TINGKER H16

こんにちは。今回は「TINGKER H16」です。「TINGKER」は中国のイヤホンブランド「AUDIOSENSE」のサブブランドで、同ブランドとしては初めて片側8BA構成を採用したフラグシップモデルとなります。ちなみに最近は「AUDIOSENSE」が3DプリントシェルによるマルチBAやハイブリッド製品を展開しているのに対し、「TINGKER」は種類は少ないものの金属ハウジングのイヤホンを継続してリリースしている、という印象ですね。また、8BAというと、「AUDIOSENSE」の代表的モデルともいえる「T800」が思い浮かびます。金属ハウジングを採用した「TINGKER H16」と「T800」の音の違いについても非常に興味深いですね。

■ 製品の概要について

「TINGKER」は中国のイヤホンブランド「AUDIOSENSE」のサブブランドで金属製ハウジングのハイブリッド製品を販売してきました。今回同ブランドとしては初めての8BA構成のフラグシップ製品にになります。

8BA構成のイヤホンとしてはKnowles製BAを採用した「AUDIOSENSE T800」がマニアの間でも広く認知されており、現在も根強い人気があります。「T800」は「SWFK-31736」(2BA)、「Knowles製カスタムBA」(4BA)、「HODVTEC-31618」(2BA)による高2・中4・低2の3Way構造とネットワークを採用しつつ、3Dプリントにより音導管を含めたレジンシェルを構成することでKnowles製BAを採用しつつ低コスト化を実現していました。サウンドバランスも8BA機らしい情報量を持ちつつ中低域寄りのフラット方向のバランスとハイブリッド機のような「AUDIOSENSE」らしい深くマルチBA機としては質の良い低域の表現力で好評を得ました。
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この「T800」に対し、今回の「TINGKER H16」は「TINGKER」ブランドを踏襲し、アルミニウム合金によるメタルシェルデザインを採用。独立したサウンドガイドシステムを備えた3Wayクロスオーバーに片側8BAを配置する構成をとっています。BAユニット構成は低域用2BA、中高域用4BA、高高域用2BAの2+4+2と「T800」と同様のサウンドデザインを採用しています。
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マルチBAの卓越した解像度とクリーンで詳細場パフォーマンスを実現するために、「TINGKER H16」では独立した3Wayサウンドガイドシステムとアルミニウム合金により精巧に作られたシェルを採用。軽量で耐久性に優れ快適な装着感が得られます。
ケーブルはカバー付きの0.78mm 2pinコネクターによる高純度OFC(無酸素銅)ケーブルが付属しています。このケーブルは0.05mmのOFC線材を19×8本束ねたケーブルで被膜には透明で環境に優しいTPU素材を使用しています。
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TINGKER H16」の購入はAliExpressのTingker Offical StoreまたはアマゾンのAUDIOSENSE Offical Storeにて。価格はAliExpressが223ドル、アマゾンが29,999円です。円安の影響でレビュー時点のレート(手数料込み)ではAmazonで購入した方が少しお得なようです。
Amazon.co.jp(AUDIOSENSE Offical Store): TINGKER H16


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

TINGKER H16」のパッケージはロゴデザインのみのシンプルなボックス。箱を開けると手前にはウレタンシートに収められた各サイズのイヤーピース、奥には大きめのレザーケースが入っています。
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パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル、イヤーピースは2種類、それぞれS/M/Lサイズ、レザーケース、説明書。
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TINGKER H16」のハウジングは8BA構成と言うこともありやや大きめですが耳にフィットしやすいデザインで装着性は良好な印象。コネクタはqdcコネクタとカバー形状に互換性のある0.78mm 2pinコネクタ。NF AudioやSIMGOT、TINHIFIなど、最近の中華イヤホンで採用が増えているタイプです。従来の「AUDIOSENSE」および「TINGKER」のMMCX仕様に対し、最近の流れに合わせている感じもありますね。
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重量はサイズのわりに軽く、重さで外れるということもありませんでした。実際に測ってみると「TINGKER H16」の実測値は片側6.84gで「T800」の実測値の6.28gと比較してもほとんど気にならない範囲の違いといえるでしょう。「TINGKER H16」はサイズ的にはかなり大きめのイヤホンですが、形状については十分に考慮されており、多くの方が装着性については問題ないでしょう。
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イヤーピースは芯部分が柔から目、硬めで2種類付属するのはこれまでの「AUDIOSENSE」製品同様。こちらは付属品のほか定番のAcoustune「AET07」やJVC「スパイラルドット」などより自分に合うものを選ぶのもよいでしょう。「TINGKER H16」の場合、しっかりフィットするイヤーピースを合わせれば遮音性も比較的高いようです。
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ケーブルはダークブラウンの銅線タイプ。TPU被膜はやや弾力がありますが絡まりにくく。従来のAUDIOSENSEの付属ケーブルより取り回しも良い印象です。


■ サウンドインプレッション

TINGKER H16TINGKER H16」の音質傾向はバランスの良い弱ドンシャリで、全体としては癖の無いニュートラルな印象です。サウンドチューニング自体は「AUDIOSENSE T800」と非常に似ていますが、やや明るくメリハリがあり、ボーカル帯域はより近く鮮明に鳴る印象です。なおKnowles製BAを採用した「T800」のほうが同じ音量での情報量は多いようで、その分「T800」のほうがフラット方向に感じます。ただし「T800」より若干音量を上げることで「TINGKER H16」のほうが高域および低域のメリハリは増しますが、同様の解像感を実感することができます。この場合も刺さりや籠もりは無く、全体としてはよりハッキリとした印象を受けます。低域はより力強さが増した印象でキレの良さがあります。また重低音も深く、8BAというスペック上ではもちろん、200ドルクラスのイヤホンとしてもかなり上質な印象を受けました。少なくとも「T800」の廉価版という印象は皆無で、「TINGKER H16」が後継機種だと言われても納得するでしょう。
両者の違いは、「TINGKER H16」のほうが中低域寄りのドンシャリ傾向が強く、より明るくハッキリしたサウンドである点。あとは同様の構成でも使用しているメーカーが異なるBAドライバーの違い、またはシェル素材の違いによる質感の差もありそうです。「AUDIOSENSE T800」がインピーダンス9Ω、感度90dB/mWに対して、「TINGKER H16」は7.5Ω、感度97dB/mWという仕様ですが、前述の通り「TINGKER H16」のほうが若干鳴らしにくく、音量を上げる必要がありました。
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TINGKER H16」の高域は明るく明瞭な音を鳴らします。8機のBAをしっかり鳴らすためには上流にもある程度の駆動力を必要としますが、「TINGKER H16」は「T800」より上流による違いがはっきり出る印象。解像度は高くマルチBAらしい恩恵を感じるでしょう。見通しの良さより密度感というか硬質で情報量が多い印象もマルチBAらしい要素です。伸びは良く適度な煌めきがあります。「T800」の高域も厚みのある低域とのバランスをとるため僅かに強めの主張があるバランスでしたが、「TINGKER H16」も同様の印象があります。それでも、「TINGKER H16」の場合はより低域の力強さが増しているため、全体としては聴きやすく中低域寄りのバランスにシフトしています。

TINGKER H16中音域は凹むことなく鳴り、味付けのないニュートラルで、非常に詳細な描写とボーカル帯域を中心としたバランスの良さがあります。全体としてドンシャリ傾向が増したとはいえ、低価格中華ハイブリッドのような不自然な派手さは無く、クロスオーバーの調整は「T800」同様にスムーズで中高域および中低域の繋がりも自然な印象です。印象としては「TINGKER H16」のほうがボーカルは僅かに近く強調され、「T800」よりリスニング的なチューイングになっているように感じます。BAらしい解像感の高さにより演奏は自然に定位し、分離します。音場も自然で空間表現も比較的正確です。それでもニュアンスの表現としては「T800」のほうが滑らかで、「TINGKER H16」は若干硬質で輪郭にはエッジがあります。この辺はドライバーの違い、シェル素材の違い、という部分かなと思いました。

低域は非常にパワフルで、存在感のある音を鳴らします。「T800」もマルチBAイヤホンとしては高い質感でAUDIOSENSEの音作りの方向性として認知されています。「TINGKER H16」はより強いアタックとキレのあるミッドベースを表現することで、全体として分かりやすいサウンドにチューニングされている印象。重低音についてもBAとして十分な沈み込みがあり、情報量も多い印象ですが、「T800」の(搭載されているBAの仕様では本来出ないはずの音が聞こえると言われたほどの)質感は得られないかもしれません。この辺はBAでいかに深い音を出すか、というこだわりを感じた「T800」や「DT200」のようなモデルに対して、「TINGKER H16」はよりバランス重視になっている、というアプローチの違いかもしれませんね。それでも分離の良さと解像度の高さがあり、8BAイヤホンとしては十分な質感といえるでしょう。


■ まとめ

TINGKER H16というわけで、「TINGKER H16」はKnowles製BAは使用していないらしいですが、それでも同じ8BA
構成の「AUDIOSENSE T800」の評価の高かったポイントを上手く継承しつつ、金属ハウジングを活かしてよりリスニングイヤホンとして楽しめるサウンドに仕上がっています。また激戦区になりつつある200ドルクラスのイヤホンとしても完成度が高く、8BAという同価格帯では他に無い強力な個性とともに、選択肢のひとつとして今後評価されていくかも知れません。この製品の最大のウィークポイントは、やはり最大の競合機種が「T800」である点。「TINGKER H16」は十分に割安だと思いますが、Knowles製BAを使用した「T800」との価格差がそれほど大きくなく、サウンドも似ているため、「T800を買えばあえて選ぶ必要が無い」と思われるかもしれません。それでも興味のあるマニアの方にはぜひとも挑戦していただき、よりユーザーが増えていくことで状況に変化があるかもしれませんね。またリケーブルによる変化も結構楽しめると思いますので、その辺でより違いを楽しむのも良さそうです(^^)。