TRN V10

年末年始ですっかりレビューが遅くなってしまいましたが、話題の中華イヤホン「TRN V10」です。
アマゾンでもアンダー5,000円の価格設定ながら、2BA+2DDという4ドライバー構成に2pinリケーブル対応と、おっと私のブログでもおなじみ、KZの「ZS5」「ZS6」を彷彿とさせる内容も特徴的です。
ただ、開封時は「極端なドンシャリの変な音」ということで実際のところはどうなの? と気になることもしかり。ということで、長文必至なこともあり、今回は前後編にわけてこの話題のイヤホンをレビューしたいと思います。

TRN V10」は現在のところ「透明モデル」と「黒モデル」の2色が販売されており、私は2色ともを別々に購入しました。透明モデルについては毎度おなじみ中国のイヤホンセラーのHCKから入手しました。
AliExpress(NiceHCK Audio Store): TRN V10

またアマゾンでもHCKのマーケットプレイスにて販売されています。
Amazon.co.jp(NICEHCK): TRN V10

TRN V10」は前述の通り、2BA+2DDのハイブリッド構成のイヤホンです。しかし同じ構成のKZ「ZS5」や「ZS6」と比べるとドライバーの配置は非常にシンプルで、KZのイヤホンでいうと1BA+1DDの「ZST」や「ES3」を彷彿とさせるレイアウトになっています。
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しかし、ステム部分に装着されたBA(バランスド・アーマチュア)ドライバーユニットがデュアル仕様なのに加え、ダイナミックドライバーもひとつのユニット内に11mmドライバーと6mmドライバーを直列に配置する複合2DD仕様となっています。その結果、合計で「2BA+2DD」の構成となっているわけです。
また付属のケーブルはマイクなしモデルとありモデルが購入時に選択可能です。


■届いた「TRN V10」をじっくり確認。デュアルBAは「Bellsing 31785」を搭載の模様。

さて、実際に届いた「TRN V10」のパッケージは透明モデル、黒モデルともシンプルな白箱です。
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パッケージ内容はイヤホン本体、2pin仕様のケーブル、イヤーピースがS/M/L(Mサイズ装着済み)、説明書、といったシンプルな構成でコストはイヤホン本体に全力投入、という感じがうかがえます。
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イヤーピースは透明モデルがホワイト、黒モデルがグレーのシリコン製となります。

本体はプラスチック製で上下2つのパーツを貼り合わせる形になっています。透明モデルの場合、内部の配線までよく確認できます。
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装着性は比較的良好なほうだと思います。ステム部分に「引っ掛かり」がないタイプですので、付属以外のイヤーピースを使用する場合は穴が少しきつめのタイプを使用した方が良いでしょう。
また装着されるBAドライバーは「デュアルタイプ」がひとつステム部分に装着されています。
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透明モデルも黒モデルもおそらく「最初期ロット」だから、ということもあるのですが、実は黒モデルのほうは片方ステム部のメッシュパーツの接着が甘かったようで使っているうちに一度外れてしまいました。この辺の個体差はKZで慣れているのでさほど気にはしません(^^;)。とりあえず再接着して使用してますがそのまえに搭載しているデュアルBAドライバーを目視で確認しました。

TRN V10ところでこのBAドライバーは、Bellsing社のロゴと「31785」と思われる型番を実機から確認できたことから「Bellsing 31785 BRC215C31785)」ではないかと推測できます。
型番的にはKnowles社の「DWFK-31785」のBellsing版といった感じですね。KnowlesのデュアルBAのツィーターといえばTWFKが有名ですが、ちょっとマイナーなDWFKのさらにBellsing版ということでいよいよドライバーからは音のイメージがつかめない感じです。Bellsingといえば最近は有名メーカーのCIEM等でも採用され始めていますが、以前はなんといってもKZ社の「ZST」の最近のロットまで採用されていた「Bellsing 30095 BA」などを思い出します(詳しくは過去記事のZST Proのレビューなどを参照ください)。

いっぽう、製品付属のケーブルは製品資料ではCIEM仕様の0.78mm 2pinコネクタで「OFC線材+250Dナイロン糸編組+良質なPVC」の線材を使用しているとのこと。
TRN V10確かにKZ製イヤホンのゴムゴムした被膜で覆われた見るからに安そうなケーブルと比較するとなかなかの高級感をもっています(音質面については後述)。
本体側の2pinコネクタはもしかしたら「KZ用の0.75mm 2pinコネクタのケーブルでも緩くならないようにわざときつめにしているのかしらん」と思えるほど非常にきつめになっています。そのため最初にケーブルを装着するのには結構苦労するかもしれませんね(個人的には以前入手した「AZLA」に純正ケーブルを最初に装着するときも同様にきつかったのでイヤホンの価格に関係なく「たまにあること」という認識ではあります)。

上記の通りコネクタは通常の2pin仕様のため、CIEM用の各種2pinケーブルやKZ ZS5/ZS6で使用可能なケーブル(KZ純正品を除く)でのリケーブルが可能です。
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またTRN純正のアップグレードケーブルとして銀メッキ銅線のシルバーカラーのケーブルも別売で用意されています(HCKのAmazonでの価格は1,500円)。
Amazon.co.jp(NICEHCK): TRN 4芯 銀メッキ銅 イヤホンケーブル


■とにかくエージングして、イヤピースを替えて、リケーブルしてみた。

TRN V10」のサウンドは「派手」を通り越してかなり「ヘン」と感じるくらい特徴的な音です。ただこのような音に聴こえるのにはいくつかの理由があり、長時間のエージングを行ったうえで、標準の構成のままでは使用しないことがひとつのポイントになるかもしれません。
※さらに後編ではより抜本的な改善方法についても取り上げています。

TRN V10TRN V10」の周波数特性は典型的なドンシャリですが、開封直後はとにかく「ドンドン」「シャリシャリ」と派手な低音と盛大にシャリつく高音で、中域はもちろん、音場もなにもあったもんじゃない、という印象でした。そこで、今回2色の「TRN V10」をほぼ同時に購入したため、両方を聴いてみて開封直後の音がほぼ同じことを確認のうえ、片方のみをじっくりエージングしました。エージング方法はいつものApple Musicのランダム再生をエンドレスで行う方式。
150時間程度のエージングを行ったうえで、ほぼ開封直後状態のもう片方と聴き比べを行うと、どちらも高域に強めのシャリつきはあるものの、エージングを実施したほうの「TRN V10」のほうが幾分落ち着いた印象になりました。エージングにより印象が劇的に改善するわけではありませんが、ある程度の長時間エージングにより全体のバランスに改善が得られることは間違いないようです。

TRN V10またイヤーピースはより耳穴にフィット感のあるものを使用することでも多少印象が改善します。
どちらかというと低域が強くなる「final E」タイプのようなイヤーピースより、多少開口部の大きいもののほうが相性が良さそうです。私は「SIMGOT EN700 Pro」付属のEartip1(開口部の大きい方)を使っていますが、RHAのイヤーピースなども良い印象でした。他にもKZのイヤホン等でも愛用者の多いAcoustuneの「AET07」も相性が良いようです(私はまだ試していないので後日使ってみます)。さらに高域のシャリつき軽減効果で定番のOSTRYのイヤーピース(SO100SO200SO300)も十分に効果がありました。
同様の効果を得るために目の細かいスポンジやガーゼ状のものをステム部に挟んでイヤーピースを装着する方法もあるようですね(左右のバランスや加減が難しいため私は試していません)。

そして同様にある程度の改善効果が得られるのが実はリケーブルです。「TRN V10」付属のケーブルは見た目や使いまわしこそ良好なものの、線材のクオリティ、特に情報量という点では「価格相応」というレベルのものです。後編のレビューにて取り上げたいと思いますが、「TRN V10」はDAP(デジタルオーディオプレーヤー)などの再生環境にもかなり影響されるイヤホンで、これは再生環境の出力などによって歪みが発生しやすい傾向にあるためと考えています。同様に情報量の高いケーブルにリケーブルを行うことでも変化が発生します。
TRN V10TRN V10
前述の純正アップグレードケーブルを使用した場合、シャリつきの軽減は限定的ですがDAPのよっては多少ボリュームを下げても音量を確保することができ、相対的に中域の存在感が増す印象です。

TRN V10いっぽう、よりケーブルのグレードを上げて、HCKがAmazonで販売している8芯の銀メッキ線と高純度銅線のミックスケーブル(2pin/バランス接続)を使用したところ、バランス接続の効果もありAstell&Kern「AK300」等のDAPではfripSide等の高域の刺さりが出やすい曲でもかなり良い印象にかわりました。
そして、手持ちのケーブルのなかでベストの相性かつ劇的な音質変化があったのが同じくHCKのAliExpressのショップにて以前購入した金メッキ銅線のケーブルでした。一般的に金メッキ線は中域がより強調され、高域と低域が抑え気味になる傾向があるといわれますが、まさに「凹な音質のTRN V10」と「凸な傾向の金メッキ線ケーブル」でベストマッチ、というわけです(笑)。
とはいえ、このケーブルはもともと非常に情報量の多いケーブルで、例えばDAPに「PLENUE R」を使用した場合、標準ケーブルで「80~85」程度のボリュームが必要な曲が「65~70」程度で十分な音量が確保できます。
TRN V10このレベルの音量差があると、特に構造的に高ゲインで歪みを発生しやすい傾向のあるBAドライバーは、高域の伸びや分離性にかなり影響があるのではと思われます。このケーブルの組み合わせでは高域強めのメリハリのあるサウンドで解像度も高め、男性ボーカルはもちろん、女性ボーカルの曲も結構楽しめる印象です。このように「ケーブルの情報量による音質変化」があるということは、おそらく有名ブランドの数万円クラスのケーブルとの組み合わせでも同様以上の効果が期待できそうです。
もっとも、この金メッキ線のケーブルは表示価格で100ドル以上と、中華イヤホンケーブルとしてはかなり高価格帯のもので正直「格安イヤホン」の類に入る「TRN V10」との組み合わせには多少無理があるのも事実ですし、それ以上の価格帯のケーブルともなるとなおさらでしょう。後編では、もう少し現実的な価格帯のケーブルをさらに試してみたいと思います。


というわけで、前編ではいつもより多少変則的ながら「TRN V10」を開封からいろいろ確認してみるところまでを紹介しました。後編では純正Bluetoothケーブル「TRN BT3」のレビューに加えて、さらなる音質改善について深掘りしていきます(後編につづく)。
→ 「TRN V10」の音質改善方法を深掘りしてみた【レビューその②・比較編】 & 「TRN BT3」純正Bluetoothケーブル