こんにちは。日本でも新型コロナウイルスの猛威が拡大する中、本来「ゴールデンウィーク」のはずの期間に入りました。とはいえ私自身はテレワークが中心ではあるものの、特に休業することも無く(むしろ連休中に仕事が入ったりして)相変わらずな感じであります。まあ暇すぎても部屋でネトフリ観ながら食っちゃ寝して太るだけなので、それなりに忙しいのは有り難いことではありますが(汗)。
さて、今回は中国のイヤホンブランド「TRN」のまとめです。昨年10月に「低価格中華イヤホン」の「個人的な好みランキング」を掲載しましたが、以降わかりやすくワイヤレス製品に力を入れだした「KZ」に対して「TRN」はコロナショック以前までは精力的に新製品をリリースしていました。というわけで、個人的な好み度も高い最近のモデルを中心にこれまでのレビューを振り返りたいと思います。また今回は最新の3モデルのみ、「個人的な好みランキング」の「追補編」として「好み評点」を付与しています。昨年10月のランキングも併せてご覧いただければ、だいたいのポジショニングもわかるかな、という感じですね。よろしければ一緒に参考にいただければ幸いです。
→ 【低価格中華イヤホン】 「個人的な好みランキング」 トップ10 ※ 2019年10月編
■ 「TRN BA5」 (5BA) 6,780円~7,800円 レビュー(2019年11月)
見た目に騙されるな(笑)。「低価格マルチBA」ではトップクラスの完成度の5BAイヤホン
好み評点 200(総合評価 165 好み加点 35)
「TRN BA5」は「5BA」構成のマルチBAモデルで「TRN V90」に次いでTRNがリリースした製品です。「TRN V90」が音質面の高評価がマニア間でも広がり最近では人気が上昇していますが、こちらの「TRN BA5」も同等以上に素晴らしい完成度にも関わらず人気や認知度はいまひとつ。やはり「見た目」が足を引っ張っているのかもですね。
「TRN BA5」は音質的にもいわゆる「寒色系ドンシャリ」の中華イヤホンではお馴染みの傾向で、「TRN V90」同様に非常に明瞭かつスッキリしたバランスに調整されています。マルチBAイヤホン特有で見られがちな「低域の籠もり」は「TRN BA5」ではほとんど感じず自然な音場感でスッと抜けていく印象です。ネットワークによるクロスオーバーの調整に加えて、低域にベント(空気孔)付きのBAユニットを使用し、フェイス部分中央のメッシュ状の開口部から適度に「抜け」を作ることで全体的にスッキリしたサウンドに仕上げられているのが特徴的です。「TRN V90」のような独特の音場感はありませんが、こちらはよりタイトに1音1音を楽しみたい方に最適なモデルと言えるでしょう。
「TRN BA5」は構成的には同じ5BA構成の「KZ BA10」に近いのですが、「KZ BA10」がハウジング内で低域BAの音を反響させ音場感を作っている(ため、好き嫌いの評価が極端に分かれる)のと非常に対照的です。
なお、「TRN BA5」のデザインは明らかに「TFZ KING EDITION」を意識しているのはバレバレですが、実際にはかなり形状は異なっており、装着性などはむしろ「TRN BA5」のほうが良かったりします。「TFZ KING EDITION」は実際の発売よりかなり以前から画像が公開されており、おそらくその画像を参考に「次のモデルはTFZの新機種みたいなフェイスデザインにしてね。TFZの製品が出る頃にウチも間に合うといいなぁ(ニヤリ)」みたいなやりとりがTRN内であったのではと思ったり(笑)。
実際、「TRN BA5」の発売時期は「TFZ KING EDITION」の海外版の発売直後ですし、国内版に至ってはそれよりかなり後になるため、完全に「TRN BA5」のほうが先に入手できたりする状況になっていましたね。まあ、実物は写真よりさらに雰囲気が異なりますのでほとんど気にならないと思います。
ちなみに低価格のマルチBAモデルというと、TRNはレジンシェルの「TRN X6」で6BA構成を出していますが、こちらは後述の通り、ビルドクオリティの高さに対し音質面では思い切り「加減を間違える」という以前のTRNで定期的に見られた「やらかし」全開の製品でした。またKZおよびCCAでは「KZ AS10」「KZ BA10」以降数多くのモデルを出していますが、個人的な「好みランキング」では低価格マルチBAで高評価をつけた「KZ AS12」(6BA)はもちろん、より上位グレードの「KZ AS16」(8BA)および「CCA C16」(8BA)と比較しても「TRN BA5」のほうが高評価となります。
■ 「TRN V90」 (4BA+1DD) 実質5,000円~ レビュー(2019年9月)
気付けばTRNの代表選手。バランスの良さの音場感が幅広い評価。現在も人気が絶讃拡大中
好み評点 195(総合評価 165 好み加点 30)
「TRN V90」は4BA+1DD構成のハイブリッドモデルで、構成的には「KZ ZS10 Pro」辺りと同様ですが、価格帯のグレードとしてはひとつ上の「KZ ZSX」および「CCA C12」(5BA+1DD)と競合するポジションになります。私のレビュー掲載時(2019年9月)および低価格中華イヤホンの好みランキング(2019年10月)で紹介した頃は「KZ ZSX」「CCA C12」に比べてマニアのなかでもマイナー感が否めない不人気機種でした。しかしその後徐々に評価が高まり、最近ではAliExpressで新色も見られるなど今後ますます注目度がアップしそうな「最も押さえておきたい」低価格中華イヤホンだと思います。
事あるごとに繰り返し書いていますが、その特徴は「KZとは異なるベクトルでのよりリスニング志向の音作り」にあると思います。「TRN V90」も「寒色系ドンシャリ」という最近の中華ハイブリッドではお馴染みのサウンドバランスを維持しながらKZがメリハリのある派手めのサウンド、CCAがボーカル寄りに若干ウォームさを持ったサウンドという「キャラ設定」を持っているとすると、「TRN V90」では中低域の音場感のリアルさが醍醐味でしょう。空間表現は立体的で広く、低域は深く厚みがあります。非常に力強く明瞭な中高域と、質の高い低域が絶妙なバランスで構成されている点は他の低価格中華ハイブリッドとは大きく異なるポイントでしょう。
ただリケーブルについては「TRN-T1」(8芯ミックス)または「TRN-T3」(8芯純銀線)または各セラーの4芯/8芯の銅線タイプがオススメで、「TRN-T2」など多くの中華イヤホンのリケーブルで利用される16芯銀メッキ線は派手になりすぎ、せっかくの音場感が損なわれてしまうのであまり相性が良くありません。逆に付属のケーブルでも十分な解像感が得られるのも特徴のひとつかもしれませんね。
■ 「TRN ST1」 (1BA+1DD) 2,400円 / 10.19ドル レビュー(2020年1月)
こっちのネタ元は日本未発売(^^;)。TRNの個性とバランスを両立した最新低価格モデル
好み評点 130(総合評価 110 好み加点 20)
実はTRNの最新モデルはこの新しい低価格モデルの「TRN ST1」になります。デザインは5BAモデルの「TRN BA5」に似ていますね。こちらは海外では「TFZ KING EDITION」とほぼ同じタイミングでリリースされ不人気ゆえに日本では未発売の「TFZ QUEEN LTD」のデザインをパクっています。またカラーバリエーションもかなり近い構成になっていますね。しかし、製品としての「TRN ST1」の完成度はかなり高く、Amazonで販売されている2千円台の価格設定でも十分にコストパフォーマンスに優れていますが、AliExpressではさらに半額以下、10ドルほどという衝撃的な価格設定になっています。
「TRN IM2」が悪くは無いけど中庸という印象だったのに対し、「TRN ST1」は分りやすく派手めのドンシャリで、ロックやポップスなどのボーカルを楽しめるイヤホン。明瞭感のある中音域に加えてキレがあるものの「TRN V10」のような刺さりはコントロールされた高域とパワフルながら歯切れの良さもある低域というわかりやすいサウンド。「V90」が質の高い中低域と音場感、「BA5」がスッキリしつつ情報量と解像感で差別化しているなかで、「TRN ST1」は聴きやすさと適度なアグレッシブさを持った「楽しさ」重視のイヤホンですね。おそらく今後も人気が継続するのは間違いなさそうです。
■ その他のTRNブランドのモデル(イヤホン)
「TRN IM2」 (1BA+1DD) 2,480円 / 20.16ドル レビュー(2019年6月)
「TRN IM2」は、名称はレジンシェルの「TRN IM1」と同じ系統になっていますが、実際には「レジンシェルの1BA+1DD」という点以外は全く異なるイヤホンです。3Dプリンティングによる非常にコンパクトなシェルは「IM1」とは別次元の高いビルドクオリティで見た目だけなら2千円台のイヤホンには全く見えない仕上がりです。
実はこのシェルは他のブランドでもODMで供給されており、見た目はソックリだがドライバー構成やチューニングが異なる製品が複数販売されています。そのなかには「DUNU DM480」のようなメジャーブランドの製品も含まれており、ケーブル製品等も含めODM供給元しての現在のTRNの姿を感じるプロダクトです。なお「TRN IM2」のサウンドはまさに「中庸」のひとことで突出した特徴はないもののネガティブな要素も少なく、オールラウンドに使いやすい印象。これも「ODMのベースモデル」という位置づけを考えるとうなずける要素かも知れませんね。
「TRN H2」 (1DD) 22.3ドル レビュー(2019年8月)
いっぽうシングルダイナミック構成の「TRN H2」はアマゾンでは販売されていない「TRM IM2」と同じ3Dプリンティングのシェルによる製品です。カーボンのフェイスパネルとステム部分のメッシュデザインが多少異なります。実は音質的にはハイブリッドの「TRN IM2」より8mmシングルダイナミックの「TRN H2」のほうが鮮やかさを持ちつつ自然なサウンドで非常に聴き応えのある鳴り方をします。もしかしたら、この構成のままどこかのメーカーのOEMまたはODMで出しているのかも知れませんね。どなたか情報があれば教えて頂けると幸いです。
「TRN V80」 (2BA+2DD) 4,800円~ / 26.60ドル レビュー(2018年7月)
「TRN V80」はTRNで最初の金属ハウジングのイヤホンで、「TRN V10」同様に2BA+2DD構成で登場。ちょうど時期的には「BQEYZ KC2」や「RevoNext QT2」「QT3」、そして「PHB EM023」といったブランドから「KZ ZS6」のフォロワーモデルが大挙して登場していた時期で、デザイン的には大きく外れるものの、私のブログではこれらの製品をまとめて「ZS6系イヤホン」と呼んで比較を行いました。ちなみに「TRN V80」のデザインはDUNUの「Falcon-C 隼」をがっつりパクリに来ていますね。毎度思うのですが、このパクる狙い所は何なんでしょうね?好みですかね。
ただ、ビルドクオリティは現在の「TRN V90」とは「雲泥の差」で、ステムノズルが外れやすかったり、ギラギラ塗装がちょっと下品だったりとあまり趣味は良くありません。音質的には寒色系ドンシャリを踏襲しながらも「TRN V10」から相当な進化が伺える仕上がりで、その後の製品につながる傾向が垣間見えます。アマゾンでもL.Sオーディオなどで購入できますが、AliExpressでは半額程度(26ドルくらい)で、このくらいの価格ならまあアリかな、という印象です。
「TRN X6」 (6BA) 9,880円 レビュー(2019年5月)
「TRN X6」はTRNが最初に手がけたマルチBAモデルですが、気合いが入りすぎてしまった「非常に惜しい」モデルでもあります。正確にはすでに販売終了となっており、アマゾンでもAliExpressでもセラーの在庫のみとなっています。アンダー100ドルの製品としてはかなり美しいクリアシェルに6基のBAユニットを搭載し、ネットワークにより綿密なチューニングを行うなど、同社としてもかなり力を入れて製品化した形跡が伺えます。しかし「TRN X6」の最大の「やらかし」は「インピーダンス 58Ω、感度 96dB/mW」という、低価格の6BAイヤホンの構成としてはにわかに信じがたい仕様にあります。
通常6BAともなるとインピーダンスが低く反応がよくなりすぎるため、スマートフォンの通常の音量では爆音になり、音量を下げるとホワイトノイズが大量発生する可能性があります。低価格機としてはスマホを無視できないため、ネットワーク的にクロスオーバーを処理するのと同時に抵抗である程度反応を下げるわけですが、「TRN X6」では「結構鳴らしにくいヘッドフォン」並みという、とんでもないアプローチを取りました。そのため、付属のケーブルではまったく鳴らし切らず、また相当な駆動力のある再生環境以外では籠もりのひどい音になってしまいました。ここで「TRN-T2」などの16芯銀メッキ線ケーブルにリケーブルして、しっかりした駆動力のポータブルアンプなどで鳴らすと中低域の深みと音場感を感じるサウンドを楽しめます。しかし、そのような環境に「追い込んで」使うマニア層と製品の購入層の乖離は大きかったようです。この「TRN X6」の反省がおそらく「TRN BA5」に生きているのだろうな、と思います。
■ その他過去モデル(販売終了または在庫限り)
それ以外の過去モデルを簡単にまとめました。詳細のレビューは過去の一覧からご覧ください。
→ 過去記事(一覧): TRNブランドのイヤホン/ケーブル/ワイヤレス製品のレビュー
「TRN V10」(または「TRN V40」) (2BA+2DD)
良くも悪くも「TRN」の鮮烈なデビュー作が「TRN V10」で数多くのセラーを巻き込んだ盛大な煽り広告により、多くのマニアが発売前のこの製品を予約で掴み、そして玉砕しました(ぉぃ)。なんというか、当時高い人気だった「KZ ZS6」(2BA+2DD)の「やたらメリハリの強い派手なドンシャリ傾向」を踏襲しようとして「加減を考えずにやりすぎた」というか、初期ロットの「TRN V10」はそんな感じのサウンドでした。
「TRN」というブランドはもともとKZにいた人がスピンオフして作った会社だという話が有りますが(真偽は定かではありませんが、KZとは競合関係で、CCAのようなKZの姉妹ブランドではないことは確かなようです)が、やっつけで作った感が否めず、いまひとつビルドクオリティが追いついていなかったこともサウンドに影響が出た原因のひとつかもしれません。
その後、サウンドチューニングを見直した後期型がリリースされているようで、追加された「白色」のカラーバリエーションは「TRN V40」という名称でも販売されました(現在AliExpressのオフィシャルストアではどちらも「TRN V10」として販売されています)。また同製品はTRNまたは製造元の工場から複数のブランドにもOEM供給している模様です。
「TRN V20」 (1BA+1DD)
この頃のTRNはまだ自社ファクトリーを持っていなかったようで、製品ごとに製造元のキャラクターが出ていたのが興味深いですね。この1BA+1DDハイブリッドの「TRN V20」は見た目も「V10」とは全く異なりますが、サウンドも全然違っていたって「普通」。とても安価で使いやすいイヤホンです。アマゾンも在庫限りで少し残っていますが、AliExpressのオフィシャルストアでも継続販売している模様。またこちらも製造元は「QKZ」など、複数のブランドにOEM供給している模様です。まあ実物は結構チープな感じですが使いやすいイヤホンですので(安ければ)良いと思います。
「TRN V30」 (2BA+1DD)
型番は「TRN V30」ですが「V80」以降の比較的新しい製品。初期ロットの「IM1」同様にTRNの「パクリ」マインドの健在さを感じさせる製品。なんというかそもそも「KZ AS10」のデザインって、パクる必要ありますかね? しかもやっつけで作った感満載でサイト掲載のCGの派手さに対し実際の製品のチープさといったら。。。サウンドはかなり派手めのドンシャリ。カラバリも持っていますが、個人的にはそれくらいの印象です。まあアマゾンでもV20同様に在庫限りだと思いますが、2,500円くらいだし2BA+1DDでは格安、ということで(うーん)。
「TRN V60」 (1BA+2DD)
TRNの伝説的「やらかし」モデル。1BA+2DDという特徴的な構成のイヤホンで見た目も悪くないと思うのですが、音質面が・・・。現在はAliExpressのオフィシャルストアでも販売無し。発売時のロットは明らかに製品としてNGレベルに崩壊したサウンドバランスと籠もりっぷりで閉口した製品です。
その後海外レビューサイトで「内部結線を間違えて製造したぽい」疑惑が掲載され(結線を直したら普通のサウンドになったらしい)、初期ロット「V10」以上のトンデモ商品認定を世界的に受けてしまいました。その後「改良版」が出荷されたようですが旧ロットも市場に混在していたため怖くて誰も手が出せず、そのまま販売終了になった模様。ちなみに、この製品を作ってた工場では他のブランド向けにしぶとく作っているので、どなたか挑戦してみるのも良いかもです。
「TRN IM1」/「TRN IM1 Pro」 (1BA+1DD) ※「TRN IM1 Pro」は現行モデルです。
TRNが手がけた最初のレジン製シェルのモデル。「TRN IM1」はフェイスパネルの接着剥がれが多発するなどビルドクオリティはお世辞にも高いとは言えませんでした。また「TRN」の悪いクセで「TRN IM1」ではフェイスデザインを「TFZ SECRET GARDEN 1」に寄せちゃうあたりが・・・「TRN IM1」の音質傾向的には「IM2」よりかなりハッキリしたドンシャリ傾向で次にリリースされた「V30」と同様のバランスよりとにかくメリハリ重視の印象でした。
この点はレジン製フェイスプレートを採用した改良版の「TRN IM1 Pro」では多少中音域を改善している模様です。ただ「TRN IM1 Pro」についてはアマゾンで出しているセラーは現在無いためAliExpressのオフィシャルストア(「TRN Office Store」)などで 24.59ドルで購入が必要です。
というわけで、TRNブランドの一斉まとめに挑戦してみました。こうやって見てみると、KZなどとはまた違う楽しさがありますね。本当はケーブル製品やワイヤレス製品も入れたかったのですが、さすがに長くなりすぎなので今回は省略しました。これらについれも詳細については過去記事にてレビューしていますので宜しければご覧ください。
→ 過去記事(一覧): TRNブランドのイヤホン/ケーブル/ワイヤレス製品のレビュー
今回は「TRN」ブランドを紹介しましたが、このようなメーカーごとのまとめも好評でしたら今後も時々やってみたいと思います。そうなるとやはり次は「TFZ」ですね。あのわかりにくいラインナップをどう整理するか、ちょっと考える必要はありますが・・・(^^;)。
→ 【低価格中華イヤホン】 「個人的な好みランキング」 トップ10 ※ 2019年10月編
■ 「TRN BA5」 (5BA) 6,780円~7,800円 レビュー(2019年11月)
見た目に騙されるな(笑)。「低価格マルチBA」ではトップクラスの完成度の5BAイヤホン
好み評点 200(総合評価 165 好み加点 35)
「TRN BA5」は「5BA」構成のマルチBAモデルで「TRN V90」に次いでTRNがリリースした製品です。「TRN V90」が音質面の高評価がマニア間でも広がり最近では人気が上昇していますが、こちらの「TRN BA5」も同等以上に素晴らしい完成度にも関わらず人気や認知度はいまひとつ。やはり「見た目」が足を引っ張っているのかもですね。
「TRN BA5」は音質的にもいわゆる「寒色系ドンシャリ」の中華イヤホンではお馴染みの傾向で、「TRN V90」同様に非常に明瞭かつスッキリしたバランスに調整されています。マルチBAイヤホン特有で見られがちな「低域の籠もり」は「TRN BA5」ではほとんど感じず自然な音場感でスッと抜けていく印象です。ネットワークによるクロスオーバーの調整に加えて、低域にベント(空気孔)付きのBAユニットを使用し、フェイス部分中央のメッシュ状の開口部から適度に「抜け」を作ることで全体的にスッキリしたサウンドに仕上げられているのが特徴的です。「TRN V90」のような独特の音場感はありませんが、こちらはよりタイトに1音1音を楽しみたい方に最適なモデルと言えるでしょう。
「TRN BA5」は構成的には同じ5BA構成の「KZ BA10」に近いのですが、「KZ BA10」がハウジング内で低域BAの音を反響させ音場感を作っている(ため、好き嫌いの評価が極端に分かれる)のと非常に対照的です。
なお、「TRN BA5」のデザインは明らかに「TFZ KING EDITION」を意識しているのはバレバレですが、実際にはかなり形状は異なっており、装着性などはむしろ「TRN BA5」のほうが良かったりします。「TFZ KING EDITION」は実際の発売よりかなり以前から画像が公開されており、おそらくその画像を参考に「次のモデルはTFZの新機種みたいなフェイスデザインにしてね。TFZの製品が出る頃にウチも間に合うといいなぁ(ニヤリ)」みたいなやりとりがTRN内であったのではと思ったり(笑)。
実際、「TRN BA5」の発売時期は「TFZ KING EDITION」の海外版の発売直後ですし、国内版に至ってはそれよりかなり後になるため、完全に「TRN BA5」のほうが先に入手できたりする状況になっていましたね。まあ、実物は写真よりさらに雰囲気が異なりますのでほとんど気にならないと思います。
ちなみに低価格のマルチBAモデルというと、TRNはレジンシェルの「TRN X6」で6BA構成を出していますが、こちらは後述の通り、ビルドクオリティの高さに対し音質面では思い切り「加減を間違える」という以前のTRNで定期的に見られた「やらかし」全開の製品でした。またKZおよびCCAでは「KZ AS10」「KZ BA10」以降数多くのモデルを出していますが、個人的な「好みランキング」では低価格マルチBAで高評価をつけた「KZ AS12」(6BA)はもちろん、より上位グレードの「KZ AS16」(8BA)および「CCA C16」(8BA)と比較しても「TRN BA5」のほうが高評価となります。
■ 「TRN V90」 (4BA+1DD) 実質5,000円~ レビュー(2019年9月)
気付けばTRNの代表選手。バランスの良さの音場感が幅広い評価。現在も人気が絶讃拡大中
好み評点 195(総合評価 165 好み加点 30)
「TRN V90」は4BA+1DD構成のハイブリッドモデルで、構成的には「KZ ZS10 Pro」辺りと同様ですが、価格帯のグレードとしてはひとつ上の「KZ ZSX」および「CCA C12」(5BA+1DD)と競合するポジションになります。私のレビュー掲載時(2019年9月)および低価格中華イヤホンの好みランキング(2019年10月)で紹介した頃は「KZ ZSX」「CCA C12」に比べてマニアのなかでもマイナー感が否めない不人気機種でした。しかしその後徐々に評価が高まり、最近ではAliExpressで新色も見られるなど今後ますます注目度がアップしそうな「最も押さえておきたい」低価格中華イヤホンだと思います。
事あるごとに繰り返し書いていますが、その特徴は「KZとは異なるベクトルでのよりリスニング志向の音作り」にあると思います。「TRN V90」も「寒色系ドンシャリ」という最近の中華ハイブリッドではお馴染みのサウンドバランスを維持しながらKZがメリハリのある派手めのサウンド、CCAがボーカル寄りに若干ウォームさを持ったサウンドという「キャラ設定」を持っているとすると、「TRN V90」では中低域の音場感のリアルさが醍醐味でしょう。空間表現は立体的で広く、低域は深く厚みがあります。非常に力強く明瞭な中高域と、質の高い低域が絶妙なバランスで構成されている点は他の低価格中華ハイブリッドとは大きく異なるポイントでしょう。
ただリケーブルについては「TRN-T1」(8芯ミックス)または「TRN-T3」(8芯純銀線)または各セラーの4芯/8芯の銅線タイプがオススメで、「TRN-T2」など多くの中華イヤホンのリケーブルで利用される16芯銀メッキ線は派手になりすぎ、せっかくの音場感が損なわれてしまうのであまり相性が良くありません。逆に付属のケーブルでも十分な解像感が得られるのも特徴のひとつかもしれませんね。
■ 「TRN ST1」 (1BA+1DD) 2,400円 / 10.19ドル レビュー(2020年1月)
こっちのネタ元は日本未発売(^^;)。TRNの個性とバランスを両立した最新低価格モデル
好み評点 130(総合評価 110 好み加点 20)
実はTRNの最新モデルはこの新しい低価格モデルの「TRN ST1」になります。デザインは5BAモデルの「TRN BA5」に似ていますね。こちらは海外では「TFZ KING EDITION」とほぼ同じタイミングでリリースされ不人気ゆえに日本では未発売の「TFZ QUEEN LTD」のデザインをパクっています。またカラーバリエーションもかなり近い構成になっていますね。しかし、製品としての「TRN ST1」の完成度はかなり高く、Amazonで販売されている2千円台の価格設定でも十分にコストパフォーマンスに優れていますが、AliExpressではさらに半額以下、10ドルほどという衝撃的な価格設定になっています。
「TRN IM2」が悪くは無いけど中庸という印象だったのに対し、「TRN ST1」は分りやすく派手めのドンシャリで、ロックやポップスなどのボーカルを楽しめるイヤホン。明瞭感のある中音域に加えてキレがあるものの「TRN V10」のような刺さりはコントロールされた高域とパワフルながら歯切れの良さもある低域というわかりやすいサウンド。「V90」が質の高い中低域と音場感、「BA5」がスッキリしつつ情報量と解像感で差別化しているなかで、「TRN ST1」は聴きやすさと適度なアグレッシブさを持った「楽しさ」重視のイヤホンですね。おそらく今後も人気が継続するのは間違いなさそうです。
■ その他のTRNブランドのモデル(イヤホン)
「TRN IM2」 (1BA+1DD) 2,480円 / 20.16ドル レビュー(2019年6月)
「TRN IM2」は、名称はレジンシェルの「TRN IM1」と同じ系統になっていますが、実際には「レジンシェルの1BA+1DD」という点以外は全く異なるイヤホンです。3Dプリンティングによる非常にコンパクトなシェルは「IM1」とは別次元の高いビルドクオリティで見た目だけなら2千円台のイヤホンには全く見えない仕上がりです。
実はこのシェルは他のブランドでもODMで供給されており、見た目はソックリだがドライバー構成やチューニングが異なる製品が複数販売されています。そのなかには「DUNU DM480」のようなメジャーブランドの製品も含まれており、ケーブル製品等も含めODM供給元しての現在のTRNの姿を感じるプロダクトです。なお「TRN IM2」のサウンドはまさに「中庸」のひとことで突出した特徴はないもののネガティブな要素も少なく、オールラウンドに使いやすい印象。これも「ODMのベースモデル」という位置づけを考えるとうなずける要素かも知れませんね。
「TRN H2」 (1DD) 22.3ドル レビュー(2019年8月)
いっぽうシングルダイナミック構成の「TRN H2」はアマゾンでは販売されていない「TRM IM2」と同じ3Dプリンティングのシェルによる製品です。カーボンのフェイスパネルとステム部分のメッシュデザインが多少異なります。実は音質的にはハイブリッドの「TRN IM2」より8mmシングルダイナミックの「TRN H2」のほうが鮮やかさを持ちつつ自然なサウンドで非常に聴き応えのある鳴り方をします。もしかしたら、この構成のままどこかのメーカーのOEMまたはODMで出しているのかも知れませんね。どなたか情報があれば教えて頂けると幸いです。
「TRN V80」 (2BA+2DD) 4,800円~ / 26.60ドル レビュー(2018年7月)
「TRN V80」はTRNで最初の金属ハウジングのイヤホンで、「TRN V10」同様に2BA+2DD構成で登場。ちょうど時期的には「BQEYZ KC2」や「RevoNext QT2」「QT3」、そして「PHB EM023」といったブランドから「KZ ZS6」のフォロワーモデルが大挙して登場していた時期で、デザイン的には大きく外れるものの、私のブログではこれらの製品をまとめて「ZS6系イヤホン」と呼んで比較を行いました。ちなみに「TRN V80」のデザインはDUNUの「Falcon-C 隼」をがっつりパクリに来ていますね。毎度思うのですが、このパクる狙い所は何なんでしょうね?好みですかね。
ただ、ビルドクオリティは現在の「TRN V90」とは「雲泥の差」で、ステムノズルが外れやすかったり、ギラギラ塗装がちょっと下品だったりとあまり趣味は良くありません。音質的には寒色系ドンシャリを踏襲しながらも「TRN V10」から相当な進化が伺える仕上がりで、その後の製品につながる傾向が垣間見えます。アマゾンでもL.Sオーディオなどで購入できますが、AliExpressでは半額程度(26ドルくらい)で、このくらいの価格ならまあアリかな、という印象です。
「TRN X6」 (6BA) 9,880円 レビュー(2019年5月)
「TRN X6」はTRNが最初に手がけたマルチBAモデルですが、気合いが入りすぎてしまった「非常に惜しい」モデルでもあります。正確にはすでに販売終了となっており、アマゾンでもAliExpressでもセラーの在庫のみとなっています。アンダー100ドルの製品としてはかなり美しいクリアシェルに6基のBAユニットを搭載し、ネットワークにより綿密なチューニングを行うなど、同社としてもかなり力を入れて製品化した形跡が伺えます。しかし「TRN X6」の最大の「やらかし」は「インピーダンス 58Ω、感度 96dB/mW」という、低価格の6BAイヤホンの構成としてはにわかに信じがたい仕様にあります。
通常6BAともなるとインピーダンスが低く反応がよくなりすぎるため、スマートフォンの通常の音量では爆音になり、音量を下げるとホワイトノイズが大量発生する可能性があります。低価格機としてはスマホを無視できないため、ネットワーク的にクロスオーバーを処理するのと同時に抵抗である程度反応を下げるわけですが、「TRN X6」では「結構鳴らしにくいヘッドフォン」並みという、とんでもないアプローチを取りました。そのため、付属のケーブルではまったく鳴らし切らず、また相当な駆動力のある再生環境以外では籠もりのひどい音になってしまいました。ここで「TRN-T2」などの16芯銀メッキ線ケーブルにリケーブルして、しっかりした駆動力のポータブルアンプなどで鳴らすと中低域の深みと音場感を感じるサウンドを楽しめます。しかし、そのような環境に「追い込んで」使うマニア層と製品の購入層の乖離は大きかったようです。この「TRN X6」の反省がおそらく「TRN BA5」に生きているのだろうな、と思います。
■ その他過去モデル(販売終了または在庫限り)
それ以外の過去モデルを簡単にまとめました。詳細のレビューは過去の一覧からご覧ください。
→ 過去記事(一覧): TRNブランドのイヤホン/ケーブル/ワイヤレス製品のレビュー
「TRN V10」(または「TRN V40」) (2BA+2DD)
良くも悪くも「TRN」の鮮烈なデビュー作が「TRN V10」で数多くのセラーを巻き込んだ盛大な煽り広告により、多くのマニアが発売前のこの製品を予約で掴み、そして玉砕しました(ぉぃ)。なんというか、当時高い人気だった「KZ ZS6」(2BA+2DD)の「やたらメリハリの強い派手なドンシャリ傾向」を踏襲しようとして「加減を考えずにやりすぎた」というか、初期ロットの「TRN V10」はそんな感じのサウンドでした。
「TRN」というブランドはもともとKZにいた人がスピンオフして作った会社だという話が有りますが(真偽は定かではありませんが、KZとは競合関係で、CCAのようなKZの姉妹ブランドではないことは確かなようです)が、やっつけで作った感が否めず、いまひとつビルドクオリティが追いついていなかったこともサウンドに影響が出た原因のひとつかもしれません。
その後、サウンドチューニングを見直した後期型がリリースされているようで、追加された「白色」のカラーバリエーションは「TRN V40」という名称でも販売されました(現在AliExpressのオフィシャルストアではどちらも「TRN V10」として販売されています)。また同製品はTRNまたは製造元の工場から複数のブランドにもOEM供給している模様です。
「TRN V20」 (1BA+1DD)
この頃のTRNはまだ自社ファクトリーを持っていなかったようで、製品ごとに製造元のキャラクターが出ていたのが興味深いですね。この1BA+1DDハイブリッドの「TRN V20」は見た目も「V10」とは全く異なりますが、サウンドも全然違っていたって「普通」。とても安価で使いやすいイヤホンです。アマゾンも在庫限りで少し残っていますが、AliExpressのオフィシャルストアでも継続販売している模様。またこちらも製造元は「QKZ」など、複数のブランドにOEM供給している模様です。まあ実物は結構チープな感じですが使いやすいイヤホンですので(安ければ)良いと思います。
「TRN V30」 (2BA+1DD)
型番は「TRN V30」ですが「V80」以降の比較的新しい製品。初期ロットの「IM1」同様にTRNの「パクリ」マインドの健在さを感じさせる製品。なんというかそもそも「KZ AS10」のデザインって、パクる必要ありますかね? しかもやっつけで作った感満載でサイト掲載のCGの派手さに対し実際の製品のチープさといったら。。。サウンドはかなり派手めのドンシャリ。カラバリも持っていますが、個人的にはそれくらいの印象です。まあアマゾンでもV20同様に在庫限りだと思いますが、2,500円くらいだし2BA+1DDでは格安、ということで(うーん)。
TRNの伝説的「やらかし」モデル。1BA+2DDという特徴的な構成のイヤホンで見た目も悪くないと思うのですが、音質面が・・・。現在はAliExpressのオフィシャルストアでも販売無し。発売時のロットは明らかに製品としてNGレベルに崩壊したサウンドバランスと籠もりっぷりで閉口した製品です。
その後海外レビューサイトで「内部結線を間違えて製造したぽい」疑惑が掲載され(結線を直したら普通のサウンドになったらしい)、初期ロット「V10」以上のトンデモ商品認定を世界的に受けてしまいました。その後「改良版」が出荷されたようですが旧ロットも市場に混在していたため怖くて誰も手が出せず、そのまま販売終了になった模様。ちなみに、この製品を作ってた工場では他のブランド向けにしぶとく作っているので、どなたか挑戦してみるのも良いかもです。
「TRN IM1」/「TRN IM1 Pro」 (1BA+1DD) ※「TRN IM1 Pro」は現行モデルです。
TRNが手がけた最初のレジン製シェルのモデル。「TRN IM1」はフェイスパネルの接着剥がれが多発するなどビルドクオリティはお世辞にも高いとは言えませんでした。また「TRN」の悪いクセで「TRN IM1」ではフェイスデザインを「TFZ SECRET GARDEN 1」に寄せちゃうあたりが・・・「TRN IM1」の音質傾向的には「IM2」よりかなりハッキリしたドンシャリ傾向で次にリリースされた「V30」と同様のバランスよりとにかくメリハリ重視の印象でした。
この点はレジン製フェイスプレートを採用した改良版の「TRN IM1 Pro」では多少中音域を改善している模様です。ただ「TRN IM1 Pro」についてはアマゾンで出しているセラーは現在無いためAliExpressのオフィシャルストア(「TRN Office Store」)などで 24.59ドルで購入が必要です。
というわけで、TRNブランドの一斉まとめに挑戦してみました。こうやって見てみると、KZなどとはまた違う楽しさがありますね。本当はケーブル製品やワイヤレス製品も入れたかったのですが、さすがに長くなりすぎなので今回は省略しました。これらについれも詳細については過去記事にてレビューしていますので宜しければご覧ください。
→ 過去記事(一覧): TRNブランドのイヤホン/ケーブル/ワイヤレス製品のレビュー
今回は「TRN」ブランドを紹介しましたが、このようなメーカーごとのまとめも好評でしたら今後も時々やってみたいと思います。そうなるとやはり次は「TFZ」ですね。あのわかりにくいラインナップをどう整理するか、ちょっと考える必要はありますが・・・(^^;)。