HIFIMAN RE800J

今回も手元に届いてから結構時間がたっているのですが、遅ればせながらの「HIFIMAN RE800J」のレビューです。以前より販売していた「RE800」がMMCXコネクタ仕様となり、同時に各所がグレードアップしたマイナーチェンジバージョンとなります。今回もHIFIMAN JAPANさんからお借りし、今回もまた「そのまま買取り」となりました(笑)。

RE800J」の販売価格は税込み82,080円(税別 76,000円)。12月末までは税込み69,800円で購入可能なキャンペーンを実施中です。
Amazon.co.jp(HIFIMAN JAPAN): RE800J

HIFIMANのイヤホンについては過去に「RE2000」と今回の「RE800J」のマイナーチェンジ前の「RE800」についてレビューを行っています。
 ・ 「HIFIMAN RE2000」 常識を越えたサウンドを実現するフラグシップ【試用からの購入レビュー】
 ・ 「HIFIMAN RE800」をお借りしたら本気で欲しくなった話【試聴レビュー】

HIFIMANちなみに前回レビューした「RE2000」は私が所有するイヤホンのなかでも最も高額な製品ですが、音質面も文句なく「ベスト」だと感じているイヤホンです。実際20万円近い高額なモデルにもかかわらずセールスも好調なようで、私自身も含め購入者の満足度も非常に高いことから多くの方に評価をされていることが伺えます。
いっぽうの「RE800J」については、海外では今回のMMCX対応バージョンから販売を開始した地域も多いそうで、日本以外では「RE800」の名称のまま販売されています。いっぽう日本でも従来モデルの「RE800」を購入した方を対象に「RE800J」の無償交換のキャンペーンが行われるなど、HIFIMAN JAPANさんの太っ腹できめ細やかなサポートが印象的な製品でもあります。

HIFIMAN RE800Jところで、私はすでに上位モデルの「RE2000」を所有にしているにもかかわらず、「RE800J」についても「購入」したわけですが、単なるコレクションと考えるには「RE800J」も十分に高級なイヤホンですし、もちろん購入に至った理由があります。今回私はさまざまな同価格帯のイヤホンのなかでもまさに直接競合モデルであり、HIFIMAN自身も意識して製品化していることが間違いないと思われるゼンハイザーの「IE800」と後継モデルの「IE800S」を比較検討しました。そのうえで、私があえて「RE800J」を選択し、購入しようと考えた理由をまとめてみました。


■ 高級イヤホンとして所有欲を満たしてくれる豪華なパッケージング

HIFIMANの高級イヤホンというと、なんといっても豪華なケースに入ったパッケージが印象的です。
そのズシリとしたボックスを手にしたとき、間違いなく「高級なイヤホン」を入手したのだという実感がわいてきます。
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さらにボックスをあけてみると、中央のイヤホンケースと左右のケーブルおよびイヤーピースが収納された箱がウレタンで固定された「RE2000」のパッケージと全く同じレイアウト。「RE800J」ではイヤホン本体を収納するイヤホンケースもRE2000と同等の金属製になりました。左右の紙箱にはRE2000と同じデュアルフランジ、トリプルフランジのイヤーピース、そしてRE800JでMMCX方式となったケーブルが入っています。
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さらにイヤホンケースなどが固定されたウレタンの中敷を外すと、さらにコンプライが大小2セットと今回追加されたホワイトのイヤーピース、イヤーフックなどの付属品が出てきます。また今回もフルカラー印刷された豪華なガイドブックが付いており、開発経緯や同社の「トポロジーダイヤフラム」についての解説など、同社の「熱い思い」を知ることができます。


■美しい24Kゴールドメッキ真鍮製メタルハウジング

「RE800J」の本体ハウジングは引き続き24Kゴールドメッキ加工を施した真鍮製。表面のコーティングは以前の「RE800」より明るめのゴールドになりました。
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ベントは本体下部に2箇所。MMCXコネクタは本体と一体になっています。全体として高度なビルドクオリティは非常にコンパクトなイヤホンながら十分な高級感を実感させます。
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ケーブルは非常に高純度な素材を用いた銀メッキ結晶銅線を採用しています。これは最近発売されたRE2000用バランスケーブルと同様の線材ケーブルとなっています。ケーブルはシリコン製の皮膜に覆われており非常にしなやかで柔らかく取り回しも良好です。
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また今回、以前の「RE800」および「RE2000」より新たにホワイトのイヤーピースが8種類追加となりました。従来の黒いシリコン製とコンプライとあわせて全体では大幅な増量となっており、RE2000でよく言われた「合うサイズのイヤーピースが付属していない」という要望に今回はちゃんと応えた形になっています(実際HIFIMAN JAPANさんではどのようなサイズのイヤーピースが必要か、というリクエストを訊いており、これを反映させているようです)。


■ HIFIMAN独自の「トポロジーダイヤフラム」を採用した「トポロジードライバー」

HIFIMANの「RE800J」および上位モデルの「RE2000」は同社独自の「トポロジーダイヤフラム」振動版(振動膜)を採用した「トポロジードライバー」をシングルで搭載します(以前は独自構造のダイナミックドライバーという表記もありましたが、他社のダイナミックドライバーとは全く性質の異なるものですので同社独自の名称をつけることで違いをより明確にできたと思います)。
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従来のダイナミックドライバーの場合、通常とは異なるアプローチを考える場合は、振動版の材質を変えたり、同社のヘッドホンでも採用されている平面駆動型のように振動版の形状を変えるという方法が取られてきました。しかしHIFIMANの「トポロジーダイヤフラム」は、特殊なナノ素材の配合物や模様の種類により音色の特性が変わるという独自の理論に基づき、微調整された幾何学模様のコーティングを施すことでダイナミックドライバー特有の「歪み」を大きく減衰させることができるそうです。
この「トポロジーダイヤフラム」を採用する「トポロジードライバー」は、マルチBAに匹敵する高い分解度と解像度による明瞭なサウンドと、ダイナミックドライバーのワイドレンジのサウンドを両立させています。


■ 「RE800J」 vs 「IE800」「IE800S」。聴き比べて納得のサウンドレベルの高さとキャラクターの違い

ゼンハイザーの「IE800」といえば、ダイナミック1発の高級イヤホンの代名詞ともいえる、すでに不動の地位を築いている世界的にも非常に有名な製品です。この秋、長らくモデルチェンジしていなかった「IE800」の後継モデルである「IE800S」が発売され、とても大きなニュースとなりました。

「IE800S」は値上がりして10万円オーバーの製品となりましたが、もともとの「IE800」は8万円ほどの価格設定でした。HIFIMAN「RE800J」が製品名称、本体デザイン、そして価格と「IE800」を意識した製品であることは疑いようの無いところでしょう。しかし、HIFIMANが巨人ゼンハイザーにガチンコで挑んだ高級イヤホン製品であるからこそ、この2つはきちんと聴き比べて評価する必要があると思います。

HIFIMAN RE800JまずHIFIMAN JAPANさんからお借りした「RE800J」を2週間利用した印象では以前レビューした「RE800」とは全く異なるサウンドで、個人的には全ての面で「良い方向に進化した」と感じました。以前の「RE800」は多少人工的で刺激強めの高域で、好き嫌いがはっきり分かれる音でしたが、「RE800J」では高域のキレの良さはそのままに、癖のない聴きやすいサウンドに変化しました。
同社独自の「トポロジーダイヤフラム」が生み出す歪みを徹底的に押さえた高域はある程度の刺激を残しつつ、上位モデルの「RE2000」に匹敵する透明感のある伸びの良さで独特の美しさと楽しさのあるサウンドになったと思います。

「RE800J」はインピーダンス60Ω、感度105dBとほぼ「RE2000」と同様でイヤホンとしては多少音量を取りにくいほうですが印象としては「RE2000」よりはDAPなどのプレーヤーやアンプによる変化は少なくどの再生環境でもレベルの高いサウンドを楽しめると思います(ただしDAPの性能差をある程度は聴き分けることは可能です)。

HIFIMAN RE800Jまた購入前に知人の「IE800」をあらためてじっくり聴かせてもらい、店頭で「IE800S」をじっくり試聴することで「RE800J」と比較してみました。
これらのイヤホンは、周波数特性はすべてドンシャリ傾向ですが、「IE800」「IE800S」が明確な低音寄りの傾向なのに対して、「RE800J」は多少高域寄りだったRE800からフラット近い傾向に変化。そしてIE800を高級イヤホンの定番たらしめるキラキラした抜群にクリアで美しい高域をしっかり演出させ、全体として高次元のサウンドを作り出す分離感の高さやサウンドバランスの良さについては、「RE800J」については全く異なるアプローチながら「同レベル以上」の水準を達成していると感じます。

HIFIMAN RE800J正直なところ「IE800」と比較して「IE800S」の高域はあまり好きではなかったので、「RE800J」は聴く楽しさではベスト、美しさではRE2000と同レベル、という個人的には「最高評価」です。分離感、明瞭感ではよりフラットに近いこともあり「IE800」「IE800S」より「RE800J」のほうが優れていると感じます。
いっぽう音場については「IE800」「IE800S」が非常に広大なスケール感のあるサウンドであるのに対し、「RE800J」も十分な広さでですが比較すると多少タイトな印象となります。その分ボーカルは近く、高域の印象とあわせて「愉しさ」をより演出してくれます。これはより広い音場で深みのある低域が味わえる「RE2000」とも異なるキャラクターです。

もちろん、「RE800J」も十分な量感と沈み込む低域があり、コンパクトはハウジングからは想像も付かないような臨場感のあるサウンドが楽しめます。いっぽうでアコースティックな音も非常にナチュラルに楽しめる点は「RE2000」とも共通します。
両者の違いは、全体のイメージとしては、「広く深く雄大さを持った」印象の「RE2000」に対し「愉しく心地よく、さらに元気な」印象の「RE800J」という感じでしょうか。
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それに「RE2000」はとても高額なイヤホンですので屋外で使用するのは多少躊躇しますし、新幹線の中など環境ノイズの多い場所では遮音性の低さが気になる、という隠れたデメリットがありましたが、非常にコンパクトで耳穴にすっぽり収まる「RE800J」は十分な遮音性があるため、(価格的にも)新幹線の車内でも音楽に浸れるのはうれしいところです。

またMMCXコネクタの採用により容易にリケーブルが可能になった点も「RE2000」とは異なる特徴です。「RE800J」の銀メッキ銅線とは性格の異なるミックス線を利用することで異なるサウンドバランスを楽しんだり、バランスケーブルを利用することでよりエッジの効いた刺激的なサウンドに変化させることも可能です。
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さらに、「Shure RMCE-LTG」や「AAW CAPRI」などのMMCXコネクタ対応の高音質LightningケーブルやBluetoothケーブルを利用するという構成も可能です(かなり贅沢ですが^^;)。

このようにHIFIMAN「RE800J」は私にとって「IE800」「IE800S」より好みの音であった上に、「RE2000」とも異なるキャラクターで優劣がつけがたいイヤホンでした。もちろんゼンハイザーの製品のほうが好みという方も少なくはないと思いますが、このクラスのイヤホンを検討されている方はぜひとも「RE800J」の試聴もお勧めします。HIFIMANのサウンドクオリティの高さは多くの方が受け入れやすいものだと思いますし、より購入しやすい価格帯の「RE800J」は高級イヤホンではあるものの比較的手に届きやすい存在ではないかと思います。
かくして私自身も「RE800J」も購入し、「RE2000」と両方持ち、という選択となったのでした(^^)。