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■選択肢の限られる既存オーディオ用の「AirPlay」レシーバー

Apple Musicをスピーカーでより高音質で再生したい、という用途を考えた場合、やはり「AirPlay」を使用することが最も効果的であることは間違いがないでしょう。
imageしかし、Bluetoothの再生環境と比較し、やはりAppleの依存度の高く、Wi-Fi を利用するため単独で解決できない(Wi-Fiルータやアクセスポイントなどネットワークとの組み合わせが必須になる)ことから「お手軽」とは言い難いようです。AVアンプやアンプ内蔵スピーカー製品にはAirPlayに最初から対応している製品を各社リリースしていますが、既存のオーディオに接続するレシーバーとなると非常に選択肢が限られるのが現状です。

そんななかでAirPlay対応機器の定番としてはやはりApple純正の「AppleTV」が挙げられることが多く、新型AppleTV(第4世代Apple TV)では搭載されるtvOSがApple Musicにも対応しました。いっぽうで新型では廃止されたS/PDIF光オーディオ端子を従来型のAppleTV(第3世代)では搭載していることから、これをAVアンプやDAC(特にハイレゾへのアップサンプリング機能を持つTEACの製品など)に接続して利用するのがオーディオ的には最強、という記述も見受けられます。

ちなみにS/PDIFでのPCM音源のアップサンプリングはTEACのUD-501UD-301などのモデルのほか、Pioneer U-05Fostex HP-A8などの同様の価格帯のモデルやLuxmanの高級DACなどに搭載されています。

しかし、どうせ高音質なアンプやDACに接続するのであれば、実は現行のApple製品には、よりオーディオに特化し、AppleTV(第3世代)より高音質で安定したAirPlay再生が可能な機器が存在します。
それが「AirMac Express」です。


■AirPlayオーディオレシーバー専用機にもなる、AirMac Express
通常「AirMac Express」は11n対応のApple純正の無線LAN対応ルータとして販売されていますが、同時に「オーディオのみのAirPlay対応」をしており、外部出力にはS/PDIFとステレオミニピン端子兼用のオーディオ出力をもっています。つまり、光端子ケーブルはもちろん、普通のオーディオケーブル(ミニピン-RCAなど)でオーディオ機器に接続することが可能です。また、ルータ・無線LANアクセスポイントの機能を無効にして、AirPlayレシーバー専用機として設定することも可能です。

imageなにしろ元が無線LAN対応ルータ・アクセスポイントですのでAppleTV同様に有線のLANポートも装備しています。ここへ既存のルータやスイッチングHUBと有線LANで接続することはAirPlayを安定動作させるうえで欠かせないポイントです(後述)。
さらに同じネットワーク環境でも、Apple TVをAirPlayレシーバーとしてオーディオに接続した場合と比較して、より安定して接続し、長時間再生でも問題がないなど多くのメリットを感じることができました。
なお、音質面については、例えば同じS/PDIFで接続した環境でAppleTV(第3世代)と比較してもより高いS/Nと再現性をもっているようです(個人的な感想ですが)。

※追記:その後確認してみたところ、Apple TV(第3世代)からS/PDIFの光出力でAirPlay再生すると44.1kHzの音楽データも48kHzにコンバートして出力されていました。これが音楽専用のAirMac Expressの場合は44.1kHzのままS/PDIF出力されます。アップサンプリングというと聞こえが良いですが、ここでは下手にサンプリングレートをいじらず元の音のままダイレクトに出力できるAirMac Expressの方が音質的に有利だと言えますね。
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上記の写真では同じApple MusicからのAirPlay再生で、写真右上のS/PDIF入力対応のDAC(CHORD Mojo)の左側のLEDがApple TVはオレンジ(48kHz)、AirMac Expressではレッド(44.1kHz)で再生されているの確認できます。

また第4世代のApple TVはHDMI出力のみですので、HDMIからS/PDIF出力をセパレーションさせる機器を経由する必要があり、そのような機器を持っていないので未確認ですが、所有する第4世代Apple TVをHDMI経由でAVアンプにつないでいる限りでは強制的に48kHz化される仕様は変わっていないようです。

※追記: 写真のCHORD「Mojo」との連携については新しい記事で紹介しました。

「FiiO L19」ほか、“Mojoと愉快な仲間たち(接続デバイス)”まとめ

AirMac Expressでは、S/PDIFでの接続の場合3.5mmピン形状の光ケーブルが必要になりますが、両方角形コネクタの光ケーブルに変換アダプタを経由させる方法も手軽です。上記のようにアップサンプリング機能を持ったDACへ接続するパターンももちろんありますが、通常はプリメインアンプなどのS/PDIF入力に接続するのが一般的でしょう。ただ、この場合もアンプなどのDAC性能によっては、AirMac ExpressをS/PDIF接続よりステレオケーブルでオーディオと接続した方が良い結果を得られる場合も多くあります。いろいろなアンプやスピーカーで自分の耳にあった接続方法を探してみるのも楽しいものです。

このように、ステレオケーブルでオーディオと接続できるApple純正のレシーバーは現在AirMac Expressのみであり、さらに専用機になるという点で、現在使用しているさまざまなオーディオ環境に手軽にApple Musicを加える手段として最も理想的かつ唯一の選択肢と言えるのではないかと考えています。


■「AirPlay」がより高音質な理由
ところで、そもそもなぜBluetooth等と比較してAirPlayが高音質といわれますが、その理由は「無劣化」であるから、ということに尽きるでしょう。
Bluetoothではオーディオ機器で使用するプロファイルであるA2DPで標準のSBCはもちろん、より高音質のAACやapt-X、さらにはハイレゾ対応のソニーのLDACも含め、すべてデータを圧縮(不可逆圧縮=多少は劣化する)して転送するプロトコルを採用しています。
いっぽうWi-Fi(LAN)を前提としているAirPlayでは内部ではALAC(Apple Lossless Audio Codec)という可逆圧縮(=劣化しない)手法で転送しています。これはiTunesでCDをインポートする際に選択できる「Appleロスレス」と同じ形式で、AirPlayでは無劣化転送が可能です(ただしハイレゾには未対応)。

そのため、iPhone/iPadからAirPlayでApple Musicを再生する環境は、Bluetoothでの再生より確実に高音質なのはもちろんのこと、MacやWindowsマシンを直接オーディオに接続し、iTunesから直接再生する環境と比較しても、オーディオへの接続方式などの関係で、AirMac Express経由でのAirPlayのほうが高音質になる場合も多くあります。

そのため、私はMacからiTunesで再生する場合も、再生先をAirPlayでAirMac Expressを経由するようにしています。


■Wi-Fi環境こそが「AirPlay」の鬼門
ところが、AirPlayで実際にApple Musicを使ってみると、同じ環境でBluetoothのレシーバーを経由したり対応スピーカーを使ったほうが音が良かったり、AirPlayでAppe Musicをストリーミングすると音が途切れ途切れになってしまったりするなどのトラブルに遭遇してうまく使えないことがあります。

これらのトラブルの原因はAirPlay対応機器の処理能力以外では、Wi-Fiのネットワーク環境そのものにあると考えてまず間違いがありません。
Wi-Fiは最新のIEEE802.11ac規格であっても、結局はシェアードネットワーク(機器間の同時通信が増えるとひとつの通信が遅くなる)仕様であるため、法人向けの高性能な機器以外では、経路上を機器をすべてWi-Fiで接続すればそれだけWi-Fiルータ機器などの負荷が大きくなり、安定性に影響します。

また市場に存在するAirPlay対応機器は11n(2.4GHz帯)までの対応のものがほとんどです(AirMac ExpressもWi-Fi接続時は11nまたは11aが最大)。

Apple Musicではインターネット経由のストリーミングと機器間のAirPlayが同時に行われるため、iPhoneの中にダウンロード済みの音楽データをAirPlayで再生する場合と比較すると、Apple Musicのストリーミング再生は明らかにWi-Fiネットワークに負荷がかかっている状態になります(ここでの負荷とは、AirPlayレシーバーなどのWi-Fi機器の負荷と、場合によってはWi-Fi通信を行う電波帯域そのものを指します)。

そのため、最低限レシーバー(AirMac ExpressやApple TVなど)は有線LANで接続し、Wi-Fiの経路を少なくすることでネットワークを軽くすることがApple Musicのストリーミング再生では重要になってきます。あくまで負荷軽減が目的ですので、有線LANポートが100Mbpsまでの対応でも十分です(実際AirMac Expressも第3世代Apple TVも有線LANは100BASE-TXまでの対応)。

具体的には、AirMac Expressは有線LAN経由でのAirPlayレシーバー専用で使用し、再生デバイス(iPhone/iPadなど)からのWi-Fi接続は11ac(5GHz帯)に対応したより高速なアクセスポイントから接続させることで機能を特化させて安定した通信を行うわけです。

image昨今ではどこの家庭やオフィスでもWi-Fiは当たり前で、2.4GHz帯の電波は至る所に飛び交っていて、チャネル干渉による帯域の減衰も以前とは比べものにならないレベルと思われます。いっぽう高速な11acは家庭・事務所などの屋内専用の5GHz帯は干渉が少なくより安定した通信ができます。

私の場合、福井の自宅ではAirPlay環境として映像用でApple TVを2台(2部屋で)使っていますが、同時にAVアンプ(Pioneer VSA-922)とAirMac Expressをオーディオ用に、東京でもオーディオ用にAirMac Expressと映像用にFireTV(アプリでAirPlay対応化)で利用し、どちらも有線LANでスイッチングHUBに接続・集約したうえで高速な11ac対応のアクセスポイント専用機を併用しています。



■AirMac ExpressをAirPlayレシーバー専用機として設定する方法
imageまず「AirMac Express」をネットワーク(LAN)に「有線(LANケーブル)」で接続します。
私は「⇔」ポートに差していますが、初期設定時は「○」のポートのほうが良いようです(AirPlay専用機に設定後はどちらにつないでも大丈夫)。
私は「AirMac Express」を福井と東京の両方で使っていますが、福井ではオーディオ出力は「CarotOne」につないでいます。そのためミニピン→RCAのステレオケーブルを使用。


image「AirMac Express」をはじめAppleのWi-Fi製品は設定でiOSデバイスまたはMacが必要になります。今回AirPlayを考えている時点で最低iPhoneまたはiPadはあるだろうと思います。
iOSの場合、あらかじめ「AirMacユーティリティ」という専用アプリをインストールしておく必要があります。Macの場合はアプリケーションフォルダの「ユーティリティ」の中に「AirMacユーティリティ」があらかじめ入っていますので、そちらを使用します。



Wi-Fiでつながっている環境でAirMacユーティリティを起動すると、ネットワーク画面でAirMac Expressを検出します。私の環境ではAirPlayで再生環境がわかりやすいように本体名称を接続している「CarotOne」にしています。
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設定画面で、AirPlayのみ設定し、「Wi-Fiのモード」をオフ(アクセスポイントとして動作しない)、「ルータモード」をオフ(ルーターとして動作しない)にすることで、晴れてAirPlayレシーバー専用機になります。

これで、iPhoneをWi-FiにつないでAirPlay経由でいつでもApple Musicを楽しむことができます。
imageAppleTVの場合、しばらく使用していないとスリープ状態になるため、AirPlayの選択肢になかなか表示されず、いちどリモコンのMenuボタンでスリープを解除してやる必要があります。しかしもともとルータ・アクセスポイントの「AirMac Express」は基本いつでもON状態なので(消費電力的にはともかく)、AirPlayに出てこない、というストレスはまず感じないでしょう。

「AirMac Express」はAppeTV(第3世代)より3000円ほど高い「旧製品」になりますが、今後Appleから後継商品が発売されない可能性もありますので、オーディオ用にぜひとも確保しておきたい製品だと思いますよ。