のHQシリーズよりさらに向上しており、手の込んだフェイスプレートのデザインとあわせて非常に美しく仕上がっています。アルミ製ステムは太さがありますので、付属のイヤーピースのほか、定番のJVCの「スパイラルドット」、Acoustune「AET07」、AZLA「SednaEarfit Light」など開口部が大きくフィット感の高い製品との組み合わせもお勧めです。
「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)
Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)のハウジングは「HQ10」および同じシェル形状の「HQ5」「HQ8」と比べても多少厚みが抑えられた形状となっていて、逆にフィット感は向上しています。従来のモデルでシェルの大きさが気になった方でも、よりしっかりとホールドし装着できるのではと思います。
Yinyoo YQ10Yinyoo YQ10
また前述の通り12BAの「HQ12」とは高域のBellsing製ユニットが1基少ないだけですが、大きさの差はかなり歴然で、「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)は可能な限りコンパクトにBAドライバーをびっしり詰めているな、と感じます。
Yinyoo YQ10Yinyoo YQ10

「Yinyoo HQシリーズ」およびHCKのHK/NK型番の多ドラモデルは、各BAのクロスオーバーなどのチューニングにネットワーク基板の抵抗等を使用せず、音導管に装着されたフィルターによるバランス調整により作られています。以前から「多ドラ」仕様の中華イヤホンにはこのタイプのものが主流だったのですが、ほんの1~2年前までは限られたマニアが個別にオーダーするような受注生産するイヤホンでした。それがこれらのシリーズの登場により、ハンドメイドの製造方法は変わらないものの、より低価格でアマゾン等でも手軽に購入できるようになり、相変わらずマニア向けではあるも裾野は大きく広がったように感じます。
「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)
しかし、これらのモデルで採用されている「マルチBA」化の方式は、より高価なKnowles製BAをふんだんに使いつつも驚くほどの低コスト化が実現できていますが、10BAなどの多ドラ化でより多くの電流を必要とするため非常にインピーダンスが低く感度が高いイヤホンになる傾向があります。これはS/Nの低い再生環境でのホワイトノイズや歪みの原因になるだけでなく、再生環境によって音質傾向を含め印象が激しく変化する原因となります。駆動力の低い再生環境ではより籠りのようなボワつきが顕著となり、逆に強すぎると刺さりがキツく感じる、といったことが従来のYinyoo HQシリーズではありました。特にBellsing製ユニットを2基(4BA)搭載する「HQ8」「HQ10」「HQ12」では再生環境での変化が顕著で、これらのモデルではDAPやポタアン等との相性に加え、リケーブルなどにより最適なバランスに合せていくことが「必須」でした。もちろんスマホ直結などはノイズや歪みが大きすぎるのでかなり厳しいでしょう。
「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)
今回の「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)はBellsing製ユニットは1基(2BA)となり、おそらく4kHz以上の高域~超高域専用のツィーターとして中高域~低域を鳴らすKnowles製BAを補完する役割に徹するチューニングとなったようです。再生環境によって変化しやすいBellsing製ユニットの数が減り鳴らす帯域がより限られたことで再生環境による歪みや刺さり、いわゆる「ハイ上がり」の現象は「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)ではほとんど発生せず、より質の高い明瞭な高域を楽しめるようになりました。しかし10BAのユニットに(ネットワークの)抵抗なくそのまま電流が流れるため、DAPやポータブルアンプに十分な駆動力が必要な点は変わりがありません。また駆動力が高くてもホワイトノイズが発生する場合もありますので、その場合は「EarBuddy」や「iEMatch2.5」などのアッテネータの併用が必要になります。
これらの点を考慮すれば「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)でコストに見合う、あるいはそれ以上のサウンドを楽しめると思います。


■より「10BAらしさ」が引き立つ、フラットで自然なKnowles製BAメインのサウンド

Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)の音質傾向は前回の「HQ10」や「HQ12」よりさらにフラット寄りのサウンドチューニングで仕上げられています。前述の通り反応は非常に良いイヤホンですが、「HQ10」や「HQ12」のように再生環境が多少変わっても高域が激しく刺さったり、逆に低域にマルチBA特有の籠りは相対的にかなり少なくなっています。重低音に多少の割り切った印象を感じるもののそのぶんつながりは良く全体的に自然なサウンドに仕上がっているのはとても好印象です。十分に駆動力のある再生環境に加え、できればより高品質なケーブルにリケーブルをして楽しみたいですね。

ちなみに、前述の通り10BAという非常にユニット数の多いBAドライバーをネットワークによる調整ではなく出力部のフィルターでのクロスオーバーのバランス調整で制御しているため、「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)も複数のドライバーによる和音のような「マルチBA特有の音」になります。ハイグレードのシングルダイナミックドライバーのサウンドと比べると明らかに異質のもので、そういった意味では「HQ10」や「HQ12」と「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)は同様の方向性のサウンドといえるでしょう。これは良し悪しというよりイヤホンの性質によるものですので、これを「リッチな音」と感じる方もいれば「ボワつく音」と感じる方もいらっしゃるでしょう。以下のレビューはあくまで「マルチBAらしい音」と前提とした比較となります。

「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)は、全般的に刺激の少ない中音域メインのサウンドですが、高域も歪みの少ない情報量の多い音を鳴らします。10BAイヤホンらしく広がりのある音作りで、「HQ10」「HQ12」よりも「多ドラ」感のある音になっています。Bellsingの金属質な印象はほとんど感じず、従来の「HQシリーズ」より刺激の少ない聴きやすい音になっています。そのため「いかにも中華っぽい」派手さは感じませんが十分に煌めきを感じる鮮やかな印象があります。このような傾向からもやはりKnowlesのユニットを前面に出したチューニングなのだと思います。低価格中華イヤホンの派手めの高域に慣れていると、「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)の自然な高域ながら非常に見通しが良く立ち上がりの綺麗な高域には価格なりの「違い」を実感するかも知れませんね。

Yinyoo YQ10中音域も音場の広がりを感じる、非常に濃いめの音が鳴ります。ボーカルは近くで定位し、存在感のある若干カマボコぎみの主張の強さはいかにもという感じはしますが、中高域のつながりも良く輪郭もしっかり描写できており、「HQ10」の低域と高域で多少マスクされていたような音と比べると明瞭感が大きく向上しています。「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)は全体的にフラットな傾向のため癖のない音ですが、情報量の高い音を慣しつつしっかり余韻も感じる印象は確実に進化したサウンドを実感しました。
低音域は存在感のある力強い音で鳴りますが、「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)は「HQ10」よりかなりスッキリした印象で解像度も高く、こちらもかなり印象は向上しています。分離性は良く中高域が籠もることもありません。ただし、下の方の重低音は鳴りきっていない印象で、少し上がやや不自然に膨らむよう感じたり、バスドラムが多少抜けるように感じる場合もあります。ロック、ポップス、アニソンなどのボーカル曲との相性はとても良いですが、ジャズやアコースティックな曲ではハイブリッドの「HX4」などのほうが良い印象となりそうです。

Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)は、「HQ10」「HQ12」ほど再生環境にシビアなイヤホンではありませんが、やはり相応のグレードのケーブルにリケーブルすることでサウンドを大きくグレードアップすることができます。もともと非常に反応の良いイヤホンですので、単結晶銅線(OCC)タイプのケーブルとの相性が良さそうです。最もお勧めなのは「YYX4835」「YYX483616芯 7N単結晶銅線ケーブルですね。見た目的にも音質傾向的にも相性が良く、全体的に抜けの良い明瞭感と奥行きのある音場感の向上が期待できます。他には 8芯 OCCミックスの「KBF4805」や 8芯 純銀線の「YYX4821」なども良い組み合わせだと思います。
Yinyoo YQ10Yinyoo YQ10

というわけで、「Yinyoo YQ10」(Yy-YQ10)は、従来の「Yinyoo HQシリーズ」を踏襲しつつ、着実に「一皮むけた」イヤホンに成長していました。先日の「Yinyoo Ash」以降の新しいロゴマークも良い印象ですし、決して安いイヤホンではありませんが、Knowles製BAをメインとしたサウンドの10BAイヤホンを「比較的低コストで」楽しみたい、というマニアの方はチャレンジいただいても損は無いと思いますよ。