THIEAUDIO Legacy4

こんにちは。今回は「THIEAUDIO Legacy4」 です。3Dプリンティングによるレジンシェルに7mmポリマー振動板ダイナミックドライバーとKnowles製ED-29689、Bellsing製BA×2基による3BA+1DDのハイブリッド構成を採用。「Legacy」シリーズの最初のモデルである「Legacy3」(2BA+1DD)のアッパーグレードとして登場しました。
以前レビューした最新モデルの「Legacy2」(1BA+1DD)と「THIEAUDIO Legacy4」 の2モデルが、1月下旬より日本でも代理店を経由して販売開始され、専門店で試聴なども可能になりました。今回は日本国内向けモデルで「THIEAUDIO Legacy4」を購入しました。

■製品の概要について

「THIEAUDIO」は中国のオーディオメーカー・セラーの「Linsoul」系のブランドとして、非常にハイスペックのシリーズから、プライスパフォーマンスに優れた製品まで幅広いイヤホン製品をラインナップしています。現在は平面磁気ヘッドホンの「Phantom」、EST(静電)ドライバーを搭載する「Signature」シリーズ(現在「Monarch」「Clairvoyance」「Oracle」の3モデルをリリース)、14BAのハイエンドモデルをはじめとする「Voyager」シリーズ、そして最もスタンダードなハイブリッドIEMである「Legacy」シリーズ、といった豊富な製品群がラインナップされています。また「Legacy」シリーズでは、それぞれドライバー数の異なる「5」「4」「3」「2」の各モデルが販売されており、高品質なサウンドとプライスパフォーマンスの高さからマニアの評価も高いようですね。
THIEAUDIO Legacy2THIEAUDIO Legacy4
これらのモデルはLinsoul系セラー(アマゾンの「L.S オーディオ」など)で入手できますが、「Legacy2」「Legacy4」の2機種について1月21日より国内代理店を通じて日本国内でも購入が可能になりました。
→ 過去記事: 「THIEAUDIO Legacy2」 美しいシェルとバランスの良いサウンド。Knowles ED-29689 + ベリリウムDD搭載で価格も魅力の中華イヤホン【レビュー】

THIEAUDIO Legacy4」 は7mmポリマー振動板ダイナミックドライバーとKnowles製「ED-29689」バランスド・アーマチュア・ドライバー、さらに高域用のBellsing製BA×2基の組み合わせによる3BA+1DD構成のハイブリッドイヤホンです。「Legacy」シリーズのフラットで滑らかなサウンドを元に高域の倍音とディテールを強調し、より風通しの良いクリアサウンドを実現しているとのこと。また、低域と中音域は「Legacy3」同様のスイッチチューニングシステムを採用し、好みに応じたチューニング変更が可能な仕様を採用しています。
THIEAUDIO Legacy4THIEAUDIO Legacy4

本体はドイツ製の医療レベルの天然樹脂を使用し3Dプリンティングにより生成。フェイスプレートは個体ごとに異なる模様になっています。内部回路、フェイスプレート塗装まで1個1個ハンドメイドで仕上げられています。ケーブルコネクタは0.78mm 2pin仕様でリケーブルなどにも対応。付属するケーブルは高純度7N OCC 4芯ケーブルを採用しています。
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THIEAUDIO Legacy4」の購入は国内代理店経由の製品は主要な専門店などにて。またアマゾンではLinsol直営の「L.S オーディオ」が販売しています(Amazonで購入した場合、サポートなどもL.Sオーディオが窓口となり、国内代理店への問い合わせ等はできません)。
楽天市場(検索結果): THIEAUDIO Legacy4(国内正規品) 25,270円(税込み)
Amazon.co.jp(L.S オーディオ): THIEAUDIO Legacy4   22,980円
Linsoul(linsoul.com):THIEAUDIO Legacy4 195ドル


■ 装着性・遮音性に優れたコンパクトシェルデザインを踏襲し落ち着いたデザインに。

THIEAUDIO Legacy4」のパッケージはやや大きめのボックスで、中に布貼りのハードケースが収納され、そのなかに入っている2段構成。ボックスの背面には周波数特性のグラフが記載されていました。ただこの大きい方のケースは各アクセサリを固定している部分が内張りと一体になっているためケースとして再利用することは出来なさそうです。
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パッケージ構成は、イヤホン本体、ケーブル、イヤーピース(2種類/3サイズ)、スイッチ切替用ピン、イヤホンケース、説明書など。
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THIEAUDIO Legacy4」のレジン製の本体はコンパクトにまとまっており、装着性も良好です。充填タイプのハウジングではないため軽量にまとまっていますね。ベント(空気孔)が側面あります。コネクタはフラットな2pin仕様で中華2pinまたはCIEM 2pinタイプのケーブルが使用できます。
THIEAUDIO Legacy4THIEAUDIO Legacy4
シェルの形状は「Legacy」シリーズの従来モデルを継承しており、「THIEAUDIO Legacy4」は最初にリリースされた「Legacy3」よりステム部分が3Wayで3つ穴になったほかややシェイプされたデザインになっています。また側面のスイッチ回路とステム部分の穴の数を除くと最後発の「Legacy2」も実は「THIEAUDIO Legacy4」のデザインを踏襲しているのが確認出来ますね。
THIEAUDIO Legacy4THIEAUDIO Legacy4

ドライバーは7mmのダイナミックドライバーのほか、Knowles製「ED-29689」は「THIEAUDIO Legacy4」のシェルの中でも存在感があります。音導管は3本で、ダイナミックドライバー、ED-29689、そしてBellsing製BA×2基の3系統です。サイトでは「Bellsing製」とのみ記載されていたBAユニットの型番は「Bellsing 31735」であることが確認出来ました。このユニットは低価格中華イヤホンではお馴染みの「30095」ツィーターユニットを2基並べた2BAユニットのようですね。「THIEAUDIO Legacy4」は意外にもこの高域のチューニングが製品のポイントとして記載されています。
THIEAUDIO Legacy4THIEAUDIO Legacy4
そして中音域と低域は側面のスイッチによりモード変更が可能です。ネットワーク回路の抵抗または出力を変更するスイッチであると思われ、初期値(デフォルト)は両方OFFです。
スイッチ設定THIEAUDIO Legacy4
付属ケーブルは「Legacy2」と同様の4芯ケーブルで取り回しは良好です。イヤーピースは付属品のほか、定番のJVC「スパイラルドット」やよりフィット感の強いタイプでは「AZLA SednaEarfit XELASTEC」や「SpinFit CP100+」など、自分の耳に合う最適なイヤピースを選択するのが良いでしょう。


■ THIEAUDIOらしい癖の無いニュートラルサウンドに隠された華やかさ

THIEAUDIO Legacy4THIEAUDIO Legacy4」の音質傾向は、フラット方向で癖の無いリスニングサウンドという印象。「Legacy」シリーズの一貫したニュートラルな音作りが印象的ですね。もともとESTドライバー等を組み合わせた多ドラ製品を得意としているTHIEAUDIOだけに、派手になりそうな高域に対して他の音域とのバランスや音色の調整でいかにニュートラルに持っていくか、というアプローチが特徴的です。そして「THIEAUDIO Legacy4」も「Legacy2」同様に本気を出すためにはかなり駆動力を必要とします。それなりに鳴らしてもややウォームなフラットサウンドで自然に鳴ってくれますが、駆動力をかけることでより明瞭かつ色彩豊かなサウンドを実感できます。

以前レビューした「Legacy2」では「ED-29689」をフルレンジでならした上にベリリウムコートドライバーで補完するというアプローチで非常にバランスが取れているいっぽうで「EDらしくもベリリウムらしくもない音」という点で面白みに欠けるという方もいらっしゃいました。
THIEAUDIO Legacy4そして今回の「THIEAUDIO Legacy4」では中華ハイブリッドのギラつくような硬質さの元になっていたBellsing製のBAを使用しつつ、「あれ?Bellsingさんいましたか?」みたいな感じに完全にコントロールされている事にまず驚かされます。特にかなり強めのゲインで鳴らした場合も、搭載された「Bellsing 31735」(=「30095」×2)は歪むことはありませんでした。確かKZやTRNは「30095」の歪みを回避するために上位モデルではこのユニットだけで4基以上を並列にしており、それでも特有のギラつきを回避できない場合も多いのですが、「THIEAUDIO Legacy4」ではこのような心配は不要なようです。これはBAドライバー自体に手を加えているのか、フィルターや電気的なアプローチで制御しているのかは不明ですが、説明にしつこく記載された「Bellsingとの提携による云々」というのは確かなようですね。

 THIEAUDIO Legacy4また、「THIEAUDIO Legacy4」に搭載されたスイッチコンフィグレーションは、「1」(左側)がONにすることで低域が僅かに強調され、「2」(右側)は同様にONにすることで中音域が強調されます。つまり、両方OFF(デフォルト)をニュートラルとすると、左側のみONが低域強調(僅かにドンシャリ方向)、右側のみONが僅かにカマボコ方向、両方ONはいわゆる「W字」方向という印象ですね。個人的には「デフォルト」または「左側のみON(低域強調)」が好みでしたが、普段聴かれる曲のジャンルなどで組み合わせを換えてみるのも良いでしょう。どのモードも変化は非常に滑らかで、バランスが過度に崩れるようなことはありませんでした。

THIEAUDIO Legacy4」の高域は明るくスッキリした明瞭な音を鳴らします。Bellsing製BAユニットの良い面のみを引き出し、低価格中華ハイブリッドで多く見られる「金属質のギラつき」あるいは「歪み」は完全に抑制したコントロールが秀逸です。再生環境である程度駆動力をかけないとややウォームで大人しめに鳴りますが、しっかり鳴らすことで十分な主張と煌めきがより明確に感じられます。それでも刺さりなどの刺激は抑制されており聴きやすさは維持されています。高域についてはリケーブルによる変化にも注目すべきでしょう。

中音域は癖の無いニュートラルな音を鳴らします。Knowles「ED-29689」はミッドレンジまたはフルレンジのBAとして最も多くの機種に搭載されているBAユニットだと思います。そういった意味ではかなり「お馴染みの音」なのですが、「THIEAUDIO Legacy4」では他のモデル同様にドライバーの個性を活かすより原音忠実性を優先する制御が行われています。音場は狭くも広くも無く、音源に適切で、正確さ感じさせます。分離は優れており、ボーカル帯域は自然に定位し、演奏も的確に捉えることができます。
THIEAUDIO Legacy4いっぽうで、Sonion製BAを使用した上位モデルの「Legacy5」がより滑らかなニュートラルさなのに対し、「THIEAUDIO Legacy4」では高域に華やかさを持たせており、駆動力のある環境で鳴らす、「THIEAUDIO EST 銀メッキOCC線ケーブル」など、より高域を引き立たせてくれるケーブルに換えることでやや中高域寄りにシフトします。ここでスイッチコントロールを「Bass」(左側のみON)にすることで僅かですがドンシャリ方向のリスニング向けのバランスになります。この状態の「THIEAUDIO Legacy4」は個人的には最も好感を持った組み合わせとなりました。

低域もニュートラルである程度の量感を持っていますが、中高域にくらべて「デフォルト」のモードではやや薄く感じる方もいらっしゃると思います。十分なスピード感と適度な沈み込みがあります。重低音も十分な解像感のあるタイトな音で質感も良好です。ただ「Bass」モードである程度低域の存在感を増しても力強さという点ではやや弱く感じる場合もあります。この辺は多少好みが分かれる部分でしょう。

THIEAUDIO Legacy4THIEAUDIO Legacy4」はニュートラルなサウンドバランスでボーカル曲、インストゥルメンタル、クラシックなど様々なジャンルのサウンドで相性の良さがあります。EDMなど低域を重視する音源でも十分な解像感とスピード感があるため、多少好みは分かれますがスッキリとした印象で楽しむことが出来るでしょう。
また前述の通り、「THIEAUDIO」純正のリケーブル製品「THIEAUDIO EST 銀メッキOCC線ケーブル」との組み合わせにより、「THIEAUDIO Legacy4」は一気に華やかさをもったリスニングサウンドに変化します。またESTケーブルの場合、再生環境や好みによってはリケーブル後に高域の刺激が強すぎると感じるかもしれませんが、同様のケーブルで好みに合った変化を探してみるのも良さそうですね。

というわけで「THIEAUDIO Legacy4」は非常に完成度が高く、まとまりのあるサウンドですが、ともすると「Legacy2」以上に無個性というか、「よく出来ているけども特徴のないサウンド」にも感じられやすい印象もあります。しかし、再生環境、スイッチコントロール、そしてリケーブルなども組み合わせて追い込むことで想像以上の変化を楽しめる、実はかなり高いポテンシャルを持ったイヤホンだと感じました。