qdc Uranus

こんにちは。今回は「qdc Uranus」の紹介です。カスタムIEMメーカーとして中国で圧倒的シェアを持つ高級イヤホンのブランド「qdc」(Shenzhen Qili Audio Application Co., Ltd.)が手がけるエントリークラスの最新モデルで、今回は1BA+1DDのハイブリッド構成になります。
qdc Uranus」は、日本でも高い人気を博したシングルBAモデルの「qdc Neptune」の事実上の後継モデルとなります。「ネプチューン=海王星」同様に、今回も太陽系の星の名前を取って「ウラヌス=天王星」と名付けられています。「qdc Neptune」は雲母をフェイスプレートにあしらったデザインが特徴的でしたが、今回の「qdc Uranus」では左右異なるカラーリングでそれぞれ星雲をイメージしたようなデザインがとてつもなく美しいですね。また音質的にも「さすが」と思えるバランスの良さで、ハイブリッド構成らしさも少しありつつ聴きやすくまとめられた質の高いサウンドが楽しめます。
なお、私は昨年末に海外版を購入しましたが、2020年2月7日より日本でも国内正規品が販売開始となりました。

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qdc Uranus」は、qdc初のハイブリッド仕様のカスタムIEM「qdc Fusion」(4BA+1DD)を踏まえて登場したエントリークラスのモデル。シングルBA仕様の「qdc Neptune」同様にqdcカスタムのフルレンジBAドライバーを搭載しつつ、さらに「qdc Fusion」で採用されている同社の特許技術に基づいてチューニングされたダイナミックドライバーが搭載されている点がポイントです。「qdc Fusion」では通常はシェル形状の反響音による影響を受けるダイナミックドライバーを個別のハウジングに納めてBA同様に音導管を通じて出力する独自の仕組みをさいようしており、耳型に合せて形状が異なるカスタムIEMでも同じクオリティのサウンドを実現しています。「qdc Uranus」でもエントリークラスながら同様の仕組みを採用することで、より柔軟なシェルデザインとサウンドチューニングを施すことが可能だったようです。同社製品のなかでも比較的購入しやすい価格設定ながら非常に高いサウンドクオリティを実現しています。
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私は(日本版発売前の)昨年12月に海外版を購入。「qdc Uranus」の海外での価格設定は250ドル(公式サイト表示価格)で、購入したシンガポールの「JABEN」ではレートに基づいた335.51 SGD(シンガポールドル)から  279.44 SGD までディスカウントされており、送料を加えても300 SGD 以下と比較的割安でした。ただし海外版はショップとのやりとり以外一切のサポートを受けられませんので(もちろん国内サポートはNG)相応のリスクを承知の上となります。

いっぽう、「qdc Uranus」の日本国内正規品は2020年2月7日より発売開始となりました。表示価格は 34,980円 となっています。サポートなどを考慮するとこれからは国内版を購入した方が良さそうですね。
Amazon.co.jp(国内正規品): qdc Uranus (QDC-7872)


■ 息をのむほどに美しいシェルデザインと高い装着性。

購入した「qdc Uranus」のパッケージは「qdc Neptune」同様に本体が確認できるボックスデザインですが、星雲デザインのフェイスプレートにあわせて紫色基調のカラフルなデザインとなっていました。パッケージを開封して現れる宇宙をイメージしたデザインも高揚感があります。パッケージ内容は、イヤホン本体、ケーブル、イヤーピースはシングルフランジとダブルフランジの2種類がそれぞれS/M/Lサイズ、クリーニング用ブラシ、レザーケース、説明書など。
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開封してまず目に付くのは「qdc Uranus」の思わず息をのむような美しいデザインでしょう。「qdc Neptune」の雲母(マイカ)をフェイスプレートに使用したシェルも非常に美しかったですが、「qdc Uranus」の凝りに凝ったデザインは、その遙か上を行く綺麗さです。右側がパープル、左側がブルーのシェルで、フェイスプレートにはそれぞれ異なったデザインの「星雲」が描かれています。
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またシェル内部にはqdcロゴの入ったBAドライバーユニットと前面が白いカバーで覆われ音導管が繋がれたダイナミックドライバーが確認できます。ダイナミックドライバーのために必要なベント(空気孔)は側面部に1カ所のみ存在します(なおコネクタ横の赤および青でマーキングされている部分は左右を区別するためのものでベントではありません)。
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また「qdc Uranus」のシェルのサイズ自体は1BAの「qdc Neptune」よりひとまわり大きくなっていて、ベントも金属製になった点が大きく異なります。しかし数多くのカスタムIEMを手がけてきたqdcらしく装着性は今回も非常に良く、高い遮音性でしっかり装着することが可能です。
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イヤーピースはサイズごとにカラーの異なるシリコンタイプに加えてブラックのダブルフランジタイプの3サイズが付属します。多くの場合は標準のイヤーピースで問題なく装着できそうです。レザー製のハードケースは「qdc Neptune」付属のものと同じサイズの色違いで落ち着いた青系のカラーリングが良いですね。
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またqdcコネクタ仕様の付属ケーブルは高純度銀メッキ銅線タイプ。柔らかい被膜で覆われており、取り回しが良く、とても使いやすいケーブルです。また「qdc Neptune」ではマイクリモコン付きのケーブルでしたが「qdc Uranus」では通常のケーブルになりました。このようにパッケージ面でもより充実度がアップした内容になっていますね。


■ 「qdcらしい」バランスの良さとリスニングの楽しさを感じるサウンド

qdc Uranus」のサウンドはフラット傾向をベースにしながら緩やかにドンシャリ方向チューニングされた鳴り方で、ハイブリッド構成らしくダイナミックドライバーによる特徴的な低域の厚みを感じるサウンドバランスに仕上げられています。ドンシャリ寄りといっても多くの中華ハイブリッドのような派手さを感じる傾向とは異なり、全体的に聴きやすくとてもまとまりの良いイヤホンという印象です。qdcほどの実績のあるメーカーになると多くのグローバルブランド同様に「らしさ」というのがあるものですが、シンプルなハイブリッド構成の「qdc Uranus」でもやはり「qdcらしい」と感じる音だな、というのが最初の印象でした。ハイブリッドイヤホンにありがちなガツンとしたメリハリの強さは無く耳馴染みの良さを感じるサウンドにまとめつつ、中高域は適度な煌めきがある明瞭さと繊細さを感じるチューニングがおそらく「qdcらしい」と感じさせているのだな、と思います。

qdc UranusもともとBAドライバーを使用したIEMメーカーであるqdcの製品ということもあり、「qdc Uranus」でも全体的なサウンドを構成する「主役」はフルレンジで鳴るBAドライバー部分のようで、表面をカバーで覆われ、音導管で出力されるという独特の形状をもつダイナミックドライバーは中低域を中心にサポート役に徹底しているという印象です。前述の通りハウジングの反響音をサウンドチューニングに「使わない」構造のためダイナミックドライバー特有の音場の広がりなどはほぼ感じられず淡々と鳴らしている感じはマルチBAのIEMを基準に考えればさほど違和感はないですが、普段からハイブリッドやシングルダイナミック構成のイヤホンを聴いている方からは多少の物足りなさを持たれる可能性もあります。こういった点も含め「良くも悪くもqdcらしい」といえるのかもしれませんね。

qdc Uranus」の高域は煌めきのある綺麗な音を鳴らします。ハイブリッド構成としたことでBAドライバーが担う帯域に余裕があるため、シングルBA構成の「qdc Neptune」より明瞭で伸びのある高音を実現できたようですね。適度に明るく鮮やかですがあくまで自然な印象の範囲内です。そのため十分に透明ではあるもののスッキリ感はさほどありません。また刺さり等の刺激は無く非常に聴きやすいチューニングになっています。

qdc Uranus中音域はボーカル帯域を中心に非常に明瞭かつ鮮やかで、同時に自然な印象のサウンドです。解像度はこの価格帯のイヤホンとしては一般的なレベルなものの、適度に暖かく、いっぽうでスピード感のある曲でもしっかり対応できるレスポンスも備えています。おそらく「qdc Fusion」で培われた「qdcのハイブリッド」技術が最も反映されているのがボーカル部分だと思えます。BAドライバーによる解像感のある表現をダイナミックドライバーが補完し、より自然な余韻と滑らかさを与えることで瑞々しさのあるサウンドを実現しているようです。いっぽう音色表現には味付けは無く、音源の印象を精緻に再生するIEMメーカーとしてのqdcらしさもあり、適度に広い音場で定位は捉えやすく、どのジャンルの曲も綺麗に聴かせてくれる実力も兼ね備えています。

低域は比較的力強くしっかりとした量感があります。ただ多くのハイブリッド製品に比べるとかなり派手さは抑えられた印象です。中高域のBAドライバーと同様のスピード感があり響きよりアタックの早さを感じるサウンドです。ただし解像感はこの価格帯の最近の製品のなかではやや緩く、重低音もそれほど深くは沈みません。よく制御された音ではありますが、同時に主に低域を担っていると考えられるダイナミックドライバーは多少神経質な鳴り方をしているようにも感じます。なんというか「主役」のBAドライバーとの組み合わせのなかで違和感がないように「サポート役」としてコントロールされている印象です。全体のバランスを考えると中高域のBAドライバーとの違和感も無く良くまとまっていて、アプローチとしては「正解」だと思いますが、低域好きの方には少し物足りなさを感じる部分かもしれませんね。

ちなみに、開封直後はやや緩めの印象もありますが数十時間程度のエージングにより明瞭感が向上する印象があります。この価格帯の製品としては比較的鳴らしやすく、再生環境への依存度は多くありません。より駆動力がありS/Nの高いプレーヤーのほうが分離性が向上します。リケーブルも「qdc Neptune」同様に結構効果的で明瞭感や音場感の向上も期待できるでしょう。
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最近はKZなどの「タイプC」コネクタの関係もあり比較的低価格でqdc仕様のケーブルが手軽に購入できるため選択肢は豊富にあります。特に16芯銀メッキ線タイプのケーブルは「KBF4851」(2,990円)のように低価格ながら合せやすいカラフルな製品や、「NICEHCK C16-1」(3,990円)のようにより高級感のある製品など選択肢も豊富で、音質的も「qdc Uranus」を傾向を活かしてより解像感や音場感が向上します。リケーブルによりで見た目もより華やかになりますし、色々なケーブルで変化を試してみるのも楽しいですね。


■ 比較的手に入れやすい、「圧倒的な美しさ」と「qdcらしいサウンド」のエントリーモデル。

というわけで、結論として「qdc Uranus」はあくまでqdcという高級IEMブランドのなかではエントリークラスの製品であり、外見上は同社の他の製品と比較しても「圧倒的に美しい」仕上がりではあるものの、特に音質面では「qdcらしい、よくまったサウンド」という感じです。
qdc Uranus当然、qdcのなかでより完成度の高いサウンドを求めるのであれば上位のモデルを選ぶべき、という「グレードの違い」は存在しているわけです。それでも「qdc Uranus」の海外での価格(250ドル)で考えれば手放しでお勧めできる製品だと思いますが、日本では少し割高のため同価格帯の製品が気になってしまうのも仕方ないかも知れませんね。
音質面の比較だけでいえば「qdc Uranus」より同等価格、あるいやそれ以下で同様に優れたイヤホンを探すことは「最近では」あまり難しくはありません。フラット寄りの傾向であれば「Moondrop KXXS」、よりハイブリッドらしさを感じるサウンドであれば「ikko OH10」、といった製品はどれも2万円そこそこで購入できます。また同価格帯であればシングルダイナミックの「TFZ NO.3 Ti」やマルチドライバーハイブリッドの「DUNU DK2001」は「qdc Uranus」と方向性は異なりますが魅力的なサウンドに感じるでしょう。
しかし、「qdcのイヤホン以外ではあり得ない」と思えるほどの「圧倒的な美しさ」を持ち「間違いなくqdcらしいサウンド」の「qdc Uranus」はマニアにとって十分に所有欲を満たすイヤホンで、3万円台の価格設定に見合う製品だと思います。
個人的には見た目の美しさもさることながら、抜群に優れた装着性(および遮音性)と耳馴染みが良く聴き疲れしにくいサウンドはとても使い勝手が良く、出張での移動の時などでの利用頻度は結構高かったりします。「qdc Uranus」は日本ではコスパが良いとは言いにくいものの、お勧め度は高い、トータルバランスの取れたとても良いイヤホンだと思います(^^)。