PLENUE R

9月8日に日本版が発売されたCOWONの最新DAP(デジタルオーディオプレーヤー)「PLENUE R」を予約注文で購入しました。私自身は既に同様のミドルクラスのDAPを数台所有してはいるのですが、今回は「比較的コンパクトかつシンプル」で「さまざまなイヤホンおよびヘッドホンを使いこなせる」プレーヤーを、と考え、ポタフェスでの試聴の印象も良かった「PLENUE R」を選択しました。

実際購入してみて、最近の同価格帯のDAPに見られる多機能さはないものの、「ポータブルプレーヤー」を私が利用する様々なシーンで、音質面も含め充分な実力を発揮できる良い製品だということを確認できました。


■「シンプル&クール」か、それとも「硬派」と呼ぶべきか。

COWONは韓国のメーカーで、DAP分野はMP3プレーヤーと呼ばれた時代からの「老舗」です。同社のハイエンド商品に分類される「PLENUE」シリーズは日本でも多くの固定ファンが存在します。ただ、他のレビューなどを拝見すると、どうしても同じ韓国メーカーのAstell&Kern(iriver社)の陰に隠れて、みたいな記述が散見されるのも事実。 かくいう私自身も今回の「PLENUE R」が初めて購入したCOWON製品となります。

PLENUE R」の購入時価格は税込み64,800円。この製品が投入された「ミドルクラス」の価格帯は、これから本格的にポータブルオーディオを楽しみたいと思う方々がターゲットとするだろうレンジで、後述しますが、現在新旧の各社の代表的モデルがひしめく「超激戦区」ともなっています。

そのためCOWONのWebサイトでも「PLENUE R」については「ALL-ROUND PLAYER」というコピーで多少の多機能推しをしていますが、他社と比較すると「スペックより音質勝負」といった「硬派」(デザインイメージ的には「シンプル&クール」ですかね)な雰囲気は感じずにはいられないところです。
PLENUE R PackagePLENUE R Package

というわけで、届いた製品を見てみるとパッケージ構成は極めてシンプルです。
付属品は簡単な仕様説明と保証書、接続用のUSBケーブルのみ。
PLENUE R PackagePLENUE R Package

以前購入したFiiOの「X7 Mark II」や「X5 3rd gen」のようにこれでもかと大量のアクセサリを同梱したりあらかじめ保護フィルムが貼られていたりするのと比較すると拍子抜けするほどの「何もなさ」です。ちなみにオプションでは、レザーケースは現在COWN純正のみが別売で販売されていて(私は品切れだったため後日購入)、同様に保護フィルムも販売されています。


■コンパクト&軽量。ソリッドなデザインが美しい

PLENUE R」のスペックは、DACチップにTI(バーブラウン)製「PCM5242」を採用し384kHz/32bit(内部処理は最大24bit/192kHz)までのPCMに対応します。DSDは176.4kHz/24bitのPCM変換によりDSD128(5.4MHz)までに対応し、またDXD(352.8kHzおよび384kHz)も1/2にダウンサンプリングされての再生となります。
PLENUE Rまたオペアンプ等もDACと同じTI製のものを採用しており、FiiO製品ほどではないものの高インピーダンスのヘッドホンも十分鳴らせる駆動力を持っています。
インターフェースは3.5mmステレオと、2.5mm 4極のバランス出力に対応。さらにステレオコネクタは3.5mmミニピン仕様の光デジタル出力も兼ねています。microSDXCスロットを搭載し、さらに本体も128GBの大容量のストレージを搭載するなど、必要充分な機能は装備している印象です。
画面は3.7インチで本体のサイズ感も実際に手持ちのAK300やX5 3rd gen等と比較するとミドルクラスのDAPとしては一般的ですが、全体的に少し小さく薄く仕上がっており、実際に手に取った感覚はよりコンパクトな印象を受けます。

PLENUE RPLENUE R
PLENUE R」のボディは精密加工されたアルミニウム製で想像以上に軽量な印象を受けます。本体重量は154gで、例えば「X5 3rd gen」の186gと比較しても30g程度の差ですが、手にしたときのズシという感じがあまり無いのは最近のDAPでは逆に珍しいかもしれません。

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上記のようなスペックを実現し、さらに最長17時間のバッテリ性能をこの軽量のボディで実現できている点はなかなか立派です。また本体背面はラバー系の素材になっており滑り止め効果がある点も、出張中に新幹線などでの利用も多い私には嬉しい配慮です。またそれぞれのボタンの感触も比較的良好で、「ボリュームコントロールはやはりダイヤル式じゃないとね」という向きの方でも実際に触って頂くとさほど使いにくさは感じないのでは、と思います。


■好みの分かれる操作性。でも慣れれば大丈夫!

PLENUE R with AZLAPLENUEシリーズは、独自に音楽再生に特化した専用OS(Linuxベース)を採用しており、Android搭載DAPはもちろん、Androidベースに独自カスタマイズしたAstell&Kernや、同様の独自OSを搭載するソニー Walkman等とも全く操作性および印象の異なるものです。
独自OSのため、起動はとても速く、起動時のSDカード等のライブラリ更新も数秒程度で完了します。
またインターフェースの反応は比較的良く特にもたつく感じはありません。ただ「感覚的」にあると思う場所に思うようなボタンやメニューが無いことで操作に戸惑うことは使い始めは多いかもしれません。

これまでもPLENUEシリーズの操作性については「賛否両論」のようですが、ネガティブな意見の多くはこの「感覚的なわかりにくさ」に起因するように思います。

PLENUE RPLENUEシリーズの操作性にまず戸惑いを憶える理由は、一般的なスマートフォンやDAPの操作画面になれている感覚からみると、メニューにアクセスする場所が他のDAPと結構異なっており、さらにメニューなどに誘導するアイコンの意味が分りにくい(見た目だけでは直感的にイメージしにくい)、ことで「わけがわからなくなる」ケースが多いように感じます。
また、本体付属の説明シートには各ボタンの説明は記載されていますが、画面操作の説明がないことも結果的に戸惑う原因になっているかもしれません。
実際には、操作方法については紙ではなく、データで用意されているユーザーマニュアルを別途参照する必要があります。「ユーザーマニュアル」は、「PLENUE R」をUSBケーブルでPCと接続し、本体ストレージを確認することで「Manual」フォルダからPDFが参照できます。
また同社サイトのサポートページでマニュアルをダウンロードすることも可能です。
特にアイコンの意味や、操作方法については、ユーザーマニュアルの「再生画面」「音楽の選択」「音楽の設定」の3ページ分を見れば一目瞭然ですのでまずは目を通すことをお勧めします。

実際操作に慣れてくれば違和感なく再生したい曲やアルバムにアクセスできるようになります。また私のように色々なイヤホンやヘッドホンを使い分ける場合、再生画面からすぐにアクセスできる「ヘッドホンモード」(他のDAPのハイゲインのモードに相当)は結構便利です。これまで他のメーカーのDAPを使っていた方でも「慣れれば」大丈夫ですよ(笑)。


■クリアで分離感が高くも充分なパワーで「自然なサウンド」を表現

PLENUE R」で実際に聴いた感想ですが、何より驚いたのは「どのイヤホン、どのヘッドホンでも破綻することなく特徴を出せている」点でしょう。DAPとしての特徴は、解像度および分離感がとても高くクリアなサウンドで、線の細い印象も逆にパワー押しで来るような印象もなく、非常にナチュラルな鳴らし方をします。
PLENUE R with KC09他のDAPでは、バランス接続をしたり、あるいは非常に反応の良いIEMだったり、逆になかなか鳴らしにくいイヤホンやヘッドホンだったりすると、途端に異なるキャラクターが顔を出す、と言うことが少なくありません。
ところが、「PLENUE R」では、これら異なるタイプのイヤホンやヘッドホンを使い分けてもやはりとてもナチュラルである意味スッキリしたサウンドを聴かせてくれます。

普段私が使用しているDAPだと「Astell&Kern AK300」はいわゆる「無味無臭」でイヤホンの個性を聴き分けるのに向いていると言う点では「PLENUE R」とも似た要素はありますが、第3世代AK全体にいえる出力の弱さがネックでした。いっぽう「PLENUE R」は、AK300では出力不足を感じた「HIFIMAN RE2000」のような高インピーダンスのイヤホンも極めて自然に鳴らし、その実力を堪能することができました。
PLENUE R with RE2000PLENUE R with K712 Pro
また「ヘッドホンモード」にすることで一般的に鳴りにくいと言われるAKG「K701」「K712 Pro」も過不足無く利用できます。これらのヘッドホンはAK300の場合は「Mojo」などのポータブルアンプへトランスポートしての利用が中心だったので、DAP単独で問題なく利用できることは重要な要件でした。

いっぽうで、FiiOの「X5 3rd gen」および「X7 Mark II」という2種類のDAPの場合、まず「X5 3rd gen」では解像度の高さとハイパワーの稼働力が特徴的ですが、IEMなどでのホワイトノイズや高域のエッジの強さに多少の不自然さを感じる場合がありました。また「X7 Mark II」ではX5 3rdより高級かつナチュラルなサウンドを実現していますが、個人的にはアンプモジュールの選択に悩まされました。
PLENUE R with SE535LTDPLENUE R with Rose BR5 Mk2
これに対し「PLENUE R」では、X5 3rdほどのハイパワーではありませんが十分な出力を持っており、同時に非常に反応の良い「SE535LTD」でもホワイトノイズが乗ることは全くなく、極めて自然なサウンドで聴くことができました。
また、X7MKII+AM3モジュールのバランス接続では完全な「ハイ上がり」になってしまった「Rose BR5 Mk2」(5BAイヤホン)のバランス接続でも特に高域のバランスが崩れることなく高い解像度でクリアなサウンドを堪能できました。

このように、DACなど使用部品のグレードが全く異なる「PLENUE 2」とはさすがにクラスの差を感じますが、「PLENUE R」の音質そのものは10万円クラスのDAPとも十分に渡り合えるレベルの仕上がりだと思います。


■多機能ではないが十分に「多様な用途」に対応できる機能性

次に機能面ですが、まず先に同クラスの他のDAPと比較し、PLENUE R」ができないこと(現時点で、も含む)をまとめると
  • アプリのインストール(Androidじゃないから当然)
  • USB-DACへのトランスポート(光デジタル出力は一応あり)
  • .m3uプレイリストの再生(Favoriteリストで対応してね)
  • ネットワーク機能って何ですか?(なんせやっとBluetooth対応したくらいですから)
くらいでしょうか。思ったより少ないですね(そんなことないですかね)。

まず、曲データの転送ですが、microSDXCカードにあらかじめ曲データをコピーして挿入するほか、USBケーブルでPC/Macで本体と挿入したmicroSDXCカードをストレージデバイスとして認識します。基本は本体及びSDカードの「Music」フォルダ以下に曲データをコピーするのみです。取り外す際は、本体側でアンマウントの指示は送れないのでPC/Mac側で接続解除・アンマウント操作を行った後で取り外します。

再生画面では左上の3本線のマークが階層移動(ブラウザ)、右上の円上に線が並ぶマークがメニュー表示ボタンになります。メニュー表示ボタンから設定ボタンを押すと設定メニューに入り、システム設定のほか、Bluetoothや省電力(タイマー)設定、JetEffectの設定等が行えます。
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また再生画面で左上のボタンを押しブラウザ画面に入ったあと、左上の矢印マークを長押しするとブラウザのトップメニューに移動し、フォルダ、アーティスト名、アルバム名、ジャンルなどから曲を選択できます。
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さらにブラウザ画面ではすべてのメニューで上の方に3本線+歯車のアイコンがあり、この下に星マーク(Favoriteリスト)への追加ボタンがあります。
Favoriteリストはデフォルトの「my favorite」リストのほか複数のリストが作成でき、曲単位、アーティスト単位、アルバム単位などブラウザ画面で表示できるすべてのリスト単位での一括追加が可能です。もちろんリスト自体の編集もできるのでかなり柔軟なリスト編集が可能です。
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PLENUE Rは残念ながら.m3uプレイリストには未対応ですが、このFavoriteリスト機能でとりあえずの代用にはなるかな、と思っています。また同社製品で唯一「PLENUE D」だけはプレイリストに対応するようなのですが、他メーカーの一般的な.m3uプレイリストとは文字コードやフォーマットが異なる形式で、余計に管理に手間がかかりそうなので、そのフォーマットならなくても良いかな、という気もしています。

PLENUE R with Mojoその他機能についてですが、まず3.5mm光ケーブルを使用してのデジタル出力は、ハイレゾ、DSD問わずすべて16bit/44.1kHzにダウンサンプリングされて出力されました。これが今後のファームウェアで変更になる可能性もありますが現時点では「オマケ程度」に捉えておく方がよさそうです。
あとメニュー画面にある「曲変更時の情報表示」という項目をONにしておくと再生中曲が変わる度に画面が表示されるのですが、この設定を入れたまま外出時にポケットで再生したところ、曲ごとに誤操作になって・・・みたいなことがありました(普通誰もしないトラブルかな?)。



■イコライザを普段使わない人も試したい「JetEffect 7 & BBE+」と初のBluetooth機能

また「PLENUEといえばJetEffectのイコライザを使ってこそ」という向きの方も多いと伺っているのですが、この辺の機能はまったく不勉強でしたので、とりあえずはマニュアルや同社Webサイトを参照してみます。前述PLENUE Rのサイトにて「JetEffect 7 + BBE+ 詳細な内容を見る。」を参照すると、単なるイコライザだけではなく、位相補正のテクノロジーである「BBE+」に加え、音場感を高める「Chorus」と残響感を高める「Reverb」の2種類のサウンドエフェクトを組み合わせて様々な音質効果を作る仕組み、とのこと。
とりあえず標準の「Normal」からBBE+による位相補正を加える「BBE」にモードを変更することで音の鮮明度が増加すると同時に特に高域の抜けが良くなり、ライブ音源は生っぽさを感じられるようになります。
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私の場合、イヤホンのレビューなどを行う際は可能な限りDAP側は無味無臭であるほうが良いので「PLENUE R」でも「Normal」のモードを使いますが、普段リスニングを行う際は「BBE」モードの利用頻度は結構増えそうな感じです。
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またユーザモードによって自分でセットを作ることはまずしないと思いますが豊富なプリセットが用意されているため、曲によっては活用したいと思います。
※「BBE」についてはCOWON社サイトに解説があります。:COWON社サイト「What's BBE」

またPLENUEシリーズではこれまで搭載していなかったBluetooth機能も「PLENUE R」では初めて搭載されました。こちらは再生画面から入る設定メニューの「Bluetooth」を選びペアリングを行います。
ペアリングに成功すると「aptX」などの接続モードがアイコンで表示されます。
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またBluetooth機能については個人的にはヘッドホンやイヤホンより車載利用での実用性のほうが興味があるので、後日確認してみる予定です。


■USB-DACモードはClass1までの対応で実用性はいま一歩。ただしAndroidで使える場合もあり。

また、多くのDAP同様に「PLENUE R」もPCなどのUSB-DACとして利用することも可能です。ただPLENUEシリーズは代々あまりこの機能に力を入れている気配はなく、「PLENUE R」でも従来機種同様にUSB Audio Class 1までの対応で、24bit/96kHzまたは16bit/192kHzまでの対応となります。そのためWindows用のASIOドライバーは用意はなく、WASAPIでの接続となります(ドライバーは不要)。もちろんMacでもドライバーなしで使用するとができます。DSDについてはもともと「PLENUE R」自身もPCM変換での再生ですが、Class 1ではDoPなども使えないため、あらかじめPCM変換して再生する必要があります。
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USB-DACとして使用する場合は、再生画面から設定メニューの「システム」より、「USBモード」を「NSC/DAC」を選びます。ここで興味深いのはその次の項目に「USB DAC電源」という項目があり、「PC/スマートフォン」からの電源供給と「内蔵バッテリ」で自身の電源を使用するケースを選べる部分。しかし、どちらを選んでも接続デバイスで使用する消費電力自体は変わらないので、iPhoneでは「消費電力が大きすぎる」というアラートが出て使用することができませんでした。
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しかし最近のOTG対応のAndroidスマートフォンでは利用することが可能なようです。この場合例えばOnkyoの「HF Player」をハイレゾ対応にアンロックし、アプリが持つドライバーを使用することでハイレゾの再生ももちろん可能です。ただしAndroidについてはOTG対応でも消費電力の関係で全ての端末で利用できるわけではないと思います。

このように利用にはいろいろ制約がありますので、こちらもオマケ機能程度に認識された方が良いかもしれませんね。


■激戦区の価格帯で今後ますます難しいDAP選び

というわけで、「PLENUE R」は最近のAndroid搭載DAPや、特に(ネットワーク機能やUSB-DAC対応など)連携機能を強めるAstell&Kern等と比較すると、確かに機能面は見劣りする箇所があります。しかし、音質面においては同価格帯の製品でもかなりの高水準に達しており、またイヤホン・ヘッドホンとのハンドリングの良さも特筆すべきものがあります。

PLENUE R」の発売価格は、ちょうど発売当初のAstell&Kern 「AK70」と同じくらいで、ポジショニングとしてはAK70および今後出るかもしれない後継機種と重なるミドルクラスとなります(追記:その後「AK70 MKII」が10月発売で発表されましたね)。
PLENUE R with EN700 Pro現在、この価格帯はものすごい激戦区となっていて、本来なら同クラスと思われるFiiO「X5 3rd gen」(過去記事にレビューあり)は発売当初から5万円以下の価格設定となっており、モデル末期に近づいているAK70やFiiO「X7」も同様に5万円前後の価格まで下がってきています。
いっぽう少し上を見ると、7万円~程度でソニーの「NW-ZX300」が10月に発売を控えており、Astell&Kern「AK300」もこの辺の実売価格に降りてきています。もちろんそれ以外のメーカーからもこのレンジにはさまざまな製品が投入されています。このように新旧の代表モデルとも言うべき製品が結果的にひしめく状況のなかで、「PLENUE R」は確かにいささかのマイナー感は否めません。
特に特にソニーのZX300とは発売時期も価格もかぶるので、これから購入する場合はかなり悩ましいかもしれませんね。

個人的には、「PLENUE R」の多様なシーンで使えるサウンドクオリティの高さは個人的には十分に満足のいくものです。私自身は今後も複数のDAPを使い分ける事になるとは思いますが、「PLENUE R」も主力選手とひとつとして今後も活躍してくれるだろうと確信をしています。