こんにちは。今回は「IKKO Musikv OH7」です。「Musikv」は「ムジーク」と読みます。見た目にとてもインパクトがありますが、それもそのはず、「IKKO Audio」(アイコーオーディオ)のフラグシップとして、「今できる技術力を惜しみなく投入」したという気合いの入った製品とのこと。今回はシングルダイナミックドライバー構成ですね。ハイブリッド構成の「OH10 Obsidian」は個人的にも愛用しているイヤホンのひとつですが、同社はいわゆるモニター系ではなくバランスの良いリスニングサウンドを得意とするメーカー、という印象です。今回の「IKKO Musikv OH7」も濃いめのテイストがたっぷり味わえるイヤホンで、ハイエンド製品の主流であるフラットサウンドとは対極にある製品と言えるでしょう。しかしそのサウンドはひとつひとつの質の高さに加え、全体的に濃厚であるにもかかわらず「上品」さがあり、他には無い独自の価値を生み出していると感じます。
→ IC-CONNECT:製品ページ(IKKO Musikv OH7)
「IKKO Musikv OH7」は同社のフラグシップとして並々ならぬ意気込みで作られたイヤホンで、オーケストラをその場で鑑賞しているような臨場感、楽器の定位や響き、ハーモニーをより忠実に再現できるサウンドを目指したようです。丹銅製シェルの独特なフェイスデザインは、通称「黄金のホール」と呼ばれ、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の本拠地として知られるウィーン楽友協会をモチーフにしたもの。その彫刻は職人の手彫りで1日2セットほどしか作れないハンドメイド。ここまでくると粋狂の域ですね(褒め言葉)。
また、サウンドバランスはジャンルもしっかりとこなせるオールマイティー性をベースに捉えており、クラシックに限らず様々な曲で楽しめるよう、こだわりをもったチューニングが行われています。実際、結構以前にリリース前のテストバージョンについて、私もイベント等でIC-CONNECTさんのブースで試聴できたのを憶えています。このように色々な場面で様々な意見も参考にしながら成熟を重ねて製品化をしているのが伺えますね。
「IKKO Musikv OH7」では、同社オリジナルの「高密度ナノカーボン振動膜 10mm ダイナミックドライバー」をシングルで搭載。ダイヤフラム(振動膜)には複合素材に独自のナノカーボン蒸着技術を使ったコーティングが施されています。従来のカーボンナノチューブ(CNT)やバイオセルロース・ナノファイバー(CNF)と比較して、「IKKO Musikv OH7」が搭載するダイナミックドライバーではナノカーボンの密度が高く、より薄く強靭かつ、柔軟で張りのある振動膜を実現しています。厚みのある低域に加え、スピード感と瞬発力があり、さらに静電ツィーターに近い高域もシングルダイナミックで表現可能になったとのことです。
ケーブルコネクタはMMCXを採用。付属ケーブルは3.5mmステレオと、4.4mm/5極のバランスケーブル、さらに4.4mmから2.5mmバランスへの変換ケーブルも標準で付属しています。線材には高純度単結晶銅(OCC)および銀メッキOCCのミックス線を採用。被膜にはPVC複合素材を採用し、柔軟性・強度・酸化に強く、タッチノイズの少ないケーブルとなっています。
「IKKO Musikv OH7」の購入は主要な専門店、およびIC-CONNECTさんの直営店やアマゾンなどのショップにて。価格は 129,800円前後 となっています。
Amazon.co.jp(IC-CONNECT): IKKO Musikv OH7
■ 手彫りの個性的デザインが印象的なコンパクトハウジング。付属ケーブルの豪華さにも注目。
「IKKO Musikv OH7」のパッケージは、高級イヤホンらしく、ボックスも非常に凝ったものです。帯状のカバーを固定するように木製のプレートが貼り付けられており、カバーを外し、プレートの上部のふたを開けると、コンパクトな丹銅製のイヤホン本体と、IKKOロゴのメタルバッジが現れます。下のふたを開けると、中身を引き出しタイプで取り出すことができます。中にはやはりしっかりしたレザーケースが入っており、改めて高級イヤホンであることを実感します。
パッケージ構成は、イヤホン本体、ケーブル(3.5mmステレオ、4.4mm/5極バランスケーブルの2種類)、2.5mmバランスへの変換ケーブル、イヤーピース(楕円形のシリコンタイプがSS/S/MS/M/L/LLの6サイズ、ウレタンタイプが3種類)、交換用のノズルメッシュパーツ(2ペア)、レザーケース、布製ポーチ、説明書。今回も非常に充実した内容です。
本体は丹銅の材質の色をそのまま活かした黄金色。そのため表面は塗装とは異なる材質そのものの質感があります。また、削り出しによるハウジングは非常にコンパクトですが、その独特のデザインはやはり存在感があります。ジュエリー職人による手彫りというフェイス部分はメーカーの想いの強さを感じますが、同時にちょっと「前のめり」感もあり、好みはちょっと分かれるかもしれません。個人的にはコンパクトなハウジングと言うこともあり、実際装着してみると思ったより派手な感じはしなかったので「これはこれでアリかな」と思ってはいます。また珍しくステムノズルは円形ではなく楕円形。そのため付属するイヤーピースもシリコンタイプは楕円形の独特なタイプとなっています。また先端のメッシュ部分は万が一破損時には交換ができるようになっており、交換用のパーツが2セット付属しています。
非常にコンパクトなハウジングのため装着性は良好なのですが、逆にイヤーピースをしっかり合せないとちょっと音抜けするような印象になります。また楕円形のイヤーピースは個人的には良い感じでフィットできたのですが、どのサイズも先端がやや細いこともあり、合わない方もそれなりにいらっしゃると思います。その場合はJVCの「スパイラルドット」や「スパイラルドット++」、Acoustuneの「AET07」など開口部の大きいタイプのイヤーピースに交換してフィット感を向上させるほうがよさそうです。また店頭で試聴の際も可能であればイヤーピースは合うものを持参したほうが良いですね。
ケーブルは見るからに高級感のあるものがアンバランス(3.5mmステレオ)とバランス(4.4mm/5極)の2本が付属します。また2.5mmへの変換ケーブルも付属します。ここで2.5mmコネクタのケーブルを付属させ、4.4mmへは変換コネクタで対応させる方が低コストなはずですが、あえて付属を4.4mmにしているあたりに「こだわり」を感じます。ケーブルのPVC複合素材の被膜は適度に硬さと弾力がありますが、手触りは非常に良く、取り回しの面でも使いやすいケーブルです。コネクタやプラグにも高級感があり、見た目にも本体ととても合うデザインになっていますね。
■ 広大な音場、底から沸き立つ低域、艶と伸びある中高域。驚くほど官能的なリスニングサウンド。
「IKKO Musikv OH7」の音質傾向はバランスの良いカーブを描くドンシャリ。冒頭に記載の通り、多くのハイエンドなイヤホンにみられるフラット傾向のサウンドとは一線を画すものです。感度は105dB/mWあるものの、インピーダンスが90Ωとイヤホンとしては非常に高く、そのサウンドを堪能するためには十分な駆動力が必要です。例えば、手持ちのDAPだと「FiiO M11」ではちょっと物足りなく、「Shanling M5s」でもギリギリで、もっとも出力の高い「Shanling M6 Pro」のハイゲインでようやく本来のサウンドを実感できた、という感じです。十分な駆動力が無いと、「IKKO Musikv OH7」のサウンドは聴きやすいバランスのドンシャリ、という感じで、その濃厚で深い低域も、艶やかで魅力的な中高域も今ひとつ感じる事ができないかもしれません。「IKKO Musikv OH7」では、パワフルなポータブルアンプや据置きアンプを併用した方が良い場合も多いかもしれませんね。
駆動力のある再生環境では「IKKO Musikv OH7」のサウンドは驚くほど広大な音場のなかで、どこまでも深くエネルギッシュな低域と、凛とした美しさのある高域、そして艶やかで柔らかく、包み込むような中音域に魅了される、とにかくエモーショナルで官能的なイヤホンです。イヤホンでこのようなアプローチのサウンドを、このクオリティで実現している製品はあまり思いつかず、その独特さは見た目以上だと感じました。個人的にはいっぽうでフラット傾向の製品も愛用していますが、「IKKO Musikv OH7」のサウンドは「これは凄い好きな音」と感じずにはいられませんでした。
「IKKO Musikv OH7」の高域は、見通しが明るく伸びやかな音を鳴らします。丹銅製ハウジングを活かした金属感のある音ですが、いっぽうで人工的な硬さや神経質さは無く、しっかりとした輪郭の明瞭さを感じつつも自然でまっすぐ伸びる印象です。シンバル音などは適度な煌めきがあり、刺激のある音は不快な歯擦音を感じない程度の鋭さもあります。搭載されるドライバーについて「静電ドライバーのような高域」という表記がありましたが、しっかりとした存在感を保ちつつ、歪みが無く美しく伸びる印象は確かに近いものがあるかも、と感じました。
中音域は驚くほど艶やかでエモーショナルなサウンドを実感できます。ドンシャリ傾向ながら凹むことはなく、演奏は自然な距離感で正確に定位し、ボーカルは艶があり心地良い響きと広がりのある音で再生しつつ、息遣いから余韻までしっかりと捉えます。女性ボーカルの伸びの良さは官能的ですらありますね。「IKKO Musikv OH7」はオーケストラなどの演奏に適したイヤホンであることは間違いないのですが、同時にボーカル曲においても思わずウットリするような魅力的な音を鳴らします。解像度はとても高いのですが、自然な空気感の演出ゆえに、印象としては柔らかさや温かさのほうが印象に残ります。音場は「広大」と思えるほど広く、立体的です。いわゆる左右に広がる感じではなく、文字通りコンサートホールがそこにあるような「広さ」です。そのため音の響きも非常に自然で、一般的なドンシャリ傾向のイヤホンと比較すると他には類の無い独特なものに感じるでしょう。モニター的な情報量や解像感とも、メリハリとキレのある寒色系のサウンドとも全く異なる、クラシックやジャズの「美味しいところ」を引き出すような伸びやかさと広さがあり、いっぽうでポップスなどのボーカル曲でも心奪われるような華やかさを感じる、柔らかく艶やかな音色です。
低域は非常に深くまで沈み、心臓の奥まで響くような重低音に耳が奪われます。量的には非常に多くパワフルですが、籠もりなどで中高域をマスクすることは一切無く、同時に極めて自然につながり、分離します。そして、重低音がどこまでも深いところからぐっと伸びて広がって行く壮大な印象は、普通イヤホンではちょっと味わう事ができない感動的な体験です。低域が強めのイヤホンの場合、一般的にはミッドベースを中心に厚みを持たせたり、反響音による膨らみがあったり、というアプローチが多くありますが、「IKKO Musikv OH7」ではミッドベースが過度に膨らむことはなく、いっぽうで唸るように鳴るサブベースが低域全体を自然に支える印象です。そして、オーケストラホールを再現したような広大な音場を引き立たせ、適度に柔らかく、適度に温かく、全体を包み込みます。
「IKKO Musikv OH7」はあらかじめ3.5mmステレオとバランス接続(4.4mm/5極タイプ。2.5mm/4極には付属変換ケーブルで対応可能)に対応したケーブルが付属します。使用するDAPなどのプレーヤーやアンプの仕様にもよりますが、バランスケーブルを使用することで分離性が向上することもあり、全体的な明瞭さが増す印象になります。しかしどちらの場合も人工的なメリハリになることは無く、「IKKO Musikv OH7」の特徴を活かした範囲での変化ですね。もともと非常にクオリティの高いケーブルですので、リケーブルの必要はありませんし、むしろ劣化する場合も考えられますので、付属ケーブルでどちらか好みのほうを使うのが良いと思います。
「IKKO Musikv OH7」は、繰り返し記載の通り、クラシックとの相性は抜群に良く、ジャズなども非常に心地良く楽しめます。またポップスなどのボーカル曲の相性も良く、女性ボーカルの美しさからアニソンなども心地良く楽しめると思います。その他多くのインストゥルメンタルも音場の広さ、定位の良さから良いと思います。
いっぽうでハードロックなどはやはり柔らかすぎる印象を持つかも知れませんし、明瞭感や疾走感、キレのあるサウンドを好まれる方には向きません。またフラット傾向であったりモニター系のサウンドとは真逆ですので、その辺で好みが分かれることも多いと思います。さらに再生環境を大きく選ぶことや、メーカーの「想い」がちょっと前のめりになった個性的すぎるデザインで敬遠される方もいらっしゃると思います。そういった意味で「好き嫌いが大きく分かれる」「人を選ぶ」イヤホンであることは間違いないですが、合うに人にとっては唯一無二の素晴らしい製品だと感じています。
今回もIC-CONNECTさんから試聴機を比較的長期間お借りしてのレビューとなりましたが、私自身「IKKO Musikv OH7」のサウンドに魅了されたひとりで、これから購入も検討しています。もし店頭で試聴が可能な方で興味を持たれましたら、ぜひとも試聴をお勧めします。本当に、良いイヤホンですよ(^^)。
※というわけで、私も結局「買取り」にしました。また金色シングルダイナミックが増えてしまいましたね(^^;)。
手彫りの装飾なんて音に関係ないところにコストかける前にもっと基礎的なところをしっかりすべきじゃあないのかな