Astrotec Phoenix

こんにちは。今回はIC-CONNECTさんより試聴機をお借りして「Astrotec Phoenix」の紹介となります。大手メーカーのODM/OEMも長年手がけてきた中国のイヤホンブランド「Astrotec」が手がけるハインエンドモデルで同社初の「静電型ドライバー」(EST / Electrostatic  Driver)をデュアルでツィーターとして採用し、さらに新開発の10mmダイナミックドライバーと組み合わせた「2EST+1DD」ハイブリッド構成のイヤホンです。
IC-CONNECT:製品ページ(Astrotec Phoenix)

「静電型ドライバー」(コンデンサー型とも呼ばれます)を搭載したハイエンドな製品というと、「FitEar EST」や「ULTRASONE SAPHIRE」などマルチBA構成との組み合わせによるイヤホンやカスタムIEMが思い浮かびますが、「Astrotec Phoenix」は独自の10mmダイナミックドライバーを組み合わせた仕様です。
ハイエンドイヤホンにおける静電型ツィーターはほぼSonion製の独壇場で、「Astrotec Phoenix」でもSonionのデュアルESTユニットを採用しています。このユニットは低電圧設計で、多くの静電型ヘッドフォンや「Shure KSE1500」静電型イヤホンのような専用のアンプを必要としません。しかしその代わりとして非常に感度が低く、BAやダイナミックドライバーを組み合わせる上でバランスが取りにくい課題があるようです。
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そこで「Astrotec Phoenix」では静電ドライバーと組み合わせるために感度を合せた専用ダイナミックドライバーを新開発することで、この課題をクリアしたようです(すごい!)。ハイエンドモデルとして同社の意気込みが感じられますね。
このような理由から「Astrotec Phoenix」の感度は85dB/mWとイヤホンの中ではダントツに鳴らしにくく、本来のサウンドを実感するためには十分な駆動力が必要となります。価格だけでなく再生環境でも「利用者を選ぶ」製品で、まさにハイエンドなヘッドフォンのようにしっかりとした環境で聴くことで初めて本領を発揮できるという「本物志向」の製品といえるでしょう。
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同様に、シェルやケーブルも通常のイヤホンとは一線を画しており、ハウジングはウッド製。密度および硬度の高いカリン(花梨)の天然木材を採用し、個体ごとに異なる木目が楽しめるのはもちろん、木製ながら湿度や気温による収縮が少なく経年での音質変化の影響がない点もポイント。とはいえ紫檀などのローズウッドと並び硬質かつ高価な材料であるカリンは、イヤホンで使用するのは原価も加工費も非常にコストがかかるはずですので、まさに高級イヤホンならではのアプローチといえます。またケーブルも6N純度の高純度単結晶無酸素銅(OCC)線を採用。布張りの被膜はKevlar繊維を混合し高い耐久性と取り回しの良さを実現しています。

Astrotec Phoenix」の購入は主要なイヤホン専門店またはIC-CONNECTさんの直営およびアマゾンなどのショップにて。価格は 99,800円前後 となっています。
Amazon.co.jp(IC-CONNECT): Astrotec Phoenix


■ 美しい仕上がりのウッドハウジングと個性的なパッケージング構成。

Astrotec Phoenix」のパッケージは上質な白い化粧箱に覆われています。中に入っているグレーのボックスを開けると、上質なレザーケースと、メタルフェイス、ウッドハウジングの大きめのシェルに心が躍ります(^^)。
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Astrotec Phoenix」のパッケージ内容は、イヤホン本体、ケーブル、イヤーピース(グレーの変形タイプ、ブラックのタイプがS/M/Lサイズ、ウレタンタイプ)クリーニングブラシ、ポーチ、レザーケース、保証書など。
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本体はさすが高級イヤホン、と感じさせる上質なもので、木目の非常に美しく手触りの良い上質な仕上がりを実感します。ステムノズルは金属製で少し太めです。またカリン製のシェルは非常に硬度があり、金属製ほどではありませんが軽いという印象もない質感です。
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このウッドシェル自体が共振を抑える上で非常に良い役割をしているだろう事が外からも感じられるしっかりとした作りです。フェイスプレートには金属製のプレートが使われ高級感のある加工となっています。ハウジングはそれなりに大きさのあるものですが、グレーの変則型のイヤーピースを使用するとステム部分が耳穴奥まで装着でき、想像以上にしっかりとホールドできました。遮音性は一般的レベルです。多少好みはあるかと思いますが個人的にはこのイヤーピースの組み合わせは良いと思います。
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付属ケーブルは比較的太さのある4芯線ですが、しなやかさがあり取り回しは良いと思います。布張りの線材はとても手触りが良く、長時間の装着でもストレスがありません。情報量および音質面でも優れたケーブルですので、リケーブルの必要はまずないと思います。それでもMMCXコネクタを採用していますので様々なケーブルでの変化をみることもできますね。


■ 再生には相当な駆動力が必要。濃厚かつ透明感のある凛とした独特なサウンド。

Astrotec PhoenixAstrotec Phoenix」のサウンドは、良い意味で静電ドライバーらしさとダイナミックドライバーらしさを感じるバランスの良いドンシャリ傾向。ただし、概要で紹介した通り、本気を出すにはかなりの駆動力が必要です。ある程度パワーのあるDAP等であれば非常に分離が良く濃いめのサウンドが堪能できると思いますが、そこでさらに1段パワーのある環境で聴いてみると、ボーカル帯域も存在感を確保しつつ、非常に美しい音色ながら中高域に感じる心地良い緊張感と、キレのある力強い低域がより実感できます。他のイヤホンにはあまりない独特な印象ですね。
駆動力に関しては、手持ちの「Shanling M6 Pro」にはDual DACでの「Tuboモード」というハイゲインのもうひとつ上のモードがありますが、もともと非常にハイパワーなDAPのため、普段は「Tuboモード」は出力が強すぎてキツめのサウンドになってしまうパターンが少なくありません。しかし「Astrotec Phoenix」では「Tuboモード」で明らかに覚醒したようなサウンドを楽しめました。十分に出力の高いポータブルアンプや可能であれば据置きのヘッドフォンアンプを使って聴くことをお勧めします。

Astrotec Phoenix」の高域は静電ドライバーらしさを感じますが、しっかりと駆動力のある環境で鳴らすことにより、他のSonion製 静電型ツイーターを搭載したイヤホンでは得にくい、凛とした強さ、透明でまっすぐ伸びる緊張感のある高音および超高音を体験できます。これまでも多くのレビューで「明瞭で見通しが良い」とか「煌びやか」とか「伸びやか」という表現を用いてきましたが、「Astrotec Phoenix」の高域はこれらの言葉自体は当てはまるものの、他のイヤホンとは明らかに異質です。しいて言うなら「美音」です。それもスーパーモデルのようなシャープさのあるクールビューティですね。ただし、その美しさを実感するためには再生環境には全力を注いだ方が良いかもしれません。並のDAP程度の駆動力では物足りなく、薄く、高高域は十分に表現されない印象です。個人的にも前述の「Shanling M6 Pro」のTuboモードのほか、据置きのアンプ環境では抜群のサウンドを実感できました。

Astrotec Phoenix中音域は、高域と低域に強い主張があるにもかかわらず、ボーカル帯域を中心にしっかりとした存在感があり、明瞭かつ濃厚なサウンドを実感できます。しかし、こちらも駆動力が足りないと、1音1音の解像感の高さ、分離の良さは実感するものの、多少淡泊な音に感じてしまうと思います。しっかりとした出力のある再生環境下では非常に自然な印象で、過度の味付けがされていないにも関わらず、ボーカルには非常に厚みがあり、広く立体的な音場で臨場感のあるサウンドを堪能できます。僅かに中高域にハイ上がる感じはありますが不快ではなく、むしろボーカルの透明感や鳴りの美しさを際立たせる印象です。
専用に開発された10mmのダイナミックドライバーのレンジは広く、また多くの静電型ドライバー搭載イヤホンのようなマルチBA構成の組み合わせでは得られない、抜群のつながりの良さを感じます。人工的なメリハリがなく、あくまで自然な印象のまま、抜群の解像感と分離感で再生してくれるのがとても好感が持てます。調和した印象と、しかし決して緩くならず鮮やかさと透明感のあるサウンドを実現しているは上質かつ硬いカリンを使用したウッドハウジングならではのサウンドと言えるかも知れませんね。

低域は非常にキレがあり、パワフルです。ミッドベースは低域でも特に量感を感じやすい部分ですが、「Astrotec Phoenix」では厚みと力強さがあり、いっぽうで非常に締まりが良く過度に膨らむこと無くしっかり分離します。また重低音は深く解像感があります。硬質な音ではないのですが、スピード感のある曲でもしっかり対応できるレスポンスの良さがあり、濃淡も分りやすく表現してくれます。「Astrotec Phoenix」は仕様だけみると静電ツイーターによる高域に目が行きがちですが、これに合せて作られた専用ダイナミックドライバーの低域は非常に上質で、ドンシャリ傾向、ハイブリッドのサウンドが好みの方にはかなり好感できる低音ではないかと思います。そして「Astrotec Phoenix」のもっとも興味深いところは、このように表現力のある低域ながら人工的ではなく、やはりあくまで自然で、聴きやすいバランスでまとめられているということでしょう。

Astrotec PhoenixAstrotec Phoenix」は非常にオーディオ的なイヤホンです。確かにHi-Fi(原音忠実)だとは思いませんが、何かしらの味付けが有るわけでは無く、あくまで自然に、シンプルながら独特のドライバー構成が生み出す個性的なサウンドに、ただ魅了されるだけです。その意味であらゆるジャンルの曲に対応できるイヤホンで、ボーカル曲はとてもエネルギッシュに、インストゥルメンタルはエモーショナルに再生され、スピード感のある曲も情熱的なバラードでもキレや熱量を失うことはありません。しかし、再生環境はかなり選びますし、できるだけフラットでニュートラルなサウンドを好む方には「かなりの濃い味」に感じるかもしれません。やはり「人を選ぶ」イヤホンであることは間違いないですね。

個人的には「Astrotec Phoenix」の「この構成」と「このサウンド」で約10万円ほどの価格設定はかなりのディスカウントだと思います。まあ他のイヤホンのインフレーションが酷すぎるだけ、という気もしないでもないですが・・・(汗)。とはいえ決して安価なイヤホンではないですので、気になった方は是非とも試聴をお勧めします。その際にはパワフルなポタアンなど駆動力を稼げるアイテムもお忘れなく(^^)。