TRN TA1 Max

こんにちは。今回は「TRN TA1 Max」です。最近コロナ禍での制限がひと段落したおかげで、本業で出張のお仕事が一気に立て込んだりとなかなか腰を据えてレビューを仕上げられない日々が続いています。おかげでちょっと目を離すと「積み」イヤホンが一気に増えているわけで・・・。つか出張先でも次々と新しい製品をポチるからいかんのよ、という話なんですが(汗)。 
というわけで届いたのはちょっと前になりますが、かつての低価格中華イヤホンのブランドイメージからのステップアップが著しい「TRN Audio」ですが、その「きっかけ」のひとつとなったのがKnowles製BAドライバーを初めて搭載した「TRN TA1」だったのではと思います。そこから多少成長した同社が改めて取り組んだアップデートモデルが今回の「TRN TA1 Max」といえるでしょう。
■ 製品の概要について

中華イヤホンブランド「TRN Audio」は低価格の中華ハイブリッド製品で「KZ ACOUSTICS」などと競合するなかで、自社ロゴの中華BA(実際はBellsingなどのOEMと考えられます)を中心に構成される「低価格の多ドラ構成」を極めるようなラインナップを続けてきました。しかし、その流れは「VX Pro」(8BA+1CNT-DD)および「BA15」(15BA)で「行き着くとこまで行った」という感じになると、今度はドライバーの「数」ではなく「質」を見直す方向に舵を切りました。奇しくも競合する「KZ」が今年にはいって自社製品をめぐるトラブルもあり、シングルダイナミックドライバー製品をメインとしたラインナップに一気に方向転換を行おうとしていたり・・・。

このような市場環境の変化を予測するかのように2021年の前半に登場した「Knowles」製BAを搭載した1BA+1DDモデルの「TRN TA1」はマニアの間でも大きな話題となり、TRNの現在の方向性を決定づけるモデルとなりました。その後「TA」シリーズは樹脂ハウジングを採用した「TA」と「TA2」をリリースし、今回「TA1」からブラッシュアップする流れで「TRN TA1 Max」が登場しました。
TRN TA1 MaxTRN TA1 Max
TRN TA1 Max」はハウジングにアルミニウム合金を採用。マグネシウム合金製だった「TA1」より軽量化とクオリティの向上が行われています。ドライバーはバランスド・アーマチュア(BA)ドライバー部は引き続きKnowles製「RAD-33518」をステム部分に搭載。過去のレビューでも触れているとおり、Knowles製BAを採用した中華メーカー製品では定番のユニットでFiiOをはじめとするメジャーメーカーの100ドルオーバーの製品でも中高域または高域用で数多く採用されている実績のあるBAユニットです。
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さらにダイナミックドライバー部分には新たに10mmサイズのベリリウムコート振動板二重磁気回路ダイナミックドライバーを搭載。「TA1」では通常の二重磁気回路は採用していたものの少しサイズの小さい8mmのダイナミックドライバー(おそらく「TRN M10」などでも搭載されていた低価格のユニット)だったのと比較すると大幅に出力が強化されているのがわかりますね。
またフェイス部分は放射状にベント(空気孔)が設定された半開放型の構造を採用することで、コンパクトなハウジングながら音抜けの良さを維持しています。
TRN TA1 MaxTRN TA1 Max
このように「TRN TA1 Max」は「TA1」と比較して大幅なアップグレードが行われていますが、価格はアンダー50ドルの低価格イヤホンの範囲内でまとめられています。購入はHiFiGoなどの主要セラー、AliExress、Amazonなど。
価格は46ドルです。またアマゾンでは7,548円~購入可能です。
HiFiGo: TRN TA1 Max
Amazon.co.jp(HiFiGo): TRN TA1 Max


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

TRN TA1 Max」のパッケージは、「TA2」や「VX Pro」と同じサイズのボックス。製品画像のパッケージデザインがプリントされています。またアンダー50ドルの低価格モデルながらメタルケースが付属するのは有り難いですね。
TRN TA1 MaxTRN TA1 Max
パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル(TRNタイプCコネクタ)、シリコンイヤーピースは装着済み白色Mサイズと、別に黒色タイプおよび白色タイプがS/M/Lサイズ、6.3mmステレオジャック変換プラグ、円形の金属製ハードケース、説明書、保証書など。この価格帯としてが付属品もかなりの充実している印象です。

TRN TA1 MaxTRN TA1 Max

TRN TA1 Max」の本体はアルミニウム製でコンパクトかつ非常に軽量です。マグネシウム合金製の「TA1」と比べてもビルドクオリティが向上しているのがわかりますね。なお「TA1」はステムノズルは直線的に中央から伸びていましたが、「TRN TA1 Max」では耳にフィットする部分で適度なカーブのあるデザインでステムノズルも傾斜を付けて配置されています。
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ケーブルは従来と同じ銀メッキ線で、コネクタもqdcと形状互換性のあるタイプC仕様ですが、コネクタ部分はリング状の金属カバーで覆われています。MMCXを採用していた「TA1」と比較しても外観上で遜色は無く、またしっかり固定できるのが良いですね。フェイス部分のスリット上の部分はベント(空気孔)になっているため、再生時には多少の音漏れがあります。とはいえ通常の屋外ので利用では満員電車など密接した環境で無ければまず問題は無いレベルです。イヤーピースは標準で2種類のシリコン製が各サイズ付属します。他にも例によって定番のJVC「スパイラルドット」やAcoustune「AET07」、またよりフィット感の強いタイプでは「SpinFit CP100+」など、自分の耳に合う最適なイヤピースに交換するのも良いでしょう。


■ サウンドインプレッション

TRN TA1 Max」の音質傾向はTRNらしい明るくメリハリのあるドンシャリ傾向でキレの良さと力強さが前面に出る印象。またボーカル帯域も元気で楽しさを感じます。そのうえで、全体としては過去の同社の多ドラハイブリッドより質感がアップした印象もあり、Knowles製BAおよびベリリウムコートドライバーの効果を実感します。また単純に50ドル前後の低価格イヤホンとしても音質面の完成度は高く、現在日本では円安の影響でやや割安感は少なくなるものの、お買い得度は十分に保たれた良いイヤホンだと思います。

TRN TA1 Maxちなみに、製品ページに記載されたメーカー自身による「F値」だと、いわゆるU字カーブ、あるいはW字カーブのサウンドシグネチャを形成しているらしいのですが、実際に聴いた印象はよりキレと伸びのある高域とパワフルに出る低域のため、むしろ「TA1」よりドンシャリ感がアップしたようにも感じます。やはり「イヤホンは実際に聴いてみないとわからない」と感じる製品はより作り手の意思を感じて楽しいですね。
「TRNらしさ」を理解した上で過去の多ドラ系・低価格ハイブリッド製品とは異なるアプローチを示しつつバランス良く仕上げている点も好感できます。

TRN TA1 Max」の高域は、従来の中華BAを使用した中華ハイブリッドとはかなり異なる印象で、Knowles製BAによる恩恵を活かした煌めきと明瞭感のある音を鳴らします。中華ハイブリッド特有の金属質なギラつき(=実際は中華BAによる歪み)は無く、適度に明るく直線的な印象。駆動力のある再生環境では少し派手目に鳴る場合もあります。いっぽうで刺激はコントロールされており、聴きやすくまとめられているいっぽうで高高域の伸び感もやや抑えられた印象。キラキラ感は確保されているものの、より透明感や見通しの良さを求める方には価格相応に感じるかもしれませんね。

TRN TA1 Max中音域も高域同様に硬質かつ明瞭に鳴ります。「TRN TA1 Max」の場合、伸びのある高域と力強い低域の影響もあり、ボーカル帯域の主張は少し控えめに感じます。そのためボーカル中心であれば以前の「TA1」のほうが聴きやすく感じるかもしれませんが、前述の通り「TRN TA1 Max」もいわゆるW字カーブ寄りでボーカル帯域を多少持ち上げるチューニングになっており、凹むような印象はありません。女性ボーカルやピアノの高音など中高域の抜けは良く適度な煌めきがあります。またベリリウムコートドライバーとアルミニウムシェルの影響もあってか、より硬質でキレのある音色も特徴的で、特にストリングスなどは心地よく際立つ印象です。解像度はこのクラスとしては一般的なレベルですが、最近のニュートラル傾向のイヤホンよりは濃く感じるのではと思います。
また、半開放型の構造もあり音場は広く、窮屈さはありません。ボーカルが前面で背後に演奏が聞こえる奥行き感があり、この価格帯の製品としては分離も比較的優れているといえるでしょう。リスニングイヤホンとしては心地よく聴きやすいバランスだと思います。ただし定位は正確ではないため分析的な使い方にはあまり向きません。

TRN TA1 Max低域は力強く厚みのある音を鳴らしますが、半開放型の構造により抜けは良く、適度に響きを抑えた直線的でスピード感のある音を鳴らします。ミッドベースはパワーのあるアタックとキレの良さがあり、重低音は深く沈み存在感があります。この点は従来のTRNやKZが採用していた低価格ダイナミックドライバーとは異なる、ベリリウムコート振動板の恩恵を実感しますね。レスポンスの良さとスピード感では従来の「TA1」より確実に向上しています。いっぽうで重量感・存在感という点では「TA1」のほうが「わかりやすい」かも知れません。「TRN TA1 Max」はより質感を意識したチューニングであると感じます。

なお、従来のTRNの製品より再生環境での変化は大きく、スマートフォン直挿しとある程度S/Nが高く駆動力があるDAP(デジタルオーディオプレーヤー)では相応の違いがあります。インピーダンス22Ω、感度118dB/mWと反応は比較的良く、スマホ直挿しでもそれなりに楽しめますが、本領を発揮するためには再生環境は十分に追い込むことを推奨します。またリケーブル効果も大きいため、付属ケーブル同様の銀メッキ線タイプでより情報量の多いケーブルへの交換も良いでしょう。もし高域に派手さを感じ低域に厚みを持たせたい場合は高純度銅線タイプのケーブルに替えるのも良さそうですね。


■ まとめ

TRN TA1 Max」はKnowles製BAおよびベリリウムコートダイナミックドライバーの組み合わせにより、従来の「TA1」より質感が向上するとともにより際立った高域と低域を持つサウンドに仕上げられました。いっぽうでボーカル帯域を意識したW字カーブのチューニングも行われているらしく、相性の良さという点では、ロック、ポップス、アニソンなどのボーカル曲にフォーカスされそうです。いっぽうで再生環境による変化も大きく、スマートフォン直挿しやそれほど駆動力の高くないオーディオアダプターの場合、特徴的な高域及び低域はやや鳴りを潜めてしまうかも知れません。このような場合は再生環境の見直しとともにリケーブルなども検討いただくと良いでしょう。単純にバランス接続に替えるだけでも分かりやすく「おおっ」と思う変化があると思います(^^)。