Moondrop KATO

こんにちは。今回は「MOONDROP KATO」です。中国のイヤホンブランド「Moondrop」(水月雨)から昨年秋に発売された話題のモデルですね。私も海外版の発売開始と同時にオーダーをしていましたが、紆余曲折があり気がついたら、通常版と海外で限定販売された「マット版」の両方が手元にあったり(^^;)。そして膨大な未レビューの山のなかで気付いたら3ヶ月ほど経ってたとかいう(滝汗)。というわけで、今さらではありますが「棚からレビュー」としての紹介となります。
・・・なんかこのパターン、今後も続きそうですね。
さて、まず「Moondrop」(水月雨)については私のブログでも多くを語る必要は無くなっているかもしれません。2015年に作られた比較的新しい中華イヤホンブランドですが、その後破竹の勢いで高品質・高音質な製品をリリースし、数多くのファンを獲得しています。
→ 過去記事(一覧): Moondrop製イヤホンのレビュー

特に「Moondrop KXXS」は同社を代表するモデルになっていて、今回の「MOONDROP KATO」はその「KXXS」を最新技術により全く新しくリファインしたモデル、という位置づけになっています。
Moondrop KATOMoondrop KATO
また「MOONDROP KATO」についてはある意味とても重要なことですが(^^;)、同社の社長はかなり初期段階より(特に日本のアニメの)アニオタであることを公言しており、「KXXS」をはじめMoondrop製品パッケージのカバーはアニメ風のキャラクターイラストを採用した先駆けでもあります。気がつけばこの手のパッケージ、中華イヤホンでは本当に増えましたね(^^;)。この辺の事は後述するとして、「表向き」では「KATO」は「KXXS Advanced Technology Optimized」の略、ということになっています。

Moondrop KATOつまり、「MOONDROP KATO」は同社の看板モデルであるアンダー200ドルクラスのシングルダイナミック構成のカナル型イヤホン「KXXS」をリプレースする存在なわけですね。「KXXS」は他社に先駆けて「DLC(Diamond Like Carbon)」振動板を採用したシングルダイナミック構成が特徴でした。「MOONDROP KATO」ではさらにサウンドをアップグレードするために新世代フラグシップのドライバーの開発に注力し、静電ヘッドホン並の歪みのないサウンドを目指したようです。その結果搭載されたのが、「10mm ULT(Ultra-Linear-Technology;超線形)ダイナミックドライバー」です。

より効率的な複合磁気回路や直線的な空気循環構造を備え、大型化した音響キャビティ、極細のCCWコイル、高周波位相のウェーブガイドなどを搭載。また、振動板は自社設計の高性能DLC複合振動板を採用し、DLCを含む特性の異なる3つの材料を振動板の各部に使用。最適化されたDLCは総合的な音響性能においてベリリウムをも凌駕しているとのことです。

Moondrop KATOまた、「MOONDROP KATO」のシンプルで美しい外観はモダニズムデザインを採用しており、MIM製法によりほぼ全ての面に光と影を投影する立体的なシルエットを実現しています。シェル内面は微細かつ不規則な表面で定在波の抑制に効果があり、表面はハンドメイドの研磨を繰り返すことでより美しい鏡面処理を実現しています。

また、「MOONDROP KATO」では新たに交換可能なサウンドノズルを採用。2種類の異なる材質(鋼、真鍮)のサウンドノズルが付属します。ノズル交換による音の変化を実感できるとともにフィルターの交換もより便利になります。フィルターは特許取得済みで、より高い目詰まり防止効果と、耳垢のつまりを防止します。また中音域の音質向上にも影響があるようです。

MOONDROP KATO」ではイヤーピースについても新規に開発。それが「Spring Tips(清泉)」シリコンイヤーチップです。特殊な拡散構造により不要な共振や高域線形歪みを大幅に抑制します。特殊な素材は、べたつきのないフィット感で、自然な高域とともに補強材サポート設計により音漏れによる低域の損失を防ぎます。
Moondrop KATOMoondrop KATO
付属ケーブルは。表皮効果や近接効果の影響を効果的に低減する「Star Quad 構造」の4芯 銀メッキ高純度銅線ケーブルを装備。被膜には改良された混合素材を採用し音質面の効果に加えデザイン的にも美しく仕上げられています。
Moondrop KATOMoondrop KATO (Matt)
MOONDROP KATO」は通常の「Mirror Silver」に加えて海外での初回出荷分ではマット版「Matt Steel」も選択できましたが、マット版については予約出荷分のみで完売となっています。
購入は国内版はアマゾンや主要専門店にて、海外版は「HiFiGo」「SHENZHENAUDIO」にて購入できます。価格は国内正規品が22,000円前後、海外版は189ドルです。
Amazon.co.jp(国内正規品): MOONDROP KATO
HiFiGo: MOONDROP KATO


■ 光沢タイプとマットタイプ、実はサイズが微妙に違っていました。

というわけで、前述の通り紆余曲折ありまして、通常版とマット版、両方買いました。HiFiGoでの予約注文では確か私が最初のオーダーだったはずですが、マット版への切替のタイミングがちょっと遅れたせいか、入手できたのは発売後2ヶ月近く経過してからとなりました。その間に発売された国内版を発売日に購入し、無事2種類持ちとなったのでした(^^;)。
Moondrop KATOMoondrop KATO

さて、少なくとも日本で「MOONDROP KATO」を購入する方の大半が「もちろん承知の上」で、言わなくても分かってるから敢えて触れない「製品名」と「パッケージイラスト」のコスチュームですが(^^;)、ここではちょっとだけ書いておきます。有り難いことに私のブログを翻訳して読んでいる海外の方もいらっしゃるようですし、「敢えて触れない」故の誤解(?)もあるみたいなので、というのが理由です。
MOONDROP KATO」の製品名とパッケージデザインは、前述の通りアニオタを公言している同社の社長が特に好きらしい「冴えない彼女の育てかた」(冴えカノ)のメインヒロイン「加藤 恵」から由来しています。ちなみに冴えカノ由来では他にも同社製品の「Blessing2」なんかもそうですね。Moondropの看板製品だった「KXXS」の後継モデルに社長の「推し」の名前をそのまま採用するあたりに「本気度が伺える」というか、この製品に対する「ある種の覚悟」のようなものを感じます(^^;)。またパッケージイラストの女の子は「Moondrop VARIATIONS」などでも使われている同社のキャラクターで、ここでは「加藤 恵 風コスチュームでポーズをキメてる」という解釈になりますね(笑)。オマージュなのでパクリではないのですよ(たぶん)。

Moondrop KATOMoondrop KATO

MOONDROP KATO」のパッケージ内容は本体、ケーブル、「Spring Tips(清泉)」シリコンイヤーチップ、ウレタンイヤーピース(それぞれS/M/Lサイズ)、交換用サウンドノズル、布製ポーチ、レザーケース、イラストカード、説明書、保証書ほか。今回も充実した付属品ですね。なお、交換用サウンドノズルを採用したことで従来モデルに付属していた交換用ノズルメッシュと交換用ピンセットは付属しなくなりました。
ちなみに、HiFiGoで予約で購入したマット版では初回特典としてキャラクターのアクリルスタンドと、現在は別売りされている「MOONDROP Line "K" Upgrade Cable」がオマケで付いてきました。

Moondrop KATOMoondrop KATO
本体デザインは「KXXS」のフォルムを踏襲しつつ、前述の通り細かい面取りが変わっておりより立体感を感じやすいデザインになっています。本体の材質は「KXXS」と同じステンレススティールですが、「MOONDROP KATO」ではMIM製法(金属粉末射出成形法)で鋳造されており、より高い強度と内側は不規則な表面処理を実現しているそうです。実際に「KXXS」と比べるとベント(空気孔)の位置など基本的には部分は踏襲しつつ明らかに質感が向上しているのが確認出来ますね。
Moondrop KATOMoondrop KATO
ステンレス製ですので「KXXS」同様にそれなりの重量感はありますが新しいケーブルおよびイヤーピースの組み合わせでは装着感はまずまずです。

Moondrop KATO (Matt)Moondrop KATO
また通常版と併せて購入している「マット版」よりエッジの効いた面取りがされており、幾何学模様のような美しいシルエットをより確認することが出来ます。表面はザラザラした質感ながら他ではあまり見ない独特なものです。おそらく前述の「本体内面の微細で不規則な表面処理」を外観でも行ったのが「マット版」なのでは無いかと思われます。
Moondrop KATOMoondrop KATO (Matt)
また多少エッジの効いた面取りをしているためか、見た印象でもマット版のほうが僅かにシェルサイズが大きい気がします。実際に測ってみるとタテヨコともマット版のほうが1mmほど大きく、実測での重量も通常版11.01gに対してマット版は11.99gと約1g程度の重量差がありました。長時間のリスニングではマット版のほうが耳が痛く鳴りやすいという意見もありますし、実際に僅かですが余計に負担がかかるのは間違いないようですね。
Moondrop KATOMoondrop KATO
Moondrop KATOMoondrop KATO

また、「MOONDROP KATO」では新たに開発された「Spring Tips(清泉)」イヤーピースと、交換式のサウンドノズルが採用されました。同社のイヤホンは色々なイヤーピースが付属する割にどれもいまひとつで好感が必須、という感じだったのですが、今回はむしろこのイヤーピースでの組み合わせが最適、と思えるものになりましたね。独自形状のシリコン部分は密着タイプと普通のサラサラタイプ(?)の中間くらいのフィット感でとても使いやすいです。なおサイズ的に合わない場合は「SpinFit CP100」や「AZLA SednaEarfit XELASTEC」のような「密着タイプ」のほうが印象としては近いかもしれませんね。
Moondrop KATOMoondrop KATO
そして付属ケーブルも「MOONDROP KATO」では一新されました。最近の上位モデルで採用されているプラグ交換式ではありませんが、線材自体は従来の付属ケーブルの中では最も太くコシがあるかも。この銀メッキ線も非常に解像度が高くニュートラルな印象で相性は抜群です。なお、HiFiGoの初回特典では「Line "K" Upgrade Cable」がオマケで付いてきており、こちらは4.4mmのバランスタイプを選択。より太さのある8芯線ですが、結構印象に変化があるため、使い分けは好みに応じて、となりそうですね。


■ 「KXXS」を踏襲し、Moondropの新たなリファレンスとなった美音系イヤホン

Moondrop KATOMOONDROP KATO」の音質傾向は非常にニュートラルなサウンドバランスを維持しつつMoondrop特有の僅かに温かく、いっぽうで非常に繊細に透明感のある音を奏でます。「KXXS」の持つ特徴をより高い次元にブラッシュアップした美音系イヤホンという印象があります。なお、今回も例によって100時間超のエージングを行った上での印象となります(エージングはHCKから購入したエージングマシンを使用)。
2種類のサウンドノズルは標準(steel)が従来のバランスに近く、真鍮(brass)はボーカル帯域が僅かに厚みを増し、リスニング寄りに変化します。適度な暖かさとエモーショナルなボーカルを楽しめるのは真鍮タイプで、多少クールで明瞭さや解像感を楽しめるのが標準タイプとなります。個人的にはこの製品の良さをより実感できるのは標準(steel)のほうだと思いますが、リスニングの上での心地よさを感じる真鍮(brass)タイプもこれはこれで雰囲気が合って良いと感じました。いつもはこの手の交換式フィルターを持つイヤホンでは好みのタイプを決めて使うことが多いのですが、「MOONDROP KATO」については気分で使い分けるのもアリだなと感じました。

Moondrop KATOMoondropもいわゆるハーマンターゲットカーブを意識したサウンドチューニングを行っているメーカーのひとつとして最近では認知されているようです。ただ実際には「MOONDROP KATO」やベースとなった「KXXS」では高域は刺さりやすい帯域を中心に多少コントロールされており、かといって温かくなりすぎないように煌びやかさを維持する、ちょっと繊細なチューニングが特徴的です。ここにDLC振動板の持つ豊かなダイナミックレンジと詳細なディテールにより、独特の柔らかさと透明感を持つサウンドを形成しています。「MOONDROP KATO」では徹底的な歪みの排除により、基本的な印象を維持しながら、高音はシルクのような滑らかさがあり、どちらかといえばミッドレンジを中心としたサウンドバランスながら高域の質感にも不満を感じさせない表現力を感じます。低域はタイトで軽快さを感じつつ重低音には十分な深さと解像感があります。中音域はニュートラルでありのままの音を忠実に鳴らすモニター寄りの印象があり、高域同様に徹底的に歪みを抑えた滑らかさが印象的です。

Moondrop KATOMOONDROP KATO」のサウンドは目指した静電式ヘッドホンのような非常に歪みの少ないモニター的なフラットさと精緻な表現力をもちつつ、ミッドレンジにフォーカスしMoondropらしい温かさと柔らかさ、として透明感を持ったサウンド、という印象にまとめられます。
その優れた質感は200ドルクラスのイヤホンの基準を大きく底上げするものであり、改めて本気度を実感します。いっぽうでリスニングサウンドとしての面白さ、楽しさ、という点では多少実直すぎる印象もあるかもしれません。特に高域は同社の「Illumination」に比べれば遙かに大人しく繊細ですし、低域は「VARIATIONS」のような厚みや重さはありません。またバランス的にも「Aria」や「Starfield」などの普及モデルの方が楽しくリスニング向けだと感じるかもしれませんね。しかし、様々なアプローチの違いこそが同社の持ち味であり、これらの製品の中央に位置するリファレンス的な存在として従来は「KXXS」が、そしてこれからは「MOONDROP KATO」が担うのだろうと感じます。

MOONDROP KATO」の高域は明瞭さをもちつつ、非常に滑らかで見通しの良い音を鳴らします。歪みをほぼ感じない非常に優れた音色を持っており、十分な解像感と密度感を保ちつつ直線的になります。硬質な音ででなく僅かに温かみのある印象は「KXXS」から共通するMoondropらしいチューニングといえるでしょう。適度な煌めきをもちつつ派手さは無いため、やや大人しめな印象受けます。そのため、もう少し強い主張が欲しい、あるいはやや線が細いと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、多くの方に好感されるバランスと質感だと思います。

Moondrop KATO中音域はニュートラルで自然な印象の音を鳴らします。非常に優れた解像感および分離感があり、ボーカルと演奏は整然としています。いっぽうで過度にエッジが立ったり硬質になることは無く、自然に感じる温かさと柔らかさがありつつ明瞭さを保っており、その透明感と実在感は流石と思える部分です。音場は奥行きがあり立体的ですがボーカル帯域が前面に出ており広さは一般的(または曲によってはやや狭い)。定位は良好でややモニター的な印象です。中高域もとても伸びやかで抜けの良さがあり、女性ボーカルの高音も透明感があり伸びやかです。男性ボーカルも余韻があり、分厚い音という印象では無いものの十分な密度感で心地よさがあります。真鍮(brass)のサウンドノズルでは多少解像感は落ちるものの、よりボーカル帯域の厚みが強調され心地よさが増します。

低域は直線的な印象で中高域を下支えしますが、「KXXS」よりタイトさが増しており、より小気味よい鳴り方をします。十分な量感とインパクトがあり、不足を感じることはありません。ミッドベースは直線的かつ響きなどはかなり抑えられている印象で、解像感のある音を明瞭に鳴らしてくれる印象です。重低音は深く重さのある音をやはりタイトに鳴らします。EDMなども含め十分な表現力を感じますが、多少モニター的な鳴り方のため、いわゆる低域好きの方にとってはもっと厚みが欲しいと感じるかもしれません。こちらも真鍮(brass)のサウンドノズルではタイトさや解像感が若干変化する代わりに厚みも少し増すように感じます。

このように「MOONDROP KATO」は文字通りニュートラルさを楽しむリスニングイヤホンのため、さまざまなジャンルの曲を楽しめますが、「KXXS」がインストゥルメンタルやアコースティックな音源などのほうが良さを実感できたのに対し、「MOONDROP KATO」はボーカル曲でより楽しさがあり、打ち込み系の音源でもその透明感が独特の心地よさを生み出すなど、よりオールジャンルで楽しめる印象になりましたね。
Moondrop KATOまた、「MOONDROP KATO」本体(標準サウンドノズル)と「Spring Tips(清泉)」イヤーピース、そして付属の新しい銀メッキ線ケーブルの三位一体での完成度は非常に高く感じました。いっぽうで、真鍮(brass)サウンドノズルでは、ボーカル曲などをより心地よくリスニングするうえで最適で、こちらの構成では別売りとなった「Line "K" Upgrade Cable」との相性の良さを感じます。幸い私は2タイプの「MOONDROP KATO」を所有していますので、片方を標準構成で、もう片方を真鍮+Line "K"構成で使用することにしました。また実は「KXXS」もリケーブルして併用していたりもします。今後も様々なイヤホンを紹介していく上でこの製品と比較しながらのレビューも増えると思いますし、おそらく最も利用頻度の高い製品のひとつになるだろうなと思っています。