こんにちは。今回は「TFZ LIVE X」です。中国のイヤホンブランド「TFZ(The Fragrant Zither)」の新しい「LIVE」シリーズの上位グレードモデルで、同社の「第4世代ドライバー」を初めて搭載したイヤホンです。ドライバー部分にコストを全振りしてるとか、低域特化モデルで従来のTFZ製品より好き嫌いが分かれるとか、それ以前にちょっと割高感があるなど、「人を選ぶ」製品ではありますが、特に低域の高さは特筆に値するなど非常に興味深いイヤホンだと思います。
TFZは伝統的に独自開発のデュアル磁気回路ダイナミックドライバーを採用してきました。「TFZ SERIES 1/3/5」などで採用された「第1世代」を起点に、「KING」「SERIES 2」「T2G(T2 Galaxy)」などで採用され振動版にグラフェンを採用し性能を強化した「第2世代」、「KING PRO」「SECRET GARDEN」などで搭載された派生型の「第2.5世代」、さらに「NO.3」「KING EDITION」などで搭載され、ダイヤモンド振動版に発展した「第3世代」と進化をしています。
→ 過去記事:【メーカー別まとめ】 「TFZ」イヤホン編 「その①」 / 「その②」 / 「その③」
また2020年から新たにラインナップされた「LIVE」シリーズでは、「LIVE 1」が「第2世代ドライバー」、「LIVE 3」が「第3世代ドライバー」をそれぞれ搭載しています。
→ 過去記事: 「TFZ LIVE 1」のレビュー / 「TFZ LIVE 3」のレビュー
これらTFZ製イヤホンのラインナップについては私のブログにて独自に作成した価格帯マトリクスを公開しており、随時更新をしています。よろしければ併せて参照ください。
・【メーカー別まとめ】 「TFZ」イヤホン編 / 最新版・価格別マトリクスチャート ※随時更新
そして、満を持して登場した「第4世代」ドライバーを初めて搭載したモデルが今回の「TFZ LIVE X」です。思わずブ○ガリのウォッチを連想させるようなゴールドの円形プレートのフェイスデザインからも従来の「LIVE」シリーズよりグレードの高い設定になっています。そして「TFZ LIVE X」に搭載される「第4世代」二重磁気回路ダイナミックドライバーでは「ナノゴールド振動版」を新たに採用。これはマグネトロンスパッタリングによる真空蒸着で均一で緻密なナノゴールド層をポリマーフィルム上にコーティングした振動版で、従来より格段に優れた音響性能を発揮します。
新しい「第4世代」ダイナミックドライバーは、非常に繊細でクリアな中高音域とパワフルな低域があり、高い解像度とボーカルや楽器の正確な定位感、そして滑らかで心地よいリスニングをもたらすよう設計されています。また従来よりさらにアップグレードされたTFZ製ダイナミックドライバーの特徴である「二重磁気回路」の音響設計は、より歪みのないサウンドに最適化され、見通しの良い透明感と、詳細なディテール、クリアな出力を実現しているとのことです。
そして、「TFZ LIVE X」では新たに「金メッキ線」「銀メッキ線」「高純度無酸素銅線」のミックス線ケーブルを採用。より損失の少ない高精細な伝送を実現しています。「TFZ LIVE X」のカラーバリエーションは「ブラック(Exquisite Black)」「ホワイト(Advanced White)」「グリーン(Jasper Green)」そして「ピンク(Fairly Powder)」の4色で、国内版ではピンク以外の3色が販売されています。
「TFZ LIVE X」の海外版の価格は 229ドル、国内正規品の価格は 29,800円です。海外版はAliExpressのTFZオフィシャルストア(The Fragrant Zither Official Store)などで購入できます。AliExpressでの購入方法はこちらを参照ください。
Amazon.co.jp(国内正規品): TFZ LIVE X
また募集時期にタイミングが合えば米国の共同購入サイト「Drop」でより低価格で出品されることがあります。私も「Drop」での初回募集時に160ドル+送料(4.27ドル)で購入しました。募集時期が限られていますし、オーダーした際も届くまでに1~2ヶ月以上かかりますので、その辺も理解のうえで興味のある方はあらかじめ「Request」しておくと募集開始時に案内のメールが届きます。
Drop: TFZ LIVE X IEM
■ ハイグレードを意識したデザインやパッケージながら、全体的な「もっとがんばりましょう」感
「TFZ LIVE X」のパッケージは、200ドルオーバーの上位モデルということでかなり高級感のある大きい箱に収納されています。見た目の豪華さはなかなかのものですが、ちょっと嵩張りすぎかも。
というのも、パッケージ内容自体は最近のLIVEシリーズと同じで、イヤホン本体、ケーブル、イヤーピースが2種類(それぞれS/M/Lサイズ)、ケーブルフック、説明書。付属品の多さがグレードを示すわけでは無いものの、箱を豪華にするよりせめてそれなりのイヤホンケースを付属させるくらいのほうが有り難い気はしますね。
「TFZ LIVE X」の本体はTFZの従来のハウジング形状を踏襲する「LIVE 1」「LIVE 3」と同様のサイズ感で、フェイスプレートは「KING EDITION」より僅かに大きいものの、厚みが少ないため全体としては若干小さい印象。「TFZ LIVE X」は「KING EDITION」より100ドルほど高い価格設定の製品ですが、ハウジングは樹脂製で、ステムノズル部分にのみ金属製パーツを使用しています。デザインを印象づけるブ○ガリ風のリング状のゴールドの金属パーツが印象的ですね。またフェイスプレート上部にある3つの小さなベント(空気孔)が特徴的です。
「TFZ LIVE X」のシェルを「KING EDITION」および「QUEEN LTD」と実際に比較してみると、樹脂製ハウジングのビルドクオリティは70ドル程度の「QUEEN LTD」と似た水準であることがわかります。少なくともシェル部分に関しては「KING EDITION」より大幅にコストダウンの作りになっていることは確実で、多少うがった見方をすると、コストを下げた分、「ブ○ガリ風フェイスデザイン」で安っぽく見えないようにしている、とも取れます。そうすると中身が変わらないのに無駄に豪華なパッケージデザインも200ドルオーバーの価格を正当化するための演出のようにも見えてきます。
裏を返せば、それだけ「第4世代ドライバー」は従来のTFZのドライバーより製造コストがかかり、なんとか200ドルちょっとで抑えるための苦労の跡、という感じなのかもしれません。「第3世代」ドライバー搭載モデルも人工ダイヤモンドをコーティングした振動版(実質的には「DLC」=Diamond Like Carbonとほぼ同じような振動版とも考えられます)でしたので、多少はコストがかかっていたとは思いますが、やはりゴールドを使うというのは大変なことのようです。また二重磁気回路およびシャーシの改良にもかなり努力を行ったのではと思われます。
「TFZ LIVE X」の装着性は従来のTFZ製イヤホンとほぼ同じですが、樹脂製で軽量なため「KING EDITION」などより耳から落ちにくい印象です。付属のイヤーピースのほか、定番のJVC「スパイラルドット」やAcoustuneの「AET07」、AZLA「SednaEarfit Light」「SednaEarfit Light Short」など開口部が広く、耳にフィットするタイプのイヤーピースなどもお勧めです。
■ 「第4世代ドライバー」全振りの構成で生まれた驚きの低音重視サウンド。
「TFZ LIVE X」の音質傾向は中低域寄りのドンシャリ。第3世代ドライバーの「TFZ LIVE 3」も中低域の厚みが印象的でしたが、「TFZ LIVE X」では量感および質感ともに低域に注力して仕上げた印象です。中高域は従来のTFZやや派手めのキレの良さからすると多少大人しい印象を受けるため、高域の質感を求める方には多少物足りなさを感じるかもしれませんが、全体としてのまとまりは良く、音質面の完成度は高いと思います。特に低域のエネルギーと質感は抜群に高く、非常に高い解像度とキレのある低音を非常に分りやすくパワフルに鳴らします。ただ量が多くボンボン鳴っているだけの低域強化イヤホンとは次元の異なる、本当に低域を楽しめるイヤホンに仕上がっていると思います。
「TFZ KING EDITION」より100ドル高く、海外でも2倍近い価格設定の「TFZ LIVE X」ですが、前述の通り見た目や付属品では逆にややチープで、購入する上で大きなウィークポイントでした。しかし低域を中心として音質面に関してはある程度納得のいく仕上がりと言えるでしょう。本当に「第4世代ドライバー」に全振りのイヤホンだったみたいですね(^^;)。 ただし、このイヤホンを海外の価格で2万円台の製品とみるか、国内版の価格で3万円のイヤホンとみるかでかなり評価は変わるかもしれません。海外ではセール時期のタイミングに合わせれば200ドル前後で購入できるため、低域の質感を考慮すれば十分にアリかな、と思います。しかし3万円だと思うと製品のグレードが1ランク上がってしまうため「それなら相応に他の部分にもコストを掛けてね」という印象になってしまいますね。実際海外での225ドルの価格設定でも動きは鈍いようで、セール時にはディスカウントの対象になりやすいですし、私が購入した「Drop」では初回募集でいきなり165ドルと大幅に価格を下げて販売されました。実際に製品を手にしてみると音質面の評価から「Drop」の価格は相当にお買得だったなと思いました。
「TFZ LIVE X」の高域は詳細で煌びやかな印象。比較的スッキリとした印象で解像度は高く、明瞭感と適度な伸びを確保しつつ自然で聴きやすい音を鳴らします。ただし低域を強調した全体のバランスから多少暗めに感じる場合もあります。駆動力のある再生環境ではやや刺激が強く感じる場合もありますが、刺さらない程度のバランスにコントロールされています。
中音域は、ドンシャリ傾向ながら適度な主張があり凹むこと無く再生されます。ボーカル帯域は適度に主張しつつ味付けの無いニュートラルな印象で、低域に引っ張られることも無く自然なバランスで鳴ります。女性ボーカルの高音の抜けは比較的良く、最近のTFZの傾向を踏襲した寒色系のドライな音で高い解像感や分離の良さも実感します。また男性ボーカルも自然で厚みがあります。音場は「第3世代」の「NO.3」のような広い空間表現では無くややタイト感がありますが、これも中低域が過度に膨らまないために意図的に淡々と鳴らすようにチューニングされている印象もあります。そのためバランスは良いですがボーカルの艶感や余韻を楽しみたい方には少し物足りないかも知れません。
そして低域は、これまでのTFZ製イヤホンのなかでも随一の質の高さを実現しており、「TFZ LIVE X」の存在価値そのもの、といってよいレベルに仕上がっています。もともとTFZというブランドは初期の「SERIES 5/5S」などのようにパワフルで質の良い低域が特徴的なブランドでしたが、次の「EXCLUSIVE KING」で派手さを増したサウンドが好評となり、バランスの良さで評価を得た「KING PRO」と高域が好印象だった「SECRET GARDEN」で成功したことで、他の中華イヤホン同様の「寒色系弱ドンシャリの派手系サウンド」に引っ張られがちなモデルが続きます(まあ中国市場でのニーズもあるのだろうとは思います)。しかし、「TFZ LIVE X」で新しい世代のドライバーを搭載するうえで、改めて「低域」の質の向上にしっかり向き合ってくれたことはとても嬉しいことです。
「TFZ LIVE X」の低域の最大の魅力は非常に深いところからありのままの音をしっかり刻む重低音で、通常はロールオフされるような低い周波数の音もしっかりとしたパワーを持っています。またミッドベースも過度に膨らむことは無く、非常に高い解像度とスピード感を維持したまま力強く鳴ります。いっぽうで人工的な印象は少なく非常に自然で滑らかさのある表現も魅力的です。低域成分、特に重低音をガンガン効かせた曲ではややブースト気味になるため、表現としてニュートラルというわけではありませんが、「TFZ LIVE X」による熱量のあるパワーを感じ「非常にアガる」サウンドであることは間違いないでしょう。低域好きのマニアであれば、この低域だけで「TFZ LIVE X」の購入を検討に値する優れた質感です。
「TFZ LIVE X」は分りやすく低域を前面に出したサウンドのため、ハードロック、EDMなどもっと低域を楽しみたいという曲の魅力を最大限に引き出すのに最適でしょう。ややドライですがジャズなども楽しいとも思います。いっぽう高域成分の多いアニソンなどでは聴きやすさがある反面、好みのバランスではないと感じる場合もあると思います。またリケーブルにより多少中高域のバランスにアクセントを付けることは可能だと思いますが、個人的にはこのままのバランスのほうが「楽しい」と感じました。
というわけで、「TFZ LIVE X」は200ドル~300ドルの中華イヤホンとしてはアッパーミドルグレードに位置する製品ですが、その価格帯に正面から挑むと言うよりは「低域特化」で結構ニッチなターゲットを狙ったイヤホンのように感じます。正直「ハマる人にはハマる」といった感じで、万人受けとは言い難く、従来のモデルより合わない方もそれなりに多いイヤホンだと思いますし、おそらくメーカーも「承知の上」で作っているだろう、ということも伺えます。
つまり、TFZにしてみれば「第4世代ドライバー」を搭載した「本命のフラグシップ」は今後別に登場すると考えるのが妥当でしょう。TFZのサイトでは「TFZ LIVE X」の発売以前から未発表の第4世代搭載モデルの写真が載っていますが(次期KING系統モデルかも?)、「TFZ LIVE X」がドライバー全振りでこれだけコストがかかるということを考慮すると、発売されれば500ドルは軽く超えてくる設定になりそうな気がします。同社のイヤホンをずっと追ってきたファンのひとりとして、とても楽しみではありますね(^^)。
→ 過去記事:【メーカー別まとめ】 「TFZ」イヤホン編 「その①」 / 「その②」 / 「その③」
また2020年から新たにラインナップされた「LIVE」シリーズでは、「LIVE 1」が「第2世代ドライバー」、「LIVE 3」が「第3世代ドライバー」をそれぞれ搭載しています。
→ 過去記事: 「TFZ LIVE 1」のレビュー / 「TFZ LIVE 3」のレビュー
これらTFZ製イヤホンのラインナップについては私のブログにて独自に作成した価格帯マトリクスを公開しており、随時更新をしています。よろしければ併せて参照ください。
・【メーカー別まとめ】 「TFZ」イヤホン編 / 最新版・価格別マトリクスチャート ※随時更新
そして、満を持して登場した「第4世代」ドライバーを初めて搭載したモデルが今回の「TFZ LIVE X」です。思わずブ○ガリのウォッチを連想させるようなゴールドの円形プレートのフェイスデザインからも従来の「LIVE」シリーズよりグレードの高い設定になっています。そして「TFZ LIVE X」に搭載される「第4世代」二重磁気回路ダイナミックドライバーでは「ナノゴールド振動版」を新たに採用。これはマグネトロンスパッタリングによる真空蒸着で均一で緻密なナノゴールド層をポリマーフィルム上にコーティングした振動版で、従来より格段に優れた音響性能を発揮します。
新しい「第4世代」ダイナミックドライバーは、非常に繊細でクリアな中高音域とパワフルな低域があり、高い解像度とボーカルや楽器の正確な定位感、そして滑らかで心地よいリスニングをもたらすよう設計されています。また従来よりさらにアップグレードされたTFZ製ダイナミックドライバーの特徴である「二重磁気回路」の音響設計は、より歪みのないサウンドに最適化され、見通しの良い透明感と、詳細なディテール、クリアな出力を実現しているとのことです。
そして、「TFZ LIVE X」では新たに「金メッキ線」「銀メッキ線」「高純度無酸素銅線」のミックス線ケーブルを採用。より損失の少ない高精細な伝送を実現しています。「TFZ LIVE X」のカラーバリエーションは「ブラック(Exquisite Black)」「ホワイト(Advanced White)」「グリーン(Jasper Green)」そして「ピンク(Fairly Powder)」の4色で、国内版ではピンク以外の3色が販売されています。
「TFZ LIVE X」の海外版の価格は 229ドル、国内正規品の価格は 29,800円です。海外版はAliExpressのTFZオフィシャルストア(The Fragrant Zither Official Store)などで購入できます。AliExpressでの購入方法はこちらを参照ください。
Amazon.co.jp(国内正規品): TFZ LIVE X
また募集時期にタイミングが合えば米国の共同購入サイト「Drop」でより低価格で出品されることがあります。私も「Drop」での初回募集時に160ドル+送料(4.27ドル)で購入しました。募集時期が限られていますし、オーダーした際も届くまでに1~2ヶ月以上かかりますので、その辺も理解のうえで興味のある方はあらかじめ「Request」しておくと募集開始時に案内のメールが届きます。
Drop: TFZ LIVE X IEM
■ ハイグレードを意識したデザインやパッケージながら、全体的な「もっとがんばりましょう」感
「TFZ LIVE X」のパッケージは、200ドルオーバーの上位モデルということでかなり高級感のある大きい箱に収納されています。見た目の豪華さはなかなかのものですが、ちょっと嵩張りすぎかも。
というのも、パッケージ内容自体は最近のLIVEシリーズと同じで、イヤホン本体、ケーブル、イヤーピースが2種類(それぞれS/M/Lサイズ)、ケーブルフック、説明書。付属品の多さがグレードを示すわけでは無いものの、箱を豪華にするよりせめてそれなりのイヤホンケースを付属させるくらいのほうが有り難い気はしますね。
「TFZ LIVE X」の本体はTFZの従来のハウジング形状を踏襲する「LIVE 1」「LIVE 3」と同様のサイズ感で、フェイスプレートは「KING EDITION」より僅かに大きいものの、厚みが少ないため全体としては若干小さい印象。「TFZ LIVE X」は「KING EDITION」より100ドルほど高い価格設定の製品ですが、ハウジングは樹脂製で、ステムノズル部分にのみ金属製パーツを使用しています。デザインを印象づけるブ○ガリ風のリング状のゴールドの金属パーツが印象的ですね。またフェイスプレート上部にある3つの小さなベント(空気孔)が特徴的です。
「TFZ LIVE X」のシェルを「KING EDITION」および「QUEEN LTD」と実際に比較してみると、樹脂製ハウジングのビルドクオリティは70ドル程度の「QUEEN LTD」と似た水準であることがわかります。少なくともシェル部分に関しては「KING EDITION」より大幅にコストダウンの作りになっていることは確実で、多少うがった見方をすると、コストを下げた分、「ブ○ガリ風フェイスデザイン」で安っぽく見えないようにしている、とも取れます。そうすると中身が変わらないのに無駄に豪華なパッケージデザインも200ドルオーバーの価格を正当化するための演出のようにも見えてきます。
裏を返せば、それだけ「第4世代ドライバー」は従来のTFZのドライバーより製造コストがかかり、なんとか200ドルちょっとで抑えるための苦労の跡、という感じなのかもしれません。「第3世代」ドライバー搭載モデルも人工ダイヤモンドをコーティングした振動版(実質的には「DLC」=Diamond Like Carbonとほぼ同じような振動版とも考えられます)でしたので、多少はコストがかかっていたとは思いますが、やはりゴールドを使うというのは大変なことのようです。また二重磁気回路およびシャーシの改良にもかなり努力を行ったのではと思われます。
「TFZ LIVE X」の装着性は従来のTFZ製イヤホンとほぼ同じですが、樹脂製で軽量なため「KING EDITION」などより耳から落ちにくい印象です。付属のイヤーピースのほか、定番のJVC「スパイラルドット」やAcoustuneの「AET07」、AZLA「SednaEarfit Light」「SednaEarfit Light Short」など開口部が広く、耳にフィットするタイプのイヤーピースなどもお勧めです。
■ 「第4世代ドライバー」全振りの構成で生まれた驚きの低音重視サウンド。
「TFZ LIVE X」の音質傾向は中低域寄りのドンシャリ。第3世代ドライバーの「TFZ LIVE 3」も中低域の厚みが印象的でしたが、「TFZ LIVE X」では量感および質感ともに低域に注力して仕上げた印象です。中高域は従来のTFZやや派手めのキレの良さからすると多少大人しい印象を受けるため、高域の質感を求める方には多少物足りなさを感じるかもしれませんが、全体としてのまとまりは良く、音質面の完成度は高いと思います。特に低域のエネルギーと質感は抜群に高く、非常に高い解像度とキレのある低音を非常に分りやすくパワフルに鳴らします。ただ量が多くボンボン鳴っているだけの低域強化イヤホンとは次元の異なる、本当に低域を楽しめるイヤホンに仕上がっていると思います。
「TFZ KING EDITION」より100ドル高く、海外でも2倍近い価格設定の「TFZ LIVE X」ですが、前述の通り見た目や付属品では逆にややチープで、購入する上で大きなウィークポイントでした。しかし低域を中心として音質面に関してはある程度納得のいく仕上がりと言えるでしょう。本当に「第4世代ドライバー」に全振りのイヤホンだったみたいですね(^^;)。 ただし、このイヤホンを海外の価格で2万円台の製品とみるか、国内版の価格で3万円のイヤホンとみるかでかなり評価は変わるかもしれません。海外ではセール時期のタイミングに合わせれば200ドル前後で購入できるため、低域の質感を考慮すれば十分にアリかな、と思います。しかし3万円だと思うと製品のグレードが1ランク上がってしまうため「それなら相応に他の部分にもコストを掛けてね」という印象になってしまいますね。実際海外での225ドルの価格設定でも動きは鈍いようで、セール時にはディスカウントの対象になりやすいですし、私が購入した「Drop」では初回募集でいきなり165ドルと大幅に価格を下げて販売されました。実際に製品を手にしてみると音質面の評価から「Drop」の価格は相当にお買得だったなと思いました。
「TFZ LIVE X」の高域は詳細で煌びやかな印象。比較的スッキリとした印象で解像度は高く、明瞭感と適度な伸びを確保しつつ自然で聴きやすい音を鳴らします。ただし低域を強調した全体のバランスから多少暗めに感じる場合もあります。駆動力のある再生環境ではやや刺激が強く感じる場合もありますが、刺さらない程度のバランスにコントロールされています。
中音域は、ドンシャリ傾向ながら適度な主張があり凹むこと無く再生されます。ボーカル帯域は適度に主張しつつ味付けの無いニュートラルな印象で、低域に引っ張られることも無く自然なバランスで鳴ります。女性ボーカルの高音の抜けは比較的良く、最近のTFZの傾向を踏襲した寒色系のドライな音で高い解像感や分離の良さも実感します。また男性ボーカルも自然で厚みがあります。音場は「第3世代」の「NO.3」のような広い空間表現では無くややタイト感がありますが、これも中低域が過度に膨らまないために意図的に淡々と鳴らすようにチューニングされている印象もあります。そのためバランスは良いですがボーカルの艶感や余韻を楽しみたい方には少し物足りないかも知れません。
そして低域は、これまでのTFZ製イヤホンのなかでも随一の質の高さを実現しており、「TFZ LIVE X」の存在価値そのもの、といってよいレベルに仕上がっています。もともとTFZというブランドは初期の「SERIES 5/5S」などのようにパワフルで質の良い低域が特徴的なブランドでしたが、次の「EXCLUSIVE KING」で派手さを増したサウンドが好評となり、バランスの良さで評価を得た「KING PRO」と高域が好印象だった「SECRET GARDEN」で成功したことで、他の中華イヤホン同様の「寒色系弱ドンシャリの派手系サウンド」に引っ張られがちなモデルが続きます(まあ中国市場でのニーズもあるのだろうとは思います)。しかし、「TFZ LIVE X」で新しい世代のドライバーを搭載するうえで、改めて「低域」の質の向上にしっかり向き合ってくれたことはとても嬉しいことです。
「TFZ LIVE X」の低域の最大の魅力は非常に深いところからありのままの音をしっかり刻む重低音で、通常はロールオフされるような低い周波数の音もしっかりとしたパワーを持っています。またミッドベースも過度に膨らむことは無く、非常に高い解像度とスピード感を維持したまま力強く鳴ります。いっぽうで人工的な印象は少なく非常に自然で滑らかさのある表現も魅力的です。低域成分、特に重低音をガンガン効かせた曲ではややブースト気味になるため、表現としてニュートラルというわけではありませんが、「TFZ LIVE X」による熱量のあるパワーを感じ「非常にアガる」サウンドであることは間違いないでしょう。低域好きのマニアであれば、この低域だけで「TFZ LIVE X」の購入を検討に値する優れた質感です。
「TFZ LIVE X」は分りやすく低域を前面に出したサウンドのため、ハードロック、EDMなどもっと低域を楽しみたいという曲の魅力を最大限に引き出すのに最適でしょう。ややドライですがジャズなども楽しいとも思います。いっぽう高域成分の多いアニソンなどでは聴きやすさがある反面、好みのバランスではないと感じる場合もあると思います。またリケーブルにより多少中高域のバランスにアクセントを付けることは可能だと思いますが、個人的にはこのままのバランスのほうが「楽しい」と感じました。
というわけで、「TFZ LIVE X」は200ドル~300ドルの中華イヤホンとしてはアッパーミドルグレードに位置する製品ですが、その価格帯に正面から挑むと言うよりは「低域特化」で結構ニッチなターゲットを狙ったイヤホンのように感じます。正直「ハマる人にはハマる」といった感じで、万人受けとは言い難く、従来のモデルより合わない方もそれなりに多いイヤホンだと思いますし、おそらくメーカーも「承知の上」で作っているだろう、ということも伺えます。
つまり、TFZにしてみれば「第4世代ドライバー」を搭載した「本命のフラグシップ」は今後別に登場すると考えるのが妥当でしょう。TFZのサイトでは「TFZ LIVE X」の発売以前から未発表の第4世代搭載モデルの写真が載っていますが(次期KING系統モデルかも?)、「TFZ LIVE X」がドライバー全振りでこれだけコストがかかるということを考慮すると、発売されれば500ドルは軽く超えてくる設定になりそうな気がします。同社のイヤホンをずっと追ってきたファンのひとりとして、とても楽しみではありますね(^^)。
個人的にはTFZならNo3あたりがやはり鉄板という印象です