Kiwi Ears Orchestra Lite

こんにちは。今回は 「Kiwi Ears Orchestra Lite」です。8BA構成のIEMタイプのイヤホンですね。「Kiwi Ears」のフラグシップモデル「Orchestra」の低価格バージョンという位置づけで、高域2BA、中音域4BA、低域2BAという8BA構成は踏襲しつつ、採用しているドライバーの変更などで半額程度までコストダウンに成功。いっぽうでハンドメイドによる丁寧な製造方法などはそのままで、より見た目にも美しく仕上げられています。音質面でも豊潤さを感じる聴き心地の良さが魅力です。

■ 製品の概要について

Kiwi Ears」は2021年に登場した新しい中華イヤホンのブランドで、同社のデビュー作が8BA構成の「Orchestra」(499ドル)でした。この製品はKnowles製の高域用BA、中音域用のカスタムBA、Sonion製の低域用BAの3Wayにより構成され、まさにオーケストラのように複数のBAが調和した自然なサウンドを奏でることで主に海外で一定の評価を得ていました。同社はその後、シングルダイナミック構成の低価格モデル「Cadenza」をリリース。ベリリウム(コート)ドライバーと3Dプリントシェルによるアンダー30ドル台の低価格を実現し、美しいデザインと質の高いサウンドを実現したことで、日本を含む世界中のマニアの間で認知されることになります。
→過去記事: 「Kiwi Ears Cadenza」 30ドル台で美しいシェルにベリリウム(コート)ドライバー搭載。バランスが良く低域も心地よい低価格中華イヤホン 【レビュー】

そんな世界中での認知と評価を獲得した同社が新たに手がけた製品が、今回レビューする「Kiwi Ears Orchestra Lite」です。「Orchestra」で実現した8BA構成による質の高いサウンドを踏襲しつつ、ドライバーユニットの変更や製造工程の見直しによって大幅なコストダウンを実現。より美しいデザインとともに幅広いユーザーに購入しやすい製品に仕上げています。
Kiwi Ears Orchestra LiteKiwi Ears Orchestra Lite

今回の「Kiwi Ears Orchestra Lite」は「Orchestra」の高域×2+中音域×4+低域×2のBA構成を踏襲しつつ新たなBAドライバーを採用。ドライバーメーカーとの緊密なパートナーシップにより、2基の高域用BAおよび4基の中音域用BAに新たなカスタムBAを採用することで、より効率的なパフォーマンスの提供と大幅なコストダウンを実現しています。これにあわせて、低域用には2基の大型サブウーファーBAを搭載しています。
Kiwi Ears Orchestra LiteKiwi Ears Orchestra Lite
Kiwi Ears Orchestra Lite」の製品化にあたって、同社が最も重要視したのは、「Orchestra」の自然でバランスの取れたサウンドを維持し、プロミュージシャンやエンジニアに適したスタジオモニターレベルの性能を発揮することでした。そのため、ネットワーク回路に独立した5つの制御系を導入し、高域、中音域、低域用の各BAによる3Wayのクロスオーバーを制御、複雑なレイヤリングを行うことで歪みを低減などの高音質化を実現しています。
Kiwi Ears Orchestra LiteKiwi Ears Orchestra Lite
美しいデザインを備えたレジンシェルは1個1個ハンドメイドによって丁寧に仕上げられており、さらに製造された各ユニットはエンジニアによる 2回の品質管理検査を受け、左右のサウンドマッチングを実施。低コストを実現しつつ品質に関しては妥協のない製造を行っています。
Kiwi Ears Orchestra Lite」のカラーバリエーションは「グリーン」と「ブルー」の2種類。購入はLinsoul(linsoul.com)またはAliExpressの「DD-Audio Store」、アマゾンの「LINSOUL-JP」にて。
価格は 249ドル、アマゾンでは 33,380円です。
Linsoul(linsoul.com): Kiwi Ears Orchestra Lite
AliExpress(DD-Audio Store): Kiwi Ears Orchestra Lite
Amazon.co.jp(LINSOUL-JP): Kiwi Ears Orchestra Lite


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

Kiwi Ears Orchestra Lite」のパッケージはシンプルな黒箱で付属品も含めコンパクトにまとめられています。内容はイヤホン本体、ケーブル、イヤーピース(3種類、それぞれS/M/Lサイズ)、クリーニングブラシ、レザーケース、説明書。付属する説明書は各国語でしっかりした冊子が付きます。
Kiwi Ears Orchestra LiteKiwi Ears Orchestra Lite

本体はレジン製で内部は充填されており、しっかりした強度感と若干の重量感のある印象。最近はレジン製と言っても3Dプリンタでの成形がほとんどのため、CIEMのような手作り感は逆に新鮮味があるかも。透明な本体および染料が流し込まれたフェイスプレートは非常に美しく、シェル内にびっしりと埋まったBAドライバーが存在感を出しています。各BAユニットはネットワーク基盤で配線されクロスオーバーが制御されており、ユニットの種類ごとにまとめられた3つの音導管がステムノズルに伸びています。音導管に付けられたフィルターは低域用が2段になってるなど、細やかなチューニングが伺えます。
Kiwi Ears Orchestra LiteKiwi Ears Orchestra Lite
Kiwi Ears Orchestra Lite」は高域用の2BAユニット1基(2BA)、中音域用2BAユニット2基(合計4BA)がカスタムBAなのに対し、低域用はKnowles製「CI-22955」が2基使用されています。低域用ウーファーとしてはお馴染みのユニットですが、同じ8BAの「AUDIOSENSE T800」が使用している低域用の2BAユニット(DTEC)よりパワーのある構成となっています。それだけ中高域のカスタムユニットも強さがあるということでしょう。
Kiwi Ears Orchestra LiteKiwi Ears Orchestra Lite
ケーブルは4芯タイプの高純度無酸素銅線が付属します。美しいシルバーのケーブルで取り回しも良く使いやすい印象のケーブルです。

ちなみに「AUDIOSENSE T800」も「Kiwi Ears Orchestra Lite」と同じ高域2BA、中音域4BA、低域2BAで価格的にも比較的近い製品です。「T800」はKnowles製BAで構成されていることが「売り」で高域用はSWFKの2BAユニット、Knowles製カスタム2BAユニット2基(4BA)、低域用はDTECの2BAユニットとなっています。また「AUDIOSENSE」の姉妹ブランドの8BAモデル「TINGKER H16」もすべてカスタムBAながら高2+中4+低2の組み合わせは同様となっています。
Kiwi Ears Orchestra LiteKiwi Ears Orchestra Lite
これらの製品と外観を比較すると、シェルサイズは「Kiwi Ears Orchestra Lite」は比較的大きめで、「AUDIOSENSE T800」と比べると存在感があります。とはいえ「TINGKER H16」と比べると、まあ似たようなサイズ感ですね。シェルサイズが大きいため装着性は「T800」よりは下がりますが、イヤーピースをしっかり合せれば問題なく装着出来るでしょう。

イヤーピースは付属品はいまひとつな感じでしたので、できれば定番の「スパイラルドット」、「AET07」(互換品含む)、「SpinFit CP100+」などのほか、最近人気が高まっている「TRN T-Eartips」や「TRI Clarion」など、自分の耳に合う最適なイヤピースに交換するほうがおすすめです。私は最終的に「SpinFit CP100+」を選択しました。


■ サウンドインプレッション

Kiwi Ears Orchestra Lite」の音質傾向は、ニュートラルでマルチBAらしい音場感を感じる印象。全体の印象としては若干ウォームの自然なサウンドで、8BA機らしいエッジを取り除いたような音像表現があります。しかし見通しは良く解像感もあり、細かい音もしっかり描写されているのを感じます。
Kiwi Ears Orchestra Liteサウンドバランスはフラット方向から僅かにU字気味の傾向で、中音域を中心としたモニター的な表現力を追求しつつ、リスニング性を高めるため若干「○○ターゲット」的な方向性も意識してるチューニングかなと感じました。
Linsoulサイトの製品説明でも「Orchestra」のほうは「all-purpose performance monitor」のようにモニターとしてのこだわりが感じられるのに対し、「Kiwi Ears Orchestra Lite」では「famed tonal balance」のように、よりリスニングを意識したコンセプトが読み取れ、実際のサウンドもその方向性がちゃんと表現されているようです。この価格帯としては結構「品のいい音」という印象ですね。

Kiwi Ears Orchestra Lite」の高域は適度な解像感を持ちつつ聴きやすい印象。主張はやや控えめな印象ですが明瞭さや煌めきは確保されており、過度なギラつきなどはないものの、優しく自然になる印象。分離も優れているため、細かいシンバル音も綺麗に聞こえます。聴き心地の良さを感じつつ、マルチBAらしい細やかな描写があるのは好印象です。

Kiwi Ears Orchestra Lite中音域は僅かに温かく若干の柔らかさもある描写ながら、傾向としてはニュートラルで、音源をありのままに鳴らす印象。ボーカル域の際立たせるようなアプローチも無いため、自然な距離感で定位します。マルチBAらしい重なり合うような音場感をリスニング方向に自然にまとめている印象です。音場は立体的で臨場感があり、適度に艶感のある音が立体的に折り重なる印象は「リアル」ではないかもしれませんが非常に心地よく感じることができます。いっぽうで個々の音像はベースとなった「Orchestra」を踏襲していると思われるモニター的な音作りで、1音1音の粒立ちは良く、それぞれの音を的確に捉えることが出来ます。CIEM的な質感とリスニング的なアプローチが上手く調和している印象です。

低域は適度に存在感があり、分離の良いミッドベースとマルチBAとしては重低音もしっかりとした深さと重さがあります。輪郭はやや緩めな印象のためそれほど解像感は高くありませんが、中高域との分離は良く、マルチBAにありがちな籠もり感もありません。また自然な厚みがあり豊かな音場感を演出しています。重低音も可聴域内で十分な響きがあり、イヤーピースをしっかり合せることでより深さを実感出来ると思います。

Kiwi Ears Orchestra Lite」のサウンドの方向性としては8BA構成というドライバー構成を活かしたリッチな印象のサウンドで、独特の心地よさを上手く表現できてる製品だと思います。いっぽうでスッキリした明瞭感やキレの良さをもとる方や、シャープな輪郭のサウンドを好まれる方にはあまり合わないでしょう。またニュートラルなバランスで中音域はフラットさもありますが、全体としては完全にリスニング向けのチューニングであることも認識しておく必要があるでしょう。この辺は好みが分かれるところですね。


■ 「AUDIOSENSE T800」や「TINGKER H16」などとの比較

Kiwi Ears Orchestra LiteKiwi Ears Orchestra Lite」の250ドル、3.3万円程度の価格設定で高2+中4+低2の8BAという構成は、前述の通り「AUDIOSENSE T800」や同系列の「TINGKER H16」といった製品が真っ先に比較対象として思い浮かびますが、実際に聴き比べると、それぞれのアプローチの違いをより明確に感じました。「T800」は「Kiwi Ears Orchestra Lite」と比べると低域や高域の鳴り方は「KZ」や「TRN」のマルチBA機ような「いかにも中華」という感じがあり、一般的に「濃厚」といわれる中音域は鮮明さに違いあり、いわゆる「マルチBAにありがちな籠もり感」とも捉えられます。「TINGKER H16」は多少聴きやすいバランスに調整され、中音域もスッキリしていますが上流の違いで粗さが出やすいという点で「T800」とのドライバーの違いも感じられます。
また4BA構成ながら価格帯としては比較的近い「SeeAudio Bravery」はバランスとしてはニュートラルなカーブを持っていますが全体として寒色傾向で、さらに明瞭で元気な印象に感じられ、想像以上に方向性の違いを感じました。どれも良し悪しというより好みで選ぶ感じかもしれませんね。
Kiwi Ears Orchestra LiteKiwi Ears Orchestra Lite
とはいえ、「Kiwi Ears Orchestra Lite」はリスニングチューンのイヤホンのため、モニターライクとは少し異なりますが、質感そのものは代表的なCIEM製品をイメージする方が近そうな印象です。例えばということで、何となく似てる気がしたので試しに代表的なサウンドモニターのひとつである「MH334」と聴き比べて見たところ、ドライバー構成やモニターとしての用途の違いから相応の差があり、「Kiwi Ears Orchestra Lite」のほうが随分ウォームに感じるくらいの違いは当然ありますが、改めてCIEM的なサウンドからのアプローチを実感しました。


■ まとめ

というわけで、「Kiwi Ears Orchestra Lite」はもともとが500ドルくらいだった「Orchestra」の低価格バージョン、という理由もあって、非常に素性の良い、上品な印象のサウンドが楽しめる8BAイヤホンだなと感じました。リスニング向けながらCIEMぽい印象もあり、要するに「多ドラCIEMぽい音色を持ちつつややマイルドなリスニングイヤホン」という感じになりますね。そういう意味では、個人的には3万円ちょっと価格は好みに合えば結構お買い得だと思います。

Kiwi Ears Orchestra LiteマルチBAイヤホンとしては3BA構成や4BA構成の質の良い製品、それこそ「SeeAudio Bravery」のような製品のほうがスッキリしており、より多くのマニアに適しているとは思いますが、「Kiwi Ears Orchestra Lite」の8BAのようなドライバー数の多い製品は音の重なりによる独特の空間表現や厚みがあり、「耳心地の良さ」という点では魅力があります。ただし同じ8BA以上でも、あくまで低価格BAドライバーの歪みを押えるためのアプローチとして並列化し結果として多ドラ構成になっているKZやTRNの「低価格中華イヤホン」製品には残念ながらそういった情緒や雰囲気は無く、やはりある程度の価格のものを聴いてみるしか無い、という感じになります。それでも以前であればそれなりにハイエンドな製品で得られたサウンドが最近では500ドル以下のレンジで楽しめるようになっており、日本でも4~6万円台とかのイヤホンが実は結構面白い、みたいな状況になっています。そんななかで「Kiwi Ears Orchestra Lite」は、より手頃な3万円程度の価格帯でちょっとリッチな印象も楽しめるイヤホンとして、「好みは分かれる」ものの、良い選択肢のひとつになりそうです。個人的にも結構オススメだと思いますよ(^^)。