TRN X7

こんにちは。今回は「TRN X7」です。中国のイヤホンブランド「TRN Audio」による「7BA」構成モデルで、3Dプリンティングによる美しいレジンシェルに充実した付属品をそなえつつ、100ドル台、1万5千円以下の低価格を実現しています。

「低価格中華イヤホン」という分野で「KZ(およびCCA)」と肩を並べるまでに成長し、マニアの間ではすっかりお馴染みとなった「TRN」ですが、同社にとって「マルチBA」構成の製品は「KZ」とは多少ベクトルが異なる「並々ならぬ思い」があるのだろうと想像します。最近では200ドル台で片側15BAという完全な変態構成で質の良いシングルダイナミックのようなサウンドチューニングで好評を博した「BA15」をリリースし、低価格イヤホンの枠は超えたものの「スペックモンスター」としての同社のアイデンティティは着実に進化を続けています。
いっぽう、TRNは以前からレジンシェルの製品についてもリリースを継続しており、2019年発売の「TRN IM2」以降は積極的に3Dプリンティングを採用するなど、低価格化と品質面の向上の両立を目指しているようです。そんななか、ある意味「満を持して」登場したのが今回の「TRN X7」だと思います。
→ 過去記事(一覧): TRN製イヤホン・ケーブル等のレビュー

TRN X7TRN X7

TRN X7」は3Dプリンティングされたクリアカラーのレジンシェルにバランスド・アーマチュア(BA)ドライバーを7基搭載する「7BA」モデルです。フェイスプレートはプリントではなく流し込みにより作成されたものを使用しており、個体によって全て柄が異なります。また最近のレジンシェル製品で増えている音導管も含めて3Dプリントし、そこにBAユニットを固定する方式を採用しています。配管は高域(30095)、中域(50060&29689)、低域(22955)の3系統に分かれています。

ちなみに同社のイヤホンで搭載されているBAドライバーは基本すべて「TRNブランドのカスタムBA」を採用しています(唯一Knowles製を使用している「TRN TA1」を除く)。このユニットは中華BAメーカー(おそらくBellsing社と推測されます)からTRNがODM(またはOEM)供給を受けているもので、モデルナンバーなどは製造元メーカーの製品番号に由来します(Bellsing社はKnowles社製BAを踏襲した型番の製品を多くリリースしているため、同じ番号のユニットは似た傾向があることが多いです)。
TRN X7TRN X7

TRN X7」で搭載されているBAユニットおよび最近のモデルとの比較は以下の通りです。比較してみると7BAの「TRN X7」は8BAの「TRN BA8」から中低域用の「29689」をひとつ減らしたモデル、という内容であることがわかります。

TRN X7 (7BA) :   (高)「30095」×3 + (中)「50060」×2 +「29689」×1 + (低)「22955」
TRN BA8 (8BA):  (高)「30095」×3 + (中)「50060」×2 +「29689」×2 + (低)「22955」
TRN BA5 (5BA):  (高)「30095」×3 + (中)「29689」     + (低)「22955」
TRN X6 (6BA) :   (高)「30095」×2 + (中)「30018」×2    + (低)「31612」×2

実は「TRN」のマルチBAモデルでレジン製シェルを採用したのは「TRN X7」が最初では無く、3Dプリントでは無いハンドメイドの時代に6BAモデル「TRN X6」を販売しています。しかし、このモデルだけが以降の金属シェル採用の「BAシリーズ」および「TRN X7」とはかなり異質のドライバー構成であることがわかりますね。「TRN X6」は同社としては非常に意欲的な挑戦を行ったモデルではあったのですが、市場での人気は今ひとつで現在は既に販売を終了しています。「TRN X7」は以降の「BA5」「BA6」での経験を踏まえ、改めて「リベンジを挑んだモデル」といえるかもしれませんね。
TRN X7TRN X7
また「TRN X7」は同社の低価格モデル同様に「マイク付きモデル」が設定されており、いわゆる「多ドラ」機ながらスマートフォン直挿しでも極端な爆音にならず、また過度なホワイトノイズが発生しない程度の反応に調整されています。KZやTRNのイヤホンを基準に考えると当然に思われるかもしれませんが、本来は5BA以上のCIEMなどのマルチBAイヤホンではかなり特殊なことです。最近の「BA8」「BA5」はもちろん、「KZ ASX」などのライバル機種も近い設定であることから、この辺の設定値が幅広いユーザーを想定した場合の妥当なところなのでしょう。

TRN X7  : インピーダンス 20Ω / 感度: 102dB/mW
TRN BA8: インピーダンス 20Ω / 感度: 100dB/mW
KZ ASX  : インピーダンス 20Ω / 感度: 105dB/mW
TRN X6  : インピーダンス 58Ω / 感度: 96dB/mW

ちなみに前述の「TRN X6」は比較して極端に「鳴りにくい」仕様なのがわかります。実際この鳴りにくさも「X6」のサウンドが「異質」だった大きな理由のひとつになっていました。この点でも「TRN X7」は最近のモデルを踏襲し、以前の「X6」とは別のベクトルの製品であることが伺えますね。

TRN X7」の価格はAliExpressで128ドルです。AliExpressの購入方法はこちらを参照ください。
AliExpress(LuckLZ Audio Store): TRN X7 割引コード(20ドルOFF/併用可)「 X7TRN20  

HifiGo(直営ストア): TRN X7

またAmazonでは15,280円で販売されています。
Amazon.co.jp(HiFiGo): TRN X7


■ 3Dプリンティングによる美しいシェルデザイン。付属品も充実しお買い得感のあるパッケージング

TRN X7」のパッケージは「TRN BA8」同様のラインアートが描かれたシンプルな白箱デザインですが、その大きさは最もハイグレードの「TRN BA15」と同じサイズのボックスを採用しています。付属品も「TRN BA15」に準じており、通常のTRN製イヤホンより充実した内容となっています。
TRN X7TRN X7
パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル(TRNタイプCコネクタ)、イヤーピースは装着済みMサイズ、白色タイプ1種類および黒色タイプ2種類で、それぞれS/M/Lサイズ、6.3mmステレオジャック変換プラグ、航空機用変換プラグ、金属製ハードケース、説明書、保証書など。
付属ケーブルは「TRN BA15」のような16芯では無く、最近だと「TRN ST2」に付属していたものと同一のタイプCコネクタの銀メッキ線ケーブルです。この辺は価格帯の違いとともに「マイク付き」が選べる仕様ゆえでしょう。
TRN X7TRN X7
3Dプリントされた「TRN X7」のレジンシェルは非常に美しいものです。ステムノズルは金属製のパーツが貼り付けられています。ハンドメイドで作られるカスタム製品に比べてプリンタの性能と使用するレジンの種類である程度クオリティを平準化できる3Dプリントの威力は低価格な製品ほど実感しますね。シェルサイズは大きめですが装着性は良好です。フェイスプレートは個体ごとに型の違うデザインで流し込みのデザインのなかにキラキラとしたグリッターが僅かですが散りばめられています。
TRN X7TRN X7
付属イヤーピースのバリエーションも多いため自分に合ったものを選ぶのも良いでしょう。私は標準の白色タイプを使用しています。他にも定番のJVC「スパイラルドット」、Acoustune「AET07」、より密着感の強いタイプではAZLA「SednaEarfit XELASTEC」など自分の耳に合う最適なイヤピースを選択するのも良いと思います。


■ 中低域寄りのドンシャリ傾向。あえて「TRNらしさ」を感じるチューニング。

TRN X7TRN X7」の音質傾向は中低域寄りの弱ドンシャリでマルチBAらしい中音域の解像感と、最近の中華イヤホン的なボーカル寄りの聴きやすいアプローチのあるサウンドです。今回は高・中・低に分けた音導管で各BAユニットからの音を出力する方式ですが、各ユニットの癖をよく捉えており、つながりを含めバランスよくコントロールされている印象です。以前のレビューでも記載の通りTRNやKZが使用するBAドライバーは例えばKnowles製の同じ型番のものより音質面ではコストなりの差はあると思われます。特にBAの構造的に出力を上げた際に歪みが発生しやすくなり、この辺で違いが出やすくなります。いわゆる「スペックモンスター」的な多ドラ化をすすめる要因のひとつには、同じBAユニットを並列化することで個々の出力を分散し、歪みを軽減させる目的もあると思われます。「TRN」は数々のマルチBA製品をリリースする中で、自社ブランドBAの多ドラ化によるサウンドコンロールについてかなりの経験値を持っていそうですね。「TRN X7」もマルチBA特有の籠もりのようなものは皆無で、適度な広さのある音場と濃密な中低域を心地よく奏でてくれます。

とはいえ、例えば有名メーカーのカスタムIEM製品(要するに「イヤモニ」ですね)などで連想されるニュートラルなバランスでモニター的な正確性を持つサウンドをマルチBAイヤホンのひとつの「正解」と捉えるならば、そこからは大きく異なる、「寒色系弱ドンシャリ」の「いかにも中華イヤホン」な方向性ではあります。もっとも「TRN」自身は上位モデルの「BA15」で片側15BAながらシングルダイナミックのリスニングイヤホンのようなサウンドチューニングも実現しており「TRN X7」の音作りについてもいくつかの選択肢があったと思います。
TRN X7ここで以前の「TRN X6」で目指そうとしたアプローチを考えると、「TRN X7」では「これが今のTRNだぜ」みたいな感じで思い切り突っ切ったサウンドチューニングを行うのも十分アリだったかもしれません。しかし、「TRN X7」では同社の最大購買層である「低価格の中華ハイブリッド」製品のターゲット層に対して、その延長線上のサウンドで「7BAというスペック」と「美しいデザイン」というポイントを訴求しているイヤホンだろう、と想像しました。この仕様でこの価格を実現するためには相応の生産数を必要とするはずですし、ターゲット層の中には「マイク付きモデル」を使用する「スマートフォン直挿しのユーザー」も含まれます。そのなかで「TRN X7」は最大公約数的なアプローチも感じますが、聴きやすく、使いやすいイヤホンに上手くまとめられているのではと思います。

TRN X7」の高域は、硬質さを感じる明瞭な音を鳴らします。TRNらしいドライな音でシャープで煌めきがあります。とはいえ派手さはわりと抑えられており、メリハリより中高域とのつながりを意識したチューニングのようですね。そのため、シャリ付きや過度な刺激がコントロールされており、また相対的に中低域寄りなこともあり、もう少し伸びが欲しいと感じる場合もありそうです。この辺はリケーブルで主張の変化は多少感じられるものの伸びや見通し自体にはそれほど変化はないため、多少好みが分かれる部分かもしれませんね。個人的には「KZ ASX」に少し近い印象を持ちました。

TRN X7中音域は、最近の低価格中華イヤホンに多く見られる、ボーカル帯域へのフォーカスが有り、そこから広がりや奥行きといった音場感を演出しています。鳴り方としてはマルチBAらしさを前面に出したドライで解像感のある印象です。癖のない出音で、ボーカル帯域は少し前方で定位しますが、多ドラ特有の籠もりや歪みも無く心地よい音を鳴らします。TRNらしい硬質でドライな印象ですが中低域に僅かに温かみがあります。

低域は、重低音を中心に深さと濃さがあり、中高域としっかり分離しつつボーカル帯域を十分な量感で下支えします。ミッドベースは中音域の下の方同様に少し温かみがあり、キレよりつながりや雰囲気重視の印象。そのため、音数が多くスピード感のある曲より、最近のポップスのように少ない音数でベース音のアレンジが効いている曲での印象が非常に良いです。重低音は底の方はそれなりですが、沈み込みは深く、重い響きがあります。直線的で過度に膨らむことはないものの、十分な濃さを感じる音で全体として心地よさを演出しています。

TRN X7」は、ロック、ポップスなどのボーカル曲を中心に相性の良さがあり、最近のストリーミングでのヒットチャートを楽しむイヤホンとして最適ですね。特に中低域をメインとした音域を楽しみたい方には最適でしょう。リケーブルは「TRN T6」など味付けが少なく情報量の多い銀メッキ線ケーブルとの相性が良さそうですね。また今後ブラックカラーのバリエーションも増えるらしく、「見た目イヤホン」としても楽しめる要素が増えましたね。

TRN X7  (Black)またこれは「KZ ASX」などの製品にもいえることなのですが、「TRN X7」を一般的な多ドライヤホンとみた場合、特にマニアの方の場合は違和感を感じることも少なくないと思います。前述のような「最大公約数」的なアプローチや「スマートフォン直挿しでも(音量などを気にせず)普通に使えるチューニング」など、(薄利多売が必要な)低価格中華イヤホン特有の条件下で作られていることも、良し悪しと言うより、これはこれでひとつの個性なのかな、という気もしています(ウォッチに例えるならスォッチやチープカシオなどで、その存在自体が個性みたいな感じですね)。
それでもあえて幅広いユーザーを想定した製品に仕上げることで、「TRN X7」はスペックに対して非常にプライスパフォーマンスの高い、音質的にもマルチBAらしさを活かしつつ普段使いとして実用的なイヤホンにまとまっていると思います。特に中低域をメインとしたボーカル曲には相性の良さがあり、マニアの方ならリケーブルなども含め遊べる余地も結構ありそうです。いろいろ楽しめるイヤホンとして、興味があれば挑戦してみるのも良いと思いますよ(^^)。