KZ ZAR

こんにちは。今回は 「KZ ZAR」です。7BA+1DD構成という「KZマニアにはお馴染み」というマルチドライバーハイブリッドです。今回は「KZ DQS」でも採用されている新しい自社開発ドライバーをダイナミック部で採用しており、全体的な質感も向上したイヤホンに仕上がっています。

■ 製品の概要について

KZ ZAR」は、私のブログでは毎度おなじみ低価格中華イヤホンブランド「KZ(KZ ACOUSTICS)」の7BA+1DD構成のマルチドライバー・ハイブリッドモデル。この構成では最近では姉妹ブランド「CCA」の「CCA MH20」が思い出されますが、KZブランドでも「KZ ZAX」や「KZ ZAS」といった人気モデルがあります。さらにCCAでは「CA16」および「CA16 Pro」という機種もあり、7BA+1DD構成というのはKZ/CCAにとって相当思い入れのある構成なのだろうと思います。
そして今回の「KZ ZAR」では新たに自社開発したダイナミックドライバー(おそらく「Legendary」ドライバーと呼ばれているものと同じ?)を組み合わせ、「U字のサウンドバランス」にチューニングされた製品となります。
KZ ZARKZ ZAR

KZ ZAR」のドライバー構成は、高域用の「30019s」と、中高域、中音域用の「50024s」2BAドライバーが3基(6BA)、自社開発の新型ダイナミックドライバーの組み合わせです。このダイナミックドライバーは「CCA CXS」および「KZ DQS」で搭載されている「10mm 自社開発ダイナミックドライバー」と同様のユニットだと思われます。その特徴は、磁気ギャップを0.15mmまで押えることに成功。さらに精密な4層レイヤー構造のCCAWボイスコイルを搭載しています。
KZ ZARKZ ZAR

KZ/CCAの7BA+1DD構成の主要モデルを比較してみると、構成的には「KZ ZAS」以降のモデルではBA部分の組み合わせはほぼ固定しています(「CCA CA16 Pro」も「ZAS」と同じドライバー構成のCCA版モデル)。

(2023) KZ ZAR   : [30019s]×1  +[50024s (2BA)]×3 +10mm DD (New Gen)
(2022) CCA HM20: [30019s]×1  +[50024s (2BA)]×3 +10mm DD (XUN 2nd Gen)
(2021) KZ ZAS   : [30019]×1   +[50024s (2BA)]×3 +10mm DD (XUN 1st Gen)
(2020) KZ ZAX   : [30095](ステム部) + [30019]×2 + [50024 (2BA)]×2 + 10mm DD 

おそらく7BA+1DD仕様でのBA部分の構成については同社なりの「正解」にたどり着いているようで、以降はダイナミックドライバー部分やシェル形状、材質の変化によりサウンドが構成されています。
KZ ZARKZ ZAR

KZ ZAR」の購入はAliExpressおよびアマゾンなどでの主要セラーより。
価格は80ドル前後(AliExpress)、13,800円~(アマゾン)です。


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

KZ ZAR」のパッケージは上位モデルで採用されている黒箱タイプ。パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル、イヤーピース(S/M/Lサイズ)、説明書。ケーブルは銀メッキ線の8芯タイプですね。
KZ ZARKZ ZAR
KZ ZARKZ ZAR

KZ ZAR」の本体は、「KZ ZAS」に比較的近いサイズ感で耳にフィットしやすい形状でまとめられています。ステムノズルは金属製で「KZ DQS」と同じ、「KZ ZAS」のタイプより太さのあるものを採用咲いています。
KZ ZARKZ ZAR

10mmの「Legendary」ドライバーに加え、7基のBAドライバーを搭載する関係で、フェイスサイズも「Legendary」ドライバーをシングルで搭載する「KZ DQS」よりひとまわり大きく、やや膨らみのある形状にまとめられています。ひとまわり大きくなっても耳にフィットしやすいデザインで装着性は良好です。
KZ ZARKZ ZAR

同じ7BA+1DD構成の「KZ ZAX」「CCA HM10」「KZ ZAS」と比べると形状の違いが興味深いですね。似たシェル形状でXUNドライバーを搭載する「KZ ZAS」の場合は内部にドライバーがびっしり埋まっているように見えますが、「KZ ZAR」の場合は本当に同じドライバー構成かな、と思ってしまうくらいシェル内にまだまだ余裕がありますね。
KZ ZARKZ ZAR
ケーブルは「KZ PR1 PRO」に付属していた8芯タイプの銀メッキ線が付属します。やや細めの線材を使用しており、柔らかく取り回しの良いケーブルです。イヤーピースは例によってKZのフジツボタイプが付属します。こちらは耳に合うものを選んで交換しましょう。例によって定番の「スパイラルドット」や「AET07」(互換品含む)、「SpinFit CP100+」などのほか、「TRN T-Eartips」などもお勧めです。


■ サウンドインプレッション

KZ ZARKZ ZAR」の音質傾向は中低域寄りの寒色系ドンシャリ。「安心してください。マニアにはおなじみなKZサウンドですよ」みたいな印象です(笑)。付属ケーブルでのバランスは聴きやすい印象で、KZらしいダイナミックドライバーのキャラクターでサウンドを決定づけ、BAの構成により明瞭さや高域の伸び感を加える、というアプローチで仕上げられています。
方向性としては最近の「CCA HM20」より「KZ ZAS」に近く、より刺激を抑え聴きやすくチューニングされ、付属のケーブルではスマホ直挿しや小型アダプタなどの再生環境で比較的小音量で鳴らすことに最適化されています。

S/Nが高く、駆動力のあるDAPやアンプの場合は「ZAS」より中音域付近のスッキリ感は増しますがより低域が強調される印象になります。イメージとしては「CCA CXS」がより解像度を増した感じに近いかもですね。しかし、駆動力のある再生環境では、例によってBA部分はリケーブルで大化けします。非常にスッキリした解像感と見通しの良さを持ち、中高域もしっかりした主張があるバランスの良いサウンドになります。

KZ ZAR正直なところ、アンダー100ドルクラスで強豪がひしめく現状で、「KZ ZAR」の80ドル、1万円オーバーに見合うサウンドとして正当化するのはちょっと苦労するかもしれません。何よりKZ/CCA自身が同価格で平面駆動ドライバー搭載の「KZ PR1 PRO」を出しており、さらに20ドル安価な60ドルの価格設定で7BA+1DD構成の「CCA HM20」が購入できる、という内側にも敵がいるという状態は、このイヤホンをさらに「一部の”KZ” マニア向け」みたいな製品にしている気もします。「KZ ZAR」で「本気を出すため」には少なくとも「リケーブルは必須」となります。おや、そうするとケーブル込みで100ドルを超えて、さらに上位の強豪が・・・困りました(^^;)。

もともとKZのハイブリッド構成におけるBAドライバーは、メインであるダイナミックドライバーを補完するためのもので、そのコンセプトは最初のハイブリッド製品である「KZ ZST」から基本的には踏襲されています。しかし、4BA+1DD構成の「KZ ZS10 Pro」や、「KZ ZAR」と同じ7BA+1DD構成の「KZ ZAX」などの頃になると、多ドラ化の理由付けとしてBA部分の存在感を強調するチューニングを行ったため、全体として「ちょっと下品な派手さ」を持ったサウンドになりました。その後、「KZ ZAS」などのモデルでは、KZのハイブリッドで「多ドラ化」が必要だった本来の理由である「同ユニットを並列することで出力を分散し低価格BA特有の歪みを減らす」という目的に専念するようになり、質感は格段に向上しました。しかし今度は1BA単位では出力が微音すぎるという理由もあって一部の海外勢から「本当にBAから音が出ているのか」という指摘があり、しばらくハイブリッドをやめて、ダイナミックドライバーを高音質化しよう、という流れになります。

KZ ZARこのような経緯を踏まえて、高音質化したダイナミックドライバーを組み合わせた上で、改めてハイブリッドに向き合っている最近のモデルは、昔からKZのイヤホンを追っていたマニアからすると非常に感慨深いものではあります。しかし、今回の「KZ ZAR」の場合、普通に100ドル以下の中華イヤホンを購入しようと思っている方に、どの程度響くかは結構微妙かもしれません。よくまとまってはいますが、ケーブルやイヤーピースを替える追加コストが必要で、さらに最近の競合製品と比較すると「飛び抜けて優れているわけではない」という印象は、やはり、「KZファンのためのイヤホン」と考えるのが最も適切かなと思われます。

KZ ZAR」の高域は、聴きやすくスッキリした音を鳴らします。ツイーター用の「30019s」は高高域近くで働いているようで、「KZ ZAX」のような金属質のギラつきはありません。実質的には2BA×3基の「50024s」が高域付近も鳴らしていると思われます。「KZ ZAS」に比べると女性ボーカルの高音などの中高域付近のアクセントが無いため、高域も相対的に若干暗めに感じるかもしれませんが、明瞭感があり硬質で比較的伸びもあります。

KZ ZAR中音域は、やや凹みますがボーカルは近く癖の無い音を鳴らします。分離も良く音像も明瞭ですが、付属ケーブルではややウォーム方向に感じさせ、暗めの印象になります。それでも「KZ ZAS」に比べると中低域付近がスッキリしており、聴きやすさや見通しの良さはあります。本来の明瞭さや解像感を得るために情報量の多い銀メッキ線などにリケーブルは必須でしょうリケーブルで音場の広さや定位感も変化しますので生まれ変わったような違いを感じられます。

低域は非常にパワフルでキレのある音を鳴らします。「KZ DQS」とも共通したパワフルさと伸び感が印象的です。ミッドベースは直線的でスッキリしており締まりも良い印象。重低音も非常に深く厚みがあります。適度なアクセントと力強さ、そしてスピード感があり、アタックも早い印象。付属ケーブルでは上流により低域が強めに出ますが籠もることはありません。


■ まとめ

KZ ZARというわけで、音質評価ではちょっと厳しめのことも記載しましたが、サウンド面では特に不満は無く、どちらかというと「問題は価格」というのが正直なところです。今後市場価格が「CCA HM20」と同等の60ドル、8千円程度まで下がればば、選択肢のひとつとして音質傾向の違いで選択できるイヤホンになるのでは、と思います。少なくとも「KZ ZAS」をリプレースする存在にはなるのではと思います。にしても、KZのレビューではちょいちょい書いてる気もしますが、「マイク付き」モデル、つまりスマートフォン直挿し想定を100ドルクラスの7BA+1DDのイヤホンや平面駆動のイヤホンでやる必要があるのか、という点は相変わらず気になります。「CCA CXS」や「KZ DQS」とは価格帯だけでは無くユーザー層も違うはず、という点を製品に落とし込むことで解消できる部分も少なからずあるのでは、と思わずにはいられないわけです。もっとも、私の場合は無駄にリケーブル製品も買っており「いつも余ってる」ので、正直なところは「リケーブル必須」でもぜんぜん困ってはいないんですけどね(^^;)。