TRN Kirin

こんにちは。今回は「TRN Kirin」 です。14.5mmの平面駆動振動板ダイナミックドライバーをシングルで搭載し、交換式のノズルフィルターやプラグなど豊富なギミックと充実した付属品を備えつつ150ドル以下の価格設定を実現しています。
今年に入り各社より一斉にリリースされている14mm級の平面駆動ドライバーを搭載したアンダー200ドル級のイヤホンですが、この流れに後発ながらも低価格中華ハイブリッドのイメージから急速に脱却しつつあるお馴染みの「TRN Audio」が参入。平面駆動ドライバーの特徴を活かしつつ、TRNらしい明瞭なチューニングと交換式サウンドフィルターを実装するなど、他社とはちょっと異なるキャラクターを鮮明にしています。

■ 製品の概要について

中華イヤホンブランド「TRN Audio」は、もともとは低価格の中華ハイブリッド製品で「KZ ACOUSTICS」と双璧をなすメーカーとしてマニアの間では認知されていました。しかし昨今の品質面、音質面での進化はめざましく、また従来の低価格イヤホンの枠にとらわれず、様々なタイプのドライバーを積極的に採用し、幅広いナインナップを揃えるブランドとして完全に進化を遂げた感もありますね。

そんなTRNが今回の「TRN Kirin」では新たに14.5mmの大口径平面駆動ダイナミックドライバーをシングルで搭載しました。この14mm級の平面駆動ドライバーは今年に入って各社よりアンダー200ドルの価格設定で様々な製品が登場しており、現在中華イヤホンで最も注目されている分野。「TRN Kirin」でも14mm級平面駆動ドライバーを搭載しつつTRNらしさを随所に反映させ、また価格設定をもう一段下げるなど、今回も意欲的な取り組みが印象的です。
TRN KirinTRN Kirin

TRN Kirin」では14.5mmのナノグレードの振動板を採用した平面磁気駆動ドライバーを搭載。またハウジングはこのドライバーに最適化されたアシンメトリーな磁気回路とカスタム仕様の音響構造を採用しています。これらの技術より歪みを排除し、より正確でクリアなサウンドイメージを実現しているとのことす。
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TRN Kirin」のハウジングはCNC機械加工された航空グレードのマグネシウム合金製。 このハウジングはハーモニックノイズの低減に効果的で、同時に剛性と耐久性を確保します。 そのサウンドシグネチャはTRNのエンジニアおよびオーディオファンのフィードバックによって長時間による調整を行っており、可能な限りの正確性を持ったサウンドを実現しています。

TRN KirinTRN Kirin
さらに「TRN Kirin」の大きな特徴として、交換可能な金メッキ真鍮製のチューニングノズルの採用があります。ノズルの内径と長さの違いにより、3種類のサウンドチューニングに変更が可能です。
そして付属ケーブルはプラグ部分が交換可能な8芯銀メッキOFC線ケーブルを採用。3.5mm、2.5mm、4.4mmの交換可能なプラグオプションによりさまざまな再生環境に対応します。
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TRN Kirin」の購入はHiFiGoなど主要セラーにて。価格は 129.80ドルです。
HiFiGo: TRN Kirin Superior Class 14.5mm Planar Magnetic Driver In-Ear IEMS

またアマゾンでも16,689円(7月14日現在)で購入可能です。
Amazon.co.jp(HiFiGo): TRN Kirin


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

円安の関係もあって日本ではいまひとつ割安感はないかもですが、他の14mm級の平面駆動ドライバー搭載イヤホンが170ドル前後~200ドル程度なのに対して、「TRN Kirin」は129.8ドルと1ランク下の価格帯なんですよね。にもかかわらずパッケージ内容が最も充実しているのも、実はこのイヤホンだったりします。やはり違うフィールドに来てもTRNのコスパの鬼みたいなキャラクターは健在ですね。
TRN KirinTRN Kirin

TRN Kirin」のパッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル、交換用プラグ(3.5mm/2.5mm/4.4mm)、6.3mm変換コネクタ、イヤーピースは黒色タイプ、白色タイプが3サイズ(S/M/L)および本体装着済みMサイズ、グレーのウレタンタイプが1ペア、交換用ノズルフィルター(固定金具付き)、メタルケース、説明書、保証書ほか。
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金属製の本体は写真等で見た印象よりコンパクトで耳穴にすっぽり収まる感じです。同社の最近の金属製のモデル同様に仕上がりはきれいでシンプルなデザインながら高級感があります。ただ「Reference」(標準/緑色リング)、「Atmospheric」(赤色リング)の交換ノズルではステムがやや長いため、少し小さめのイヤーピースで耳奥まで装着するほうが良さそうです。
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なお、14mm級の平面駆動ドライバーを搭載し200ドル以下でリリースされる高音質イヤホンは、今年に入り「7Hz Timeless」「LetShuoer S12」「MUSE HIFI POWER」「TINHIFI T3 PLUS」といったが相次いで登場しており、「TRN Kirin」は私のレビューでは5番目に紹介する製品になります。他にも未購入、未レビューの製品も複数存在しているようですね。
→ 過去記事(タグ検索結果一覧): 「平面駆動ドライバー」搭載イヤホンのレビュー

これらの製品の搭載ドライバーは微妙にサイズやスペックが異なるため、各社異なるユニットだと見られるますが、音質傾向や平面駆動ドライバーとしては鳴らしやすい仕様など類似点も多くあります。おそらく、新しい14mm級平面駆動ドライバーの生産を行っているサプライヤーにより各社の仕様に沿ったユニットを供給しているのでは、と考えられています。とはいえ、実際に製品の外観を比較してみるとどのメーカーも非常に個性的で類似点を見つけるのは困難ですね。
TRN KirinTRN Kirin

そして「TRN Kirin」は他社と異なる大きな特徴として3種類の交換式ノズルフィルターの採用があります。真鍮製の金属ノズルはそれぞれ長さが異なっており、また装着部の樹脂線リングのカラーでどのタイプか判断できるようになっています。細かいところですがこういう部分に配慮がされている点は好感できますね。
TRN KirinTRN Kirin
フィルターは一番短いタイプが黒色のシリコンリングを付けた「Transparency」(透明)で、名称通りおそらく最もイヤホン本来の音に近いタイプ。そして、標準で装着されているグリーンのリングのタイプが「Reference」で、ノズルの長さは少し長く、メッシュパーツの裏面にはグレーのフィルム状のものが張られているのが分かります。そして最もノズルが長いのが赤色のリングの「Atmospheric Immersion」。ノズルの長さだけで無く、内部の厚みも大きく最も抑制されるフィルターであることがわかります。

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さらに付属ケーブルもプラグ部分が交換式のタイプを採用しています。この交換プラグの接続部のロック方式は独自ですが、最近TRNが販売しているケーブル製品でも取り入れられているもので、これらの製品と交換プラグの接続部は互換性があります。ケーブルは銀メッキ線の8芯タイプで適度な太さと柔からさがあり、取り回しの良い線材を使用しています。
イヤーピースは標準で2種類のシリコン製が各サイズとウレタン製が1ペア付属します。他にも例によって定番のJVC「スパイラルドット」やAcoustune「AET07」、またよりフィット感の強いタイプでは「SpinFit CP100+」など、自分の耳に合う最適なイヤピースに交換するのも良いでしょう。


■ サウンドインプレッション

TRN Kirin」の音質傾向は明瞭感のある弱ドンシャリ。開封直後は結構大人しく鳴っている印象でしたが、上流のゲインを上げて少し鳴らし込んでみるとしっかり覚醒しましたね。全体としてはバランスの良いサウンドで、平面駆動らしい歪みが少なく解像度の高い質感が楽しめます。120ドル台の製品と言うことを考慮すると相当にハイレベルなイヤホンだと思います。なお、これまでレビューした14mm級平面駆動ドライバーを搭載した製品のなかでは最も高域の主張が強めで、再生環境によってはやや派手目に感じる印象。要するに、「平面駆動ドライバーの高品質ニュートラルサウンドをTRNらしくチューニングした感じ」ですね。

TRN Kirinそして、「TRN Kirin」の最大の特徴である3種類のノズルフィルターについては、一番短い「Transparency」(黒色リング)が最もイヤホン本体の音をダイレクトに伝えており、印象としては結構やや強めに高域が出る印象。それを「ちょうど良く」調整したものが標準で装着されている「Reference」(緑色リング)で、高高域をやや抑え気味にすることで相対的に中高域~高域付近はむしろ強調されている印象。全体としては若干派手目に鳴るもののバランスの良いドンシャリです。「Reference」は「TRN Kirin」を「TRNらしいサウンド」にチューニングしているフィルタといえそうです。そして「Atmospheric」(赤色リング)では中音域を持ち上げ高域を下げることで「W字カーブ」のサウンドにチューニングします。このフィルターは他の2種類と比べても変化が大きく、高域が刺さる人向け、というよりボーカルを強調した中低域寄りサウンドを好まれる方向けでしょう。曲によって使い分けるのは良いと思いますが、多少好みが分かれそうなフィルターだとは思いました。

14mm級平面駆動ドライバー搭載イヤホンは(一般的に鳴らしにくいと言われる)平面駆動タイプとしては比較的鳴らしやすく、DAP等は推奨ですがそれほど上流は選ばずに楽しめる印象でした。これらの機種と比べると、「TRN Kirin」は上流による変化を受けやすい印象ですので、今ひとつ伸びきっていない印象を受ける場合は、とりあえずバランス接続で駆動力を稼いでみる、16芯タイプなどより情報量の多いケーブルにリケーブルしてみるといったアプローチを試して見るのも良いでしょう。また高域の刺さりが気になる方もフィルターでは無くリケーブルで工夫した方が良いかも知れませんね。

TRN KirinTRN Kirin」の高域は明瞭で伸びやかな音を鳴らします。再生環境にもよりますが、他社の同様な14mm級の平面駆動タイプにくらべて高域の主張は強め。解像度が高く、平面駆動らしい歪みの少ないクリアなサウンドです。鋭い音は適度に鋭く、煌びやかさもしっかり表現していますが、同社の低価格ハイブリッド製品のような金属質な印象はありません。3種類のフィルターでは標準の「Reference」が最も高域の主張が強く派手めに感じるのが興味深いところ。「Transparency」(透明)では高高域への伸びは最も良い印象。ただバランスはやや崩れ多少過激に感じるかもしれません。「Atmospheric」は高域全般でやや遠く距離を置いて鳴る印象で、完全にボーカル帯域を下支えする感じになります。個人的には「Transparency」(透明)の高域も十分に有りでしたが、バランスの良さと楽しさという点では「Reference」でしょう。

中音域は癖の無い明瞭な音を鳴らします。こちらも「Reference」と「Transparency」フィルターでは中高域の主張に多少差がありますがフラットで正確な印象です。中高域は抜けが良く、女性ボーカルの高音も明瞭でスッキリしています。明るくハッキリした音で、レスポンスの早さや分離の良さもハイブリッドやマルチBAでは実現できない音で、「LETSHUOER S12」もそうでしたが100ドル台の製品で楽しめるのは本当に有り難いですね。音場は立体的で広すぎず正確に定位する印象。ライブ音源やスタジオ音源での実在感は非常に素晴らしいです。「Atmospheric」フィルターはボーカル帯域が強調されるため、他のフィルターとは少し印象が変わりますが、ポップスなどの曲のほか、反応の良さも含め、実はゲーミング向けとしても楽しめるのではと思ったりしました。

TRN Kirin低域は十分な量感を保ちつつ非常に締まりのある音を鳴らします。中音域同様に空間表現に優れ、立体的で実在感のある印象。ミッドベースは直線的で明瞭な輪郭とスピード感があります。重低音も深さを感じつつ非常にタイトで明瞭に分離するため、より解像感を得やすい印象があります。かつての平面駆動ドライバー搭載のイヤホンは低域が弱いことが多くありましたが、「TRN Kirin」ではどのフィルターでも量的に不足することは無く、解像度の高さと分離の良さで、非常に高い質感を実現しています。3種類のフィルターでは中高域を抑える「Atmospheric」フィルターが相対的に低域が強めに感じますが、他のフィルターでも低域そのものの質感は同様のようです。


■ まとめ

というわけで、「TRN Kirin」は14mm級の平面駆動ドライバーを搭載したイヤホンの中でもひときわ低価格の設定ながら、ノズルフィルターやケーブルの交換用プラグなどギミックに優れ、音質面でも他の機種と遜色ないレベルを実現していました。これまでレビューした14mm級平面駆動ドライバー搭載イヤホン(「TRN Kirin」を含む5種類)は、どの製品も各社の音作りの方向性やチューニングをしっかり反映しつつ、平面駆動ドライバーの高解像度かつ低歪みの高い音響性能が下支えする高音質イヤホンに仕上がっていました。
TRN Kirinそんななかで「TRN Kirin」は「いかにもTRNらしい」明瞭でやや派手さのあるドンシャリ方向にチューニングを行っており、「TRN VX Pro」など、同社の多ドラ系ハイブリッド製品を使用している層にも移行しやすいアップグレードとして選択できると思います。また、明瞭で見通しの良い高域を持ちつつ低域の質感にも優れるドンシャリ系のイヤホンは多くはありませんし、リスニングイヤホンとして楽しめるバランスでありながら、正確な空間表現と定位を持っていることで、ライブやオーケストラ演奏といった音源でより優れた臨場感を楽しめそうです。また動画視聴やゲーミングでもよりハイレベルな音響表現を実感出来るかもしれませんね。ウィークポイントとしてはTRNらしいチューニング故に高域の刺激が強く感じる可能性があることですが、その点を除けば幅広くおすすめできる良作だと思いますよ(^^)。