KZ EDA

こんにちは。今回は「KZ EDA」です。サウンドチューニングが異なる3種のイヤホン本体部分が同梱され、好みに応じてケーブルにつなぎ替えて使用する(ケーブルは1個のみ)、というあまりに斬新なのかヤケクソなのかよくわからない内容で話題に・・・というか多くのマニアが「目が点になった」イヤホンではないかと思います(^^;)。まあ私も正直「ネタ商品」だとは思っていますが、それでもあえて「実用性」という観点でレビューをしてみようと思っています。
今年に入っていろいろ騒ぎがあって多少ユーザー離れも気になる、私のブログでもお馴染みの「KZ」ですが、その影響があってか、従来の「多ドラ」(マルチドライバー)の路線から、これまでエントリークラスだったシングルダイナミック構成の製品を強化する方向性があるのかもしれません。既に姉妹ブランド「CCA」からシングルドライバー構成を前提に、極薄の振動板を採用した新しいダイナミックドライバーを搭載する「CCA CRA」およびグレードアップモデルの「CCA CRA+」が登場しています。当然このアプローチは「KZ」の製品にもフィードバックされていくと思われます。

というわけで、今回の「KZ EDA」は「CCA CRA」より多少スペックは異なるものの、やはり薄型振動板を搭載した新しいシングルダイナミックドライバー構成のイヤホンです。
KZ EDAKZ EDA
KZ EDA」のモデル名称は従来のエントリーグレードのシングルダイナミック製品「KZ EDX」「EDX Pro」「EDS」等のラインを継承していますが、ドライバーに加えシェルデザインも一新し、全く新しいシリーズに生まれ変わったようです。新しいシェルはよりコンパクトで装着性の高いハウジング形状と、高級感を増したフェイスデザインが印象的です。
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そして搭載されるドライバーは「KZ EDX Pro」などの10mm 二重磁気回路ダイナミックドライバーを改めて最適化。4.8μmの極薄振動板のほか数多くの改良が加えられた新しいダイナミックドライバーに対し、「KZ EDA」では「Bass」「Balanced」「Hi-Fi」の3種類のチューニングによる本体を設定しました。また今回のモデルではインピーダンスが34Ω、感度112dB/mWと、従来の24Ω前後の設定より多少鳴らしにくくなったことも大きな特徴ですね。

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3つのサウンドチューニングによる3セットの本体とケーブル、イヤーピースのセットによる「KZ EDA」の購入はAliExpressの主要セラー、HiFiGo、Amazon等にて。今回サンプル提供をいただいたHiFiGoの場合、価格は36.99ドル、Amazonでは4,453円程度で販売されています。
HiFiGo: KZ EDA  All 3 tuning In 1 Set Professional HiFi IEM
Amazon.co.jp(HiFiGo): KZ EDA


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

今回3種類の本体が入っているため、従来のKZのパッケージより若干大きめの箱に入っています。付属品は本体以外はケーブル、イヤーピース(S/M/L)、説明書などといつもの通り。イヤーピースは白色のフジツボタイプですが、本体装着済みのMサイズのみ本体にあわせて3セットあり、SサイズとLサイズが別に1ペアずつと言う感じ。Sサイズを使用している私にはちょっと残念ではあります。
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本体形状は全く新しくデザインされた樹脂シェルで継ぎ目部分が金属枠のフェースプレートになっているためプラスチック感はあまり感じず高級感が増しています。ステム部分も本体と一体化した樹脂製です。
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3種類の本体は本体および金属部分のカラーリング以外には見た目のうえでは相違点はありません。ただしステムノズル先端のフィルターは「Balanced」(透明)がメッシュ状なのに対して「Bass」(ブラック)および「Hi-Fi」(シアン)は異なるタイプのものが貼り付けられています。それ以外の違いは見つけられませんでした。
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ちなみに同じイヤホンでサウンドチューニングの変化をするためには交換式のフィルターを搭載するなどのアプローチが一般的でしょう。TRNなども1BA+1DDの「TRN ST1」をベースにフィルター交換ギミックを搭載した「TRN STM」を過去に販売していましたし、ミドルグレード以上の製品では割も珍しくなくなっています。しかし、これらのギミックを仕込んで、さらに各フィルターのバランスを考慮すると、もともと10ドル~20ドルクラスの超低価格イヤホンですので、3種類のチューニングのイヤホンを同梱した方が低コストで、かつチューニングもしやすい、というアイデアはそれなりに合理的に感じます。
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しかし、フィルター交換タイプのように、3種類のうち自分に合った1種類のみを使用する、という使い方の場合、本来20ドル程度のグレードのイヤホンを40ドルで購入したような気分になるため、やはりちょっと微妙ですね。まあ「マニア」がネタ用に購入するうえではこの奇抜なアイデアだけで十分興味深いのですが、やはり「実用性」を考慮するとなんとか「3個のイヤホン」として活用したいなと思います。そうなると逆に3種類のサウンドチューニングが「あまりに違いすぎると併用しにくい」というちょっと本末転倒な話もあったりするわけですが・・・。なかなか解釈が難しいですね。


■ インプレッション

まず前提条件として、本レビュー掲載時点でAliExpressなどでは透明カラーの「KZ EDA Balanced」モデルが約20ドル程度で単品売りを開始しています。当分は3個セットと併売だと思いますし、今のところ今回サンプルを提供頂いたHiFiGoではセットモデルのみの取扱いのようです。とはいえ、音質面のグレードとしては40ドルのイヤホンではなく、「基本的には20ドルの製品」が3個セットで40ドル以下なのでちょっとお得、みたいなパッケージングだと考える必要がありますね。そのうえで、マニア向けのキワモノ製品ではない「実用面」を考慮するなら、本当に3個セットがお得なのか、という視点も発生しますね。

KZ EDAKZ EDA」の音質傾向は、ボーカル帯域をフォーカスしたいわゆる「Wカーブ」(または滑らかなVカーブという意味で「Uカーブ」と表現される場合もあり)で、KZらしいメリハリを感じさせつつ比較的ニュートラルにまとめられています。従来型の二重磁気回路ドライバーを搭載する「KZ EDX Pro」が派手めのドンシャリの方向性を維持し、新しいドライバーを搭載する「CCA CRA」がその方向性を継承しつつ中高域の質感を向上してきたのに対し、「KZ EDA」では結構はっきりと方向性を変えてきたな、という感じです。

おそらく従来型のドライバーで表現できる音作りのなかで継承してきた「KZらしい、分かりやすいサウンド」から、ドライバーの進化にあわせてより成熟したチューニングへ舵を切ろうとしている、という意思が伺えます。かつてのハイブリッド製品を中心としたKZは、正確性や自然さはある程度割り切り、たとえ人工的な音色に感じてもシャープでキレのある音像とたたき付けるようなパワフルさで、ライトユーザーに新鮮な驚きを与え、ファン層を獲得してきました(私も非マニアな知人・友人に余分に購入したKZをちょいちょい配ったりしていたので、そういった反応は実際に数多く見ています)。オーディオ的には「下品な音」だからこそのKZみたいなところもあったのですが、その方向性はTRNなども踏襲しており、また先日のトラブルで急速に同社の「多ドラ」製品離れも加速しています。そうなると従来のKZ的なアイデンティティは別ラインのCCAに踏襲させつつ、KZはより自然なリスニングサウンドに変わっていきたい、という事なのかもしれませんね。

KZ EDA」は20ドルのイヤホンとしてはその目標に対してある程度の評価ができる製品だと思います。標準の「Balanced」(透明)モデルは聴きやすく自然なボーカルとそれを下支えする比較的伸びの良い広域と厚みのある低域を持っています。高域は硬すぎず刺激を抑えており、長時間のリスニングにも聴きやすいサウンドです。いっぽうで中音域も自然な範囲で曇ること無く明瞭な輪郭を持っています。従来のようなキレの良さやシャープな印象はありませんが、多くの方が違和感無く楽しめる使いやすいサウンドといえるでしょう。

KZ EDAKZ EDA」の「Balanced」(透明)モデルの高域は同社のハイブリッドモデルにありがちな金属質のギラつきはもちろん無く、「KZ EDX Pro」より歪みの少ない自然な伸びがあります。極薄の振動板の効果と思われますが、より薄い振動板を採用した「CCA CRA」と比べると輪郭の明瞭さおよび透明性では若干緩やかなようです。そのため高高域の見通しは今ひとつで天井は低めに感じます。
中音域は僅かに凹みつつもボーカルにフォーカスされた印象です。「CCA CRA」よりボーカルは近くで定位し、ハッキリした印象があります。中高域はスッキリしており女性ボーカルは明るさがあり、男性ボーカルもある程度の厚みを確保しています。ただし従来のKZのような重さや量感は無く、多少あっさりした印象を持つかもしれませんね。
低域は適度に締まりのあるあっさり目の音を鳴らします。ミッドベースは直線的で中高域との分離は良好です。重低音も「KZ EDX Pro」などと同程度で普段使いには十分な沈み込みがありますが、よりあっさりした印象のため、解像感(の限界)が分かりやすくなっているのは、もしかしたらデメリットかも。再生環境によっても印象が変わるため、EQ等を普段から活用されている方なら低域の多少いじってみると結構違いを感じるかもしれません。同様にリケーブルも組み合わせるケーブルによって効果が得られそうです。
音場は標準からやや狭く、演奏はある程度綺麗に分離しますがボーカルを下支えする印象で定位は正確ではありません。そのため分析的なリスニングにはあまり向かないでしょう。いっぽうでストリーミングでポップスやロック、アニソンなどを楽しむ上では非常に使いやすい印象です。

KZ EDAそして、「Bass」(ブラック)および「Hi-Fi」(シアン)のほうはステムノズルのフィルターに別タイプのものを採用することで変化をもたせているらしく、KZ的に「こういうアプローチってどうっすかね?」みたいにユーザーの反応を見るために試しに作って同梱している、という感じがします。おそらく「Balanced」(透明)モデルほどはチューニングを追い込んではいないだろうなあ、という印象です。「Bass」(ブラック)は海外での低域好きな方向けのチューニングという感じで結構分かりやすい印象。ただ中高域が結構粗くなるのでバランス的には今ひとつです。逆に「Hi-Fi」(シアン)はざっくりサブベースをカットしている感があり分離はかなり良くなりますが物足りなさを感じます。しかし中高域の明瞭感が増すため、ボーカルを中心に「Balanced」(透明)より分析的に聴くという使い方はできるかもしれません。だから「高域強化」ではなく「Hi-Fi」なわけですね。


■ まとめ

KZ EDAKZ EDA」は新しいドライバーを採用することで「ハイブリッドに頼らなくてもシングルダイナミックでも十分楽しめる」という同社にとって重要なターニングポイントを得たイヤホンだといえるでしょう。先行した「CCA CRA」が3.8μmの振動板なのに対し、「KZ EDA」は若干厚い4.8μmとスペックの違いがあり、さらにインピーダンス30Ωと従来より高い値にチューニングすることで、より滑らかさや聴きやすさを重視した方向性を提示しました。またボーカル帯域にフォーカスした緩やかなW字(あるいはU字)カーブを描くサウンドバランスを採用することで、ある程度万人受けを意識したサウンドになった印象もあります。そのため従来の分かりやすいKZサウンドに慣れ親しんでいる方にはやや中途半端に感じる可能性もありますし、普段よりハイグレードなイヤホンを聴いている方なら逆に価格なりの「粗さ」を感じやすくなっているかもしれません。またインピーダンスを変更した影響もあって再生環境でかなり印象が変わる、という傾向もあるようです。
KZ EDAただ、「本来」このグレードの製品がターゲットとするライトユーザー層や普段使いでの用途では非常に使いやすく、まとまりのある製品だと思います。では3個セットはお得か、というと、やはり実用性を考えるなら単品売りの「Balanced」(透明)を選択した方が良いかもしれません。また音質的には「CCA CRA」のほうに好感を持つ方も少なくないでしょう。やはり「KZ EDA」3個セットはある程度イヤホンを持っているマニア向けの製品かなと感じました。そのうえで、あえて使い分けを考えるなら、付属ケーブルは「Balanced」(透明)と組み合わせて、「Bass」(ブラック)はTWSアダプタの「KZ AZ09」と組み合わせ、「Hi-Fi」(シアン)は情報量の多い高純度単結晶銅線ケーブルにリケーブルして活用する使い方はどうかな、と思います。このようないろいろな「遊び方」も含めて楽しみたい方であれば、それなりにお買い得なセットではないかと思いますよ。