THIEAUDIO Elixir

こんにちは。今回は「THIEAUDIO Elixir」です。 「3次元ベロシティ・トランスデューサー振動板」という、謎のキーワードを持つ、要するにCNT(カーボンナノチューブ)膜にベリリウムメッキを施しさらに多層化した振動板、というやっぱり謎だけど凄そうというドライバーを搭載したアラウンド200ドルのイヤホンです。昨今の円安の関係で日本では3万円を下回る程度の価格設定になるのが厳しいところですが、それを上回る評価の高さで注目されつつあります。THIEAUDIOがリスニング向けに特化したチューニングと言うこともあり、同クラスの製品と比較してもかなり楽しめるイヤホンだと思いますよ。

■製品の概要について

「THIEAUDIO」は中国のオーディオメーカー・セラーの「Linsoul」系のブランドとして、非常にハイスペックのシリーズから、プライスパフォーマンスに優れた製品まで幅広いイヤホン製品をラインナップしています。既存モデルはレジンシェルに様々なマルチドライバー構成のユニバーサルIEM製品が主流でしたが、今回の「THIEAUDIO Elixir」はめずらしく独自デザインのメタルシェルと独自ドライバーというスタイルですね。

THIEAUDIO Elixir」はシングルダイナミックドライバー構成のイヤホンで、忠実な自然な音色を維持しながら、メーカーの記載によると「サウンドの精神と感情を捉えるという1つの主要な目標を達成することを目的」として、最新のドライバーと音響設計により、より豊かなリスニングサウンドを目指したモデルのようです。
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そのために「THIEAUDIO Elixir」では、搭載ドライバーに、新しく開発された革新的な「3次元ベロシティ・トランスデューサー振動板(3D Velocity Transducer diaphragm)」を採用。この振動板はベリリウムでコーティングされたカーボンナノチューブ膜を多層で織り合わせることで構成されています。ドライバーの内部構造も斬新で、より強力な極磁石と純銅製ボイスコイルアクチュエーターを使用しています。
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THIEAUDIO Elixir」の本体はアルミニウム製で表面はアルマイト処理され高い剛性をもちます。ハウジングは独自のドライバーを収容し、必要な音色の特徴を生み出すように注意深く設計されており、入念なテストを実施しています。フェイスプレートはベゼルに埋め込まれる前にコーティングされた本物のバールウッドブロックから削り出されています。「THIEAUDIO Elixir」も他の「THIEAUDIO」製品同様にハンドメイドのこだわりを持っており、精密印刷された部品とCNC部品を用いて、ひとつひとつ手作業で組み立てられています。
THIEAUDIO ElixirTHIEAUDIO Elixir
ケーブルは2芯タイプの単結晶銅+銀メッキOCCのリッツ線ミックスケーブルが付属します。このケーブルは26AWG(0.06mm)の線材を使用し、単結晶銅92線および銀メッキ銅24線で構成されます。

THIEAUDIO Elixir」の購入はアマゾンの「L.S オーディオ」(Linsolの国内直営店)にて。
価格は27,180円です(海外では209ドル)。
Linsoul(linsoul.com): THIEAUDIO Elixir
Amazon.co.jp(L.S オーディオ): THIEAUDIO Elixir


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

THIEAUDIO Elixir」のパッケージはシンプルな黒箱タイプ。落ち着いたデザインは高級感がありますね。パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル、イヤーピース(白色タイプ黒色ウレタンタイプ、の2種類、それぞれS/M/Lサイズ)、交換用メッシュパーツ、レザーケース、説明書など。
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本体はアルミ製の金属シェルでシンプルなデザインながら使いやすいデザインです。木製パネルにレジンコートしたフェイスプレートも高級感がありますね。耳にフィとしやすいサイズ感とデザインで装着性は良好です。コネクタは2pin仕様で埋め込みのないフラットな仕様です。
THIEAUDIO ElixirTHIEAUDIO Elixir

ミックス線を使用したケーブルは柔らかい樹脂被膜で覆われており、やや絡まりやすさはあるもののっ取り回しは良好。「THIEAUDIO Elixir」の搭載ドライバーは非常にポテンシャルが高く、リケーブルでの変化も大きい印象ですので、交換する選択肢が多い2pin仕様は有り難いですね。
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イヤーピースは白色のシリコンタイプと黒色のウレタンタイプが各サイズ同梱されています。他にもよりフィット感を高めるため定番のJVC「スパイラルドット」やAcoustune「AET07」、より密着感の強いタイプではSpinFit「CP100+」などへの交換も良いと思います。


■ サウンドインプレッション

THIEAUDIO ElixirTHIEAUDIO Elixir」の音質傾向はU字のバランスに近い弱ドンシャリ。一聴すると癖の無いニュートラル方向のサウンドのようにも感じますが、曲の種類、再生環境など、追い込んでいくことで本領を発揮し、多層のカーボンナノチューブとベリリウムコートという独自のドライバーによる「キャラの強さ」が姿を見せ始めます。しばらく聴いた印象としては、「個性的なプレーヤーばかりでチームを組むと相互の個性が打ち消し合って全体としてはわりとバランス重視に見えることがありますが、ひとつひとつのプレーにフォーカスするとやっぱり普通じゃないと感じる」みたいなところでしょうか(笑)。各音域で主張が強めだと必要以上に濃い音になりそうですが、ちゃんとバランスの良い仕上がりになっているのが驚きです。見た目の渋さと一聴したあっさりした印象に対して、実はかなり攻めたサウンドかもしれませんね。とても興味深いです。

THIEAUDIO Elixir」の高域は軽快で伸びのある綺麗な音を鳴らします。U字のバランスもあり多くの音源では高域はあまり目立ちませんが、実際は結構ハッキリした主張があり、ベリリウムらしい硬質ながらギラつかない直線的な印象とともに煌めきを感じます。いっぽうで歯擦音や刺さりなどは適度にコントロールされており、高域成分の強い曲では「THIEAUDIO Elixir」の高域の特徴がよく反映され鋭い音はしっかり鋭く鳴るものの同時に聴きやすさも維持しています。十分なディテールの表現力を持ちますがいわゆる解像度の高い音とは異なり、適度な空気感のある綺麗な音、という印象です。

THIEAUDIO Elixir中音域は他の音域より強めの主張になっており(V字では無くU字のバランス)、全体としてより強い存在感とエネルギーを感じさせます。いっぽうで低価格のハイブリッド製品のような元気サウンドとは異なり、滑らかさを感じさせつつ存在感のある聴き応えのあるチューニングになっているのが特徴的です。最近のストリーミングでのキャッチーさを重視した音源等では「THIEAUDIO Elixir」はバランスの良い優等生サウンド、という感じですが、それらの音源と比べてちょっと遠くで鳴っているような過度のアレンジを行っていない音源でも、音像がしっかり大きく前に出て立体感のあるサウンドを楽しめることに気付きます。しかも最近増えているW字傾向の製品のようなボーカル偏重のチューニングでは無くインスト曲も含めて、ディテール感、深さ、余韻など、非常に聴き応えのある音を鳴らしてくれます。そして広大な音場を持っており立体的な臨場感を与えてくれます。ライブ音源やアコースティックなサウンドでその恩恵が得られるのはもちろんですが、特筆すべきは打ち込み系の電子音でも奥行き感があり、非常にエモーショナルです。

THIEAUDIO Elixir低域は全体としてはやや抑えめに感じます。しかし中高域と綺麗に分離し、かつしっかりとした存在感を与えるようにチューニングされており、質感はとても良好な印象です。解像感やキレより滑らかさを感じる印象ながらスピード感を持っておりドライバーの特性を上手く生かした鳴り方と言えるでしょう。重低音も非常に深いもののタイトで過度に主張することはありません。これは全体としての自然なバランスを得るためにTHIEAUDIOが意識してチューニングしたものらしいですね。


■ まとめ

THIEAUDIO ElixirTHIEAUDIO Elixir」のサウンドは「上質なリスニングサウンドとは何か」という問いに対する、THIEAUDIOの回答のひとつだと理解しました。一聴すると優れたニュートラルサウンドに感じるバランスを持ちつつ、高域および低域は決して解像感を前面に出してはいませんが、ドライバーの特性を活かした質の高い表現力と滑らかさを持っており、中音域はマスタリングで過度な演出を行っていない古い音源やジャンルの曲でも存在感のある「聴きたいところをしっかり押さえてくれる」サウンドで楽しませてくれます。この絶妙なチューニングは個人的にもとても気に入っていますが、搭載されるドライバーのポテンシャルは非常に高く、リケーブルなどでさらに変化を楽しむことができます。メリハリが強調され派手目の変化があるケーブルを使うことでより分かりやすいドンシャリ方向への変化を楽しむのも良さそうですね。冒頭に記載の通り円安の関係もあり決して安価なイヤホンではありませんが、この傾向が気に入ればとっておきのメイン機になり得る実力のあるイヤホンだと思いますよ(^^)。