TFZ KING RS

こんにちは。今回は「TFZ KING RS」です。中国のイヤホンブランド「TFZ(The Fragrant Zither)」の中核モデルである「KING」ラインの名称を持つ最新のイヤホンです。先日レビューした「LIVE X」に次いで「第4世代」ドライバーを搭載したモデルとなり、こちらは名称通り「王道のTFZサウンド」をブラッシュアップしたハイグレードモデルに仕上がっています。私は例によって海外版の発売開始とほぼ同時に購入しており、4月下旬には手元に届いていました。2ヶ月ほど使用してのレビューとなりますね(^^;)。
TFZ KING RSTFZ KING RS

「TFZ」というと、同社独自の「デュアルコイル」と「デュアルチャンバー」による「二重磁気回路ダイナミックドライバー」によるシングルダイナミック構成のイヤホンが特徴で、TFZブランドとして最初に投入された「SERIES 1/3/5」の各モデルで採用されたチタン振動版(ダイヤフラム)のユニットを「第1世代」として、以降より性能を向上させる過程で性能を強化しながら現在は「第4世代」までグレードアップしてます。そして「KING」という名称は第1世代の「SERIES 5S」をアップグレードした第2世代モデル「EXCLUSIVE KING」で初めて採用され、以降、第2.5世代の「KING PRO」、第3世代の「KING EDITION」など、各世代を代表するモデルで「KING」という名称が採用されています(他にPROの普及版「KING II/LTD」や限定モデルの「KING III」もあります)。
※TFZの第1~第3世代までのドライバーごとのモデルの変遷については過去記事の「まとめ」を参照ください。
→ 「TFZ」まとめ① (前編) / TFZの「世代」ごとの変遷と代表モデル、最新ラインナップを整理してみました。
→ 「TFZ」まとめ② (中編) / いまいちわかりにくいラインナップの「系統」を色々な視点で考察しながら整理してみた。
→ 「TFZ」まとめ③ (後編) / 各世代で登場したさまざまな「派生モデル」をまとめて考察してみました。
またTFZ製イヤホンのラインナップについては私のブログにて独自に作成した価格帯マトリクスを公開しており、随時更新をしています。よろしければ併せて参照ください。
→ 【メーカー別まとめ】 「TFZ」イヤホン編 / 最新版・価格別マトリクスチャート ※随時更新

そして最新の「TFZ KING RS」ではいよいよ「第4世代」のドライバーを搭載しています。
先日レビューした「TFZ LIVE X」で初めて搭載された「第4世代」では「ナノゴールドスパッタリング振動版」を採用。真空中で生成したプラズマを磁石の力で効率的に定着させる装置であるマグネトロンスパッタ技術を使用し、ポリマーフィルム上に均一かつ高密度の極薄のゴールドの層を定着させ、非常に高性能な振動版に仕上げています。この最新の11.4mm 高性能ナノゴールド振動版を2周波動作する磁気コイル、2つの独立した音響チャンバー、N50強力磁石によるTFZ独自の二重磁気回路で構成したダイナミックドライバーに組み合わせました(メーカー表記: Tesla magnetic group with 11.4mm double magnetic double-cavity gold diaphragm driver)。
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個性的な彫刻が施された「TFZ KING RS」の金属製ハウジングは全面に高純度電気銅を採用し、TFZの伝統的なシェル形状を踏襲しつつ、CNC加工により精密加工されています。付属ケーブルは高純度無酸素銅(OFC)の金メッキ線および銀メッキ線のミックスケーブルが採用されています。
TFZ KING RSTFZ KING RS
TFZ KING RS」のカラーバリエーションは、「ゴールド」「シルバー」「ブラック」の3色。
価格は238ドル です。購入はAliExpressの各セラーおよびHiFiGo等にて。AliExpressの購入方法はこちらをご覧ください。HiFiGoは100ドル以上の購入で日本向け優先配送便を使用し、また購入後の保証等についても明記されていますのでより安心感があるようですね。

7月29日から国内版もリリースされました。価格は34,000円です。
楽天市場(検索結果): TFZ KING RS


■ 高純度電気銅の独創的デザインの金属ハウジングながら装着感は既存モデルを踏襲

TFZ KING RS」のパッケージはスクウェア型の白箱タイプ。「SECRET GARDEN」シリーズや「SERIES 7」など少し以前の200ドルオーバーモデルで採用されていたタイプですね。以前はTFZのロゴがプリントされていましたが今回は「KING RS」の文字のみとデザインは「LIVE」シリーズ以降のタイプになっています。
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このタイプのパッケージは樹脂製のハードケースが同梱されており、イヤーピースやケーブルはケースの中に収納されています。パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル、イヤーピースはシリコン製2タイプ(それぞれS/M/Lサイズ)と装着済みのウレタンタイプ、ケーブルフック、ハードケース、説明書。
TFZ KING RSTFZ KING RS

高純度電気銅(電気精錬によって得られる高純度の銅)をCNC加工された金属ハウジングはやや厚みがあるデザインで通常のハウジングより重量感があります。装着部分の形状は従来のTFZ製イヤホンとほぼ同じ形状のため、装着性はほぼ同様と思って良いでしょう。
TFZ KING RSTFZ KING RS
フェイス部分が大きく丸みを帯びたデザインのため、実際のサイズ感は「KING PRO」とほとんど変わらないのですが少し小振りに見えます。またステムノズルは少し短めで既存モデルより若干浅めの位置で固定する仕様のようです。ただシェル背面部分の形状は従来のTFZ製イヤホンとほぼ同じで、「QUEEN」のシェルサイズを踏襲する「KING EDITION」より僅かに大きくなります。それで従来のTFZの装着感に慣れている方であれば特に違和感はないでしょう。
TFZ KING RSTFZ KING RS
また銅製のハウジングのため、アルミ合金製の従来の金属シェルのモデルより重量もアップしています。実際に片側の重量を比較してみると「KING PRO」が約7g、「KING EDITION」が約9gなのに対して「TFZ KING RS」は約16gありました。ステム位置が少し浅くなり、従来モデルより重量で外れやすくなるためか、装着済みのイヤーピースはウレタン製になっているようですね。
TFZ KING RSTFZ KING RS
ケーブルは「LIVE X」および「ESSENCE」と同じ金メッキ線/銀メッキ線のミックス線タイプが付属します。以前の硬い被膜の白色ケーブルと比べてとても柔らかく、取り回しなどは良くなっていますね。イヤーピースは付属品のほか、定番のJVC「スパイラルドット」やAcoustune「AET07」、より密着感の強いタイプではSpinFit「CP100+」などへの交換も良いと思います。


■ KING PROからの正統進化を感じる高解像度で質の高いモニター系とTFZサウンドの両立

TFZ KING RSTFZ KING RS」の音質傾向はフラット寄りで癖の無いバランスで、非常に解像度の高い明瞭な音を鳴らします。「KING EDITION」の「Professional Mode」よりさらにニュートラルで、印象としては「KING PRO」の正統進化と感じさせるサウンドといえるでしょう。「TFZ KING RS」のインピーダンス25Ω、感度105dB/mWという仕様は非常に使いやすく、55Ωと多少鳴らしにくさがあった「KING PRO」や、18Ωで逆に反応が非常に敏感な「KING EDITION」の中間くらいで通常の再生環境でもそこそこ鳴らせますし、また駆動力のある環境ではより立体的な音場感と濃さを感じるサウンドが楽しめます。
前述の「まとめ」では第3世代の「KING EDITION」は「EXCLUSIVE KING」(第2世代)の後継でここまでのTFZの集大成、と記載しました。いっぽうで、発売当時、その名称通りスタジオモニターとしての用途(=プロ向け)も想定したとされる「KING PRO」(第2.5世代)については「後継無き孤高の存在」と記載しました。しかし、第4世代の「TFZ KING RS」の登場で、ようやく名機「KING PRO」の後継モデルが誕生したといえるのではと思います。

TFZ KING RSまた同じ「第4世代」の「TFZ LIVE X」との比較では、「LIVE X」が非常に強く締まりとともに太さのある低域が押し寄せる感じがあるのに対し、「TFZ KING RS」については全域で輪郭のハッキリしたサウンドで低域もフラットなバランスでありのままに鳴る印象です。そのため従来のTFZらしいメリハリの効いたドンシャリ傾向と比較すると低域が控えめで少し淡泊に感じるかも知れません。しかし、1音1音のディテールは非常に詳細で「KING PRO」よりさらにモニター的な印象が高まったようにも感じます。TFZらしい硬質でキレの良い印象も感じつつ、分析的なリスニングも十分に楽しめる解像感と分離性を実現したサウンドだといえるでしょう。

TFZ KING RS」の高域は非常に明瞭で詳細な音ですが、過度に派手にならず、伸びが良く聴きやすい音を鳴らします。「SECRET GARDEN」のようなキレのある高域と比べるとシャリ付きなどは抑え気味な印象。また「KING EDITION」のより高域が伸びる「Professional Mode」と比較しても非常に自然かつ直線的で、「KING EDITION」で感じた特定の帯域でのギラつきのようなものも解消されています。シンバル音も適度に煌めきのある明るい音で鳴りますが、鋭さが耳に付くことなく聴き疲れをあまりしない印象。1音1音を的確に捉える多少硬質で粒立ちの良さを感じつつも従来のTFZと比べると驚くほどニュートラルで自然な鳴りに驚かされます。第4世代のゴールド振動版ならではの高域かも知れませんね。

TFZ KING RS中音域も非常にニュートラルで、音源を忠実にありのままに再生してくれる印象です。こちらも解像度は非常に高くボーカルや演奏の1音1音を忠実に捉えていますが、味付けなどは無く自然なバランスで鳴ります。最近はボーカル帯域が前面で主張し音像が少し強調されたようなサウンドが増えていますが、「TFZ KING RS」は味付け無く再生するため、比較すると多少淡泊に感じるかも知れません。高域同様に伸びがあり女性ボーカルの高域などの抜けも良く、明瞭さを損なうことなく鳴ります。音場は自然な広さと奥行きがあり、定位感も正確です。音源の良し悪しが結構分りやすいという意味でもモニター的なサウンドといえるでしょう。

低域は硬質で締まりの良い音を鳴らします。従来のドンシャリ傾向のTFZサウンドと比較すると多少控えめに感じますが、十分な量感があり深い重低音まで明瞭に表現し、モニター的には不満を感じることはありません。もともとTFZには低域の締まりの良いイヤホンも結構ありますが、「TFZ KING RS」はスピード感と分離性が格段に優れており、あるがままの自然な描写ながら輪郭に緩さを感じることはなく、どのようなジャンルの曲でも非常に心地良い音を鳴らしてくれます。

TFZ KING RS」はモニター的な明瞭さとフラットさがありつつ、リスニングイヤホンとしても十分に楽しめるTFZらしい鳴りの良さがあるため、ジャンルを問わずサウンドを堪能できます。前述の通り比較的鳴らしやすいイヤホンですが、パワフルな据置きアンプなどで駆動力をかけても歪むことなくより立体的な音場感と、各音域の密度感が向上します。またリスニング的には情報量の多さと質の良さを持ちつつ、多少メリハリの効いたケーブルへのリケーブルも効果的でしょう。
TFZ KING RSTFZ KING RS
具体的にはHCKのハイグレードケーブルなどで最近の「NICEHCK SpaceCloud」(全体的に見通しが良く、濃度が増します)や「NICEHCK BlueComet」(より密度感のあるメリハリの効いた音になります)、「NICEHCK DarkJade」「LINSOUL Nymph」(より明瞭で一気にキレが増したサウンドで音場より捉えやすくなります)など、リケーブルによる変化を楽しむのも良いと思います。また比較的低価格なものでは「JSHiFi RB8」は全域にわたって音の濃度が増し、パワフルなポータブルアンプなどで鳴らすとより楽しさを実感できると思います。

TFZ KING RS最近では200ドルオーバーの中華イヤホンも少なくはなくなってきましたが、TFZはこれまでの経験も含めやはり自社の「主力」は数十ドル~100ドル前後あたり、と考えているのかもしれません。そのうえで200ドルを超える製品は「ハイグレード」としてしっかりターゲットをフォーカスして音作りを行っている印象があります。「TFZ LIVE X」はとにかく低域の質の高さに注力し、低域好きの方にも「TFZ」というブランドを再認識させました。
そして今回の「TFZ KING RS」はかつて「KING PRO」で目指した正統なモニターサウンドを改めて追求し、「第4世代」ドライバーのポテンシャルの高さをもって大幅に質を高めてきたと思います。どちらの製品も「ターゲットを選ぶ」という意味では同社の「主力」である普及価格帯の製品より好き嫌いが分かれると思いますが、ハマる人にはこの価格は十分妥当なものといえるでしょう。
私自身は結構待望の「KING PRO」の後継かつグレードアップ製品ということもあり、見た目が「やや個性的すぎる」とは思うものの、結構満足しています。この手の傾向のイヤホンが好みのマニアの方には可能であれば挑戦いただきたいイヤホンですし、もし国内版がリリースされて試聴が可能になれば、少なくとも日本では結構人気がでるかもしれませんね。先日の「好みランキング(200ドル~)」でも記載の通り、個人的にはかなりお勧めですよ(^^)。