TRN V90s

こんにちは。今回は「TRN V90S」です。中国のイヤホンブランド「TRN」の大人気モデル「TRN V90」のアップグレード仕様モデルとなります。最近のKZの怒濤の攻勢もあり、先日レビューした8BAモデルの「TRN BA8」も含め、今ひとつ話題に挙がらない雰囲気がありますが、今回も非常に完成度は高く、多くの方にお勧めできるイヤホンだと思います。
ライバルとして先行する KZ は「スペックモンスターであり続けること」に資金力や技術力を全振りしたような「話題先行型・マーケティング重視型」のアプローチが最近ますます色濃くなっているのに対して、TRNはKZとのスペック競走にある程度は追尾しながら、いっぽうでじっくり製品を熟成させて「普通に良いイヤホン」を作ろうとしてる、という印象もあります。そういったなかで生まれた「熟成モデル」の「TRN V90S」は、これまでの低価格中華ハイブリッドに多少食傷気味になっているようなマニアでも好感しやすいイヤホンでは、と思っています。

TRN V90sTRN V90s

2019年にリリースされた「TRN V90」といえば、「TRN」が品質面でも音質面でも「大化け」した出世モデルとして知られます。「TRN V90」以降の安定したサウンドと品質で、かつては「当たり外れの大きいメーカー」とマニアの間でささやかれていた同社の評価が一変したきっかけともいえる製品です。個人的にも「TRN V90」は低価格中華ハイブリッドのなかでも特に好みのイヤホンで、昨年の「好みランキング(低価格中華イヤホン編)」ではハイブリッド製品としては「実質」トップの評価をしました。

TRN V90Sそして今回の「TRN V90S」は、BAを1基増やし「5BA+1DD」構成にアップグレードし、「V90」にあったフェイス部分のベント(空気孔)を無くした「密閉型」仕様となりました。いうならHD800に対するHD820というか、K812に対するK872というか(例えが大げさすぎ)、まあそんな感じかなと(ホントかよ)。
音質傾向的にも「TRN V90」の中低域に厚みと包み込むような音場感のあるドンシャリ傾向を踏襲しつつ、よりバランスの良さを突き詰め、完成度を高めた印象です。50ドル程度の「低価格中華ハイブリッド」としては現時点でもっとも「メイン使い」に向いている、お勧め度の高いイヤホンだといえるでしょう。

TRN V90S」は5軸CNC加工によるアルミニウム合金製の金属ハウジングを採用。「TRN V90」にあったフェイスプレート部分のベント(空気孔)は無く、フェイスデザインは最近の「TRN VX」や「TRN BA8」を踏襲したシンプルなものに変更されています。
TRN V90sTRN V90s
TRN V90S」のドライバー構成は5BA+1DDで、ステム部分に高域用の「30019」が2基、ハウジング部分に「50060」が2基と、位置をずらして「50060」がもう1基配置され、「TRN V90」の4BA+1DDよりアップグレードされた構成になりました。さらにハウジング中心部分には10mmサイズの「High-flux」二重磁気回路ダイナミックドライバーを搭載。従来の「二重磁気回路ダイナミックドライバー」よりインピーダンス特性および感度を向上させた高出力仕様、つまり「より低域が向上した」といった感じでしょうか。ここに追加された「50060」が加わることで中低域のバランスをコントロールしているようです。これら各ドライバーのクロスオーバー(音域の重なり)を調整するネットワーク基板は、ダイナミックドライバーの背面に設置され、最適なバランスで出力されるようにコントロールされています。
TRN V90sTRN V90s

TRN V90S」のドライバー構成は「TRN V90」同様にTRNだけでなくKZの製品と比較してもやや異なる組み合わせであることが分ります。特に6BA+1DD構成の「TRN VX」と同じメーカーながらアプローチが大きく異なる点については、音質的にどのように影響しているのか注目しておきたいところですね。

TRN V90S:  (ステム部) [30019]×2 (ハウジング部) [50060]×2+[50060]+10mmDD
TRN V90:  (ステム部) [30019]×2 (ハウジング部) [50060]×2+10mmDD
TRN VX:    (ステム部) [30095]×2 (ハウジング部) [50060]×2+[50060+30095]+10mmDD
KZ ZAX:    (ステム部) [30095] (ハウジング部) [30019]×2+[50024 (2BA)]×2+10mmDD 
KZ ZSX:    (ステム部) [30095] (ハウジング部) [DWEK (2BA)]×2+10mm DD

また、「TRN V90S」ではコネクタ部分が最近のモデル同様「タイプC」仕様に変更になりました。また付属ケーブルも従来のブラックのOFC線から、ダークブラウンの6N OCC線にグレードアップしました。カラーバリエーションは「レッド」と「ブラック」の2種類が選択できます。
TRN V90sTRN V90s

TRN V90S」の購入はAliExpressの各セラー、またはアマゾンにて。価格は 49.80ドルです。また、アマゾンでは「L.S オーディオ」で販売しています。アマゾンでの価格は 6,980円です。
AliExpress(TRN Offical Store): TRN V90S 
Amazon.co.jp(L.S オーディオ): TRN V90S


■ 最近のTRN製イヤホンを踏襲したシンプルなデザインに変更。装着性の高い金属製ハウジング。

TRN V90S」のパッケージは従来通りのラインアートの白箱タイプ。内容も従来通り、イヤホン本体、ケーブル、イヤーピース(S/M/L)、説明書、保証書などの最小構成です。
TRN V90sTRN V90s
TRN V90sTRN V90s

TRN V90S」の本体はアルミ合金の金属製ハウジングですが、ステム部に2基のBAドライバーを収納している関係でノズルの部品のみ樹脂製。この辺は「TRN V90」と同様ですが、平面的なデザインのフェイスパネルになったこともあり、サイズ的には「V90」に比べて「TRN V90S」は少しだけ大きくなった印象です。ただ平面部分の形状は「V90」と同じく耳にフィットしやすい形状になっています。
TRN V90sTRN V90s

実際の大きさを比較すると、「TRN V90S」と既存の「TRN V90」、そして「TRN VX」の大きさの違いはあまりなく、3機種とも5ドライバー以上を搭載したマルチドライバー仕様でメタルハウジングのイヤホンとしては比較的コンパクトにまとまっていると思います。メタルハウジングにドライバーをみっちりと詰めている、という感じですね。
TRN V90sTRN V90s
この構造もより制振性を高めて、音質を安定させる要素になっていそうですね。「TRN V90S」は「TRN VX」同様に密閉型の構造(ベントは背面に小さい穴が2カ所程度)のため、「TRN V90」や「BA5」のような音漏れを心配する必要もありません。遮音性も一般的なレベルを確保しているため、屋外でも安心して利用できますね。
TRN V90STRN V90S
また「TRN V90S」の装着性も「TRN V90」同様にとても良く、比較的すっぽりと耳に収まる印象です。背面に耳に合せた突起のあるタイプの形状は耳にひっかかる、という方もいらっしゃるようですが、「TRN V90S」は比較的緩やかでまたサイズも大きくないため、耳の小さい方も含めて多くは問題ないと思います。イヤーピースも付属品のほか、定番のJVCの「スパイラルドット」やAcoustuneの「AET07」、AZLA「SednaEarfit Light」など開口部の大きいイヤーピースを合せてより装着感を向上させるのも良いと思います。


■ 他の中華ハイブリッドとは一線を画するサウンドをさらに進化。完成度の高いリスニングイヤホン。

TRN V90sTRN V90S」の音質傾向は、やや中低域寄りのドンシャリ。TRNらしい硬質さも感じる音ですが、「V90」を踏襲し、それ以上に中低域の厚みや包み込むような音場感があります。多くの低価格中華ハイブリッドの多少人工的なギラつきを感じる印象とはかなり異なるサウンドです。さらに「V90」より低域の出力が向上し、あわせて中音域、中低域のクロスオーバーも改善され、より癖のないニュートラルなサウンドになっています。また中低域の増加に伴い、相対的に高域は「V90」より聴きやすくなった印象で、中華イヤホンに慣れていない方でも「普通に良い音」に感じるバランスに仕上がっています。
いっぽうで「V90」のちょっとクセのある感じと比較して「キャラクターの強さ」という方向性はなくなってきていますね。個人的には普段から色々なイヤホンを使い分ける関係もあり、より個性が際立つ「V90」の方が楽しいと思ってしまうフシもあるのですが(^^;)、おそらくこの価格帯でメインで使う1個を選ぶ、となった場合は「TRN V90S」は確実に優れた製品だといえるでしょう。

TRN V90S」の高域は、明瞭で伸びのある「TRN」らしい鮮やかさをもちつつ、適度にコントロールされた印象の鳴り方をします。シンバルなどは非常に自然な抜けの良さで、解像感より綺麗さを意識したようなチューニングを感じます。金属製ハウジングを活かした「TRN」らしい硬質で煌めきのある音ですが、いっぽうで刺激を感じやすい帯域はより自然に抑制されている印象があります。また中低域の主張が強くなることで相対的に高域の刺さりやすい帯域は控えめとなっており、いっぽうで高高域はしっかりとした主張を保つことで聴きやすくもスッキリとして見通しの良い印象に仕上げています。
TRN V90STRN V90S」は「V90」同様に高域用BAに「30019」をデュアルで使用し、同じユニットで高高域まで鳴らす仕様になっています。他のTRN製品やKZ/CCA製品では高域用BAに「30095」を使用することが多く、「TRN V90S」と同じく「30019」をデュアルで使っている「KZ ZAX」でもスーパーツィーターとして「30095」を併用しています(KZもTRNも自社製BAとしていますが、どちらも同じBellsing製BAユニットをベースにしていると考えられます)。「30095」はキレのある明瞭な高域を鳴らすいっぽうで、中華ハイブリッド特有のちょっとギラつきのある金属音のもとになっているとも考えられ、このドライバーの違いも「TRN V90S」および「V90」がちょっと質の違う高域になっている理由のひとつかもしれませんね。

中音域は曲によっては僅かに凹みますが、ボーカル帯域はしっかりとした存在感がり、さらに自然な距離感で定位することで広さと奥行きのある音場感を演出してくれる印象です。「TRN V90」ではよりドンシャリ傾向が強く感じましたが、「TRN V90S」では中音域の主張が増し、いっぽうでより癖のない自然で広さのある空間表現で再生してくれる印象です。また「TRN」らしいクールさを適度に保っており、解像度高く分離も非常に良いため、演奏も含め細かい音もしっかり聴き分けることができます。ボーカルは適度な濃さがあり、抜けも良く、女性ボーカルのハイトーンやピアノの高音なども綺麗に伸びてくれるのが実感できます。さらに「V90」より中低域のつながりの良さが向上しており、よりハイブリッド感の少ない自然なサウンドという印象です。
TRN V90S」の中音域は「TRN V90」と比較してより厚く、バランスと質感を向上した印象といえるでしょう。また「TRN VX」のようにキレの良さや明瞭感をより前面に出した中華ハイブリッドらしい派手めのサウンドとは傾向が異なりますが、「TRN V90S」は明瞭さとスピード感を維持したまま癖のない自然な中音域に仕上がっており、中華イヤホンの傾向にあまり耳馴染みのない方でも聴きやすくバランスの良いサウンドだと感じるのではと思います。

TRN V90S低音域は、抜けの良さを感じつつ、バランスの良い音を鳴らします。「TRN V90」よりダイナミックドライバーに改良が加えられ全体的に出力が向上しており、さらに中音域とのバランスを補うため「50060」BAドライバーが1基追加されています。そのため中低域からのつながりの良さが向上し、より密度のある低域を実感できるように変化しています。解像度は高く、情報量の多さを感じる低音で、また中高域との分離の良くベースラインもしっかり捉えることができます。また十分に駆動力のある再生環境では沈み込みも良く、重低音も低価格イヤホンとしては良好な印象です。非常に整った印象の低音でパンチの効いた濃密さを感じつつ、スピード感のある極にも分離の良さがあります。同時に各音域とのバランスはしっかりとれており、全体的には自然な低音を鳴らしてくれるます。
ちなみに「TRN V90」より「TRN V90S」の低域のほうがニュートラルにまとめられているため、より直線的な印象に変化しました。これは多くの場合で好感される違いですが、「V90」は中低域から包み込まれるような独特の印象だったのに対し、「TRN V90S」では比較的癖のない鳴りかたで、「普通に良い音」になった、という感じもあります。

TRN V90S」は中華ハイブリッドというカテゴリーに限らず、多くのイヤホンと比較しても明瞭かつ非常にバランスの良い聴きやすいリスニングサウンドで、ジャンルを問わずさまざまな音源で楽しむことができます。逆に「いかにも中華ハイブリッド」らしい、鮮明さや派手さのある「前に出る」サウンドが好みの方にはあまり合わないかもしれませんね。
TRN V90STRN V90S
また、「TRN V90S」もインピーダンス22Ω、感度108dB/mWと「TRN V90」同様に比較的鳴らしやすいイヤホンのため、再生環境にとらわれず楽しめる点も使いやすいポイントでしょう。そのため「BT20S PRO」などでワイヤレス化して使用するのにも向いています。もちろん相応の再生環境で聴くことで良さをさらに実感できますし、より情報量の多いケーブルへのリケーブルも効果的です。リケーブルはTRN純正ケーブルでは中高域の透明感がアップし見通しが良くなる「TRN T3s」8芯 純銀線ケーブル、または中低域の厚みが増しよりドンシャリ傾向の濃いサウンドが楽しめる「TRN T4s」8芯 OCC高純度銅線ケーブルとの相性が良いですね。他にも「NICEHCK LitsOCC」(OCC線)や「NICEHCK LitsPS」「KBEAR KBX4904」(純銀線)、「KBEAR KBX4905」(ミックス線)などももちろん良いと思います。


というわけで、「TRN V90S」は改めて完成度が高く、多くの方にお勧めできるイヤホンだと感じました。とりあえず、50ドル~100ドルくらいの低価格中華イヤホンを「メインで使う」というシチュエーションを考慮した場合、現時点で「中華ハイブリッド」としては「TRN V90S」が個人的には最もオススメだと思います。「KZ ZAX」と「TRN VX」もそれぞれの良さがありますが、やはり「スペックモンスター」「コスパの鬼」みたいな肩書き(?)も前提にして楽しむイヤホンという側面も垣間見えます。まあ「TRN V90S」の金属ハウジング&5BA+1DD構成で50ドル、というのも結構なスペックモンスターだとは思いますが(^^;)、あえてこの製品が「TRN VX」や「TRN BA5」より後にリリースされている点も含めて「本命」な印象を持ちますね。
TRN V90Sもっとも「TRN V90」も昨年レビューを掲載した当時はとにかくマイナーな存在で、「いやいや、こいつは大化けしたから一度聴いてみて」みたいなテンションで書いていた記憶があります。今回の「TRN V90S」も「KZ ZAX」「CCA CA16」および「KZ ASX」「KZ ASF」のおかげで、リリース直後からすっかり記憶の片隅に追いやられている感がありますね。なんというかV90シリーズはそういう星の下に・・・(笑)。そういえば初期の「TIN Audio T2」とかも似た感じでしたね。そうなると「TRN V90S」も今後じわじわと人気が出てくる可能性もありますね。私も今年の「11.11」セールでブラックのカラーバリーエションも追加で購入しましたし、今後も引き続きオススメしていきたいと思います(^^)。