Moondrop Aria Snow Edition

こんにちは。今回は「Moondrop Aria Snow Edition」です。中国のイヤホンブランド「Moondrop(水月雨)」の人気モデル「Moondrop Aria」の新バージョンで、カラーリングおよびフェイスデザインの変更に加え、ドライバーをDLC(Diamond Like Carbon)振動板仕様にアップグレード。100ドル以下の低価格ながら同社の「Kanas Pro」、そして名機「KXXS」を彷彿とさせる仕様で音質面もグレードアップしています。

■ 製品の概要について

Moondrop Aria Snow Edition」は、「Moondrop(水月雨)」が2021年に発売した人気モデル「Aria(2021)」のアップグレードバージョンです。「Aria」同様に精緻なCNC加工による亜鉛アルミニウム合金の金属ハウジングを採用しつつ、美しいシルバーの表面処理と雪の結晶のような複雑なテクスチャーの新デザインを採用しています。 
Moondrop Aria Snow EditionMoondrop Aria Snow Edition

ドライバーには10mmのデュアルキャビティ高性能ダイナミックドライバーを搭載。「Aria」のDaikoku-CCAW ボイスコイルの軽量サスペンションと真鍮製のバックチャンバーを受け継ぎつつ、「Aria」のLCP振動板から「DLC(Diamond-Like Carbon)振動板」に変更。「Moondrop Aria Snow Edition」で採用されているDLC振動板はかつて「Kansas Pro」で採用されていたもので、高内部抵抗の基材とナノスケール厚のDLCアモルファスカーボンを組み合わせています。
Moondrop Aria Snow EditionMoondrop Aria Snow Edition
また「Moondrop Aria Snow Edition」においても複合サウンドキャビティ、複数のチューニングホール、および正確な周波数応答調整のための多種類の音響ダンピングを搭載。周波数応答は、HRTF(頭部伝達関数)およびルーム応答関数に高度に準拠・最適化され、すぐれた音響性能を実現しています。

Moondrop Aria Snow EditionMoondrop Aria Snow Edition
Moondrop Aria Snow Edition」の付属ケーブルは透明な樹脂被膜に覆われた銀メッキ6N OFC(高純度無酸素銅)ケーブルが付属。コネクタは0.78mm 2pin仕様を引き続き採用しています。

Moondrop Aria Snow Edition」の購入はHiFiGoなどの海外セラーまたは国内の主要専門店にて。日本仕様は8月5日より発売を開始しています。
価格は海外版が79.99ドル、日本国内版が10,980円前後です。
HiFiGo: Moondrop Aria Snow Edition
Amazon.co.jp(国内正規品): Moondrop Aria Snow Edition


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

私は国内版発売前の7月にHiFiGoから購入しました。ただMoondrop製品の国内代理店は対応も早く価格も非常に良心的ですので、今後は普通に国内版を購入した方が良いかもしれませんね。
Moondrop Aria Snow EditionMoondrop Aria Snow Edition
「Moondrop」といえばキャラクターのイラストが描かれたパッケージがお馴染みですが、今回はさらに雰囲気のあるパッケージデザインになっていますね。「Aria」はブラックを基調のデザインでしたがこちらは雪の雰囲気に合わせてホワイトを基調にしています。

Moondrop Aria Snow EditionMoondrop Aria Snow Edition
パッケージ内容は、イヤホン本体、ケーブル、「Spring Tips(清泉)」シリコンイヤーチップおよび通常タイプの黒色イヤーピース(それぞれS/M/Lサイズ)、ケース、説明書、保証書など。

Moondrop Aria Snow EditionMoondrop Aria Snow Edition
亜鉛アルミニウム合金による金属ハウジングはつや消しのシルバーメタリックな表面処理が施されておりフェイス部分の雪の結晶のような複雑なテクスチャーデザイン(プリントではなく表面に彫り込まれています)が従来の「Aria」よりさらに美しさを感じるデザインです。
Moondrop Aria Snow EditionMoondrop Aria Snow Edition
形状的には「Aria」と同じで「KXXS」「KATO」とよく似ていますがフェイスパネル部分は少し厚さを抑えた形状になっています。ハウジング自体はやや大きいサイズですが耳に合せやすいデザインで装着性自体は良好です。ただ金属ハウジングは多少重量感があります。
Moondrop Aria Snow Edition」では「KATO」で付属し、単品販売もされている「Spring Tips(清泉)」シリコンイヤーチップが付属するため、通常はこちらを選択すれば問題ないでしょう。なおサイズ的に合わない場合は「SpinFit CP100+」や「AZLA SednaEarfit XELASTEC」のような「密着タイプ」のほうが印象としては近いかもしれませんね。
Moondrop Aria Snow EditionMoondrop Aria Snow Edition
ケーブルは樹脂被膜の銀メッキ線タイプのケーブルが付属します。正直ケーブルについては通常版の「Aria」の布張り被膜のほうがよかったような・・・。音質傾向的には問題ありませんが適時リケーブルを検討するのも良いでしょう。


■ サウンドインプレッション

Moondrop Aria Snow EditionMoondrop Aria Snow Edition」の音質傾向は、バランスの良い弱ドンシャリ。Moondrop独自の「Virtual Diffusion Sound Field (VDSF)」カーブをもとにチューニングされており、よりニュートラルな印象を受けるサウンドバランスになっています。従来の「Aria 2021」は「Starfield」に近い傾向で、より低域が強調され、ドンシャリ方向の印象が強いサウンドでした。
これに対し、「Moondrop Aria Snow Edition」では同社のDLC振動板ドライバーらしく、全体の解像感、透明感がより向上し、音の柔らかさなど、かつての「KXXS」に近い印象も感じられます(実際は「KXXS」ではなく振動板を共有している「Kanas Pro」により近い可能性も高いですね)。32Ω、119dBと仕様上は「Aria 2021」より僅かに感度が下がっている程度ですが、実際はより鳴らしにくく、プレーヤーのハイゲインである程度音量を上げる必要があります。この辺は付属ケーブルの違いも影響しているかもしれません。
 
Moondrop Aria Snow Edition」の高域は、明瞭かつ滑らかさで、伸びのある音を鳴らします。「Aria 2021」の高域より多少明るさと主張が増している印象ですが、同様に聴きやすく、「KXXS」などにも共通する柔らかい音ですね。最近の「KATO」などには及ばないものの見通しは良く透明感があります。自然な輪郭とともに十分な解像感があります。

Moondrop Aria Snow Edition中音域は高域同様の滑らかさをもちつつ、厚みがありより前に出て存在感を示します。「Aria 2021」より低域がやや抑えられたこともあり、「Moondrop Aria Snow Edition」はバランスとしては中音域の主張をメインとしたサウンドになっています。とはいえ極端なW字傾向のように過度にボーカル域を強調するような不自然なバランスではなく、演奏との分離の良さより自然な定位がある音作りをしています。解像感とともに音像や余韻など質感は向上しており男性ボーカルも女性ボーカルも綺麗にな音色で魅力的に感じます。楽器はエネルギッシュですが自然な音色で滑らかなリスニングサウンドを奏でます。音場は適度な広さがありますがもう少し伸びやかさが欲しいと思うかもしれません。

低域は他の音域同様に滑らかな質感をもちつつ、より明瞭かつ直線的な印象があります。重低音は「Aria 2021」より抑えられている印象がありますが、ミッドベースは存在感を保っており、全体として低域が少なく感じることはありません。全体的にタイトで解像感のある音です。そのため中高域との分離はより優れていてより強調されたボーカル曲で心地よく下支えします。

Moondrop Aria Snow Edition全体的には「Moondrop Aria Snow Edition」も「Aria 2021」同様に分析的というよりリスニングを楽しむためのサウンドという点では共通していますが、より滑らかで魅力的な音色を持っています。いっぽうでアグレッシブさ、力強さという点ではドンシャリ傾向がより強い「Aria 2021」のほうが楽しく感じると思います。
そして「Aria 2021」は採用ドライバーの性格上、より上位の「KXXS」や「KATO」と比べ質感に価格相応の違いがありましたが、これらの機種と同様のDLC振動板にアップグレードされた「Moondrop Aria Snow Edition」はその差がかなり埋まっているように感じます。むしろ「KATO」のバランスが「味気なくてつまらない」と感じていた方は質感が改善され、より中音域メインになった「Moondrop Aria Snow Edition」のほうがリスニングイヤホンとして楽しく、心地よいバランスに感じる可能性が高いかもしれませんね。


■ まとめ

というわけで、「Moondrop Aria Snow Edition」は「Aria 2021」のデザインとハーマンターゲットに近いMoondrop独自のVDSFカーブと踏襲したチューニングを踏襲しつつ、よりニュートラル方向にシフトし、ドライバーにDLC振動板を採用することで「KXXS」などの上位モデルをイメージさせる透明感のある質感を手に入れることに成功しました。
Moondrop Aria Snow Edition「Aria 2021」も2021年のリリース当初はアンダー100ドルクラスで頭ひとつ抜けた印象がありましたが、その後同様のLCP振動板を採用した「TINHIFI T3 PLUS」や「DUNU TITAN S」といった製品が登場したことで「よく似たバランスと完成度でメーカーごとのキャラクターの違い」以上の差別化が難しい状況にもなっていました。今回の「Moondrop Aria Snow Edition」が単なるチューニング変更だけではなく、伝家の宝刀ともいえるDLC振動板に変更したのは、こういった状況から抜けだし、さらにリードするためのアプローチだったのかもしれませんね。結果としてよりニュートラルなサウンドになったものの、アンダー100ドルクラスの底上げをさらに進めたことは間違いないでしょう。多彩な強豪がひしめく価格帯ではありますが、有効な選択肢のひとつとして、もちろんお勧めできるイヤホンのひとつだと思いますよ(^^)。