こんにちは。今回は「KZ DQ6」です。KZとしては初めての3基のダイナミックドライバーを搭載した「3DD」モデルとなります。KZの低価格で数々のスペックモンスターを生み出してきたマルチドライバー技術は定評がありますが、まさかこういう引き出しもあったとは。音質面での完成度の高さも含め、驚きの多いモデルですね。また例によって交換必須のイヤーピースのほか、リケーブルでも印象がかなり変化する点も面白いところ。低価格ながらそのままでも十分にバランスが良く、さらに非常に「遊べる」イヤホンでもあるなど、マニアならずとも掴んでおきたい製品かもしれません。
「KZ DQ6」は、KZとしては初めての3DD構成のモデルです。従来ハイブリッドモデルとは異なるシャーシに収納された10mmサイズの二重磁気回路ダイナミックドライバーに加えて、6mmサイズのダイナミックドライバーを2基搭載。それぞれのドライバーはハイブリッドでいうと2BA+1DD構成に近い組み合わせで音域を担っているものと考えられます。
新しい10mm二重磁気ダイナミックドライバーはTWS製品の「KZ Z1」で採用された「10mm XUN 二重磁気回路ドライバー」と同一のものと考えられます。このドライバーは背面部分の独特な円錐状のシャーシ形状により、電磁コイルによりサウンドをターボチャージャーのように増幅させる仕組みになっています。またドライバー側面に小さなPCB(ネットワーク基板)を装着できる構造になっている点も特徴です(従来の10mmドライバーはドライバー背面にドーナツ型の基板を配置)。さらに高域をカバーするために従来のようなバランスド・アーマチュア型(BA)ではなく、6mmサイズの小型ダイナミックドライバーを並列で配置。2Way・3ユニットスピーカーのような構成ですね。
また「KZ DQ6」では従来よりコンパクトなシェル形状を採用し、樹脂製ハウジングと亜鉛合金製フェイスプレートによるグレードを超えたデザインに仕上がっています。カラーは「シルバー」と「グレー」の2色が用意されています(さらにセラーによって限定色の「ブラック」も選択できるようです)。
「KZ DQ6」の購入はAliExpressの各セラーおよびアマゾンにて。価格はAliExpressが 27ドル~、アマゾンが 3,200円です。AliExpressでの購入方法はこちらを参照ください。
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Amazon.co.jp(KZ offical shop): KZ DQ6
Amazon.co.jp(CCA offical Store): KZ DQ6
Amazon.co.jp(L.S オーディオ): KZ DQ6
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■ TWS製品を踏襲したフィット感のあるシェル形状を採用。イヤーピースは交換が必須。
「KZ DQ6」のパッケージはいつもの白箱タイプ。今回も例によって「シルバー」と「グレー」の両方のカラーバリエーションをそれぞれ異なるセラーで購入しました。
パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル、イヤーピース(S/M/Lサイズ)説明書など。イヤーピースは「KZ ASX」や「KZ ASF」などのモデルに付属するタイプのものと同様のようです。
シェルデザインはKZのTWS製品のシルエットに近いデザインを採用。比較してみると以前レビューしたTWS仕様の1DDモデル「KZ Z1」によく似た形状です。フェイスプレート前面にスリット状のベント(空気孔)があります。「KZ DQ6」も10mmドライバー部分はおそらく「KZ Z1」と同じ仕様の「XUN」ドライバーだと思われるため、「KZ Z1」に6mmドライバーを2基追加しフェイスプレートを亜鉛合金製にすることで音質を強化した有線モデル、という見方もできそうです。
「シルバー」のモデルは樹脂製ハウジング部分が透明のため、3基のドライバーがより分りやすく確認できますね。ステムノズルは「シルバー」がクローム、「グレー」がゴールドのメッキ処理がされています。亜鉛合金製のフェイスプレートは厚みがあり、3基のダイナミックドライバーもあり、重量は7BA+1DDの「KZ ZAX」より若干重く、比較的重量感があります。それでも装着性は高く、耳の形状によっては合わない場合もありますが、多くの場合はよりしっかりとホールドしやすい形状になっていると思います。
シェル形状をKZのZST以降のハイブリッドモデルと比較すると、フェイスプレート部分のサイズはより小さく、かわりにより厚みがあるデザインとなっています。また12BAの「KZ ASX」などと比較するとまるで親子かなと思うくらいの大きさの違いがありますね。
ただ、付属のイヤーピースは「KZ DQ6」も「KZ ASX」も同じ非常に薄いシリコンタイプで、せっかくホールドしやすい形状にもかかわらずフィット感や音質面で残念な印象になってしまうことが多いようです。そのため、イヤピースの交換は「必須」と考えた方が良いでしょう。交換するイヤーピースはステムノズルが細いため「final Eシリーズ」「Acoustune AET08」「RHAイヤーピース」などが選択肢に上がりますね。他にもソニーの「ハイブリッドイヤーピース」なども低価格ですし、耳のサイズが合えば良いと思います(私は耳穴が小さいこともあり、ソニーの「EPEX11SS」を使用しました)。
■ 従来のKZ製ハイブリッドとはテイストの異なる独特の音場感が楽しめる中低域ドンシャリ傾向。
「KZ DQ6」の音質傾向は中低域寄りのドンシャリ。新しい10mmダイナミックドライバーの非常にパワフルな低域と濃厚さのある中高域に加えて、2基の6mmドライバーを組み合わせることで明瞭感がアップしており、臨場感のある響きと広い音場をもつサウンドながら籠もること無くKZらしい寒色系のスッキリさも感じさせます。ただ残念なのはやはり付属のイヤーピースで、この薄く柔らかいイヤーピースはどうにもフィット感が悪く、遮音製の面でも、音質面でも本来の実力を発揮させることができません。前述の通り「KZ ASX」などと同様にイヤーピース交換は必須で、交換後は中低域の締まりが格段に向上し、「KZ DQ6」のメリハリのあるサウンドを楽しむことができます。またリケーブルによりかなり印象が変化するのも興味深いところです。
「KZ DQ6」の高域は明瞭で伸びのよい音ながらより自然で聴きやすい音で鳴ります。寒色系の硬質な音ですが、従来のKZ/CCAのハイブリッド製品のようなギラつきは無く、3DD構成での違いを明確に実感します。付属の銀メッキ線ケーブルではキレやスピード感といった部分ではハイブリッド構成のほうが感じやすく解像感もそれなりのため、このような要素を楽しみたい方には多少物足りなく感じると思います。しかし、リケーブルにより鳴り方自体はかなりアグレッシブに変化します。刺さりなどの刺激は多くの場合不快に感じないレベルですが、再生環境やケーブルによっては多少強くなる場合もあります(個人的には全く問題ありませんでした)。
中音域は曲によって僅かに凹みますが3基のダイナミックドライバーによる厚みのある音で存在感のある鳴り方をします。適度に明るく鮮やかさもありますが全体的に自然な音色にまとめられています。高域同様に硬質ながらやや滑らかさがあり、よりリスニング方向に振った印象です。付属イヤーピースでは分離が今ひとつの印象を受けますが、しっかり耳にフィットするイヤーピースに交換することで輪郭が明瞭になります。またリケーブルにより情報量を向上させることでよりハッキリした分離感を得られるようになると思います。ボーカル帯域の表現力はこの価格帯のイヤホンとしては高く、聴き応えがあります。女性ボーカルの高音には透明感があり描写も綺麗な印象です。さらに男性ボーカルの印象はさらに良く、存在感があり映える鳴り方で心地良く感じます。またギターなど演奏も適度に艶があります。
そして「KZ DQ6」で最も特徴的なのはKZ/CCAのイヤホンの中でも独特な印象で広さを感じる音場感でしょう。従来のドライバー数の多いハイブリッド機が作り出す音場の広さとはまた異質のもので、正確ではありませんが臨場感がありリスニング的に楽しさのある表現をします。ボーカル帯域は近くに定位し、演奏は自然に分離しながら緩やかに左右に広がります。モニター的な空間表現とも、いわゆる包み込むような音場感とも異なる鳴り方ですが、間違いなくこのイヤホンの魅力のひとつになっています。
低域は非常に力強く、存在感のある鳴り方をします。付属のケーブルでも十分にパワフルですが、リケーブルにより、組み合わせるケーブルによってはやや過剰なくらい存在感がアップする場合もあります。また低域も付属イヤーピースでは中音域以上に抜けたような印象となります。しっかり耳に合ったイヤーピースに交換した上で聴くと、もともと低域にパワーのあるKZ/CCAのイヤホンのなかでもさらに強力で存在感があるものの、十分に締まりのあるタイトな印象で、過度に膨らむこと無くまっすぐ鳴ります。重低音もある程度の沈み込みがあり心地良く鳴りますが、解像感やキレについてはリケーブル後も表現し切れていない印象もあります。しかし分離は良くリスニングに寄せたサウンドとしては良くまとまっていると思います。
「KZ DQ6」が相性が良いのはロック、ポップスなどのボーカル曲に幅広いジャンルを気軽に楽しむには最適です。またジャズなども雰囲気のある鳴り方をしますね。キレや解像感を求める方や、分析的に聴く方にはあまり向きませんし、ジャンル的にも高域成分が多い打ち込み系の曲やアニソンではちょっと合わないと感じる方もいるのではと思います。ただこのような場合もリケーブルにより多少印象に変化をもたせることも可能です。
「KZ DQ6」はリケーブルによる印象の変化が大きく、ケーブルの傾向により結構変化を楽しむことができます。とりあえずイヤホンの傾向を維持したまま解像感を向上し見通しをよくしたい場合は、多くの低価格の銀メッキ線ケーブルで十分に効果があります。例えば千円台で購入できる「JSHiFi Hi8」などは最も手軽な選択肢だといえるでしょう。
いっぽうで、より本格的にグレードアップをしたい場合、最近では高品質の線材を使用したケーブルが購入しやすい価格でリリースされているためお勧めです。全体的な解像感や分離を底上げしメリハリのある力強いサウンドを実感したい場合は「KBX4915 KBEAR Warmth」4芯高純度単結晶銅線ケーブルがおすすめ。全体的にパワフルさが向上しますが分離が向上し音場の見通しが良くなるため、相対的に低域がかなり力強く感じます。臨場感のあるサウンドを求める方には最適でしょう。
また、中高域を中心によりスッキリとした変化を期待する場合は4芯純銀線の「KBX4904 KBEAR Limpid」は価格も手ごろで良い選択肢でしょう。もともと低域成分の強いパワフルなサウンドのため、低域も細ること無くしっかりした存在感を維持しつつ解像感が底上げされます。明瞭さがアップすることで高域については「KZ DQ6」の少し粗い部分が感じやすくなることはありますが、この辺は好みで選んでいただく部分となるでしょう。さらに上位グレードの8芯純銀線「KBX4913 KBEAR Limpid Pro」 は少し高くなりますがさらに全体の情報量がアップし、メリハリのあるサウンドを楽しめます。
というわけで、「KZ DQ6」はKZとしては初めての3DD仕様のイヤホンでしたが、決してキワモノにはならず十分に高い完成度を実現していたのは興味深いところです。以前「KZでこの音の引き出しもあったのか」と個人的にも驚きを感じたTWS製品「KZ Z1」の「XUN」ドライバーを使用し、さらに3DD構成にアップグレードすることで音質的にもブラッシュアップしたというところかも知れませんね。「KZ Z1」は音質面では癖は強かったものの好印象の製品でしたので、このようなかたちで有線モデルにフィードバックされるのは嬉しいところです。デザイン的にも使いやすく、お手頃価格の製品ですので、マニアならコレクションのひとつとして、それ以外の方にも楽しいリスニングイヤホンとして幅広くお勧めできると感じました。
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