CVJ CSN

こんにちは。というわけで以前から届いていたものの未レビューだったイヤホンを集中して紹介するシリーズの3回目、前回に引き続き中国の新しいブランド「CVJ」の製品です。 今回は金属シェルに5BA+1DDのハイブリッド構成を搭載した上位モデル「CVJ CSN」を紹介します。手元に届いたのは6月中旬~下旬、ちょううど引っ越しでバタバタしている頃だったかと思います(^^;)。前回の「CVJ CSA」のレビューでも記載した通り、「CVJ」は2019年に誕生した新しい中華イヤホンのブランドで、ところどころにTRNとの類似性や共通性が見受けられるものの、今のところ同社のサブブランド(KZに帯するCCAのような存在)ではく、自身で工場を持つメーカーのようです。もしかするとTRN製品の製造を委託されているOEMやODMの会社がベースなのかもしれませんね。
CVJ CSNCVJ CSN

そして今回の「CVJ CSN」は5BA+1DDのハイブリッド構成のイヤホンです。「10mm 二重磁気回路ダイナミックドライバー」にバランスド・アーマチュア型(BA)ドライバーとして「30095」と「50060」の複合ユニットを2セット、さらに単独で「30095」ユニットを加えた5BA+1DDの構成となっています。
5BA+1DDというと低価格中華イヤホンでは「KZ ZSX」や「CCA C12」といった売れ筋モデルが存在しており、「CVJ CSN」も採用BAユニットの仕様的にはこれらの製品と近い内容になっています。しかし、「CVJ CSN」では特徴的なメタルハウジングを採用するとともに、これらのBAユニットの配置が大きく異なります。
CVJ CSNCVJ CSN
CVJ CSN」と同じ5BA+1DD構成の「KZ ZSX」および「CCA C12」は、ハウジング内の「10mm 二重磁気回路ダイナミックドライバー」の外周に「30095」と「50060」の複合ユニット(KZ/CCAの製品説明では「DWFK」と表記)を2セット配置し、ステムノズル部分にさらに「30095」ユニットを1基搭載しています。またTRNの金属ハウジングに6BA+1DD構成の「TRN VX」でもほぼ同様のユニットレイアウトでステム部分の「30095」を2基にすることで6BA+1DD仕様にしています。

しかし、「CVJ CSN」では、複合ユニットのうち1セットをステムノズル部分に配置し、ダイナミックドライバーの外周にはもう1セットの複合ユニットと単独の「30095」を配置するレイアウトになっています。これはどちらかというと4BA+1DD構成の「CCA C10」のレイアウトを元にして、ダイナミックドライバーの外周に「30095」を追加した構成、というほうが近いかもしれませんね。

CVJ CSNCVJ CSN

CVJ CSN」の購入は「Easy Earphones」など、AliExpressの主要セラーにて。価格は 50.56ドル です。AliExpressでの購入方法などはこちらを参照ください。
AliExpress(Easy Earphones): CVJ CSN


■ TRNぽさも感じるメタルハウジング。ただその中身はCCA C10を踏襲したグレードアップ版かも

CVJ CSN」のパッケージも「CVJ CSA」同様に「木製」のボックスに入って届きました。この箱は木粉を圧着したいわゆる繊維材が使われています。紙の箱じゃない時点でKZ/CCAやTRNとは一線を画してますが、さらに布製のポーチやケーブルタイなど付属品も少しですが充実度がアップしています。
CVJ CSNCVJ CSN
パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル、イヤーピース(S/M/Lサイズ)、ケーブルタイ、布製ポーチ、説明書・保証書など。「CVJ CSA」とほぼ同じ構成ですね。
CVJ CSNCVJ CSN

CVJ CSN」の本体はCNC加工されたアルミニウム・マグネシウム合金製のハウジングでステムノズルのみ樹脂製。フェイスパネルは中央に向かって盛り上がるような面取りがされており、中央付近にベント(空気孔)があります。KZ ZST以降の中華イヤホンでは比較的お馴染みの形状で、装着感についても違和感は少ないでしょう。素材的には「TRN V90」などTRNの金属製ハウジングの製品と同じもので表面処理も非常に似ています。ステムの樹脂パーツは微妙に形状が異なりますが、少なくともハウジング筐体は同じ向上で作っている可能性が高いですね。
CVJ CSNCVJ CSN
ただし、「CVJ CSN」のフェイス部分を除いたハウジング形状は樹脂製と金属製の違いはあるものの「CCA C10」とほぼ(全く?)同じであり、ドライバーの配置も含め、ベースの部分ではチューニングを参考にしたのだろうと想像できます。「CVJ CSA」もそうでしたが、部分的とはいえ、要するにKZ/CCAの意匠やチューニングをそのまま模倣しているのかな、と思われます。いっぽうTRNはこれまでのモデルを見る限り、ドライバー構成がほぼ同じになることは少なくないとして、このような模倣は一切行っておらず、あくまで自社のチューニングで製品を仕上げています(良くも悪くも)。この辺からも「CVJ」はTRNと部品サプライヤーや工場が同じ可能性はあるものの、会社としては直接のつながりはなさそう、と感じました。
CVJ CSNCVJ CSN
ちなみに、「CVJ CSN」のドライバー構成は、「KZ ZSX」や「CCA C12」と非常によく似ていますが、前述の通り、その配置は「CCA C10」に近いものになっています。

 「CVJ CSN」:  ステム部「30095+50060」、 ハウジング部「30095+50060」+「30095」+DD
 「CCA C10」:  ステム部「30095+50060」、 ハウジング部「30095+50060」+DD
 「KZ ZS10 Pro」: ステム部「30095」、 ハウジング部「30095」+「50060」×2 +DD
 「KZ ZSX / C12」: ステム部「30095」、 ハウジング部「30095+50060」×2 +DD
 「TRN V90」:   ステム部「30019」×2、 ハウジング部「50060」×2 +DD
 「TRN VX」:   ステム部「30095」×2、 ハウジング部「30095+50060」×2 +DD


付属ケーブルはTRN付属の銅線ケーブルに非常に近い2pinプラグを採用しており線材も似ています。しかし他の部品は似た形状ですが実際は異なりますし、線材も微妙に違いがあります。イヤーピースも付属品のほか、よりフィット感を高めたい場合は定番のJVC「スパイラルドット」やAcoustuneの「AET07」、AZLA「SednaEarfit Light」「SednaEarfit Light Short」など開口部が広く、耳にフィットするタイプのイヤーピースに交換するのもお勧めです。


■ バランスの良いサウンドをベースに中高域を強化。使い勝手の良いもうひとつの5BA+1DD。

CVJ CSN」の音質傾向は中華ハイブリッドらしいドンシャリですが、サウンドバランスは「KZ ZSX」や「CCA C12」より各音域の主張は強めながら全体としてはスッキリめにまとめられています。また前述のドライバー構成のこともあり、改めて「CCA C10」と聴き比べてみると、予想通り、「CVJ CSN」の中低域の表現は「CCA C10」に非常に近い印象でした。「CCA C10」の高域を強化し、全体的により硬質でスッキリ感のある印象にアップグレードしたイヤホン、という「CVJ CSN」の仕様から想像される「そのまま」のサウンドです。
CVJ CSN「CCA C10」はリリースから2年近く経とうとしている製品ですが、CCAブランドが一気にマニアの間で浸透した人気モデルですね。最近「KZ ZS10 Pro」をベースにした「CCA C10 Pro」がリリースされ、いよいよ本格的にモデルチェンジ、販売終了となりそうですが、現在も根強いファンが多い製品だと思います。この「CCA C10」からのグレードアップとして用意されているのが「CCA C12」ですが、個人的には「CCA C10」からのアップグレードとしては「CVJ CSN」のほうが分りやすいアプローチかも、という気もします。

CVJ CSN」の高域はやや硬質で解像感のある音でスッキリした印象。伸びやかな見通しのよい音を鳴らします。明瞭感があり、金属質な煌めきも感じます。「KZ ZS10 Pro」と同程度の鋭さがありますが「CVJ CSN」のほうが密度があり、ディテールの描写は鮮明です。いっぽう、「TRN VX」などのTRN製イヤホンと比べると多少温かみもあり、結構絶妙なバランスです。クールさと聴きやすさのバランスをとったような高域はこのイヤホンの最もポイントとなる部分かもしれませんね。
CVJ CSN中音域も解像度は高く明るく癖のない音を鳴らします。曲によっては僅かに凹みますが、ボーカル帯域は比較的前に定位し、十分な主張があります。ニュートラルで濃密さのある中音域は「CCA C10」とよく似ていますが、「CVJ CSN」は女性ボーカルのハイトーンはより抜けが良く綺麗で、クールさと解像感をより得やすいサウンドになっています。演奏も美しく、非常に鮮明な描写ですが、雰囲気のある曲でもハッキリと表現しすぎる点は好みが分かれるかもしれません。
低域は解像度が高く分離の良い音を鳴らします。フェイス部分の中央付近にあるベント(空気孔)からの音抜けにより自然で聴きやすい低域を実現しています。ミッドベースは十分な量感があり膨らむこと無く鳴ります。重低音の沈み込みも良好で、最近のKZ/CCA/TRN製品と遜色ない低域といった印象です。ただ量的には「KZ ZSX」「CCA C12」と「TRN VX」の中間くらいで、パワフルな低域を好まれる方にはやや物足りないかもしれませんね。

CVJ CSN」の音場は比較的広く立体的ですが、付属ケーブルではいまひとつ本領が発揮できない印象もあります。情報量の多いケーブルに交換することで音場が立体的になり、より定位感のあるサウンドが楽しめます。ケーブルは音質傾向を変化させずに特徴を活かすタイプが良いと思います。「NICEHCK C16-1」「YYX4865」など定番の中華16芯ケーブルのほか、「NICEHCK GCT4」「YYX4859」といったOFHCケーブルなども相性が良い印象でした。
CVJ CSNCVJ CSN

というわけで「CVJ CSN」は、まあ製品の中身を考えればそれはそうだろう、という側面もありますが十分に手堅く、もうひとつの「CCA C10 進化版イヤホン」という印象を感じるものでした。デザインも手堅く、リケーブルなどの汎用性も高いため、興味があれば購入しても十分に実用的でお勧めできるイヤホンだと思います。

CVJ CSNいっぽうで、個人的には今回の「CVJ CSN」を通じて、「CVJ」は少なくとも「TRN」や「KZ」とは直接関係しないブランドだろうと改めて感じました。ハイブリッド構成のイヤホンの場合、もっとも中心となるドライバー部分の仕様やネットワークでの調整に加えて、各ドライバーユニットの配置やハウジングの形状および材質もサウンドチューニングの重要な要素になります。KZ/CCAやTRNなどの製品の場合、ドライバーユニットの相当品の調達さえ可能であれば、中華イヤホンのメーカーであればよく似た製品を作り出すこと自体は可能でしょう。そのうえで独自のアレンジを加えたり性能アップを行うことで「新たな自社製品」を生み出すという流れは中華イヤホンの世界では過去にもちらほら見かけるものです。問題はここから先の製品でいかに独自色をメインに出してくるかがポイントになります。
そういった意味では新製品の3BA+1DDモデル「CVJ CS8」は非常に興味深いところです。こちらも既に購入していますので、届くのを楽しみにしたいと思っています。