Acoustune HS1300SS

こんにちは。今回は「Acoustune HS1300SS」です。前回同様で昨年末に購入したイヤホンですね。すっかりミドルグレード・ハイグレードの定番ブランドのひとつに成長した「Acoustune」の新しいモデルとして昨年末にリリースされた製品です。現行の「HS1600」シリーズが第4世代ドライバーを搭載しているのに対し、以前の「HS1500」シリーズで採用されていた第3世代ドライバーを改良し、新たに開発されたコンパクトな金属ハウジングに搭載。さらに2段階のノズル位置に調整できる「2Wayノズル」を新たに採用するなど、「Acoustune」の次世代スタンダードモデルといえるでしょう。
Acoustune HS1300SS「Acoustune」は2013年に設立した香港のブランドで、そのイヤホンは同社独自の「Myrinx(ミリンクス)」ドライバー(ポリマーバイオマテリアル素材のミリンクスを振動版に採用したダイナミックドライバー)を一貫して採用している点が特徴です。さらに「HS1500」シリーズでメカニカルな金属ハウジングと素材の異なるチャンバーによりバリエーションを生み出す「モジュラーメタルボディ」を採用するなどして現在の「Acoustune」のキャラクターが確立され、知名度も一気に高まりました。この頃になると同社製品は日本で生産され、開発も日本で行われているようになり、さらに販売元が日本ディックス(現行モデルが採用する「Pentaconn Ear」コネクタ等の開発・製造元)から大手のアユートに引き継がれたことで一気にメジャーブランドのひとつに成長しました。また次々と製品展開が拡充されるなかで実質的に日本のメーカーみたいな感じになってきた印象もあります。そのため、今回の「Acoustune HS1300SS」も現時点ではほぼ日本でのみ販売されており、海外では日本からの並行輸入で入手するような状況みたいです。
過去記事(一覧):Acoustuneのイヤホンレビュー

Acoustune HS1300SS」では、ドライバーに10mmサイズの「改良型第3世代ミリンクスドライバー」をシングルで採用。「HS1500」シリーズの第3世代ドライバーをベースにすることで第4世代の「HS1600」シリーズより価格を下げつつ、様々なドライバー技術やチューニングなどの知見をフィードバックして作られているようです。

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また、「HS1500」シリーズから受け継がれている音響チャンバー部(ドライバーを格納)と機構ハウジング部(コネクターを格納)を完全分離して相互干渉を防ぐ「モジュラーメタルボディ」を、全く新しく作られたシェルデザインで採用。「Acoustune HS1300SS」では音響チャンバー部にステンレス、機構ハウジング部にアルミニウムを採用し、低域のレスポンスと音質劣化を改善。重厚な音の厚みと高い解像度を実現しているようです。

Acoustune HS1300SS」のカラーバリエーションは「Azul (ブルー)」と「Rojo (レッド)」の2色。価格はレビュー掲載時点で 29,980円 (アマゾン)です。
Amazon.co.jp(国内正規品): Acoustune HS1300SS (ACO-HS1300SS)


■ 「モジュラーメタルボディ」を採用しつつ一新したデザイン。「2Wayノズル」も特徴的。

Acoustune HS1300SS」は従来モデルとは異なり、キューブ型のパッケージになりました。従来モデルはちょっとゼロハリ風のハードケースが入っていたため、パッケージもそれに合わせたサイズとなっていましたが、このモデルではその辺は「普通」になりましたね。
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しかし、それ以外の付属品については従来モデルと遜色なく、イヤホン本体、「Pentaconn Ear」コネクタ仕様の8芯OFCケーブル、ケーブルタイが2種類、レザーケース、そしてイヤーピースは同社の「AET06」(S+/M+)、「AET07」「AET08」(それぞれS/M/L)、ウレタンタイプの「AET02」の全てブラックカラー版が付属します。

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Acoustune HS1300SS」の本体は、ドライバーの大きさは変わらないものの音響チャンバー部分が少し小さくなったこともあり、機構ハウジング部分も背面部分などを中心に少しだけコンパクトなサイズ感になりました。メカメカしいデザインは踏襲しつつもより曲線が印象的なデザインとなり、小型化により装着性も多少向上しています。従来のHS1500シリーズおよびHS1600シリーズが大きくて耳にいまいち入らなかった方も多少ホールドしやすいデザインになっていると思います。
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そして、「Acoustune HS1300SS」ではステムノズル部分がより長く、手前と奥の2カ所でイヤーピースをフックできる仕様になっています。これが「2Wayノズル」と呼ばれる新たなギミックで、「標準(デフォルト)」位置からさらに奥に押し込んだ「ショート」の状態で使用することもできます。それぞれ異なるフィット感を得られる以外にも、遮音性や低域の抜けなどにも多少変化があるようです。イヤーピースは定番の「AET07」ほか各バリエーションが付属するため、多くの場合付属品で困ることは無さそうです。他にも定番のJVC「スパイラルドット」「スパイラルドット++」、AZLA「AZLA SednaEarfit Light」や「AZLA SednaEarfit XELASTEC」などを合せるのも良いと思います。
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また付属ケーブルは、8芯OFC(高純度無酸素銅)線タイプの「ARC61」が付属。コネクタはHS1695Ti以降採用されている日本ディックス製の「Pentaconn Ear」を「Acoustune HS1300SS」でも採用。それ以前のモデルのMMCXコネクタに比べて脱着性および堅牢性に優れ、伝導性能の高さも魅力的です。同社の純正ケーブルのほか、種類は非常に少ないですが「Pentaconn Ear」仕様のケーブルへのリケーブルも可能です。


■ 上位モデルの特徴を継承しつつ、より聴きやすく、使いやすいバランスに。

Acoustune HS1300SSAcoustune HS1300SS」の音質傾向は非常に聴きやすくバランスの良い緩やかなV字カーブを描く印象。ミリンクスドライバーによる解像度の高さと同時に得られる躍動感は十分に体験でき、既存の上位モデルに匹敵する適度にパワフルで質の高いサウンドを心地良く楽しむことができます。
方向性としては手持ちの「HS1670SS」に比較的近い印象。音場は多少「HS1670SS」のほうが広い空間表現を感じるものの、高域の伸びや解像感はかなり近いレベルを実現しています。また低域の量感はについては僅かに「Acoustune HS1300SS」のほうが多いようです(この辺はイヤーピースなどの違いで同様に感じる程度ですが)。そして、第3世代ドライバーを搭載し、分りやすく低域寄りの「HS1551CU」や逆に高域寄りの「HS1503AL」の多少マニアックなサウンドと比較すると、改良型第3世代の「Acoustune HS1300SS」は、様々なジャンルの曲で幅広く好感されるよう意識したチューニングだと感じました。

Acoustune HS1300SS」の高域は、「Acoustune」のステンレスチャンバーモデルらしい、非常に解像度が高く伸びの良さを感じる音を鳴らします。「HS1670SS」と比べると硬質感や分離感に少し違いがありますが、より硬質な明瞭感が印象的だった「HS1670SS」や後継の「HS1677SS」より「Acoustune HS1300SS」のほうが僅かに温かさがあり、より聴きやすい印象がありますね。ここでイヤーピースを奥まで挿して「ショート」状態にすると、若干高域が抑えられタイトさが増します。

Acoustune HS1300SS中音域は上位モデルの特徴を継承し、非常に密度感のある音を鳴らしつつ、より最近のトレンドに合せたボーカル帯域を中心とした聴きやすく元気良さ、ノリの良さを楽しめるチューニングになっています。解像感および分離ともにこの価格帯の他の製品と比較しても十分に優れており、ミリンクスドライバーによる情報量の多さとレスポンスの良さ、ステンレスチャンバーによる金属質な響きと密度感を十分に実感できます。いっぽうで過度に硬質にならず個々の音を精緻に表現するサウンドはこの価格帯の製品でもかなりレベルの高い印象です。音場は広く、ボーカルと演奏が立体的に定位するため適度な奥行きも感じます。ロック、ポップス、アニソンからEDMなどの電子音を中心としたサウンドまで幅広く楽しめるサウンドで、ひと言でいうなら「万人受けなチューニング」ですが、上位モデルでのポテンシャルの高さをエントリーグレードとはいえしっかり受け継いでおり、非常にレベルの高いサウンドに仕上がっています。

低音域は、上位のステンレスチャンバーモデル同様にバランスとしては控えめですが、十分な量感があり、力強く締まりのある質の高い音を鳴らします。解像度は中高域同様に非常に高く元気な音を鳴らします。また決して軽くはならず、深い沈み込みと下支えのしっかりした重低音が楽しめます。イヤーピースを深く押し込み「ショート」状態にすることで、相対的に低域の力強さが増しますが、中高域の伸びがやや抑えられ僅かに暗い印象になるため、どちらかというと「標準」状態でより密着性の高いイヤーピースに交換するほうが低域についても「Acoustune HS1300SS」の良さを実感できるのではと思います。


Acoustune HS1300SSというわけで、「Acoustune HS1300SS」は、3万円以下と「Acoustune」としてはかなり購入しやすい価格帯の製品ながら、同社の特徴を十分に楽しめる、非常にお買い得感のあるモデルだと感じました。またイヤーピースの種類や装着方法などでも結構印象が変わるため、手軽に変化を楽しめる点も良いですね。そしてさらにキレや明瞭感をアップさせたい場合は同社の「ARC52」「ARC53」といったバランス接続対応の8芯OFCシルバーコートケーブルにリケーブルするのも良いでしょう。他にも最近では「Pentaconn Ear」用の変換コネクタ等もあるみたいなのでそういったものを活用する方法もありますね(私は持っていませんが)。個人的にもちょっとフィット感のあるイヤーピースに替えて、普段使い用で活用しようと思っています。