ちょっと気になっていたDAP(デジタルオーディオプレーヤー)の「Hidizs AP200」です。
今回は実験するおじさん(@ExOZiSaM)さんからお借りしての紹介となります。
なお、「Hidizs AP200」につきましては、実験するおじさんご自身のブログでも紹介記事がありますので併せてご覧頂ければと思います。
→ 買い物かごの中身 : [短評]Hidizs AP200は今後のアップデートに期待
ちなみに私のブログではHidizsのDAPについては以前、海外版の「AP80」について購入およびレビューをしています。
→ 小型ハイレゾDAP「Hidizs AP60(AP-60)」(海外版)を購入しました。【レビュー】
「AP80」は国内正規版で「いろいろあった」ため、日本ではいわく付きのDAPになってしまいましたが、製品として悪いわけではなかったので「AP200」についても以前より気にはなっていました(Kickstarterで参加するつもりもあったのですが、その辺の事情はご興味があれば別の機会に)。というわけで念願の「AP200」を今回お借りすることができたわけですが、なるほど噂に違わぬ「(主にファームウェアの)未完成っぷり」を実感しました。
いかんせんHidizs自身がこまめにアップデートなどをしている雰囲気があまりないのが大変気になるとこですが、購入された多くの方の期待を裏切らないように頑張って欲しいという気持ちになりました。なにしろハードウェアは悪くないと思いますので。なお、現在「Hidizs AP200」はPenon Audioなどいくつかの海外ストアにて299ドル~の価格で購入が可能です。
■300ドル以下の価格設定と思えない高価な部品をふんだんに使ったハードウェア
「Hidizs AP200」はAndroid 5.1ベースのDAPで、CPU部分にはCoretex-A9コアを4つ内蔵するRK3188 SoCを搭載し、DACチップにはES9118Cをデュアルで搭載するなどスペック面についてはかなり贅沢な仕様となっています。
さらに3.54インチのタッチパネル液晶に加え、特にコストがかかっているステンレススチール&アルミニウム合金の一体形成削り出しのメタルシャーシなど、アンダー300ドルの製品のレベルを超えた作りも特徴的です。それ故にデュアルDAC搭載なら最近ではワンセット感もあるバランス出力が搭載されていないなどある程度の割り切りも見受けられます。
お借りした「Hidizs AP200」はパッケージ、本体、レザーケースなどです。メーカーがこだわりすぎて出荷開始が大幅に遅れたという、いわく付きの本体はシンプルなデザインでとても美しく、適度な重量感のあるものです。
手に持った際のサイズ感は手持ちの「PLENUE R」に近く、比較すると長さはPLENUE Rのほうが少し長いですが幅はほぼ同じ、厚さは「AP200」が数ミリ分厚い、という程度で個人的にはとても使いやすい大きさです。
ボタン関係は上部の電源スイッチのほか、下部に3.5mmステレオコネクタとUSB-Cタイプのインターフェース、microSDスロット。左側面に再生・一時停止とボリュームまたは曲送り用の上下のボタン、といった極めてシンプルな構成です。
「Hidizs AP200」はFiiOの「X5 3rd」や「X7」「X7 MkII」などと同様にAndroid画面で再生アプリを利用する「Androidモード」と再生アプリに動作を限定する「Pure Music」モードを選択できます。もっともFiiOも同様ですがAndroid上で動作していることには変わりがないため、Pure MusicモードではAndroid上で動作するGUIなどいくつかのサービスを止めることで再生アプリ用にメモリを多少多く確保できる、といった程度のメリットのようです。
■ソフトウェアに課題山積ながら、ほんと『音だけはかなり良い』高性能プレーヤー。
「Hidizs AP200」はスペック上は32bit/384kHzのPCMに加えDSD64/DSD128のネイティブ再生にも対応。本体メモリは1GBで、今回お借りしたシルバーモデルは32GBのフラッシュメモリを内蔵します。またWi-Fi、apt-X対応Bluetooth 4.0(レシーバー、プレーヤー)、USB-DAC(DACモード、USBトランスポート)など外部連携機能も非常に充実しています(これらの機能についての確認は後述)。
「Hidizs AP200」が採用している再生アプリ「libSmartPlayer」は自身で自社製DAPの販売もしている「HiBy Music」(海貝音楽)のOEMを受け自社用にカスタマイズしたものです。そのため基本的なアプリケーションの操作は「HiBy Music」に準じていますが、タッチパネルの反応に時折怪しさ(誤動作)があるのと、お借りした時点でのバージョンではアプリケーション自体の最適化に問題が多く挙動が極めて不安定な印象を受けます。
特に極の再生中に他の設定などのメニュー項目に移動した後に再生画面にもどる操作が固定されていない点など「HiBy Music」アプリより明らかに「改悪されている」と思える箇所や、他のレビューでも良く記載されている再生時に曲の冒頭部分が途切れる現象などは使っていて結構気になる部分です(冒頭が途切れる現象はファームウェアアップデートである程度解消できたかも?)。
ただし、それらの不安定要素に目をつむることができれば音質面も外観のビルドクオリティ同様に価格以上のハイレベルな実力を実感します。サウンドの味付けはかなり「濃いめ」で中低域の響きが厚くなる印象です。Hi-Fiというにはあまりに演出過剰な気がしますが、リスニングのうえでは長時間のリスニングでもとても楽しく聴けるサウンドでした。
前述のPLENUE Rとフラット系のイヤホンやヘッドホンで聴き比べると「AP200」で聴いた後ではPLENUE Rがひどく平坦で味気ない音に感じてしまいます。ハイゲインにすると大きめの出力も十分に確保できるため、「AKG K712 Pro」などの鳴りにくいモニターヘッドホンとの相性はかなり良いと感じました。どちらかというと派手目のドンシャリよりこのようなフラット傾向のイヤホンのほうが相性がよさそうです。また「HIFIMAN RE2000」などの高級イヤホンを利用しても実力は十分に発揮できました。
というように、「音はいいなぁ」と聴き込んでいると、Pure Musicモードにも関わらず不意にアプリケーションが強制終了したり、本体の電源を入れ直しをしないとmicroSDカードの読み込みに失敗してうまく再生できないシチュエーションに遭遇したり。やはりなかなか油断ならないですね。
また使用しているとそれなりに発熱もします。据置きオーディオの場合ある程度温めてからが本来の音、というケースが結構ありますが、「AP200」の場合は強制終了などの不安定要素が増えるだけのようですので時々クールダウンした方がよさそうです。
■ファームウェア「0.2.2Beta」が出たので適用してみる。
今回「AP200」をお借りしている間にHidizs社のサイトにて新しいバージョンのファームウェア(0.2.2Beta)がリリースされていました。お借りした段階のファームウェアバージョンは「0.2.1」でしたので取り急ぎアップデートを実施しておきました。
アップデートファイルはHidizsの公式サイトより: http://www.hidizs.com/support.php
ダウンロードした「AP200-0.2.2Beta.zip」を解凍し、中に入っている「update.img」をmicroSDまたは本体ストレージにコピーします。ただ本体ストレージは曲の再生時にも時々リードエラーを起こしていたため、今回はAP200をPCにUSBケーブルで接続し、本体ストレージのルートにコピーしました。
あとは再起動を行うと自動でファームウェアを認識するため指示に従いアップデートを行います。無事アップデートが終了したら、PCに接続するか、本体の「ESファイルエクスプローラ」を使用してアップデートファイルを削除しておきます。
アップデートを行い、無事「0.2.2Beta」にアップデートしたところ、確認した限りでは曲の頭出しが途切れる問題はおおむね解決できているように感じます。また強制終了などの頻度も通常利用においてはかなり減った印象があります。
まだ「バージョン1.0」へもほど遠い状況ですが、ゆっくりながら対応を進めていることは確認できました。
■「Hidizs AP200」の各種機能を確認する
さらに「Hidizs AP200」の各種機能についても一通り確認をしてみました。
・LAN接続(DLNA)再生、Bluetoothへの対応
まずはベースとなる「HiBy Music」の機能になりますが、Wi-Fi経由によるミュージックサーバー経由での再生を利用しました。こちらはDLNA経由で音楽データを共有しているNASからのリモート再生を実施。ハイレゾ音源を含む再生が問題なく利用できました。ただしAndroidモードではメモリ不足でアプリケーションが強制終了してしまうため、Pure Muiscでの利用が必要でした。
またBluetoothのペアリングについても利用上特に支障なく使えましたが、apt-X対応のヘッドホンでも画面上に識別できる表示などは無いためどのモードで接続できているかはちょっと不明でした。またメーカーサイトではスマートフォンとペアリングし、スマホの音楽ソフト(Apple MusicやGoogle Play Musicなど)からの再生をAP200をレシーバーとして再生させるモード(Shanling M2s/M3sなどに搭載されていますね)の記載がありましたが、この機能については実際に試すことができませんでした(ペアリングまではできるんですけどね)。
・プレイリスト再生(日本語パス、日本語ファイル名未対応)
「Hidizs AP200」の「libSmartPlayer」は.m3u形式のプレイリストにも対応を確認しました。ただしプレイリストは日本語のパスおよびファイル名には対応しません。Astell&KernやFiiOなど多くのDAPでは文字コードを「UTF-8」で保存された日本語パス・ファイル名のプレイリストに対応しますが「AP200」では文字化けを起こします。
内部的にはダブルバイトの文字コードは中国語(簡体)の「EUC」のみ対応しているようです。また英語のみのフォルダ名・ファイル名の場合も、パスの区切りは必ず「/(スラッシュ)」にする必要があります。多くのDAPではWindows PCから出力された「\(¥マークまたはバックスラッシュ)」でも認識しますが、「AP200」ではエラーとなり再生することができませんでした。いっぽう、パスは.m3uプレイリストファイルの場所からの相対パスおよび、絶対パス(SDカードの場合「/mnt/external_sd/フォルダ名/ファイル名」)の両方での動作を確認しました。なお、これらの仕様はファームウェアバージョンアップ後も変化はありませんでした。
・USB-DACへの出力(USBトランスポート機能)
Hidizsのメーカーサイトにも写真があるとおり、「AP200」はUSB-DACへの出力(USBトランスポート機能)を搭載しています。以前レビューした「AP60」(海外版)でも80ドル台の価格設定ながらDSDのDoPを含めたUSBトランスポートに対応していたため、私も一時期は「Mojo」と組み合わせて愛用していました。というわけで今回もChord「Mojo」とiFI-Audio「nano iDSD BL」で接続をしてみました。
どちらもUSB-DACとの組み合わせでも動作そのものは確認できましたが「ブツッ」「ザザザー」といった伝送不良が原因と思われる電気ノイズが大量に発生しとても実用に足るものではありませんでした。ケーブルとの相性も可能性もあると考えOTGケーブルも何種類か試しましたが現象は変わらず。また使用中に頻繁に強制再起動がかかる現象にも遭遇しました。ソフトウェア上の問題なのか、本体側のUSB-Cコネクタ部分の問題なのか原因を特定することはできませんでしたが、これはかなり残念な結果でした。なお、この現象はファームウェアを0.2.2Betaにアップデートした後も変化はありませんでした。
・USB-DAC機能
逆に、「Hidizs AP200」をUSB-DACとして利用することももちろん可能です。AP200本体の上部メニューから「Intetnal Storage」のアイコンを押して「DAC in」に変更することでAP200がUSB-DACモードになります。Macの場合はドライバーなどを不要のためこの状態で接続すればそのままオーディオデバイスとして使用が可能です。Mac用の定番再生ソフト「Audirvana Plus」で確認すると384kHzまでのPCMとDoPによるDSD64、DSD128フォーマットに対応したUSB-DACとして認識されます。
実際にAudirvana Plusで24bit/96kHzのハイレゾを384kHzにアップサンプリングして再生したところ問題なく再生され利用することができました。ただしDSDについてはDoPによる再生で利用できたものの、ファームウェアバージョン0.2.2Betaでも再生中に「ザーーー」というノイズが入るようになり、動作に不安定な部分がまだ残っていることがわかりました。
なお、Windows環境の場合は上記のサポートサイトにAP200用のASIOドライバーがダウンロードできます。ダウンロードしたファイルを解凍するとインストーラが出てきますが、AP200で採用されているUSBオーディオインターフェースにはXMOS社のチップを使用しているようでした。通常で利用する場合は解凍したドライバーのセットアップを実行し、DACモードのAP200を指示に従って接続すれば問題ありませんが、例えば上記の「nano iDSD BL」のように同じくXMOS製のインターフェースチップを使用しているUSB-DACを既に使用している場合はドライバーのバージョン違いが混在することで想定外の動作をする場合がありますので、念のため既存のドライバーをアンインストールしてからのほうが安全かもしれません。
・Android用ハイレゾプレーヤーアプリの利用
なお、「Hidizs AP200」はAndroid 5.1で動作していると言うことで、いくつかの再生アプリのインストールを行いました。今回はWiFi経由でのGoogle Playからではなく、手持ちのAndroid端末へインストールしたアプリをapkパッケージとして抽出し、microSD経由であらかじめAP200にインストールされていた「ESファイルエクスプローラ」でオフラインによるインストールしました(インストール方法の詳細は割愛します。興味がある方は検索してみてください。私の過去記事でもFireTVあたりのネタで書いているかも^^;)。
実際にインストールしたのはオンキヨーの「HF Player」(およびハイレゾ再生用の有償プラグイン)と、USB-DAC用プレーヤーアプリの「USB Audio Player PRO」ですが、どちらもAndroid標準のオーディオサンプリングの制限からハイレゾ音源も44.1kHzにダウンサンプリングされます。また「USB Audio Player PRO」で外部USB-DACを接続する場合は自身のドライバーを適用することでトランスポーターとして使用することができます。とはいえあくまで動作確認で試しましたが、この辺は普通のOTG対応のUSBインターフェースを持っているAndroid端末なら普通にできることなのでわざわざAP200を使うまでもない部分ですね。
■ポテンシャルは十分だがやはり先は長いかも。頑張ってバージョンアップを続けて欲しいですね。
ということで、今回機能面を含めいろいろ確認をしてみましたが、あらためて「Hidizs AP200」のポテンシャルの高さと、いっぽうで「未完成っぷり」のギャップを実感しました。ファームウェアのバージョンアップにより通常のプレーヤーとしての利用に限定すれば少し安定してきたようにも感じますが、製品として「まともに使える」レベルに行くまでにはまだまだ「先は長い」という印象です。
ただ、繰り返しますがサウンドクオリティはとにかく高いことからメーカーもなんとかバージョンアップを継続して欲しいと思います。現時点の状況ではおそらくKickstarterの出資者以外にはほとんど売れていないと思われますし、メーカーも開発コストを回収できているとはとても思えない印象です。
なんとか「まともに売れる」レベルの製品に仕上げて販売を継続できるよう頑張って欲しいものだなと思いますね。