TRN TA1

こんにちは。今回は「TRN TA1」です。私のブログでもすっかりお馴染みの低価格中華イヤホンブランド「TRN Audio」の新製品で、シンプルな1BA+1DD構成のハイブリッドモデルですが、様々な点でこれまでのTRNのハイブリッド製品とは一線を画したイヤホンです。Knowles製BA採用など従来のTRNとは異なるアプローチで音質傾向的にもより質感の良いサウンドを実現しており、50ドルを大きく下回る低価格設定ながら、非常に完成度の高いイヤホンだと思います。
「TRN」といえば、低価格中華イヤホンの代表的ブランド「KZ」に対抗するメーカーとして、スペックモンスター系の製品を次々とリリースしつつ、金属製ハウジングの積極的な採用やリケーブル製品やワイヤレス方面で独自色を出すなど、最近は差別化要素も多く感じるようになってきました。
そして今回の「TRN TA1」では、TRNブランドとしては初めて「Knowles製BAドライバー」を採用しました。従来のTRNのイヤホンの場合、初期の製品ではBellsing製、現在は自社ブランドのBAを採用することでマルチドライバーながら低価格を実現していました。しかし「TRN TA1」では、バランスド・アーマチュア型(BA)ドライバーのメーカーとして最も実績の高い米国Knowlesブランドの「RAD-33518」を搭載。さらにMMCXコネクタの採用など、従来とは全く異なるアプローチで、最近の「脱・KZ対抗路線」を明確に感じる製品となっています。
TRN TA1TRN TA1

TRN TA1」のドライバー構成はKnowles製BA「RAD-33518」ユニットと、8mmサイズの二重磁気回路ダイナミックドライバーを直列配置で搭載。「RAD-33518」は私のレビューでは何度か登場している型番で、「FiiO FH1」「FH1s」「JadeAudio EA3」といったFiiO製のハイブリッド製品をはじめとしてIKKO「OH1」「OH10」や「TRI i4」など、主に中華ブランドの製品に搭載されることが多いBAユニットです。というのも仕様的には同社の「WBFK-30095」とほぼ同一らしく、またKnowles社とFiiO社の提携以降登場している型番ということから、FiiOまたは関連会社がKnowlesからライセンス生産を行っているBAユニットという話もあります(未確認です)。また仕様的には同じでも実際の音が同じかどうかは単体で直接比較をしたことがないため不明です。
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ちなみに「30095」という型番を付けた、低価格中華ハイブリッドではお馴染みのBellsingおよびKZやTRNのユニット(KZおよびTRNはどちらもBellsingのOEMまたは相当品と思われます)は、ほぼ高域~高高域用のツィーターとしてのみ使われますが、「WBFK-30095」相当とされるKnowles「RAD-33518」搭載の製品では「TRN TA1」も含め、高域だけでなくミッドレンジもある程度「RAD-33518」でカバーするチューニングを行うことが多いようです。そして「TRN TA1」に搭載されるダイナミックドライバーは8mmサイズと従来TRNの多くのモデルで採用してきた10mmより少しコンパクトで、音質性能もより改良を加えた「次世代」仕様となっているようです。

TRN TA1TRN TA1
金属製のハウジングはマグネシウム合金を使用。クロームメッキ仕様のシンプルながら高級感のあるデザインとなっています。そしてコネクタはこちらもTRNブランドとしては初めて「MMCX」仕様を採用。銀メッキOFC線のケーブルが付属します。
TRN TA1」のデザイン的にはソニーのハイエンド製品「IER-Z1R」を意識した形状、ということになると思いますが、正確には「IER-Z1R」ぽいデザインを採用した「FiiO FD5」のほうに似せた、という感じのほうがしっくり来るかもしれませんね(^^;)。ケーブルコネクタ部分の左右を示す赤青のマーキングなどはFiiO製イヤホンを連想させるものです。そういえばTRNはTWSアダプタの「BT20S」をベースにFiiOの「UTWS1」をOEM生産していますし、もし「RAD-33518」がKnowlesからFiiOがライセンス生産しているBAドライバーだとしたら、逆にFiiOから供給を受けることも可能かも。というか、そのうちFiiOのエントリーモデルに「TRN TA1」のOEM品が登場したりとか(邪推)。そう考えれば従来のTRNとはテイストが違う方向性も、MMCX採用およびコネクタの赤青マーキングも納得できる気が・・・。逆にOEM採用されなかった没ネタだったりとか(邪推その2)。どちらにせよ、Knowles製BA搭載に加えて、TRNとしてははじめてMMCXコネクタを採用している点も特徴的で、この点でも「脱・KZ対抗路線」が明確となっていますね。

購入はAliExpressまたはアマゾンの主要セラーのほか、「HIFIGO」でも購入できます。
価格は40ドルですが、HIFIGOでは37.99ドルで購入できます。
HIFIGO: TRN TA1


■ MMCX採用、あのイヤホンを意識した?コンパクトでシンプルなデザイン。

TRN TA1」のパッケージは従来のTRN製イヤホンとはサイズの異なる本体画像がプリントされたデザイン。TENのロゴはパッケージ側面にのみ記載されており、「TA1」というモデル名を強調したデザインとなっています。
TRN TA1TRN TA1
パッケージ内容はイヤホン本体、MMCXコネクタ仕様の銀メッキ線ケーブル、イヤーピースは白色タイプと黒色タイプの2種類がS/M/Lサイズ、さらにウレタンタイプが1ペア、説明書・保証書など。従来の赤色軸でグレーのイヤーピースとは異なる仕様ですし、複数の種類が同梱されているのも新しいですね。
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マグネシウム合金製の金属ハウジングはシンプルなデザインが印象的。クロームメッキ仕上げで安っぽさはほとんど感じません。MMCXコネクタの採用もあり、フェイスデザインのTRNロゴが無ければTRNのイヤホンとは気付かないかも知れない、といった感じです。またコンパクトで軽量なため装着性のうえでもさほど困ることはないでしょう。
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従来のTRNおよびKZなどのハイブリッドモデルと比較すると「TRN TA1」のコンパクトさは一層わかりやすいですね。耳の小さい方でもしっかり装着できそうです。
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ケーブルは4芯タイプの銀メッキ線タイプが付属します。プラグはシルバーの金属製カバーが付いたタイプでMMCXコネクタ部分はFiiO製イヤホンのケーブルの様に右側は赤色、左側は青色でマーキングされており分りやすい仕様になっています。
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イヤーピースは標準で数種類のイヤーピースが付属しており、装着感に合せて選択することができます。白色がバランスタイプ、黒色が低域強調タイプで、もっとも低域が強く感じるのがウレタンタイプとなるようです。ただ、個人的には付属のイヤーピースは今ひとつの印象で、開口部が大きく、フィット感の良いイヤーピースへの交換を推奨したいところです。定番のJVC「スパイラルドット」、Acoustune「AET07」、あるいはAZLA「AZLA SednaEarfit Light」や「SednaEarfit XELASTEC」など自分の耳に合う最適なイヤピースを選択するのも良いと思います。今回私は高いフィット感により適度に高域がコントロールされ低域の深みが増した印象の「SednaEarfit XELASTEC」を選択しました。


■ 従来の低価格中華ハイブリッドとは異なる自然な高域が心地良くバランスの良いサウンド。

TRN TA1TRN TA1」の音質傾向は明瞭感のある弱ドンシャリ傾向で、非常にバランスの良いサウンドに仕上がっています。低価格中華ハイブリッドにありがちな金属質な派手さとは全く異なる、スッキリと気持ちよく伸びる高域がKnowles製BA搭載による従来のTRNとの違いを鮮明にします。KZ/CCAやTRNなどに特有の中華BAによるギラつき感(一種の高域の歪みですね)などが無く、かなり上品な質感になっていますね。中音域はTRNらしい寒色系の明瞭さも感じる、全般的に明るく鮮やかな音色で、さらに「TRN TA1」ではボーカル帯域も滑らかさがあり、低域は締まりのあるタイトなサウンドです。正直なところ50ドルを大きく下回る価格でこのサウンドを実現できているのはかなり驚きです。
またイヤホン本体のポテンシャルはかなり高く、再生環境の違いにより解像感や音場感をより引き出せるほか、リケーブルの効果もしっかり実感できます。個人的には低価格イヤホンで本体の価格を大きく上回るケーブルとの組み合わせはあまり推奨していませんが、「TRN TA1」についてはある程度グレードの高いケーブルを使用してみても十分に楽しさを実感できる製品だと感じました。

TRN TA1TRN TA1」の高域は、見通しの良さを感じる伸びのある音を鳴らします。Knowles「RAD-33518」はTRNの「30095」などの高域BAのような多少不自然な派手さを感じる音ではなく、より歪みのない伸びやかで自然な印象ですね。より明瞭でキレを求める方には多少ディテール感が欲しいと感じるかもしれません。この辺は同じBAを搭載した「TRI-i4」とも似ており、ドライバーの特性といった感じです。再生環境によっては主張は比較的強めである程度の鋭さを感じる方もありそうですが、個人的には適度にコントロールされている印象。この辺はイヤーピースやリケーブルでも結構印象が変わるのでいろいろ試されることをお勧めします。50ドル以下の低価格中華ハイブリッドとしてはかなり質の高い高域だと思います。

中音域は癖のないニュートラルな印象で、同時に明るく鮮やかさがあります。適度にメリハリのあるサウンドですが、高域同様、中音域も従来のTRNの中華ハイブリッドに見られた人工的な派手さはあまり感じず、「TRN TA1」の従来とは異なるアプローチを実感します。ある程度の主張はあるものの耳障りになることは無く、マグネシウム合金のハウジングの質感を反映してか比較的軽やかさを感じる音色です。音場は広さは一般的ながら奥行きがあり、ボーカルと演奏は自然な距離感で定位します。解像感のある寒色系ながら自然な滑らかさも感じるのは好印象です。男性ボーカルも女性ボーカルも癖のない滑らかなサウンドで、聴きやすく心地良い印象です。ロック、ポップス、アニソンなど幅広くボーカル曲と相性の良さがあります。僅かに温かさがあり、曲調によっては非常にエモーショナルですが、いっぽうでキレやスピード感を重視される方には従来のTRNのハイブリッドより穏やかに感じるかもしれませんね。

TRN TA1低域は十分な量感を確保しつつ適度に締まりがあるタイトな音を鳴らします。次世代ドライバーと記載された8mm 二重磁気回路ダイナミックドライバーは中高域との心地良い分離と自然な質感を実現しています。重低音は深く心地良い重量感があります。タイトながら力強いバスドラムは良いアクセントになります。ミッドベースは直線的で膨らむこと無く鳴ります。中高域同様に自然な印象の印象のため、この辺が従来のTRNのハイブリッド製品のパワー重視の低域との違いとなるでしょう。より明瞭感やエッジの効いたサウンドやメリハリのある音を好まれる方はKZ/CCA同様にこれまでのTRNのハイブリッド、より自然な印象を好まれる方は「TRN TA1」といった感じです。ただ「TRN TA1」は分離の良い低音なのでハードロックや音数の多いEDMなどでも十分に表現できます。できればリケーブル等でポテンシャルをさらに引き出すほうが好印象になります。

TRN TA1」はポテンシャルが高く、リケーブルで劇的な傾向の変化はないものの、解像感や描写の詳細さ、より立体的な音場感などを実感しやすくなります。傾向としては銀メッキ線、純銀線との相性が良いようです。価格および見た目のバランスが非常に良いのは純銀線の「NICEHCK LitzPS」および「KBEAR KBX4904」でしょう。高域はスッキリしますが刺激が増す事は無く(この辺の統制の取れている感じはKnowlesのBAらしいですね)、分離が向上することで低域のキレが増します。
TRN TA1 / NICEHCK LitzPSTRN TA1 / NICEHCK LitzPS Pro
また8芯純銀線の「LitzPS Pro」「KBX4913」の場合は、同様の傾向を維持したまま全体的に情報量が向上しより「濃い」印象の音になります。銀メッキ線の場合は「TRI TR4908」「NICEHCK C8sシリーズ」などの8芯単結晶銅線銀メッキ線ケーブルのほか、「NICEHCK C16-1」「YYX4865」などの16芯銀メッキ線も癖が少なく良い組み合わせですね。銀メッキ線では付属ケーブルに近い傾向のままより中高域の伸びが良くなり明瞭さを感じます。メリハリの向上などケーブルにより変化がありますので色々試してみるのも楽しいですね。
TRN TA1 / YYX4865TRN TA1 / final シルバーコートケーブル
そんななか個人的には半分「ネタ」でリケーブルしたfinalの「シルバーコートケーブル」が想像以上に抜群の相性の良さを感じ、結局そのまま使用することにしてしまいました(^^;)。普通に購入すれば2万円以上するケーブルですのでわざわざ「TRN TA1」と合せるために購入するのはちょっとお勧めできないですが、例えば「final E5000」をリケーブルして付属してたのが余ってるとか、そういう機会でもあれば・・・。まあMMCXコネクタを採用することで、今までに無いリケーブルの選択肢が増えたことも事実ですので、こういう「お遊び」もアリということで。

というわけで、「TRN TA1」はアンダー50ドルの低価格中華イヤホンの範疇ながら、より上の価格帯の製品と十分に渡り合える高いポテンシャルを持ったイヤホンでした。「KZ ZSTX」などの製品からもう少し上のクラスの、メインでも使える1個、という選択肢なら最初にお勧めしても問題ないイヤホンかなと思います。再生環境によって相応の変化が得られるものの、いっぽうでスマートフォン等でもそれなりに鳴らせる使いやすさもポイントです。結構遊べるイヤホンなので、私も「2個目」を購入しました。まだ未開封ですが、こちらはワイヤレス化して使おうかなと、と思っています(^^)。