TRN VX

こんにちは。今回はの「TRN VX」の紹介です。中国のイヤホンブランド「TRN」は私のブログでも以前から取りあげていて、マニアにはすっかりお馴染みとなった存在ですが、そんな方々でも以前のイメージが先行していて、昨年くらいから製品のクオリティが「爆上がり」しているのはまだ広くは理解されていないかもしれません。そんななか今回の「TRN VX」は最近の「V90」「BA5」といったモデル同様に完成度も非常に高く、明瞭ながら癖の少ないサウンドバランスを実現しています。

TRNの2019年の低価格モデル「TRN IM2」以降、同社イヤホンの品質面、音質面の向上は非常にめざましく、特に4BA+1DD構成のハイブリッドモデル「TRN V90」や5BA構成のマルチBAモデル「TRN BA5」、低価格モデル「TRN ST1」と昨年後半以降リリースされた各モデルで「安定して」コストパフォーマンスの高い製品を送り出すブランドとして定着した感があります。またリケーブル製品も同様に充実しており、中華イヤホンの中心的なブランドのひとつに成長したことは間違いないといえるでしょう。
→ 【メーカー別まとめ】 改めて「TRN」の新旧イヤホンを一気に振り返ってみました。 ※「個人的な好みランキング(低価格中華イヤホン)」・追補編


さて、そんな「TRN」が発売した最新のフラグシップが「TRN VX」で、今回は6BA+1DD構成のハイブリッドとなりました。「V90」の上位モデルの位置づけと考えて良いでしょう(そうなると「X」は「テン」ということかもですね)。
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TRN VX」は、「TRN V90」「TRN BA5」同様に金属製ハウジングを採用しつつ、全く新しいデザインを採用。コンパクトなシェルに片側7基のドライバー搭載し、1万円以下(Aliでは70ドル台)の低価格を実現しています。搭載されるドライバーは、高域の「30095」BA ×2基、中音域の「50060」×2基の組み合わせに加えて「30095」と「50060」をさらに1基ずつ組み合わせ中高域を増強しています。さらに低域用の10mm 二重磁気ダイナミックドライバーを搭載し、ダイナミックドライバー背面に装着されたネットワーク基板により各ドライバーの出力をコントロールしています。
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従来モデルと構成を比較してみるとこんな感じですね。

TRN VX 」: 低 10mm DD 中「50060」×2 中高「50060」+「30095」 高「30095」×2
「TRN V90」: 低 10mm DD 中「50060」×2 高「30019」×2
「TRN BA5」: 低「22955」  中「29689」   高「30095」×2  +「30095」
「KZ ZSX」 : 低 10mm DD 中「DWEK」(2BA) ×2 高「30095」
「CCA CA16」: 低 7mm DD 中「50024」(2BA) ×2 高「30095」×2 +「30095」

「V90」では高域用のユニットに「30019」という従来と異なる型番のBAが使用されていましたが、「TRN VX」では「BA5」やKZ/CCAなどと同様に「30095」を組み合わせています。「TRN VX」の内部では「50060」×2、「30095」×2がコンビネーションで搭載され、さらに別位置に配置される「50060」+「30095」の組み合わせは異なる抵抗値などで出力が調整されているものと考えられます。この組み合わせがどのように音質に影響するのか興味深いですね。
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TRN VX」のカラーは「ダークグリーン」と「ブラック」の2色で、アマゾンでの販売価格は 8,980円です。
Amazon.co.jp(L.S オーディオ): TRN VX


■ 個性的なデザインながらコンパクトにまとまっており、装着性も良好

TRN VX」のパッケージはいつもの白箱タイプ。内容も本体、ケーブル、イヤーピース(S/M/L)、説明書、保証書などの最小構成です。
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TRN VX」はすべて金属製のハウジングで見た目よりコンパクトにまとまっています。厚みもちいさく、6BA+1DDというマルチドライバーが収容されているとは思えない印象です。そのため装着感は比較的良好です。遮音性は一般的なレベルですが、「TRN VX」はフェイス部分に「TRN V90」や「TRN BA5」のような大きいベント(空気孔)はなく、密閉型の構造となっていることもあり音漏れがほぼ無い点は他のモデルとの違いでしょう。静かな図書館のような場所でも使用できるのは良いですね。
イヤーピースも付属品のほか、定番のJVCの「スパイラルドット」やAcoustuneの「AET07」、AZLA「SednaEarfit Light」など開口部の大きいイヤーピースを合せてより装着感を向上させるのも良いと思います。
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コネクタは「TRN BA5」および「TRN ST1」同様のKZタイプCと同じ仕様の「タイプC」コネクタを採用します。そのため最近のKZタイプC用のケーブルのほかqdcコネクタのケーブルも問題なく使用できます(極性関係が気になる方は、詳細については過去記事の「解説編」を参照ください)。
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また「TRN V90」や「TRN BA5」と大きさを比較すると「TRN V90」より僅かに大きいもののほぼ同様のサイズ感であることがわかります。最近のKZなどのイヤホンと比べると1まわり以上小さく感じると思います。


■ 今回は様々なジャンルの曲とも合せやすい、ニュートラルで癖の少ないサウンドバランスが印象的。

TRN VXTRN VX」の音質傾向はミッドレンジにフォーカスした中華ハイブリッド的な「寒色系弱ドンシャリ」の範疇に収めつつ、バランスとしては比較的低域が抑えられスッキリ目で中高域~高域の主張が強めの印象。明るく鮮やかさを感じるサウンドで「TRN V90」および「TRN BA5」の3モデルで比較すると「TRN VX」は最も癖の少ないニュートラルな傾向といえるでしょう。
「TRN V90」の印象的な厚みのある低域と自然に広がる音場感、「TRN BA5」のマルチBAらしさを活かした中音域の主張の強さと粒立ちの良さ、といった比較的「濃さ」を感じるチューニングに対して、「TRN VX」ではドライバーの数を感じさせない自然なチューニングが印象的です。
マルチドライバーの中華ハイブリッドでは、同型番のBAドライバーを2基組み合わせることで1基あたりの出力をコントロールし、全体としてBA特有の歪み(Knowles製などと比べて特に低コストの中華BAドライバーは高ゲインで歪みが出やすい)を抑制する構成も少なくありませんが、「TRN VX」ではさらに配置(と出力も?)を変えた各BAユニットを追加することで微妙なコントロールを加え、つながりの良さを実現しているのでは、と考えられます。

TRN VX」の高域は、ある意味「TRN」らしい、鮮やかで硬質さのある明瞭な音を鳴らします。比較的強めの主張がありますが全体のバランスとしては極端な派手さは抑えられており、「TRN V80」の頃の「メリハリ強めのドンシャリ」とは一線を画す、自然な鳴り方が好印象です。分離の良いシャープな印象で、シンバル音などの解像感は高く煌めきのあるサウンドを楽しめます。歯擦音などは比較的コントロールされていますが、刺さりやすい帯域がすこし強めに鳴ることもあり、再生環境によっては多少刺激を感じる場合もあります。

TRN VX中音域は、僅かに凹みますがボーカルは比較的近く、自然な距離感です。印象としてはあっさりして多少クールな音で、分離は良く解像度も高く感じます。ただ中低域の厚みがやや少なく、男性ボーカルの低音などは少し薄く人工的に聴こえます。いっぽうで女性ボーカルやピアノの高音など中高域の抜けは良く明瞭に伸びます。
高域同様に刺さりやすい帯域が少し多いため再生環境によっては強めに感じるかも知れません。この点はリケーブルで情報量を向上させることにより、主張の弱かった帯域のバランスが改善され、高域の刺激も含め、相対的に聴きやすくなるようです。
また、「TRN VX」の音場は奥行きを感じる印象ですが広さは一般的で曲によっては少し狭く感じる場合もあります。フェイス部分にスリット状のベント(空気孔)がある「TRN V90」の音抜けの良さと音場の広さと比べると、密閉型の「TRN VX」では差が出る部分で、キャラクターの違いを感じますね。

低域は中華ハイブリッドとしては少し控えめであっさりした印象を受けますが、そのぶん解像度が高くシャープでキレのある音を鳴らします。「TRN V90」でも採用されている10mmの二重磁気ダイナミックドライバーを密閉構成とすることで音場感の広さや音抜けの良さは「TRN V90」に譲るものの、「TRN VX」では非常に自然で聴きやすい低域を実現しています。このダイナミックドライバーのチューニングは、中高域で配置の異なるBAを追加することで「多ドラ感」を払拭したつながりの良い音とあわせて、非常に自然でニュートラルなサウンドを実現していると感じます。スピード感のある曲でも十分な早さで適応し、このクラスの製品としては十分な分離と解像感があります。

TRNは50ドルから100ドルの間に(あるいは5千円~1万円の間)「TRN V90」、「TRN BA5」、そして今回の「TRN VX」という3種類のモデルを投入しています。ともすると選択に迷いそうですが、デザインを大きく変えていることに加え、音質面でもそれぞれの製品に独自のキャラクターを与えて違いを鮮明にしています。
TRN VX特に4BA+1DD構成の「TRN V90」と6BA+1DD構成の「TRN VX」のアプローチの違いは非常に明確で、それぞれが同様に高い完成度を実現しています。そのため良し悪しというより好みの違いや、使い方、曲のジャンルなどに応じて選択するのが良いと思います。
TRN VX」は癖のないサウンドのため、どのようなジャンルの曲でも楽しむことができますが、特にリズミカルなインストゥルメンタルや女性ボーカルのアニソンやポップスなどで実力を発揮するイヤホンだと思います。いっぽう、男性ボーカル曲も含め、ロックやポップスなどのボーカル曲にフォーカスする場合は「TRN BA5」、EDMやハードロック、あるいはジャズなどを含め低域をしっかり楽しみたい場合は「TRN V90」の個性が活きてくるかも、と感じました。


そして、「TRN VX」はリケーブル効果も比較的大きく、銅線タイプやミックス線タイプとの相性が良いようです。TRN純正では8芯ミックス線の「TRN T1」や8芯高純度単結晶銅線の「TRN T4」との相性が良いいっぽうで、16芯銀メッキ線「TRN T2」は高域が強めの派手な印象となり今ひとつ、といった印象。この辺は「TRN V90」とほぼ同様ですね。特に「TRN T4」は掲載時点ではアマゾンでは中華2pin仕様が販売されていますが、AliExpressではさらにqdc仕様も追加されており、さらに「TRN VX」と合せやすくなりましたね(「TRN T4」ケーブルについては近日中にレビューを掲載予定です)。
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というわけで、より多ドラ化が進んだ「TRN VX」でしたが、最近のTRNはすっかり「安定した」ブランドになったな、と改めて感じさせる完成度の高さでした。前述の通り「TRN V90」および「TRN BA5」との3モデルではそれぞれアプローチを変えた音作りを行っていますが、どの製品も破綻すること無く低価格イヤホンの中でも高水準なサウンドを実現しているのは特筆すべき要素です。今後も同社の製品をこまめにチェックしていきたいと思います。
また、同じタイミングでKZの姉妹ブランドのCCAから7BA+1DD構成の「CCA CA16」がリリースされておりこちらも手元に届いています。こちらも「TRN VX」とは全く異なるアプローチでKZおよびCCAとTRNとのスタンスの違いが興味深いですね。こちらについても近日中にレビューを掲載予定です。