
こんにちは。今回は 「KZ ASX」です。中華イヤホンを代表するようなブランドのひとつでもある「KZ」(KZ Acoustic)ですが、その「恐竜的進化」はとうとうここまで来てしまった、そんな感じのモデルです。「KZ ASX」は従来より大幅に大型化したハウジングに「片側10BA」、つまり10基のバランスド・アーマチュア型(BA)ドライバーを搭載する仕様になっています。しかもそれぞれのドライバーは従来のKZで採用していたユニットよりアップデートされたバージョンを使用しており、そのうえでなんとか100ドル以下に収める価格設定を実現するなど、今回も話題性においては事欠かない製品といえますね。ただ音質傾向的には「KZ AS10」から続く「スマホでもなんとか鳴らせるドンシャリ傾向のマルチBA」という、マニアなら「マルチBA」という構成からは連想できない要素を前面に出したサウンドです。そのため、色々な意味でそれを「有り」とするか「無い」と思うかで印象は大きく分かれるでしょう。
「KZ ASX」では片側10BA構成とするにあたって、全く新しいラージサイズのシェルデザインを新たに採用しました。従来の8BAモデル「KZ AS16」が3種類のBAユニットを組み合わせた3Way仕様だったのに対し、「KZ ASX」では4種類のユニットを使用し、高域および中高域に8BAを割り当て、中音域(中低域)と低域にそれぞれ1基のBAを割り当てる4Way構成となりました。


また、「KZ ASX」より、従来のKZで採用されているBAドライバーより性能が向上した新世代ドライバーを採用し、それぞれ型番の後ろに「s」が付くバージョンになっています。「KZ ASX」のドライバー構成は、高域が「30017(2BAユニット)」×2基(合計4BA)、中高域に「31736s (2BAユニット)」×2基(合計4BA)、中音域(中低域)に「29689s」、低域に「22955s」がそれぞれ1基ずつ割り当てられています。


ちなみに、アップグレード前の「31736」「29689」「22955」はKZ AS16で採用されており、「KZ ASX」はこのアップグレード版とわかりますが、高域用の2BAユニット「30017」についてはKZでは「30095」を2基使う構成が多いため確認できる限り採用実績はありません。では「30017s」は何からのアップグレードか、となりますが、これはOEM元と思われる「Bellsing 30017」からのアップグレードと考える方が良いかもしれませんね(「Bellsing 30017」はTRN製の初期のモデルのほか、中華系のマルチBAやハイブリッドで多く見かけるツィーターユニットです)。おそらくBAドライバーのユニットコストは「29689s」や「22955s」が他の2種類より高いと思われますので、このクラスのユニットを2基ずつ使っている「KZ AS16」より「KZ ASX」のほうがドライバー数が増えているのに価格が下がっている、という理由にもなっていそうです。


Amazon.co.jp(KZ Offical Shop): KZ ASX 10,500円 ※中国より発送
■ インパクトのある巨大なハウジング。圧倒的コスト感のスペックとビルドクオリティ
「KZ ASX」のパッケージはハイグレードモデルで採用されている黒箱タイプ。パッケージ内容は本体、ケーブル、イヤーピース(S/M/Lサイズ)、説明書と従来通り最小限となっています。付属ケーブルは「KZ ZSN Pro X」や「KZ ZAX」などと同じ銀メッキ線タイプです。ステム部分がKZのワイヤレス製品や「CCA CA16」のような細い金属ノズルとなっているため、付属イヤーピースもこれらの製品と同じ小型タイプになります。


「KZ ASX」のハウジングは繰り返し記載の通り、とにかく巨大です。もともとKZ製のイヤホンはハウジングがやや大きめでしたが、それと比べても2まわり以上大きく、KZに限らず、私が所有している全てのイヤホンのなかでも確実に最大級のサイズです。5軸CNC加工されたアルミニウム合金製のフェイスパネルも非常に厚みが有り、「KZ ASX」についてはタイプC 2pinコネクタがフェイスプレート部分の側面から出ているのがわかります。これに対してステムノズルは「KZ ZAX」など従来タイプよりかなり細い金属製ノズルで、イヤーピースもより耳奥に装着する小さめのタイプが付属します。


この強烈な存在感のあるハウジングでは、10基のBAユニットが比較的余裕を持って搭載されているのが分ります。また各ユニットの出力を制限するネットワーク基板も大きめのものが使用されています。もしかすると今後このハウジングで12BAまたはそれ以上のユニットを搭載した上位モデルも想定した設計なのかも知れませんね。


装着性については、耳の形状で合う・合わないはありそうですが、この大きさのわりに実は結構しっかりホールドできます。私の場合、耳掛けタイプのイヤホンではケーブルを耳に掛けてからイヤホンを奥まで装着する、という付け方をすることが多いのですが、「KZ ASX」の場合は、上部の突起部分を耳穴の上の部分にぐっと差し込むようにいれてイヤホン自体を奥までホールドし、その後にケーブルを耳に掛ける、という付け方のほうが確実に装着できました。
付属のケーブルは「KZ ZAX」などと同じ、以前よりアップグレードされた銀メッキ線タイプですが、KZの付属ケーブルはTRN等の付属ケーブルと比べても情報量が少なく、「KZ ASX」のサウンドを十分に引き出せているとは言い難い印象です。再生環境によっては付属ケーブルの方が聴きやすいという場合もあるのですが、やはりリケーブルは検討したほうがよいでしょう。
また、「KZ ASX」は耳奥まで装着するタイプの形状のため、イヤーピースは多少小さく、柔らかくコシがあまり無いタイプのものが付属します。個人的には耳穴奥が細いこともありこのタイプのイヤーピースはとてもしっくりきたのですが、大抵の方はサイズ的に合わない方や、コシの弱さでフィット感がいまひとつに感じる場合も結構あるのではと思います。このイヤーピースは音質傾向的にもかなり影響があるようなので、耳に合うものに交換が必須と考えた方がよいでしょう。具体的には「RHAイヤーピース」や「final Eタイプ」イヤーピースなどが個人的にはおすすめです。
■ 10BA構成でも「KZらしい」サウンド。低価格中華イヤホンの延長線上は正解?
「KZ ASX」の音質傾向は、「最近のKZらしい」ともいえる「寒色系弱ドンシャリ」。「KZ ZSX」以降の製品で多くなっている、ボーカル帯域を中心にフォーカスしたチューニングを行ったサウンドで、最近の中華イヤホンでよく見られる傾向ともいえます。10BAのうち8BAと大半のドライバーを割り振った中高域や音場表現は従来のモデルと比べても一応の進化を感じます。ちなみに「KZ ASX」のネットの評判では初期ユーザーを中心に「低域が強い」という意見もわりとあります。駆動力の少ない環境では前述のような理由もあってやや低域過多に感じる場合もあるようですが、しっかり鳴らし込めば、鮮明さのあるサウンドを楽しめると思います。ただ、それ以上に原因はイヤーピースにあるのでは、という気もしています。私は耳穴が細いため付属のイヤーピースで問題なかったのですが、どうも私のようなパターンのほうが少数派で、普通の方はこの柔らかいイヤーピースが合わないのではと思います。前述の通り、フィット感の良いものへの交換は必須と考えた方がよいでしょう。かなり印象が変わると思います。
ところで、「KZ ASX」のような10BA構成の「多ドラ」イヤホンで、今回も「中華っぽさ」を感じるサウンドバランスについては多少意見が分かれる部分かなと思います。これまでのKZ製イヤホンとの流れでは特に違和感は無く「ああ、KZの新しい進化バージョンだな」と感じます。ただ、多くのマルチドライバー構成のイヤホンはハイエンドな製品が多いこともあり、一般的にはフラット傾向でよりニュートラルなサウンドにチューニングされています。そのような基準で「片側10BAのマルチBAイヤホン」の「KZ ASX」を聴いてみると、ドンシャリ方向で、ボーカルの主張を強くした「いかにも中華イヤホンらしい」サウンドはちょっと異色ではないかと思えてきます。またこのサウンドをスマホでも鳴らせるインピーダンスや感度に調整するアプローチにより、KZのハイブリッドと比べるとスッキリしない、一般的なマルチBAと比べるとバランスがちょっとヘン、みたいな、多少中途半端な印象は拭えなくなっていますね。
マルチBAイヤホンで寒色系ドンシャリという方向性はTRNの8BAモデル「TRN BA8」にも言えるのですが、「TRN BA8」はとにかく「TRNの音」に全振りしたなかでドライバー構成によるアプローチの違いを演出している「もう完全に割り切っちゃってる派手で明瞭なサウンド」なので、価格設定が「?」に感じるところや好き嫌いは別として、これはこれで「有り」だろうという気がしました。
いっぽうで「KZ ASX」は、「KZ AS16」からドライバー構成の比重を大きく変更し、中高域に重点的に割り当てることで、リスニングイヤホンとしての全体的な聴き応えよりボーカル帯域を中心としたディテールの表現に注力している印象があります。見方を変えれば「本気でやればできる実力はあるけど、今回も(マーケティング的に)ウケの良さそうなチューニングでまとめてみました」みたいな部分も垣間見えますね。このアプローチは低価格イヤホンとしては良いとは思うのですが、「KZ ZSX」、「KZ ZAX」、とハイブリッドの上位モデルで同様のアプローチが繰り返されることはそろそろどうなのだろう、という気もします。そのため他のKZとは多少毛色が異なる(ある意味「マルチBAイヤホンらしい」方向にチューニングされた)従来モデルの「KZ AS16」や「KZ AS12」の音のほうが好み、という方もいらっしゃるのではと思います。まあ、あえてネガティブなことを書きましたが、「KZ ASX」は製品としては「コスト的にはどう考えてもおかしい(褒め言葉)」みたいなイヤホンではあります。
■ 弱ドンシャリ傾向を維持しつつ中高域の質を高めたサウンド。
多少ネガティブな感想を先に出したので、ここからは「KZ ASX」のポジティブな印象も取りあげていきたいと思います。ただしオーディオ的に「KZ ASX」の良さを引き出すためには「リケーブル」「最適なイヤピへの交換」「十分に駆動力のある再生環境」の条件をクリアする必要があります。
その上で「KZ ASX」の高域はKZらしい硬質さを感じる明瞭で見通しの良い音を鳴らします。KZのハイブリッドモデル同様に非常にシャープで煌めきのある印象です。「KZ AS16」の高域にもっと明瞭で見通しの良さが欲しかった方には「KZ ASX」は最適でしょう。とはいえある程度の鋭さはあるものの、シャリ付きや過度な刺激がコントロールされているのは最近のKZ同様です。いっぽうで僅かに人工的に感じる帯域があるのも「KZらしい」部分といえます。「KZ ZAX」との比較ではどちらもキレのある高域ですが、「ZAX」が分りやすく金属質な派手さがあるのに対し、「KZ ASX」はより詳細なディテールが有り、いっぽうで派手さは多少抑えられています。メリハリより中高域とのつながりを意識したチューニングのようですね。
中音域は、僅かに凹みますが、最近のKZのハイブリッド製品同様にボーカル帯域へのフォーカスが有り、ボーカルを起点に奥行きのある音場感を演出しています。鳴り方としてはマルチBAらしさを前面に出したドライで解像感のある印象です。また少し下がって定位することもあって奥行きと広さを感じます。癖のない出音でありのままの音をありのままに鳴らす印象は「KZ AS16」同様ですが、より解像感があり、ボーカル帯域も綺麗で演奏の分離も良好です。中高域へのつながりの自然さは「KZ AS16」「TRN BA8」を上回っています。ただマルチBA特有の音の広がりによりいっぽうで抜け感という点では既存のマルチBAモデル同様に好みが分かれるところでしょう。再生環境によってはやや中高域から多少弱く暗めに感じる場合がありますが、その場合はより駆動力のある再生環境を利用する、リケーブルやイヤーピースの変更などで調整を試みることで自然なつながりを持ちつつ、より鮮やかさを感じる印象が得られるのではと思います。
低域は、ハッキリとした音で「KZ AS16」より多少元気な印象があります。中高域同様に癖のない音で多少人工的ではあるものの輪郭のはっきりした印象です。重低音も深く、量感のあるミッドベースも膨らむこと無くキレがあります。分離は良く明瞭さとスピード感がありますが、いっぽうで重厚さでは「KZ AS16」のほうが感じるかも知れません。これは低域のBAを2基使っているか、1基で鳴らしているか、という違いもあるのではと思います。「KZ ASX」ではこの構成により、アップグレードされた低域用BAおよび中低域用BAをより高い出力で鳴らしていることもあって低域に力強さがより強調されている印象もありますね。いっぽうで前述の通り駆動力の少ない再生環境ではこの低域の出力が強く出てしまうケースもあり、多少低域過多に感じる場合があります。
「KZ ASX」のリケーブルは、利用している再生環境での標準ケーブルでの印象をベースに選び、多少低域がブーミーに感じる場合は、TRIの「TR4908」のような銀メッキ線ケーブルを、全体的に透明感をアップさせるうえではKBEAR「KBX4904」や「NICEHCK LitzPS」「LitzPS Pro」などの純銀線ケーブルが良いでしょう。いっぽうで明瞭感より厚みや重厚感を感じたい場合は「NICEHCK LitzOCC」などの銅線ケーブルなども良い選択肢でしょう。


また、一般的にバランスド・アーマチュア型ドライバーはダイナミックドライバーと異なり構造的にエージングによる変化はあまりないと言われていますが、これまでの経験でBellsingなどの中華BAはある程度鳴らした方が抜けが良くなるというか、つっかえが取れたような変化があることがあります。「KZ ASX」も開封直後は10BAの大半を割り当てられた高域および中高域がいまひとつ本気を出せてない感じになるケースがあるようです。私の手元に届いた個体も一晩程度鳴らしたことで多少変化を感じました。
というわけで、今年前半は鳴りを潜めていたKZが後半に入り爆発的に新製品をリリースしてきました。そんなKZの今年最後の目玉ともいうべき「KZ ASX」は発表直後から大きな話題となり、プレオーダーの段階で注文もかなりあったようですね。実際、AliExpressでの販売数を見ると100ドルクラスのイヤホンとしては短期間で相当数が既に出ているようで、あらためてKZのマーケティング力というか、商品力を感じます。「KZ ASX」は既に「低価格イヤホン」とは呼べない製品ですが、異常なスペックバリューであることは変わりなく、マニア的にはいろいろ言いたいこともありますが、マルチBAでもスマホでそれなりに鳴らせるチューニング、というKZなりの一貫した方向性は維持しているのでしょう。ただ個人的には「別ブランド」化して大幅にコストアップしてでもKZの技術力をつぎ込んで作った「本気のサウンド」も聴いてみたいと感じずにはいられないとも感じました。


また、「KZ ASX」より、従来のKZで採用されているBAドライバーより性能が向上した新世代ドライバーを採用し、それぞれ型番の後ろに「s」が付くバージョンになっています。「KZ ASX」のドライバー構成は、高域が「30017(2BAユニット)」×2基(合計4BA)、中高域に「31736s (2BAユニット)」×2基(合計4BA)、中音域(中低域)に「29689s」、低域に「22955s」がそれぞれ1基ずつ割り当てられています。


KZ ASX(10BA): 「22955s」+ 「29689s」 + 「31736s (2BA)」×2 + 「30017s (2BA)」×2
KZ AS16 (8BA) : 「22955」×2 + 「29689」×2 + 「31736 (2BA)」×2
TRN BA8 (8BA): 「22955」 + 「29689」×2 + 「50060」×2 + 「30095」×3
ちなみに、アップグレード前の「31736」「29689」「22955」はKZ AS16で採用されており、「KZ ASX」はこのアップグレード版とわかりますが、高域用の2BAユニット「30017」についてはKZでは「30095」を2基使う構成が多いため確認できる限り採用実績はありません。では「30017s」は何からのアップグレードか、となりますが、これはOEM元と思われる「Bellsing 30017」からのアップグレードと考える方が良いかもしれませんね(「Bellsing 30017」はTRN製の初期のモデルのほか、中華系のマルチBAやハイブリッドで多く見かけるツィーターユニットです)。おそらくBAドライバーのユニットコストは「29689s」や「22955s」が他の2種類より高いと思われますので、このクラスのユニットを2基ずつ使っている「KZ AS16」より「KZ ASX」のほうがドライバー数が増えているのに価格が下がっている、という理由にもなっていそうです。


これだけ高域および中高域側にBAユニットを割り振っていると、高音寄りのサウンドになるのではという気がしてきますが、実際は各ユニットの出力をネットワーク基板で調整されており、全体的にボーカル帯域を中心としたバランスになっています。ただし、再生環境で駆動力が足りないと各BAを鳴らし切ることができず、逆にドライバー数の割当てが少ない低域側のほうが強くなる事も考えられますね。KZの製品と言うことで他の低価格イヤホンと同じように見てしまいがちですが、やはり片側10BA、左右で20BAというユニット数は本来相応の再生環境で鳴らすべき「普通ではない」構成だと思います。「KZ ASX」は100ドル以下の「低価格中華イヤホン」の範疇にぎりぎり収まってはいますが、内容的にも低価格イヤホンの枠をとっくに超えた製品といえるでしょう。
「KZ ASX」の購入はAliExpressおよびアマゾンの主要セラーにて。価格はKZ Offical Storeの価格で97.47ドル程度。アマゾンでは10,500円~12,800円程度で販売されています。AliExpressでの購入方法はこちらをご覧ください。
AliExpress(Easy Earphones): KZ ASX 92.40ドル~
AliExpress(KZ Offical Store): KZ ASX 97.47ドル~
Amazon.co.jp(WTSUN Audio): KZ ASX 12,525円 ※プライム扱いアマゾン倉庫発送
※WTSUN Audioは上記価格より15% OFFのクーポンを配付中
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AliExpress(Easy Earphones): KZ ASX 92.40ドル~
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Amazon.co.jp(WTSUN Audio): KZ ASX 12,525円 ※プライム扱いアマゾン倉庫発送
※WTSUN Audioは上記価格より15% OFFのクーポンを配付中
Amazon.co.jp(KZ Offical Shop): KZ ASX 10,500円 ※中国より発送
■ インパクトのある巨大なハウジング。圧倒的コスト感のスペックとビルドクオリティ
「KZ ASX」のパッケージはハイグレードモデルで採用されている黒箱タイプ。パッケージ内容は本体、ケーブル、イヤーピース(S/M/Lサイズ)、説明書と従来通り最小限となっています。付属ケーブルは「KZ ZSN Pro X」や「KZ ZAX」などと同じ銀メッキ線タイプです。ステム部分がKZのワイヤレス製品や「CCA CA16」のような細い金属ノズルとなっているため、付属イヤーピースもこれらの製品と同じ小型タイプになります。


「KZ ASX」のハウジングは繰り返し記載の通り、とにかく巨大です。もともとKZ製のイヤホンはハウジングがやや大きめでしたが、それと比べても2まわり以上大きく、KZに限らず、私が所有している全てのイヤホンのなかでも確実に最大級のサイズです。5軸CNC加工されたアルミニウム合金製のフェイスパネルも非常に厚みが有り、「KZ ASX」についてはタイプC 2pinコネクタがフェイスプレート部分の側面から出ているのがわかります。これに対してステムノズルは「KZ ZAX」など従来タイプよりかなり細い金属製ノズルで、イヤーピースもより耳奥に装着する小さめのタイプが付属します。


この強烈な存在感のあるハウジングでは、10基のBAユニットが比較的余裕を持って搭載されているのが分ります。また各ユニットの出力を制限するネットワーク基板も大きめのものが使用されています。もしかすると今後このハウジングで12BAまたはそれ以上のユニットを搭載した上位モデルも想定した設計なのかも知れませんね。


装着性については、耳の形状で合う・合わないはありそうですが、この大きさのわりに実は結構しっかりホールドできます。私の場合、耳掛けタイプのイヤホンではケーブルを耳に掛けてからイヤホンを奥まで装着する、という付け方をすることが多いのですが、「KZ ASX」の場合は、上部の突起部分を耳穴の上の部分にぐっと差し込むようにいれてイヤホン自体を奥までホールドし、その後にケーブルを耳に掛ける、という付け方のほうが確実に装着できました。
付属のケーブルは「KZ ZAX」などと同じ、以前よりアップグレードされた銀メッキ線タイプですが、KZの付属ケーブルはTRN等の付属ケーブルと比べても情報量が少なく、「KZ ASX」のサウンドを十分に引き出せているとは言い難い印象です。再生環境によっては付属ケーブルの方が聴きやすいという場合もあるのですが、やはりリケーブルは検討したほうがよいでしょう。また、「KZ ASX」は耳奥まで装着するタイプの形状のため、イヤーピースは多少小さく、柔らかくコシがあまり無いタイプのものが付属します。個人的には耳穴奥が細いこともありこのタイプのイヤーピースはとてもしっくりきたのですが、大抵の方はサイズ的に合わない方や、コシの弱さでフィット感がいまひとつに感じる場合も結構あるのではと思います。このイヤーピースは音質傾向的にもかなり影響があるようなので、耳に合うものに交換が必須と考えた方がよいでしょう。具体的には「RHAイヤーピース」や「final Eタイプ」イヤーピースなどが個人的にはおすすめです。
■ 10BA構成でも「KZらしい」サウンド。低価格中華イヤホンの延長線上は正解?
「KZ ASX」の音質傾向は、「最近のKZらしい」ともいえる「寒色系弱ドンシャリ」。「KZ ZSX」以降の製品で多くなっている、ボーカル帯域を中心にフォーカスしたチューニングを行ったサウンドで、最近の中華イヤホンでよく見られる傾向ともいえます。10BAのうち8BAと大半のドライバーを割り振った中高域や音場表現は従来のモデルと比べても一応の進化を感じます。ちなみに「KZ ASX」のネットの評判では初期ユーザーを中心に「低域が強い」という意見もわりとあります。駆動力の少ない環境では前述のような理由もあってやや低域過多に感じる場合もあるようですが、しっかり鳴らし込めば、鮮明さのあるサウンドを楽しめると思います。ただ、それ以上に原因はイヤーピースにあるのでは、という気もしています。私は耳穴が細いため付属のイヤーピースで問題なかったのですが、どうも私のようなパターンのほうが少数派で、普通の方はこの柔らかいイヤーピースが合わないのではと思います。前述の通り、フィット感の良いものへの交換は必須と考えた方がよいでしょう。かなり印象が変わると思います。ところで、「KZ ASX」のような10BA構成の「多ドラ」イヤホンで、今回も「中華っぽさ」を感じるサウンドバランスについては多少意見が分かれる部分かなと思います。これまでのKZ製イヤホンとの流れでは特に違和感は無く「ああ、KZの新しい進化バージョンだな」と感じます。ただ、多くのマルチドライバー構成のイヤホンはハイエンドな製品が多いこともあり、一般的にはフラット傾向でよりニュートラルなサウンドにチューニングされています。そのような基準で「片側10BAのマルチBAイヤホン」の「KZ ASX」を聴いてみると、ドンシャリ方向で、ボーカルの主張を強くした「いかにも中華イヤホンらしい」サウンドはちょっと異色ではないかと思えてきます。またこのサウンドをスマホでも鳴らせるインピーダンスや感度に調整するアプローチにより、KZのハイブリッドと比べるとスッキリしない、一般的なマルチBAと比べるとバランスがちょっとヘン、みたいな、多少中途半端な印象は拭えなくなっていますね。
マルチBAイヤホンで寒色系ドンシャリという方向性はTRNの8BAモデル「TRN BA8」にも言えるのですが、「TRN BA8」はとにかく「TRNの音」に全振りしたなかでドライバー構成によるアプローチの違いを演出している「もう完全に割り切っちゃってる派手で明瞭なサウンド」なので、価格設定が「?」に感じるところや好き嫌いは別として、これはこれで「有り」だろうという気がしました。
いっぽうで「KZ ASX」は、「KZ AS16」からドライバー構成の比重を大きく変更し、中高域に重点的に割り当てることで、リスニングイヤホンとしての全体的な聴き応えよりボーカル帯域を中心としたディテールの表現に注力している印象があります。見方を変えれば「本気でやればできる実力はあるけど、今回も(マーケティング的に)ウケの良さそうなチューニングでまとめてみました」みたいな部分も垣間見えますね。このアプローチは低価格イヤホンとしては良いとは思うのですが、「KZ ZSX」、「KZ ZAX」、とハイブリッドの上位モデルで同様のアプローチが繰り返されることはそろそろどうなのだろう、という気もします。そのため他のKZとは多少毛色が異なる(ある意味「マルチBAイヤホンらしい」方向にチューニングされた)従来モデルの「KZ AS16」や「KZ AS12」の音のほうが好み、という方もいらっしゃるのではと思います。まあ、あえてネガティブなことを書きましたが、「KZ ASX」は製品としては「コスト的にはどう考えてもおかしい(褒め言葉)」みたいなイヤホンではあります。■ 弱ドンシャリ傾向を維持しつつ中高域の質を高めたサウンド。
多少ネガティブな感想を先に出したので、ここからは「KZ ASX」のポジティブな印象も取りあげていきたいと思います。ただしオーディオ的に「KZ ASX」の良さを引き出すためには「リケーブル」「最適なイヤピへの交換」「十分に駆動力のある再生環境」の条件をクリアする必要があります。
その上で「KZ ASX」の高域はKZらしい硬質さを感じる明瞭で見通しの良い音を鳴らします。KZのハイブリッドモデル同様に非常にシャープで煌めきのある印象です。「KZ AS16」の高域にもっと明瞭で見通しの良さが欲しかった方には「KZ ASX」は最適でしょう。とはいえある程度の鋭さはあるものの、シャリ付きや過度な刺激がコントロールされているのは最近のKZ同様です。いっぽうで僅かに人工的に感じる帯域があるのも「KZらしい」部分といえます。「KZ ZAX」との比較ではどちらもキレのある高域ですが、「ZAX」が分りやすく金属質な派手さがあるのに対し、「KZ ASX」はより詳細なディテールが有り、いっぽうで派手さは多少抑えられています。メリハリより中高域とのつながりを意識したチューニングのようですね。
中音域は、僅かに凹みますが、最近のKZのハイブリッド製品同様にボーカル帯域へのフォーカスが有り、ボーカルを起点に奥行きのある音場感を演出しています。鳴り方としてはマルチBAらしさを前面に出したドライで解像感のある印象です。また少し下がって定位することもあって奥行きと広さを感じます。癖のない出音でありのままの音をありのままに鳴らす印象は「KZ AS16」同様ですが、より解像感があり、ボーカル帯域も綺麗で演奏の分離も良好です。中高域へのつながりの自然さは「KZ AS16」「TRN BA8」を上回っています。ただマルチBA特有の音の広がりによりいっぽうで抜け感という点では既存のマルチBAモデル同様に好みが分かれるところでしょう。再生環境によってはやや中高域から多少弱く暗めに感じる場合がありますが、その場合はより駆動力のある再生環境を利用する、リケーブルやイヤーピースの変更などで調整を試みることで自然なつながりを持ちつつ、より鮮やかさを感じる印象が得られるのではと思います。低域は、ハッキリとした音で「KZ AS16」より多少元気な印象があります。中高域同様に癖のない音で多少人工的ではあるものの輪郭のはっきりした印象です。重低音も深く、量感のあるミッドベースも膨らむこと無くキレがあります。分離は良く明瞭さとスピード感がありますが、いっぽうで重厚さでは「KZ AS16」のほうが感じるかも知れません。これは低域のBAを2基使っているか、1基で鳴らしているか、という違いもあるのではと思います。「KZ ASX」ではこの構成により、アップグレードされた低域用BAおよび中低域用BAをより高い出力で鳴らしていることもあって低域に力強さがより強調されている印象もありますね。いっぽうで前述の通り駆動力の少ない再生環境ではこの低域の出力が強く出てしまうケースもあり、多少低域過多に感じる場合があります。
「KZ ASX」のリケーブルは、利用している再生環境での標準ケーブルでの印象をベースに選び、多少低域がブーミーに感じる場合は、TRIの「TR4908」のような銀メッキ線ケーブルを、全体的に透明感をアップさせるうえではKBEAR「KBX4904」や「NICEHCK LitzPS」「LitzPS Pro」などの純銀線ケーブルが良いでしょう。いっぽうで明瞭感より厚みや重厚感を感じたい場合は「NICEHCK LitzOCC」などの銅線ケーブルなども良い選択肢でしょう。


また、一般的にバランスド・アーマチュア型ドライバーはダイナミックドライバーと異なり構造的にエージングによる変化はあまりないと言われていますが、これまでの経験でBellsingなどの中華BAはある程度鳴らした方が抜けが良くなるというか、つっかえが取れたような変化があることがあります。「KZ ASX」も開封直後は10BAの大半を割り当てられた高域および中高域がいまひとつ本気を出せてない感じになるケースがあるようです。私の手元に届いた個体も一晩程度鳴らしたことで多少変化を感じました。
というわけで、今年前半は鳴りを潜めていたKZが後半に入り爆発的に新製品をリリースしてきました。そんなKZの今年最後の目玉ともいうべき「KZ ASX」は発表直後から大きな話題となり、プレオーダーの段階で注文もかなりあったようですね。実際、AliExpressでの販売数を見ると100ドルクラスのイヤホンとしては短期間で相当数が既に出ているようで、あらためてKZのマーケティング力というか、商品力を感じます。「KZ ASX」は既に「低価格イヤホン」とは呼べない製品ですが、異常なスペックバリューであることは変わりなく、マニア的にはいろいろ言いたいこともありますが、マルチBAでもスマホでそれなりに鳴らせるチューニング、というKZなりの一貫した方向性は維持しているのでしょう。ただ個人的には「別ブランド」化して大幅にコストアップしてでもKZの技術力をつぎ込んで作った「本気のサウンド」も聴いてみたいと感じずにはいられないとも感じました。








あんなん丸見えにするくらいなら素直に非透明デザインでいいと思うのですが…