MUSE HIFI POWER

こんにちは。今回は「MUSE HiFi POWER」です。いわゆる14mm級平面駆動ドライバー搭載イヤホンのなかでもひときわ異色の、新興メーカーによる話題作と呼べる製品ですね。話題になっている4メーカー4モデルの中で、私のブログでは「MUSE HIFI POWER」が最後になりましたが、優れたサウンドバランスを持ちつつ、色々な点で個性強めでちょっと楽しい製品だと思います。

■ 製品の概要について

MUSE HiFi」は2022年に誕生した新興のイヤホンブランド。現時点では詳しい情報は入手できていませんが、中華系メーカーのエンジニアが独立したとのころで、同社の最初のモデルが今回の「MUSE HiFi POWER」となります。最初のモデルから高い完成度を持っており、各セラーからの注目度も高いことからも、今後のモデルも期待できそうなブランドのようです。
MUSE HIFI POWERMUSE HIFI POWER

MUSE HiFi POWER」は14.5mmサイズの平面駆動ダイナミックドライバーをシングルで搭載。最近になって14mm級平面駆動ドライバー搭載のイヤホンが急増していますが、どの製品も微妙にドライバーのサイズが違ったりスペックも異なるなど、同一のユニットではなさそうですが、高性能ドライバーをメーカーごとに対応して供給出来るサプライヤーの登場など中華イヤホンの世界でも大きな動きがあるのかも知れません。「MUSE HiFi POWER」は同社独自のチューニングを実施。また特別に設計された音響チャンバーにより全ての音域で明瞭さを生み出し、高解像度かつ鮮明なサウンドパフォーマンスを実現しているそうです。
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MUSE HiFi POWER」のシェルは3DプリンティングブランドのHeygear社と共同で設計されています。医療グレードのレジン素材により3DプリントされたシェルとCNC加工された金属フレームを使用し、フェイスプレートは手書きにより仕上げられています。またケーブルは6N高純度単結晶銅線と単結晶銅銀メッキ線をリッツ編組された高品質なミックスケーブルが付属します。リッツ構造の採用によりクリアなサウンドプロファイルを持つことが出来るそうです。
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MUSE HiFi POWER」の購入はHiFiGoの直営店またはアマゾン店舗にて。
価格は海外が199ドル、国内(アマゾン)が24,229円です。
HiFiGo: MUSE HiFi POWER
Amazon.co.jp(HiFiGo): MUSE HiFi POWER ※プライム扱い(国内出荷)


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

MUSE HiFi POWER」のパッケージは、黒箱のシンプルなデザイン。背面には日本語を含む各国語で製品仕様について記載されています。
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パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル、イヤーピースは4種類(各S/M/Lサイズ)、クリーニングブラシ、レザーケース、説明書。
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MUSE HiFi POWER」の本体は装着しやすいデザインを採用していますが、最近のイヤホンのなかでも屈指の「巨大さ」です。そのため耳奥まで入らない方もそれなりにいらっしゃると思います。その場合もケーブルの耳掛け部分も含めある程度しっかりフィットしますので装着性自体は問題ありませんが、イヤーピースはしっかり選ぶ必要があります。この辺の装着感の違いで特に中高域の印象が結構変化するようです。
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レジン製の3Dプリントシェルですが質感は良く、金属製のフェイスプレートもシンプルながら個性的です。他の最近レビューした14mm級の平面駆動ドライバー搭載イヤホンと比較しても「MUSE HiFi POWER」のの巨大さは際立ちますが装着性だけで言えば「LETSHUOER S12」の次ぐらいには良い印象を受けました。
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本体のレジン部分は半透明のレジンが使用されているため、内部のドライバーを確認することが出来ます。改めてイヤホンに搭載するドライバーとしては14.5mmというのはかなり大きいですね。
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ケーブルは布張りの被膜で覆われたミックス線タイプ。本体カラーに合わせた黒+ゴールドの模様が特徴的です。質感も良く取り回しの良いケーブルだと思います。コネクタは中華2pinタイプですのでリケーブルの選択肢も多いですね。イヤーピースは付属品も4タイプがあるためフィット感を見ながら選ぶのが良いでしょう。私は白色タイプを選択しました。他にも定番のJVC「スパイラルドット」やAcoustune「AET07」、またよりフィット感の強いタイプでは「SpinFit CP100+」など、自分の耳に合う最適なイヤピースに交換するのも良いでしょう。


■ サウンドインプレッション

MUSE HiFi POWER」の音質傾向は、平面駆動ドライバーらしい歪みの少ないニュートラルさと、伸びる高域と深い低域が印象的な弱ドンシャリ。これまで紹介した最近の14mm級平面駆動ドライバー搭載モデルを含めた4機種のなかでは「MUSE HiFi POWER」は若干重心が下がった中低域寄りの印象にまとまっています。また3Dプリンティングによる巨大なレジン製ハウジングを活かした音場感もあり、非常にシャープに伸びる高域とともに、質の良い平面駆動タイプのヘッドホンのような空間表現が楽しめます。

MUSE HIFI POWER中低域寄りドンシャリというと「7Hz Timeless」のバランスに近いように思われるかもしれませんが両者の印象は全く異なっており、「MUSE HiFi POWER」が解像感や明瞭さという平面駆動らしさという点はしっかりキープしているのに対し、「7Hz Timeless」は他の同種のモデルよりウォームでかつ低域の厚みや量感を意識しリスニング的な要素を重視した印象を受けます。とはいえ、「LETSHUOER S12」「TINHIFI P1 Max」の2機種と比べると低域の量感は「MUSE HiFi POWER」が多く、重低音の深さや重さもしっかり感じられます。直線的にしっかり伸びる高域、力強さや存在感とともに卓越した表現力を持つ低域と、これらを絶妙にまとめるバランスの良さ。これが「MUSE HiFi POWER」の強みですね。いっぽう、中音域をメインにかつ最もフラットな印象でまとめられた「TINHIFI P1 Max」と、突き抜けた明瞭さと解像感が特徴の「LETSHUOER S12」と、やはりこの4種類の比較はとても興味深く、どれも甲乙つけがたい良さがありますね。

MUSE HiFi POWER」の高域は、歪みの非常に少ない伸びの良さと明瞭感があります。他の14mm級平面駆動モデルと比べて全体として僅かに重心が下がっている印象のため、実際はかなり鋭さもある鮮明な音を鳴らすものの、強く刺激を感じすぎないバランスになっています。また、ハウジングの大きさの関係であまり耳奥まで装着出来ない方も少なくないと思いますが、この場合も組み合わせるイヤーピースによって高域はかなり印象が変化します。
なお、同種の他の製品同様にこのイヤホンも平面駆動としては比較的鳴らしやすいのですが、通常のイヤホンより音量を取るためにゲインを上げる必要があるなど、当然駆動力のある再生環境のほうが望ましいでしょう。また小型のDAPやオーディオアダプターの場合音量を上げることで(プレーヤー側の)歪みが出やすいため高域がより派手に感じる場合があります。

MUSE HiFi POWER中音域は曲によっては若干凹みますが、解像度の高さと密度感があるため、全体のバランスとして不足はありません。全体として明瞭な印象で、平面駆動らしい歪みの非常に少ない高い音を鳴らします。ボーカルは自然な距離感で定位し、音数の多い曲でもしっかり分離し、立体的な音響を楽しめます。ボーカル映え、という点では「TINHIFI P1 Max」などの製品のほうが存在感がありますが、物足りなさを感じるレベルではないでしょう。分析的に聴いても十分に実用的な分離感と定位の正確さがあり、いっぽうで聴き疲れしないリスニング的な音作りなど、ハイエンドなヘッドホン製品ではある程度存在しますがイヤホンではなかなか「有りそうで無い」特徴の製品と言えるかも知れませんね。

低域は密度感と力強さを持ちつつ直線的で締まりのある音を鳴らします。十分な量感を持ちつつスピード感があるため、ややウォーム寄りの「7Hz Timeless」とは全く異質の低域に感じると思います。大きさのあるハウジングを活かした広い空間表現があり、そのなかで中高域に対して最適な量感とバランスで自然な音色を奏でてくれる感じはとても好印象です。人工的にならない範囲で輪郭は明瞭で重低音も深さとともにタイトな解像感があります。おそらく低域の表現力の高さとともに中高域との絶妙なバランス感覚が「MUSE HiFi POWER」の最大のポイントであり、このシェルデザインによる、同傾向の平面駆動モデルだけでなく、同価格帯のすべてのイヤホンと比較しても他には無い大きな特徴だと感じました。


■ まとめ

MUSE HiFi POWERMUSE HiFi POWER」は14.5mm平面駆動ドライバーというソースを最大限に活用しつつ、同社独自のこだわりを持った音響表現を行った製品だと感じました。おそらく最近レビューした14mm級の4製品のなかでは最も癖が強く、その分「好き嫌い」も出やすい製品かもしれません。また他と比べて明らかに巨大なハウジングは耳に収まる人には問題ないと思いますが、やはりユーザーを選ぶでしょう。しかし、オーディオ的に見てその完成度は非常に高く、伸びのあるシャープな高域、濃密かつフラットな中音域、そして深く広く質感に優れた低域と、これらのサウンドをまとめる絶妙なバランス。これらの要素を追求すると、実はセオリー通りの(例えばハーマンターゲットカーブのような)サウンドとは全く異なる、非常に個性的な仕上がりになるのだ、という興味深い「事実」を教えられた感じがしました。あるいはスピンオフして「MUSE HiFi」を立ち上げたエンジニアさんが知らせたかったことも、そういったことなのかもしれませんね(^^)。