TRN V60

こんにちは。中華イヤホンのレビューの数も多くなってくると「へんなイヤホン」に遭遇することも時々あります。今回はそんな中で現在のところ脅威の2分の1という高確率(!!)で「へんなイヤホン」を投入している 中国の新しいイヤホンブランド「TRN」の新モデル「TRN V60」です。そして今回のイヤホンもまた「へんなイヤホン」確定のシロモノで、確率は「3分の2」にアップしました(ダメじゃん・・・)。

最初にお断りしておくと、私のブログをご覧になっている方の中でも特に多いと思われる「これから中華イヤホンを購入しようと思われている方」「どのイヤホンか1個を選ぶのに悩んでいる方」全般にわたり、「TRN V60」はオススメできません(笑)。とりあえず同価格帯のKZのイヤホン買った方が無難でしょう(いきなりのちゃぶ台がえし^^;)。

TRN V60しかし、既に数多くの中華イヤホンを嗜んでいらっしゃる方で「最近のはどれも普通に良い音にまとまってて逆につまんないな~」と感じていらっしゃる方や「この音はどのドライバーが出してるのだろう?原因は?」とまるで何かのソムリエみたいなことをつい考えてしまう方、「ケーブルやイヤピでどこまで音を変えられるか、いっそ改造するか?」と謎の創作料理人みたいな発想の方には、「TRN V60」はお手頃価格でそこそこ遊べる格好のアイテムと言えるかもしれません。イヤホンは音楽を楽しむもの、という本来の目的をかなり逸脱してる気がしますが、そういうことも含めマニアの「度量」を試されているような気にもなってきます(ここまでくるとちょっと病気)。

というわけで、軽く「一見さんお断り」の注意書きを添えた上で、以降はあくまで音質の良し悪しではなく単に「へんなイヤホン」をいじるレビューとなります(笑)。


■「謎の」3.8mmドライバーがとっても気になる、1BA+2DDハイブリッド(いちおう)

とまあ、「へんなイヤホン」だの「度量が試される」だのと冒頭にさんざんなことを書いた「TRN V60」でありますが(^^;)、実際のところは最近の特にKZあたりを中心にレベルを爆上げしている低価格中華イヤホンとの比較として「少しおかしい」というレベルで、マニアではない大多数の方はそれほど気にならない可能性もあります。むしろ遮音性も良く、屋外、とくに電車内のような周辺ノイズの多い環境では分厚い低音は適度にノイズをオミットする効果があると思いますし、刺さりを抑えつつ高域の主張もあるため「聴きやすい」「楽しい」と感じる方もいらっしゃるでしょう。

TRN V60TRN V60」は「ブラック」「ブルー」「レッド」の3色が選択でき、今回私はレッドとブルーの2色をオーダーしました。
購入は1個が「HCK Earphones」、もう1個がアマゾンの「Kinboofi」より。
AliExpress(NiceHCK Audio Store): TRN V60

Amazon.co.jp(Kinboofi): TRN V60
Amazon.co.jp(NICEHCK): TRN V60

価格はアマゾン(アマゾン倉庫より国内発送)が3,600円~、AliExpress(中国より発送)22ドル~となっています。AliExpressでの購入方法などはこちらを参照ください。またHCK(@hckexin)およびKinboofi(@kinboofi)のTwitterアカウントでは頻繁に割引情報等がツイートされていますのでフォローの上こまめにチェックされることをお勧めします。

改めて、「TRN V60」の仕様は10mmと「謎の」3.8mmダイナミックドライバーとシングルのBAドライバーによる「1BA+2DD」構成となっています。この3.8mmがダイナミックとしてはあまりにサイズが小さいこともありBAの一種という噂もありますが以下の分解図によるとやはりダイナミック型ではあるようですね。
TRN V60
搭載される10mmのウーファーユニットはKZでお馴染みの「勾玉タイプ」とそっくりで、もしかしたら同一のドライバーかもしれません。空気孔(ベント)は10mmダイナミック側に小さい穴がひとつあるだけで密閉性は高い構造になっています。
なお、「TRN V60」は以前は別ブランドで販売されていた製品をコネクタ部分を中心に仕様変更し、TRN製のケーブルを付属のうえ価格も下げた内容となっています。これはTRNがOEM供給を受けているのか、あるいは以前販売していたものも含めTRNの工場で生産しているのかはよくわかりません。
TRN V60TRN V60
パッケージはTRNの他製品と同じ大きさのBOXですが、今回は線画イラストのデザインですね。
TRN V60TRN V60
パッケージ内容はいつもと同じ、本体、TRN製の4芯OFCケーブル、イヤーピース(S/M/L)、説明書といったシンプルな内容。
TRN V60TRN V60
トリプルドライバーのイヤホンながらシェルサイズはコンパクトで耳にすっぽりと収まるサイズです。
ただ、形状はちょっと独特のため、小さめのイヤーピースで押し込むように装着しないと耳には収まっているけどシェルが耳から浮き上がってフィットしない状態、つまり実際はイヤーピースで固定しているだけ、という感じになります。後述しますがイヤーピースにより聴いた際の印象もかなり変化させることができます。
TRN V60TRN V60
また、「TRN V60」の特異性を引き立たせる「謎の」3.8mmドライバーですが、円筒状の外周部の上にフタが乗っているような、まるで小さいボタン電池のようなデザインをしています。音はフタのまわりの円周状の隙間から出るのか、あるいはフタそのものも振動して音を出す構造なのかは不明です。


■好みが分かれる・・・というか、いろいろ「謎が深まる」音質傾向

さて、「TRN V60」の音質傾向ですが、いちおう「ドンシャリ傾向で低音厚めで高域のシャキシャキしたサウンド」という形容になりますが、それ以上に「不自然な反響音と、中高域の何ともいえない籠もった感じ」がとても気になります。
TRN V60今回も色違いで2個用意しましたので、片方のみエージングを行い、エージング前との変化を確認しました。エージング方法は今回も(解約済みiPhoneによる)Apple Musicのエンドレスでのランダム再生で100時間程度実施しました。開封直後は高域が結構暴れる傾向がありますが、エージング後はかなり刺さりも大人しくなり低域メインのイヤホンとなります。おそらく繰り返し書いている「謎の」3.8mmドライバーがエージングにより落ち着いたものと思われます。
高域は女性ボーカルの高音からピアノの中程から高音あたりまでの領域が持ち上げられている印象で、たぶん籠りがなければ高域の女性ボーカルも聴きやすいイヤホンになるだろうな、という感じはあります。ちなみに、イヤーピースをいろいろ試したところ、大きめのダブルフランジのイヤーピースを使用すると低域も減少しますが不自然な反響をある程度抑制することができました。ただ中高域の籠りはイヤーピースでの解消は難しそうです。

TRN V60TRN V60」の10mmドライバーが仮にKZイヤホンで使用される「勾玉タイプ」と同一のドライバーで、BAも「TRN V10」などの従来機種の傾向から「Bellsing 30095」あたりを使用していると仮定すると、いよいよ「TRN V60」のサウンドは「KZ ZST + 謎の3.8mmドライバー」ということになります。
※余談ですが「Bellsing 30095」は「KZ ZST」で搭載され、同イヤホンが人気となったことから知られるようになったBAドライバーです。「KZ ZST」も昨年の「ZST Pro」あたりから「KZ ES3」と同じ「KZ 30095」に変更になっていましたが、つい最近追加購入した「ZST Pro」では、なぜかまた「Bellsing 30095」に戻っていました(^^;)。
TRN V60」と「ZST」「ES3」を比較すると、その反響音ゆえに低域はより分厚く、逆に高域は抑え気味の印象になります。中高域は籠りがなければそれなりに主張した印象になると思います。ただDAPによってはボリュームを上げることで今度は籠りより歪みが強くなる場合もあり、なんとも扱いにくい印象は否めません。

KZ ZST ES3個人的には「何でそこそこ仕上がってるZSTの音に余計なもの足すの?」という気もすごくするわけですが・・・ちなみに「KZ ZST」や「ES3」では、ほぼフルレンジで10mmダイナミックドライバーが機能し、BAはツィーターとしてのみ機能する、2wayのコンパクトスピーカーのようなシンプルな構造になっています。特にネットワーク等で抵抗などを入れているわけでもないので、サウンドを決めるのは各ドライバーの装着位置とシェル形状やベント(空気孔)などのハウジング構造となります(例えば「ZST」はフェイスパーツとシェルパーツの接着面にわざと隙間をつくりベントにしてるのに対し、「ES3」は背面に2カ所小さい穴があります)。

いっぽう「TRN V60」はどうかというと、アルミ製のフェイスパネルを外してみると(精密ドライバーで2個のネジを取るだけ外すことができます)、こちらも特に抵抗など電気的なネットワークは存在せず、単純に3.8mmドライバーが追加されているだけであることがわかります。またステム先端のメッシュパーツを剥がしてみるとシェルパーツにBAを固定するための成型がされておりBAの先端部分が穴から出るような構造になっています。またその外周部のスリットから各ダイナミックドライバーの音が出ていることがわかります。
TRN V60TRN V60
いっぽうベントは10mmドライバーの直下に小さく1個穴があるのみで、かなり密閉型の構造だと思います。ここでミッドレンジを担当するという3.8mmドライバーの音がミックスされるわけですね。籠りの原因はやはり2個のダイナミックドライバーの音のバランスだと思いますが、さらなるエージングで多少改善できる可能性もあります(まあ抵抗やフィルターを入れたり、ベントを空けたりなどの「改造」の余地はありそうですね)。
また少し気になるのはフェイス部分のアルミプレートを「受ける」プラスチック部品で、これは外側のシェルパーツと比べて非常に薄いプラスチック板となっています。アルミプレートをレジンなどで一体化させるなどの加工により不自然な反響音は多少抑制できるかもしれませんね。


■それでも「あえて」興味をもったら何も考えずに買って遊んでね!(悩んじゃダメ)

TRN V60というわけで「TRN V60」は「研究材料」としては大変興味深いと思いますが、リスニングイヤホンとしてはかなり人を選ぶ・・・というより曲や利用環境を選ぶ製品のようです。そういえば私の本業の取引先でやたら変わった新製品をそれも従来のバリエーションとは全く無関係に投入するメーカーがあるのですが、そこの親会社は主にOEMの受託生産の大手で、子会社の製品はいわばOEMの顧客に対して「うちはこんなの作れるよー」というアピールが本当の目的だったという話がありました。TRNのなんとも脈略のない製品展開といい、まったく顧客のターゲットが見えないサウンドチューニング(そもそそしてるのか、という話もありますが)といい、なんとなく似ている気もしますね。
最近も「○○は△△と比べてどうですか?」というご質問は本当に多いのですが(正直キャラクターや位置づけが全く異なるイヤホンだと質問されている基準がわからないので毎回返答方法で悩みます^^;)、「TRN V60」については比較以前の段階で、気になる方は買って試してね、という感じになります(それ以外の方は選択しないほうが良いです、という意味で)。ほぼ自由研究の素材みたいなものですね。見た目はそこそこ格好良いもののちょっとキワモノかもしれない「へんなイヤホン」がお好きな方、それでも「あえて」興味を持ってしまったら、とりあえずは1個は押さえておきたいイヤホンかもです。悩んじゃダメです(なんつーオチかな)。