【9月7日追記】
7月19日に投稿した本記事ですが、当初の予定より発売開始が延期され、いよいよ9月23日より正式に日本国内版の発売が決定しました(9月16日より予約開始)。
今回SIMGOT JAPAN様より国内版で採用される新バージョンのケーブルが届きましたので、そちらの内容も踏まえて「修正・追記版」として再投稿させていただきます。一部内容が変更となっている箇所がありますのであらかじめご了承ください。
【9月16日追記】
バランスケーブルによる接続について少し追記しました。
というわけで、中国のイヤホンメーカー「SIMGOT」の最新モデル「EN700 Pro」です。
まだ発売前の製品ですが、今回SIMGOT JAPAN様よりサンプル品の提供を受けてのレビューとなります。
SIMGOT社サイト:EN700 Pro
SIMGOT「EN700 Pro」はシングルのダイナミックドライバーを搭載したイヤホンで、初代の「EN700」、そしてハウジング形状の修正、ドライバーの変更を含む大幅な改良が加えられた「EN700BASS」を経て、あらたにリケーブルにも対応したフラグシップモデルになります。
ちなみに、私のところに届いたものは右側が青色で左側が赤色の構成でした。先行する海外版では左右どちらが赤青になるかはランダムだったようですが、日本国内版では「右が赤色、左が青色」のバージョンでの発売となるとのことです(つまり私の逆構成のモデルはレアですね^^)。
また従来モデルの「EN700BASS」同様の単色モデル(レッド、ブルー、グレーの3色がSIMGOT社サイトに掲載)も今後追加で発売予定があるとのことです。
「EN700 Pro」の日本版の価格は17,800円とのことで、「EN700BASS」(13,800円)との価格差は最小に抑えられている印象です(個人的には2万円以上でもおかしくはないな、と思っていました)。
サンプル提供をいただいたのが6月下旬頃で、以降、後述の通りさまざまな場面で「酷使」してきましたが(^^;)、「EN700 Pro」のトータルでの仕上がりの素晴らしさは特筆すべきもので、EN700シリーズの最終形態(たぶん)としての完成度の高さを実感しています。
「EN700 Pro」のパッケージ構成はイヤホン本体とケーブルが分離できるようになった以外は基本的には「EN700BASS」と同様で、質感が高く以前から評判の良いレザー製ポーチをはじめ、2系統(「Eartip I」と「Eartip II」)がS/M/Lサイズで同梱されています。
■リケーブル対応だけじゃない、バランス重視のトータルでのチューニングを実施
SIMGOT「EN700 Pro」は、既存モデルの「EN700BASS」同様のドライバーにチタン複合振動膜とN50ネオジム磁石を使用。さらに2pinリケーブルに対応した8芯6N単結晶銅+銀メッキ撚り線のケーブルを装備しています。
また日本バージョンでは、湿度の高い日本での利用を想定しケーブル自体のクオリティアップと表面コーティング変更を実施するなど、より解像度の高い音質と変色や劣化に強い耐候性をもった日本専用のケーブルを同梱することになりました。
ちなみに「EN700BASS」については以前購入したブルーモデルのレビューをさせて頂いており、また最初のモデルの「EN700」についても過去記事で紹介をしています。
→ というわけでSIMGOT「EN700BASS」ブルーモデルを購入しました。
→ 【高音質イヤホン】アラウンド1万円なお買い物♪「MaGaosi K3 Pro」「SIMGOT EN700」「Whizzer A15」
ところで、EN700シリーズというと、なんといってもその個性的なデザインが特徴ですが、個人的には往年(60年代とか)のAlfa Romeoのフロントグリルのような印象でなかなかカッコイイと思っています(^^)。
装着性については「EN700BASS」のレビューにも記載したとおり、比較的大きめのハウジングながら耳にはすっぽり収まる感じです。ただし耳穴の角度がステム位置とあわない場合は「遊び」が少ない分多少装着に苦労するかもしれません。その場合リーチの取れるイヤーピースを別途探してみるのも良いと思います。
SIMGOT社のEN700シリーズは、どの製品もベースとしてはフラット系の非常にクオリティの高いイヤホンですが、「EN700」から「EN700BASS」へアップグレードされた段階で製品名にもなっている低域に加え全体的にも大幅な改良が加えられ、完成形とも思えるサウンドになっていました。このため実物が届くまでは「EN700 Pro」は単純にBASSのリケーブル対応版なのかな、と思っていたのですが、実際に聴いてみて、BASSと比較してさらに向上した解像度とナチュラルな音場の広さからくる見通しの良さ、BASSの「濃さ」を維持しつつ絶妙にコントロールされたサウンドバランスなど、その進化というか「深化」というか、さらに一皮むけたようなサウンドに驚きを隠せませんでした。
驚いた勢いで早速SIMGOT JAPANさんにDMで伺ったところ(いい迷惑ですね。笑)、クオリティアップしたケーブルに合わせてドライバーまわりにさらにチューニングを加えており「今までなかった質の高い明瞭なサウンドが楽しめる」とのことでした。実際「EN700BASS」と外観を比較してみると、ハウジングの形状そのものは基本的に全く同じですが、ステムに装着されたメッシュに違いが見られるなど、内部的にチューニングを行っている形跡が確認できます。
また、付属する銀メッキ銅撚り線の2pinケーブルも従来モデルのケーブルと比較するとグレードの違いは一目瞭然。このケーブル単品でも結構いい値段がするんじゃないかなとつい思ってしまいます。
■低域を引き締め、高域をクリアに。もちろんフラットさを感じさせない濃厚サウンドは健在。
「EN700 Pro」の周波数特性は「EN700BASS」同様に非常に綺麗なフラット傾向のカーブを描いています。さらにProでは10kHz以上の高域のカーブがBASSより少し増加しており、ケーブル性能向上による情報量アップと、これに合わせたドライバーまわりのチューニングによる変化の一片が伺えます。
「EN700BASS」でも感じましたが、「EN700 Pro」はフラットな特性ながらそれをあまり感じさせない、低域・中域・高域をメリハリをつけてしっかり描写しており、全域にわたって非常に濃度の高いサウンドを堪能させてくれる手法は「さすが」だと思います。
「EN700 Pro」の音場の広さは一般的で「EN700BASS」同様に自然な広がりを感じ、ボーカル推しと言うよりオールラウンドに聴かせるタイプ。全般的に「EN700BASS」と比較し低域を多少引き締め解像度を向上させた印象です。そのため中高域の見通しか向上し、よりクリアで定位感のあるサウンドを楽しめます。
シリーズ共通で暖色系の音ですが「EN700」(まったりサウンド)と比較すると「EN700 Pro」「EN700BASS」ではある程度のキレがある印象で、「濃いサウンド」といっても粘着質な感じは全くありません。
さらに、「EN700 Pro」ではケーブル性能向上の恩恵か、解像度や分離性が向上しており、比較すると文字通り「一皮むけた」印象を受けます。
そして、「EN700 Pro」でもっとも変化を実感できるのは高域で、「EN700BASS」の「丸くて刺さりの少ない」印象から、ある程度上までしっかり描写し必要十分なエッジを感じるサウンドに仕上がっています。
とはいえ、基本的にウォームでバランスが取れたイヤホンであることには変わりがなく、いわゆる高域を攻めるタイプのイヤホンではありません。そのため、さらに上の高高域の音はわりとあっさり処理されている部分もありますが、どのジャンルの音楽でも高域の不足を感じることは少ないだろう明瞭なサウンドにまとまっていると思います。
■イヤーピースでもいろいろ変化が楽しめる。せっかくなのでリケーブルもしてみた
「EN700 Pro」をはじめEN700シリーズでは「中高域向け」(Eartip I、穴が大きい方)と「低域向け」(Eartip II、穴が小さい方)の2種類のイヤーピースが付属します。Proでは左右の色違いにあわせてイヤーピースも各サイズ赤青1個ずつの内容。
そしてイヤーピースによる変化が比較的大きいのもこのシリーズの特徴のひとつですが、「フラット好き」の私は、EN700BASSの際と同様によりナチュラルな鳴り方をする「穴の大きい方」(Eartip I)をおすすめしています。ただし「EN700 Pro」では低域の量感はBASSよりは少なくなっていますので「もっと低音を」という場合には「穴の小さい方」(Eartip II)も良いかと思います。
ただ、イヤーピースでの低音強化なら「final Eタイプ」のイヤーピースを組み合わせる方がより変化を実感できると思います。
また、中高域にもっと刺激のあるサウンドを楽しみたい場合は、「SpinFit」の「TwinBlade」がオススメです。
個人的には耳穴の位置の関係で上記の通り通常のイヤピースでは装着性に少し難があることもあり、よりしっかり装着できるこの組み合わせは結構気に入っています。
TwinBladeだと高域の刺さりもアップし、アグレッシブさが向上します。そのため、まったりBGMを楽しむ、という感覚ではなくなり、多少聴き疲れしやすくなる可能性もあります。
あと、上記にも繰り返し記載の通り、「EN700 Pro」のケーブルはCIEMと同じ2pinコネクタに対応しており、リケーブルが可能です。
付属のケーブルは非常に高品質・高性能なものですが、せっかくリケーブル可能なので手持ちのケーブルに交換してみます。
まず、「Bispa <蒼>」の2pinケーブルへ交換してみると(極性はCIEMなどと同様)、低域が一段深くなり多少残響感が多少増加したサウンドに変化。解像度などはほぼ変化はありませんが、サウンドバランスの変化を実感します。この組み合わせはわりと「アリ」かもしれません。
いっぽう、バランスケーブルでの接続の場合、よりDAPやケーブルによる差が明確になります。手持ちの2pin仕様のバランスケーブルを数種類試したところ、全般的に左右の分離感の向上により音場が立体的になるのが実感できました。例えば2pin-MMCX変換ケーブルを使用して同じくBispaの2pinバランスケーブルを使用したところ解像度の向上により、全般的にウォームからシャープな印象に多少変化しました。(追記)また純正ケーブルに比較的近い8芯の7N単結晶銅と銀メッキ混合のバランスケーブルを中国AliExpressのEasy Earphoneで購入し接続したところ、一気に情報量がアップすると同時にアタックのスピード感が向上し、アグレッシブさが増したサウンドになります。AK300など比較的出力の弱いDAPの場合、特にバランスケーブルの効果が実感できそうです。
ただ、一部相性の悪いケーブルもあるようで、同様に2pin-MMCX変換ケーブルを使用してonsoのバランスケーブルを使用しバランス接続をおこなったところ、音場は一歩下がった印象になってしまいました。バランスケーブルの場合はより明確に変化が出るため、いろいろ比較して相性の良いケーブルを選ぶ必要がありそうですね。
また、2pinケーブルについてはコネクタが長いと奥まで挿入できなかったり、本体側の凹みの関係でうまく利用できないケーブルもありそうですので、もしリケーブルを行う場合は併せて注意が必要です。
■(追記)そうだ、「EN700 Pro」と一緒に旅に出よう(出張ですけどね)
ここまでのレビューはサンプルを提供いただいて約3週間ほど経過した時点で記載していますが、以降、今回発売に合わせて修正・追記するタイミングまで、さらに2ヶ月近く「EN700 Pro」を利用させていただきました。
仕事柄もともと出張は多いのですが、今年の夏は特に多く、「EN700 Pro」は出張の移動の際の良いパートナーとなってくれました。私の場合、出張での大半の移動手段は新幹線ですが、今年の夏はいちばん慌ただしいときで2日で5本の新幹線の乗り継いだりと、結構な移動距離でした。
夏場で混雑した新幹線の中でも、「EN700 Pro」はイヤーピースが合えば遮音性はまずまずです。
私の耳は形状的にコンディションによって結構使えるイヤピが変わるので、上記のイヤーピースの組み合わせの中でも、実際には、標準の「Eartip I(穴が大きい方)」と「final Eシリーズ」などを使い分けて使用しています。さらにウレタン製のイヤーピースを使用する場合もありました(下の写真で左側の東北新幹線ではfinal Eシリーズ、右側の東海道新幹線ではウレタンイヤピですね)。
ただウレタン製は思ったほど相性は良くなかったようで、最近はさらによりどっぷり音楽に浸りたいときなどは「SpinFit TwinBlade」が中心になっています。
まだ「発売前のイヤホン」ということもあり、色々な場所に「EN700 Pro」を持ち出して、一緒にいる人がポータブルオーディオやイヤホンに興味があるなしに関わらず、「プチ自慢」で披露をさせていただきました(^^;)。そこでの「EN700 Pro」の評判は総じて、その音質はもちろん、個性的なデザインのウケも上々です。「EN700」「EN700BASS」がオーディオファンの間で評判になってきたとはいえ、一般ではままだSIMGOTの製品はほとんど知られていないのも実情だと思います。今後、同社の製品がどんどん多くの方に知られる存在になると良いですね。
■(追記)日本版専用ケーブルで音質面のグレードアップはあるのか
日本版「EN700 Pro」は当初8月頃の発売予定でしたが、海外版の「赤青ランダム」のパッケージ構成から日本版では「右:赤色/左:青色」に統一するため、生産ラインなどの変更を行う必要があったことが発売開始が1ヶ月以上遅れた最大の理由といわれています。ここで品質チェックなどを日本向けに強化する課程で、「EN700 Pro」の音質面の最大のポイントともいえる専用ケーブルについても改めて見直しを行い、よりクオリティ向上をした「日本版専用ケーブル」を同梱することになった、という話をSIMGOT JAPAN様より伺いました。
「日本版専用ケーブル」も「8芯6N単結晶銅+銀メッキ撚り線」というケーブル構成そのものに変更はありませんが、より純度の高いケーブルの場合、温度や湿度など環境変化による影響を受けやすく、音質劣化の原因ともなるため、ケーブルの表面処理などを見直し、より耐候性の高いものに改良したとのことです。日本向けの生産過程でケーブル品質自体も当然向上しており、海外版と比べ「音質面でも向上が得られる」との回答をいただいています。
というわけで、実際に届いた新しいケーブルと聴き比べを行ってみました。手持ちの試聴環境をいろいろ変えて確認をしましたが、とりあえず新旧ケーブルで「大きな変化」はありませんでした。
今回のケーブルの変更点から考察すると、変化があるとすると「線材の品質向上」「コーティングの強化」によるノイズの軽減、つまりS/Nの向上により「よりクリアで見通しのよい音になる」という変化が想定されます。
しかし、前述のとおり「EN700 Pro」はすでに同価格帯のイヤホンのクオリティを超えるクリアで解像度の高い、かつ自然なサウンドを実現しており、ここでのケーブルの変化による違いはあったとしても「あまりに小さすぎて確認できないレベル」のようです。
しかし、手持ちの旧ケーブルも夏場に新幹線など屋外での利用が多かったこともあり多少透明な表皮がくすんだ感じになっており、今後数年というスパンで利用し続けた場合に経年劣化による変化がより明確になる可能性もあります。日本版ケーブルの「耐候性の向上」は夏場の湿度が高く、温度変化も大きい日本の気候を考慮すると、先を見越した「ありがたい配慮」だと思います。
(追記)ところで、発売に向けて行われた報道の中に「BluetoothケーブルやUSB Type-Cに対応したケーブルも発売を予定している」という記述がありました。9月16日の予約開始にあわせてe☆イヤホン秋葉原店で開催された試聴会にてSIMGOT JAPANさんに早速この点を伺ったところ、スケジュールなどは未定ながらメーカーでは計画がある、との回答でした。ただ、個人的にはやはりSIMGOT純正で標準ケーブルのバランス版もぜひとも製品化していただけたらと思いました。ユーザーの要望も多いはずですし、かなり顕著なリケーブル効果があると思いますので、ぜひとも期待したいですね。
■過激さよりトータル性能。アラウンド2万円クラスを超えた高音質とオールラウンダーという個性
「EN700 Pro」は2度のブラッシュアップによるモデルチェンジを経て、非常にハイレベルにバランスが取れたイヤホンになったと思います。ただ全体的に「無難に仕上がっている」という言い方もありますが、逆に音質面で粗さがないというのはかなり難しいことだと思います。
なかなかアラウンド2万円クラスの価格帯でこのレベルを実現しているイヤホンは少ないのではないでしょうか。そういう意味で、改めて「EN700 Pro」は多くの方にオススメできる製品だと感じました。
きっと「EN700 Pro」の「攻めてない」が「無個性ではない」、オールラウンダーなイヤホンというのは、ある意味見た目のデザイン並に個性的なのかもしれませんね(笑)。
ただ、もし残念なことがあるとするなら、私自身も含め、すでに「EN700BASS」を購入した方が「どうせならこっちが良かった」と悔しい思いをする可能性もありそう、ということでしょうか(^^;)。もっともより低音が欲しい方には「EN700BASS」は最適ですし、「EN700 Pro」との両方を気分で使い分けるのも楽しいと思います。
「日本版専用ケーブル」が同梱された「SIMGOT EN700 Pro」国内版は、いよいよ、今月発売されます。より多くの方々がそのサウンドを体験されるといいなと思っています。
そして、かくいう私も、すでに手元にサンプル品を持ってはいますが、今後「赤色」単色モデルが出たら追加で買おうかな、とちょっと思っていたりもするのでした(^^)。