ikko Arc ITB05

こんにちは。今回は「ikko Arc ITB05」の紹介です。前回に引き続き、中国の新鋭オーディオブランド「Ikko Audio」(アイコーオーディオ)から、日本では2020年5月22日より発売開始となった高音質ワイヤレスケーブルです。今回は「Ikko Audio」の国内販売元であるIC-CONNECTさんより試聴機をお借りしての紹介となります。
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いわゆるMMCXまたは2pinコネクタ対応のBluetoothワイヤレスケーブルという種類の製品ですが、「ikko Arc ITB05」の最大の特徴は旭化成エレクトロニクス(AKM)のDACチップ「AK4377」をデュアルで搭載しており、L/Rが独立したフルバランス出力を実現している点。またチップセットにはQualcomm「QCC3034」を搭載し、SBC以外にも「aptX HD」「aptX」「AAC」の各コーデックに対応しています。通常のTWSなどのワイヤレスイヤホンや、ワイヤレスケーブルの場合、このチップセットに内蔵されるDACを使用するため、ワイヤレス用チップセットの選択がDAC性能も表すことが一般的です。しかし「ikko Arc ITB05」ではあえて専用のDACチップをフルバランスで搭載することにより、通常のワイヤレスケーブルより大幅な高音質化を実現しています。
ikko Arc ITB05そういった意味では、「ikko Arc ITB05」は通常のワイヤレスケーブルとは一線を画しており、考え方としてはMMCXや2pin対応のバランス接続ケーブルに「FiiO BTR3K」のようなワイヤレスレシーバーを内蔵してしまったような製品、といった感じでしょうか。結構「攻めた」アプローチで興味深いですね。

また、「ikko Arc ITB05」はワイヤレスケーブルの中でもハイグレード製品らしく、革製被膜で覆われたネックバンドやガンメタルの光沢のある金属製の本体部分など高級感のある仕上がりも特徴的です。コネクタは一般的な「MMCX」コネクタと、同社の「OH10」「OH1」といったイヤホン製品に対応する「0.78mm 2pin」コネクタ(中華2pinタイプ)が選択できます。
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ikko Arc ITB05」は「Ikko Audio」の日本での販売元である「IC-CONNECT」さんの直営ショップや各専門店で購入可能で、価格は 18,500円(直営ショップ価格)です。


■ 高級感あるビルドクオリティ。レザー製ネックバンドは抜群の装着感

ikko Arc ITB05」のパッケージは「Ikko Audio」製品共通のポップで温かみのあるイラストデザインで、思ったより大きめのボックスでした。箱を開けると高級感のある本体が姿を現します。
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パッケージ内容は本体、充電用USBケーブル、説明書、レザーケース。ひとつひとつに高級感があり、ハイグレードな製品であることを改めて感じさせます。イヤホンを装着した状態でそのまま収納できる大きいサイズの袋タイプのレザーケースも便利ですね。
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ikko Arc ITB05」本体はこの手のワイヤレスケーブルのなかではかなり大きく、結構な存在感があります。「ikko OH10 Obsidian」と同じガンメタル塗装の金属製の本体部分は非常に渋く美しい仕上がり、左右から伸びたイヤホン本体を接続するケーブル部分は比較的柔らかい樹脂被膜で耳掛けでの装着でも馴染みやすく使いやすいものです。スライダーの代わりになる透明な樹脂製のフックが付いています。
また首回りのネックバンドはダークブラウンのレザー被膜で覆われており、実際に装着した際に抜群の肌触りで馴染んでくれます。この装着感の良さだけでもこの製品を手に入れる価値を感じる方も少なくないかも知れません。
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ikko Arc ITB05」の2pinはいわゆる「中華2pin」タイプで、埋め込み式のCIEM 2pin仕様のイヤホンでは使用できないため注意が必要です。2pinの極性は説明書によると一般的な2pin仕様の場合は「L」「R」の表記があるほうが外側になるように取付ければ正しい極性になるようです。
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Bluetooth 5.0での接続性は良好で、アンテナ部分を大きくとれるネックバンド式と言うこともあり、「aptX HD」コーデックはもちろん、「aptX」や「AAC」でもクリアで安定したサウンドを実感できました。


■ フルバランスでの効果を実感。優れた分離性の明瞭サウンドであらゆつイヤホンに対応。

ikko Arc ITB05ikko Arc ITB05」による音質は、とにかく抜群に「クリア」で表現力豊かな印象。特にワイヤレスオーディオ特有の「歪み」や「微細なノイズ」など「雑味」がほとんど無く、より有線のDAP等の感覚に近いサウンドを楽しめます。L/R独立したバランス構成による分離性や1音1音の粒立ちの良さは、一般的なBluetoothオーディオケーブルとは完全に別次元で明らかな「レベルの違い」を実感します。
傾向としては中音域に明瞭感を感じやすいメリハリのあるサウンドではありますが、全体的にフラットな印象で、イヤホンの特性を反映させつつ、全体的にスッキリ目のサウンドにまとめられているようです。

同じ「Ikko Audio」の代表的なモデル「ikko OH10 Obsidian」を組み合わせてみると(2pinタイプ)、さすが「純正」だけあって、見た目のカラーリングが完全にマッチしているのはもちろん、サウンド的にも「ikko OH10 Obsidian」の良さを実感する鳴り方をしてくれます。
製品化の段階で「OH10」との組み合わせを想定したチューニングは当然されていると思われますが、相性の良さに加えて、全体的な明瞭感や低域の締まりの良さ、そして解像感は「ikko Arc ITB05」のポテンシャルの高さを実感させます。また、2pinコネクタもしっかりプラグされますので頻繁に抜き差しをしなければ運動中の利用でも簡単に外れることはないと思います。まさに「ikko OH10 Obsidian」の実力が十分に発揮される魅力的な組み合わせといえるでしょう。

ikko Arc ITB05ikko Arc ITB05」と「OH10 Obsidian」の組み合わせ合計は4万円ほど価格となり、かなり高級なワイヤレスイヤホンになりますが、ビルドクオリティ的にも音質的にも十分に価格に見合う構成だと感じました。運動中の利用の場合のほか、完全ワイヤレスはあえて選びたくない、というニーズで見た目にも音質にも妥協したくない方には最強の構成かもしれませんね。例えば、「OH10」と「ITB05」を組み合わせた製品が有名ファッションブランドなどにライセンスされたとして、それらのハイブランドのロゴを付けて数倍の価格で販売されたとしても違和感がないかもしれない、というくらいの「高級感」があります。

また駆動力およびノイズアイソレーションの面でも「ikko Arc ITB05」はかなり優秀で、ホワイトノイズを発生させやすい反応の良いカスタムIEMなどのマルチBAイヤホンでもクリアなサウンドを実感でき、逆にインピーダンスが高く「鳴らしにくい」イヤホンでもスムーズに駆動力を提供してくれるようです。
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もちろん、相応の価格のDAPなどと比べれば仕様なりの差はありますが、おそらくこの製品を検討される方はすでに高価格・高性能なDAPやハイグレードなイヤホンを日常的に使っており、ワイヤレスでも「同様なレベル」のものを「できるだけ気軽に使いたい」というマニアではないかと想像します。本来ワイヤレスのメリットはTWS製品なども含め「利便性」だと思いますので、ある程度ハイグレードなイヤホンを「ワイヤレス専用機」にしたい、というニーズも一定層あると思います。そういった用途では「ikko Arc ITB05」は、数万円クラス、あるいはそれ以上の価格のハイグレードのイヤホンを組み合わせにも十分に実用的な音質で、見た目にも高級感があるなど、もしかしたら現時点では「唯一」に近い選択肢かもしれませんね。


■ 高音質ワイヤレスケーブル、バランス対応ワイヤレスアダプタと比較してみた

「Shure RMCE-BT2」 VS 「ikko Arc ITB05」
※今回「OH10」との組み合わせを想定して「2pin」仕様での試聴機をお借りしたため、MMCX仕様のイヤホンについては変換コネクタを使ってテストしてみました。

「Shure RMCE-BT2」は、Shureの「SE846」をはじめとする高音質イヤホンで付属モデルを指定できるShure純正のワイヤレスケーブル。単品でも12,800円程度で販売されています。反応の良いShureのマルチBAイヤホンとの連携を前提としているため十分な稼働力とS/Nの高さが特徴で、さらにBT2では「aptX HD」「aptX」「AAC」の各コーデックに対応しています。
ikko Arc ITB05ikko Arc ITB05」との比較では同様に「aptX HD」でのペアリングでもDual DACでの音質面でのアドバンテージは大きく、分離性の高さや解像度の面ではハッキリとした違いを実感できました。また「SE535」などのShure製イヤホンよりさらに反応の高いイヤホンを組み合わせると再生側の音量によっては「Shure RMCE-BT2」でもホワイトノイズを感じる事がありましたが、同環境では「ikko Arc ITB05」のほうがノイズが少なく、それだけサウンドの透明感が向上し、高域の明瞭さや低域の解像感での違いを実感しました。もちろん外観の作りの違いなど、製品の価格差なりに明らかに「ikko Arc ITB05」のほうがグレードが高く、さらに使い勝手の上でも優れた製品ですが、音質面でもそれ以上の違いを実感することができました。この比較では価格差以上に「ikko Arc ITB05」の圧勝だと思います。


「Shanling UP4」 VS 「ikko Arc ITB05」

「Shanling UP4」は数々のDAP(デジタルオーディオプレーヤー)をリリースしてる中国のオーディオメーカー「Shanling」のバランス接続対応のBluetoothワイヤレスレシーバーです。DACに「ES9218P」をデュアルで搭載し、「CSR8675」により「LDAC」をはじめとするハイレゾコーデックにも幅広く対応しています。「ikko Arc ITB05」はDAC部分を「AK4377」のデュアルで別途構成しているものの全体的にはTWSなどのワイヤレスイヤホンで使用される統合チップセットの「QCC3034」をベースとしており、それぞれ独立した機構でレシーバーおよびアンプを構成している「Shanling UP4」のほうがオーディオ的なアドバンテージがあります。
ikko Arc ITB05この比較はとても興味深いもので、ケーブル内蔵型DAC/アンプの「ikko Arc ITB05」はかなり「いい線をいっている」サウンドだと感じました。バランス接続、アンバランス接続どちらも含めて有線イヤホンをそのまま使用できるワイヤレスレシーバーの「Shanling UP4」と、MMCXまたは2pinでイヤホンそのものをワイヤレス化する「ikko Arc ITB05」はジャンルの異なる製品で、求められる用途やニーズも当然変わってきます。しかし音質面の比較では組み合わせるイヤホンによって「性能をどの程度発揮できるか」という意味での相性はあるものの、かなり近い水準で仕上がっている印象でした。
「Shanling UP4」はこのタイプのワイヤレスアダプタ製品の中でも特に高音質かつ駆動力の高い製品で、極端に反応が良いか逆に鳴らしにくいイヤホンほど「Shanling UP4」のアンプ性能の高さが際立ちました。しかし、多くのハイブリッドイヤホンやシングルダイナミック構成のイヤホンでは、分離性の良い「ikko Arc ITB05」のサウンドは遜色ない実力を発揮し、僅かにメリハリのある印象とはなるものの非常にスッキリした明瞭なサウンドを楽しむことができました。


というわけで、「ikko Arc ITB05」は「ハイグレード・ワイヤレスケーブル」というかなりニッチなアイテムですが、外観や使い勝手などのビルドクオリティの側面でも、Dual DACによるバランス再生の音質面でも十分にその目的を果たすことができる、非常に特徴的な製品だと実感しました。
前述の通り、数万円クラス、あるいはそれ以上の価格帯のイヤホンやカスタムIEMを使用しつつ、できるだけシンプルなワイヤレスの環境で、スマートかつ高音質のリスニングを楽しみたい場合には、ほぼ唯一の選択肢と言っても良いクオリティの製品だと感じました。他にはない高音質なワイヤレスイヤホンを使いたい、と考えている方には、お気に入りの高音質イヤホンと一緒に「ikko Arc ITB05」は最適な組み合わせだと思いますよ(^^)。