Wooeasy 14BA

最近はマルチBAイヤホンの進化が凄まじいですが、今回は、そんな中でも屈指の「多ドラ」構成を誇るイヤホンのひとつ、Easy Earphonesの「Wooeasy 14BA」です。名前の通り、片側に14個のBA(バランスド・アーマチュア)型ドライバを搭載するオーダーメイドタイプの超ハイスペックイヤホンとなります。
今回は「Wooeasy」ブランドを展開するEasy Earphones@hulang9078)からの依頼により貴重な実機をお借りしてのレビューとなります。

中国AliExpress(Easy Earphones)での表示価格は977.78ドルですが、本記事をご覧頂いている方向けに大幅なフォロワー値引きが適用されます。また購入時に「bisonicr」とメッセージを入れていただくだけでも値引き対象になります。AliExpressでの購入・割引方法を含め詳しくはこちらをご覧ください。
AliExpress(Wooeasy Earphones Store):Wooeasy 14BA

facepanel optionWooeasy 14BA
またオーダー時のカラー選択は「Red Wood」と「Carbon」がありますが、この2種類以外にも今回お借りした「ギアデザイン」など合計36種類のフェイスデザインが選択可能です(オーダー時に上記キーワードと一緒に希望フェイスデザインをメッセージ欄に記入)。さらに「自分だけの」デザインについてもリクエストも別途費用により対応可能な場合もありますので、Easy EarphonesのTwitterアカウントのDM(日本語または英語)やAliExpressでのメッセージ(英語)で相談いただくのも良いと思います。なお、オーダー後にハンドメイドでひとつひとつ作られますので、納期は1か月以上かかる場合もあります。あらかじめご了承ください。


■BAドライバがびっしり詰まった迫力のハウジングながら装着感は良好

さて、今回お借りした「Wooeasy 14BA」のパッケージはEasy Earphonesのオーダーイヤホンではお馴染みの「VT Audio缶」で届きました(要するにVT Audioのファクトリーで作られるイヤホンということですね)。
Wooeasy 14BAWooeasy 14BA
「VT Audio缶」にはイヤホン本体、MMCXケーブル、白のイヤーピースS/M/Lが同梱されており、さらに別途付属するイヤホンケースにはグレーのイヤーピースS/MLと、ウレタン製イヤーピース4セット(黒・グレー・赤・青)、イヤーフック、ケーブルバンドが同梱されていました。

Wooeasy 14BA」の本体デザインは、さすがに14BAというドライバー数ともなるとかなり分厚く大振りのハウジングとなります。お借りしたイヤホンはカラフルなギアデザインのフェイスプレートで、ひとつひとつのギアパーツが丁寧にレイアウトされた大変美しい仕上がりです。ビルドクオリティも非常に高く、高級モデルとして強烈な存在感を持っています。
Wooeasy 14BAWooeasy 14BA
今回はハウジング部分がブラックのタイプですが、そこからでもびっしり詰まったBAドライバーを確認することができます。大きいハウジングとはいえ形状はよく考慮されており装着性そのものは良好です。ほとんどの方は付属のイヤーピースでも装着で不便することは少ないと思います。

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ベント部分は3つの穴がそれぞれ音道管につながっているタイプ。同じタイプのデュアルドライバーが複数セットになった3種類のBAユニットの集合体から出力されています。

Wooeasy 14BAWooeasy 14BA
ドライバー構成は非公開ですが形状からすべてKnowles製BAドライバーを使用していると想定して、透明ハウジングのサイト掲載写真およびお借りしている実機を確認してみると、
 ・ Knowles TWFK-30017と思われるデュアルBA ×3 (合計6BA)
 ・ Knowles GR-31587(型番確認)デュアルBA ×2 (合計4BA)
 ・ Knowles DTEC(30265または30008)と思われるデュアルBA ×2 (合計4BA)
という組み合わせで片側14BAを構成しているのではないかと思われます。

なお、本体にはVT Audio(Wooeasyブランド含む)ではおなじみの銀メッキコートのMMCXケーブルが付属しますが、さすがにこのクラスともなるとリケーブルが前提となると思いますので、本レビューでも手持ちの数種類のケーブルにリケーブルを実施のうえ試聴することにします。


■超マルチBA構成が生み出す情報量の多さと立体的でパワーのある音場感

一般的にBAドライバーはエージング効果が少ないと言われていますが、このクラスのマルチBAともなると落ち着くまでに100時間~200時間ほどの鳴らし込みが有効という情報があります。今回はお借りしたイヤホンですので、すでにある程度のエージングは行われているという前提で、かつ私の方でプラス100時間程度のエージングおよびリスニングをおこなった上でのレビューとなります。

Wooeasy 14BA」の試聴でまず実感するのは、なんといっても情報量の多さに加えてダイナミックドライバーのイヤホンとは異なるマルチBA、それも多ドライヤホン独特の立体的な音場感でした。14BAという超マルチドライバーの構成により、より強化された多ドラ傾向サウンドが圧倒的なパワーを持って押し寄せてくる感覚がとても印象的です。

Wooeasy 14BA十分なエージングを経ていることもあってか、多くのドライバーによって構成されているにもかかわらず、全体のつながりに違和感は皆無で、全体的にきれいにまとまった非常にクオリティの高い良好なサウンドです。
周波数特性はフラットに近く、全域にわたって非常に解像度の高い、かつ14BAの表現力によりコンサートホールのような立体的で広い音場を実現しています。Hi-Fi(原音忠実性)という視点では「かなり演出過剰」ですが、ホールやステージの臨場感や実像感がひしと伝わる印象は、一部の数十万円クラスのマルチBAやハイブリッド構成の高級イヤホンやCIEMにも通じるサウンドです。

なお、インピーダンスは低く音量は取りやすいですが、さすがに14BAというドライバー数ともなると実力を発揮するためにはある程度の駆動力を必要とします。とはいえ、このクラスのイヤホンを使用される方は相応のプレーヤーやアンプをすでに使用されているのではと思いますので再生環境がネックになることはほぼないでしょう。

Wooeasy 14BADAP(デジタルオーディオプレーヤー)およびケーブルの相性についてですが、Astell&Kern「AK300」のバランス接続クラスのパワー供給で再生に過不足はないものの、「nano iDSD BL」などをポータブルアンプとして接続し一定の音圧を与えることで高域のキレは良くなります。いっぽう、出力不足のDAPで過度に音圧を高めたり、逆にパワーが強すぎるアンプの場合は高域に歪みが発生しハイ上がりのような状態になる場合もあるのは一般的なマルチBAイヤホンと共通の傾向です。
非常に音圧の高いイヤホンのため一定レベル以上のクオリティのケーブルを使用すれば音の変化は少ないですが、手持ちケーブルでは銀メッキ線+銅線のバランス接続での高域の伸び具合が気に入りました。

高域の描写も精緻ですが刺さりはほぼ皆無で思った以上に聴きやすい印象を受けます。また低域はこの「Wooeasy 14BA」の醍醐味ともいえる部分で、低域用デュアルドライバー2基を2種類、合計8ドライバーを中低域または低域に割り振ることでBAらしい解像度と分離性の高い低音と、広大な音場をもった独特な響きのよさを実現しています。
Wooeasy 14BA多くのBAドライバーを使って低音を表現している、という点で、もっとごちゃごちゃした音かと想像したのですが、実際には非常にキレの良い、コントロールされたサウンドだと感じました。
BAは解像度を高くできる半面、構造的にある程度の歪みが発生してしまう傾向もあります。そのため多ドラ構成のマルチBAイヤホンでは自然さに欠け人工的なサウンドの印象が強くなってしまうケースも少なくありません。しかし、同じBAユニットを複数重ねて和音を作ることで音圧を高めると同時にドライバーあたりの音量を抑制することで歪みもある程度減少できる効果があり、結果的に解像度の高さを維持したままコントール性が向上しているのではと思われます。

Wooeasy 14BAWooeasy 14BA」が生み出す臨場感のあるサウンドは、たとえば私が所有する「HIFIMAN RE2000」と比較するとまさに対極ともいえるものです。たとえばフルオーケストラの演奏を聴いてみると、RE2000では原音を忠実に再現し、さらにひとつひとつの音を精緻に表現している、文字通りの「Hi-Fi」サウンドであるのに対し、「Wooeasy 14BA」では解像度の高さではまったく引けを取っていないものの、大量のBAによる低域が生み出す独特の反響音はとにかく豪華で、コンサートホールで迫力ある演奏に息をのむような強烈な印象がエモーショナルに訴えかけます。映画のサウンドトラック等を聴いていると感動したワンシーンが脳裏に鮮明によみがえり感涙を呼ぶほどの力強さがありました。


■10BAを超える超マルチドライバー構成でしかつくれないサウンドがある。

ところで、私自身も以前は10BA以上の超多ドラ構成に否定的な意見として、BAだけで十分な低域と音場をつくるためには多くのBAドライバーを低域用に割く必要があり、ハウジングのサイズ的にもコスト的にも非効率ではないかと考えていました。例えばUnique Melodyの代表的な製品のように、高級イヤホンの価格帯でもハイブリッド構成にするほうがより低コストでクオリティの高いサウンドが作れるのでは、と思っていたわけです。
Wooeasy 14BAしかし、同等の低域の解像度の高さや立体感のある音場をダイナミックドライバーで作る場合、高精度の振動版など品質面の歩留まりも考慮する必要性から実際は相当コストがかかり、さらにネットワークの調整も一層の複雑さを増すため、ハイブリッドを得意とする高級CIEMメーカー等以外は現実的には難しいのではないかと思われます。しかもこれらのメーカーの製品は多ドラ構成でもハイブリッドでも数十万クラスの価格帯となってしまいます。
いっぽうEasy(VT Audio等のファクトリー)のようにマルチBAイヤホンに慣れているメーカーによる10BAオーバーの超多ドラ構成は、ハウジングの大型化などと含めてドライバーの使い方が「もったいない」という印象があるものの、実際は数十万円クラスの音質を結果的に大幅な低コストで実現できる手法だともいえるのではないかと思います。

Wooeasy 14BA」はある程度の割引は期待できるとはいえ、表示価格で10万円クラスと、オーダーメイドの中華イヤホンとしては決して安価な製品ではないため、購入を希望される方もかなり限定されるとは思います。しかしコストに見合うパフォーマンスは十分にあるイヤホンであることも確認できました。もし濃度の高い10BAオーバーの多ドライヤホンに挑戦したい場合は、Easy Earphonesの14BAも有力な候補として検討しても良いかと思いますよ。