SIMGOT EM2R-2

こんにちは。今回は「SIMGOT EM2R」(EM2 Roltion)です。中国のイヤホンブランド「SIMGOT」の人気ハイブリッドモデル「EM2」(一代目)から4つの大幅なグレードアップを実施し、基本構成を維持しつつ、全く新しい製品に生まれ変わりました。カーボンナノチューブ振動版ダイナミックドライバードライバーの採用などにより、音質的にも分離感やレスポンスの良さなどが際立つ「進化」が印象的で、鮮やかさとスピード感をまとった楽しいイヤホンに仕上がっています。
→ 過去記事: 「SIMGOT EM2」 2種類の異なるドライバーが奏でるパワフルなサウンド。クリアシェルが美しいSIMGOTの最新ハイブリッドイヤホン【レビュー】(一代目)

SIMGOT」は個性的なイヤホン製品を販売する中国のメーカーで、日本でも「EN700」シリーズ以降、その手堅く上質なサウンドチューニングと個性的な製品展開で多くのマニアから高い評価を得ています。私のブログでも様々な製品を紹介してきました。
→ 過去記事(一覧): SIMGOT製品のレビュー
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二代目となる「SIMGOT EM2R」(EM2 Roltion)は、一代目の「EM2」での数多くのフィードバックを受け、全面的な改良を経て新たに生まれ変わったイヤーモニタータイプ(イヤモニ型)のイヤホンです。そのポイントは「4つのグレードアップ」で、SIMGOTとしてもその改良点を強くアピールしています。

① 金型から新設計されたシェルデザイン
一見すると一代目「EM2」と同じ形状に見えるシェルデザインですが、二代目「SIMGOT EM2R」ではユーザーからのフィードバックを元に金型から全く新しく再設計。長時間のリスニングでもより安定したリスニングができるように調整されています。

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② 新型(第3世代)カーボンナノチューブ振動版ダイナミックドライバー搭載
今回の「SIMGOT EM2R」では同社にとって最新の「第3世代カーボンナノチューブ振動版ダイナミックドライバー」を搭載。音質向上のうえで非常に大きな役割を果たしています。一代目「EM2」ではSIMGOTの人気モデル「EN700 Pro」を継承したダイナミックドライバーにKnowles製BAを組み合わせたハイブリッド構成が特徴でした。「SIMGOT EM2R」ではこのダイナミックドライバー部分を一新し、同社製ドライバーの優れた周波数特性を向上させるため、新たにカーボンナノチューブ振動版を採用し、より高い解像度と質感を実現。また「デュアルフェーズ・プッシュプルドライバー構造」を採用し、より精緻な調整が可能になりました。他にもN52ネオジム磁石やDaikoku-CCAWの組み合わせによるより強いレスポンスを実現しています。
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③ 徹底した改良を重ねたサウンドチューニング
SIMGOT EM2R」では高域・中音域・低域のバランスを全面的に再調整し、高域および中音域の鮮やかさは維持しながら、より繊細な響き、低域の質感とレスポンスを強化などの改良を行いました。大幅に音質が向上したダイナミックドライバー部分に加え、BA部分にはKnowles「RAD-33518」バランスド・アーマチュア(BA)ドライバーを採用しチューニングを最適化(一代目「EM2」の搭載BAは「RAF-32837」)。さらにBAドライバーのエアダクトを取り除く処理を行い、高域の伸びや鮮やかさが損なわれること無く出力されるように改良を行いました。また各ドライバーユニットへの配線についても細部にまでこだわり、それぞれ太さの異なる溶接ワイヤーを採用することで最適なエネルギー配分を実現しています。
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④ スマートフォンでも快適に再生できるノイズアイソレーション・チューニング
SIMGOT EM2R」ではインピーダンス32Ω、感度109dB/mW と、一代目「EM1」はもちろん、それ以外の従来のSIMGOT製イヤホンと比べてもより再生環境を選ばないバランスにチューニングされました。一代目「EM2」は「イヤモニ型イヤホン」というコンセプト通り、インピーダンス10Ω、感度101dB/mWと、かなり反応の良いイヤホンでした。そのためスマートフォン等の再生環境ではホワイトノイズが発生しやすいなど「再生環境を選ぶ」要素もありました。もともとオーディオマニア向けのイヤホンでは使用するプレーヤーはDAPやポータブルアンプが一般的ではあるものの、昨今のストリーミング利用が主流となるなかでは、スマートフォン+オーディオアダプターなどより多様な再生環境が検討されるようになりました。「SIMGOT EM2R」はさまざまなシチュエーションでよりノイズのないサウンドが楽しめるチューニングを行っています。
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SIMGOT EM2R」(EM2 Roltion)のカラーバリエーションは「ブラック」「グリーン」「ピンク」「パープル」および「透明(トランスペアレント)」の5色が選択できます。
購入は主要なAmazonのSIMGOTオフィシャルストアにて。価格は16,800円(税込み)です。
Amazon.co.jp(SIMGOT): SIMGOT EM2R


■ 「洛神」のイメージ全開の絵画パッケージ。生まれ変わった似て非なるシェルデザイン。

SIMGOT EM2R」(EM2 Roltion)は「洛神」というEM2シリーズの名称をイメージしたインパクトのあるパッケージデザインで届きました。「洛神」とは古代中国神話に登場する「水と川を司る洛水の女神」とされます。三国志に登場する曹操の息子で詩人の曹植が記した「洛神賦」は、中国で古くから何度も絵画化されてきた恋物語として有名だそうです。その「神話級の美しさ」を製品名称にも、そしてパッケージアートでも描き、イメージした製品が「SIMGOT EM2R」(EM2 Roltion)というわけです(何か私の中でいきなりハードルが上がった気がするのはきっと気のせいです^^;)。
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パッケージ内容は、本体、ケーブル、イヤーピース(2種類、それぞれS/M/Lサイズ)、レザーケース、メタルバッジ、装着ガイド、説明書など。
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SIMGOT EM2R」の本体は一代目「EM2」同様に非常にコンパクトです。クリアカラーの樹脂部分は若干厚みが増しており、フェイス形状も丸みを帯びたものに鳴っています。ぱっと見はほとんど変わってないようにも思えるのですが、「4つのグレードアップ①」で金型から再設計した、と言うとおり、実際に両方を比べてみると、印象も含め結構違いがあることが分かります。
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なんというか、「SIMGOT EM2R」のほうがちょっと成長したというか、より高級になったような感じもあります。外観上はほんの僅かの違いなのに、結構印象には差が出るのだな、と感じました。新しいデザインとなり、装着性について、もともと非常にコンパクトなイヤホンなので、耳に合わせやすいとは思うのですが、「SIMGOT EM2R」では確かに角の部分に丸みを帯びたこともあり耳が痛くなりにくくなった印象はあります。
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付属ケーブルは銀メッキ線タイプで取り回しの良い細いケーブルです。プラグや分岐パーツなどの質感は「SIMGOT EM2R」のほうが「EM2」より向上していますね。コネクタは従来通り2pinタイプを円形のカバーで覆う形状です。なお、このカバー形状も内側はqdc 2pinと互換性のある形状である点も従来通りですね。
イヤーピースも開口部の広い方と狭い方の2種類が付属するのも従来通りです。広い方が標準、狭い方が低域アップですが、装着感とともに音の変化も含めて耳に合うものを選べば良いと思います。他にも定番のJVC「スパイラルドット」、Acoustune「AET07」、より密着感の強いタイプでは「SpinFit CP100+」やAZLA「SednaEarfit XELASTEC」などに交換してよりフィット感を高めるのもお勧めです。今回私は「SpinFit CP100+」を選択しました。


■ 全く生まれ変わった、硬質でキレのある、ただし上質さは維持したスッキリサウンド。

SIMGOT EM2RSIMGOT EM2R」(EM2 Roltion)の音質傾向は、速いレスポンスが印象的で明瞭感とキレの良さを感じるドンシャリ。外観こそ一代目「EM2」を踏襲した印象のある「SIMGOT EM2R」ですが、サウンドはかなり分かりやすい変化があります。一代目「EM2」は人気モデル「EN700PRO」を踏襲したバランスの良さにフルレンジBAを追加し鮮やかさをプラスしつつ、やはり派手さは抑えた印象でした。それに対し、二代目の「SIMGOT EM2R」ではシャープな方向に一気に舵を切り、硬質でより派手さを増した印象になりました。ただいわゆる中華ハイブリッドでイメージされる派手さとはかなり異なる、非常に明瞭に鳴るのだけど全体としては過度なメリハリは無く、綺麗に整理された分離の良いサウンドが耳に届く印象で、音数が多くスピード感のある曲も非常に快適に聴くことができます。結構「ありそうでなかった」サウンドで、一代目「EM2」とは全く異なる新しい「個性」を感じますね。

今回、音質面で最も大きな影響を与えているのは「4つのグレードアップ②」のドライバー部分だと思いますが、「SIMGOT EM2R」では「1BA+1DD」という構成こそは維持しているものの、内部的には全く別物になっています。まず一代目では「EN700PRO」を踏襲した複合チタン振動版を採用していたダイナミックドライバー部分は、二代目の「SIMGOT EM2R」ではより硬質で高いレスポンスを持つカーボンナノチューブ振動版を採用するなど、明瞭さを向上させる変化を行っていることがわかります。
SIMGOT EM2R (Roltion)また、BA部分もKnowles製は同じですが、「4つのグレードアップ③」で記載の通り、ベントのあるフルレンジ仕様の「RAF-32837」を採用していた「EM2」から、「SIMGOT EM2R」では高域用の「RAD-33518」になりました。つまり、フルレンジ2発を並列で鳴らしていた「EM2」に対して、「SIMGOT EM2R」は反応の良い新しいダイナミックを中心に中高域から高域をKnowles製BAで補完する仕様と、ドライバーだけでなく音作りの上での役割も変えてきていることがわかります。なお、「RAD-33518」については私のブログでもFiiOやIKKOなどのメーカーでの採用でも紹介している1万円クラス以上のハイブリッドではお馴染みのBAドライバーですが、これについてもSIMGOT独自のチューニングを加えている点については前述の通りです。
正直なところ「ここまでこだわるんだったら、いっそ全く別のイヤホンにしたほうが良かったのでは?」と思えるくらいの変化ですね。それでもあえて「EM2」のアップグレードでやることに意味があるのかも。まるでAudiのRSやBMWのMみたいな・・・(おっと個人的趣味が^^;)。

SIMGOT EM2R」の高域は明るく多少派手さのある硬質な音を鳴らします。煌びやかではっきりとした音ですが低価格ハイブリッドのような独特のギラつきは無く、分離の良い明瞭な音がまっすぐ届く感じは好印象です。今回スマートフォン直挿しでも十分に楽しめるチューニングになっているため、ローゲインで鳴らすと刺さり等はほぼ皆無の聴きやすい印象となりますが、ある程度駆動力のある再生環境ではよりアグレッシブで刺激のある高音が楽しめます。それでも歪むこと無くしっかり伸びる点でBAユニットからエアダクトを取り除いたという効果を実感した気がします。

SIMGOT EM2R (Roltion)中音域は再生環境や曲によっては多少凹みますが、全体としては味付けが無くありのままの音をバランスの良く鳴らすチューニングになっています。「4つのグレードアップ④」で記載の通り、「SIMGOT EM2R」ではインピーダンスや感度を従来のSIMGOT製イヤホンより大幅に変更しており、スマートフォン直挿しの標準音量(≓オーディオアダプタ経由のiPhoneで中央の音量)で耳に負担のかからない程度のボリュームで鳴るように調整されています。機種によっても異なりますが、スマートフォン用のオーディオアダプターや小型DAPのハイゲインもほぼ同じくらいで、より駆動力のあるミドルグレード以上(10万円前後~)のDAPやポータブルアンプでは標準またはローゲイン設定ぐらいが近いと思います。
この環境ではキレのあるスッキリしたドンシャリですがボーカル帯域の主張もしっかり感じられるバランスになります。ただスマートフォン直差しでは派手さは増すものの音場はやや狭くなります。いっぽうDAPやポータブルアンプの環境では、ボーカルは少し下がるものの音場感も含めた空間表現や演奏の定位感はより詳細に捉えることが出来ます。「SIMGOT EM2R」はより硬質なサウンドになったことで輪郭の明瞭さが増し、ハッキリした音像感を感じる事が出来ます。

低域は解像感と締まりのある音で、一代目「EM2」の包み込む質感から、よりドライでソリッドさを感じるキレとスピード重視という印象になりました。まさにカーボンナノチューブ振動版を採用した新しいドライバーの特徴がより明確に感じられる音域といえるでしょう。ミッドベースは直線的で分離が良く、締まりのある音がダイレクトに届く感じは好印象です。また重低音も深く沈み、底から厚みのある音が高い解像感で鳴ります。音数が多くスピード感のある曲でも非常に心地よく、高域の明瞭さもあってつい音量を上げてしまいます。
SIMGOT EM2R (Roltion)ハードロックやEDM、疾走感のあるアニソンなどアグレッシブさを感じるサウンドで本領を発揮するほか、ポップスなどさまざまな音源でも楽しさがあります。またせっかくスマホでも鳴らしやすく鳴ったのですからハードなゲーミングでの利用も楽しいかもしれませんね。
個人的には「SIMGOT EM2R」はとても好きなサウンドバランスで一代目「EM2」より利用頻度が増しそうな気がしますが、「EM2」の質感もコレはコレであり、という感じですね。現在では両モデルは併売されているので好みに応じて使い分けるのも良いと思います。

というわけで、新しく生まれ変わった二代目「SIMGOT EM2R」(EM2 Roltion)ですが、見た目に対して本当に「別物」な変化にとても驚きました。実は今回レビューに際してSIMGOTさんから「新しい『4つのグレードアップ』にフォーカスして」というリクエストをいただいていたのですが、実際の製品でその意気込みをしっかり感じられる内容に仕上がっていると感じました。一代目「EM2」だけでなく従来のSIMGOTとは違う印象のサウンドですが、確かにSIMGOTらしい音作りの「こだわり」を感じる非常に良いイヤホンだと思います。気になった方はぜひとも挑戦いただきたい製品だと感じました(^^)。