こんにちは。2021年最初のレビューは「SHANLING AE3」です。日本では2020年11月27日より販売されています。高性能・高音質なDAP(デジタルオーディオプレーヤー)メーカーとしてポータブルオーディオの世界ではすっかりお馴染みとなった「Shanling」ですが、中国では据え置きのオーディオ機器なども含め幅広い製品展開を行う音響メーカーです。またイヤホン製品も数多くリリースしており、「SHANLING AE3」は3基のバランスド・アーマチュア(BA)ドライバーを搭載するモデルとなります。3Dプリンティングとスタビウッドによる非常に美しいシェルには、独自にチューニングした「Sonion」製ドライバーを搭載。そのサウンドはバランスが良く、高い解像感で見通しの良い中高域とともに質の良い低域から得られる音場感は、深いブルーのカラーリングが似合う心地よさがあります。見た目にも音質的にも満足感のあるイヤホンです。
「SHANLING AE3」を特徴を挙げるなら、なりより3Dプリンター造形されたブルーのクリアシェルの美しさが目を引きます。このシェルは通常の3Dプリントのシェルに樹脂を塗り重ね磨きをいれる、9段階もの表面仕上げを行うことで美しい光沢と透明感を生み出しています。
さらにフェイスプレートにはスタビウッドが埋め込まれており、固体ごとに異なる模様が楽しめます。このフェイスパネルはゴッホの代表作のひとつ「星月夜」(La nuit étoilée / The starry night)をモチーフにしているそうです。
「SHANLING AE3」の搭載ドライバーについても、マルチBA製品で多く採用されるKnowlesではなく、デンマークの「Sonion」製を採用。オーディオマニアの間ではよく知られる有名メーカーのハイエンド製品でも多く採用されるサウンドを比較的手頃な価格で購入できることも魅力です。
組み合わせは中高域用の「2354」BAユニットと、低域用の2BAユニット「38D2」で、どちらのドライバーユニットもベント(空気孔)のあるデザインを採用。「2354」は伸びや音抜けに優れ、詳細ながら滑らかで聴き疲れしないサウンドを実現。Shanlingと共同開発による独自ドライバー「38D2」はSonionの「Acupass」テクノロジーを備え、正確かつ豊かで深みのある低域を実現しています。これらのドライバーの位置、音導管の長さや角度まで入念にチューニングが行われ、違和感なくまとまりのあるサウンドに調整されているとのことです。
「SHANLING AE3」の購入は主要な専門店および国内販売元「MUSIN」の「Hey Listen」ショップ、アマゾン店などにて。価格は 18,920円 です。
Amazon.co.jp(Hey Listen ショップ): SHANLING AE3
■ とにかく美しい、9階層仕上げ&スタビウッドフェイスの深いクリアブルーのシェルデザイン。
「SHANLING AE3」のパッケージはシンプルな白いカバーで覆われた黒いボックス。飾り気のないパッケージを開いて美しいイヤホン本体に出会えたときのコントラストはとても新鮮です。私は日本版の発売前の予約で購入しました。
パッケージ内容はイヤホン本体、銀メッキ線ケーブル、イヤーピース(透明タイプ、黒色タイプ、それぞれS/M/Lサイズ。黒色タイプはさらにMサイズが本体装着済み)、レザーケース。必要十分なアイテムが入っています。
3Dプリンター出力のレジンシェルにスタビウッドのフェイスパネルを重ね、さらに9層の表面コーティングを行った本体は美しい光沢を放っており、深いブルーのデザインは高級感があります。3BA構成ですがBAユニットにはベント(空気孔)があるため、本体ハウジングもコネクタ横の側面に小さなベントが設定されているのがわかります。
コネクタは埋め込みタイプの0.78mm 2pin(私のブログでは通常「CIEM 2pin」と記載している形状です)を採用。耳にフィットするデザインで装着性も良好です。ケーブルは4芯タイプの銀メッキ無酸素銅線を採用。被膜は僅かに弾力を感じるもののとてもしなやかで取り回しの良いケーブルです。
またアクセサリーとして本体カラーにあわせたブルーレザーのハードケースが付属します。イヤーピースは本体装着済みの黒色(芯部分はブルー)の標準タイプのほか、「AET07」に似た開口部の広いタイプが選べます。好みで使い分けるほか、JVCの「スパイラルドット」や、AZLA「SednaEarfit Light」などの定番イヤーピースをはじめとして、よりフィット感を得られるものを選択するのも良いでしょう。私は今回は惜しまれながら事業終了となった七福神商事の「長楽」を選択しました。
■ 思わず10proを彷彿とさせる、バランスの良いブラッシュアップされたサウンド
「SHANLING AE3」のサウンドはそれぞれの音域がバランス良く配置された仕上がりで、また十分な解像感があります。伸びが良く見通しの良さを感じつつ聴きやすい高域、表現力豊かで左右に広がる音場感を楽しめる中音域、深く上質で存在感のある低音域と、非常に滑らかでまとまりのあるサウンドですね。
ちなみに、Sonion製ドライバーの3BA構成で、高1+低2の2Wayというと、マニアの間ではお馴染み、かつての「ど定番」機だった「Triple.Fi 10 PRO」(通称10pro)を思い浮かべます。実際に聴いてみて、「SHANLING AE3」のサウンドは10proの方向性に近く、個々で質感が向上し、より高レベルにブラッシュアップした印象も感じます。
10proといえば、本気を出すにはリケーブルとイヤーピース交換は必須で、さらに、比較的手頃な価格ながらあの独特の形状もあって、リシェルのベースとして使うマニアも少なくなかった製品です(かくいう私も自作でのリシェルを本気で考えていたひとりです)。
「SHANLING AE3」の美しいブルーのシェルは、かつてのUEカラーだった青色へのリスペクトにも感じますし、今ならリシェル&リケーブルしなくても手頃な価格で十分に美しい本体と、本家よりグレードアップしたサウンドが楽しめるよ、と言っているような気がしないでもないです(笑)。
それはさておき、「SHANLING AE3」の高域は、聴きやすさを維持しつつ煌めきのある明るい音を鳴らします。描写は適度な鋭さがあり、滑らかに伸びる印象。メリハリやキレ重視のイヤホンではないため、見通しの良さや明瞭感は自然な範囲ですが、多くの場合で不満を感じることは少ないでしょう。また歯擦音やシャリつきは無く過度な刺激は抑えられています。非常に心地よく聴き疲れのないサウンドを楽しめます。
中音域は、マルチBAイヤホンらしいディテールと存在感があり、広く自然に定位する非常に優れた音場感があります。中高域の抜けは良く、女性ボーカルやピアノの高音は美しく伸びます。また低域の質感と繋がりの良さもあり、男性ボーカルの中低音も豊かさがあります。ボーカルは自然な距離感で過度に強調されること無く、音源のありのままを描写する印象。演奏の表現も非常にスムーズです。そのため、ボーカル曲はもちろんインストゥルメンタルとの相性も良く、リスニングを心地よく楽しめるタイプのサウンドですね。
低域はバランスの良い量感で、低域がブーストされたサウンドを好む方以外は付属を感じることはないでしょう。3BAイヤホンとしては十分に深さと強さがあり質の高い低音です。個人的には以前試聴したShanlingの既存のモデルと比較しても「SHANLING AE3」の低域の質感はかなり向上している印象です。重低音の沈み込みはBAドライバーの音としては十分な深さよ量感があります。スピード感のある音ですが、広い音場感を演出するため適度に柔らかく広がるため、キレを求める音数が多く疾走感のある曲ではシャープさやメリハリのあるイヤホンと比べると好みが分かれる部分ですね。
相性の良い音源は、ロック、ポップス、アニソンなどのほか、インストゥルメンタル曲全般、あと低域の量感に不満が無ければジャズなども楽しめます。いっぽうキレ重視の明瞭サウンドを求める方には多少穏やかな印象を持つかもしれませんね。また多くのKnowles製ドライバーを搭載した3BAイヤホンと比較するとメリハリや解像感が一歩譲る場合があるのに対し、「SHANLING AE3」は音域ごとの滑らかさに優れ、マルチBA特有のクロスオーバーの感じが少ないのはメリットでしょう。もちろんハイブリッドのようなパワフルな低域ではないため、その点をウィークポイントに挙げる方もいらしゃるでしょうね。
そのような要素を踏まえた上で、「SHANLING AE3」はとにかく美しく、バランスが良く聴きやすい、プライスに見合ったサウンドクオリティを実現しており、幅広く、非常に使い勝手の良いイヤホンだと思います。たぶん、多くの方にとって、持っていると「ちょっと幸せ」になる製品ですよ(^^)。