KZ ZVX

こんにちは。今回は「KZ ZVX」です。 新しい「10mm デュアルキャビティ・スーパーリニア ダイナミックドライバー」を搭載するシングルダイナミック仕様のモデルです。アンダー20ドルという低価格ながら金属製のシェルを採用し、外観も音質面もなかなかの「質の高さ」を感じさせたイヤホンです。

■ 製品の概要について

私のブログでは毎度おなじみ低価格中華イヤホンブランド「KZ(KZ ACOUSTICS)」ですが、最近は特にシングルダイナミック構成のモデルも注力をしていますね。今回の「KZ ZVX」はまた新しいドライバーを搭載し、金属ハウジングで仕上げられた低価格ながらも多少高級感もあるモデルです。
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KZ ZVX」のドライバーには新しい「10mm デュアルキャビティ・スーパーリニア ダイナミックドライバー(Dual Cavity Super Linear Dynamic Driver)」をシングルで搭載。従来の二重磁気回路に加え、4.8μmの極薄振動板を採用。振動板の質量の大幅な削減による振動感度の向上しています。さらに「KZ DQS」などの「Legendary」ドライバー同様に「4層のボイスコイル設計」を採用し、0.15mmと大幅な磁気ギャップの削減を実現しています。ただし振動板の記述の違いやスペックの違いなどで「Legendary」とは異なるドライバーとして取り扱われているようです。
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ちなみに「KZ EDA」に搭載されるドライバーもインピーダンスなどは34Ωと高めに設定されているものの、「4.8μm極薄振動板」と「0.15mm磁気ギャップ」と比較的似た仕様で、「KZ ZVX」の「デュアルキャビティ・スーパーリニア ダイナミックドライバー」はこれの改良型、またはチューニング違い、という可能性もありますね(「KZ ZVX」はインピーダンス 25±3Ω、感度 109±3dB)。なお、メーカーサイトでは「KZ ZVX」のドライバーについて、「他ブランドでは100ドルオーバーで販売している仕様だがKZは低価格を実現した」みたいな記述をしています。
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KZ ZVX」の本体は軽量な合金製のフルメタルシェルを採用。OFCケーブルとウレタンイヤーピースが付属します。カラーバリエーションは「シルバー」と「ブラック」の2色です。
KZ ZVX」の購入はAliExpressおよびアマゾンなどでの主要セラーより。
価格は19.90ドル前後(AliExpress)、2,720円~(アマゾン)です。


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

「KZ DQS」のパッケージはいつもの白箱タイプ。パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル、ウレタンイヤーピース(S/M/Lサイズ)、説明書。ケーブルはブラウンのOFC銅線タイプ。また今回のイヤーピースはウレタン仕様のみでシリコンタイプのイヤーピースは付属しません。
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今回は「シルバー」を購入しました。シルバーのカラーリングでは以前レビューした「KZ PR1 HIFI」に近い質感にみえますが今回はハウジング部も含めすべて金属製。やはり樹脂製の従来のモデルと比べるとそれなりの重量感があります。とはいえ重量を少しでも軽量にするためか、ハウジング上部が穴の開いたデザインになっているが特徴的です。同様のアプローチは「CCA CXS」でも行われていますね。ただこちらはシェル自体のサイズは従来のKZ製イヤホンと同等になっています。また、金属製のハウジングのため、内部のドライバー形状を確認することはできません。そのため「KZ DQS」(Legendaryドライバー)のような薄型のシャーシのユニットか、従来型のサイズなのかは判断はできません(画像を見ると従来型のサイズっぽいですね)。
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ちなみに、最近のKZ/CCAのシングルダイナミックモデルを中心とした製品に搭載されるダイナミックドライバーは、異なる種類のユニットでも方向性的に類似点があります。この辺はいくつかのバリエーションを作ったり改良を加えたりと同社とドライバーのサプライヤー(供給元)とのやりとりの過程みたいなものも想像できますね。CCAでは「Legendary」と呼ばれるユニットをKZでは自社開発(Self-Developed)ドライバーと記載しているのに対し、「KZ ZVX」など他のユニットと記載された製品では特に「自社開発」とは書いていない点が個人的には興味深いですね。
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多少脱線しましたが、今回の「KZ ZVX」では付属イヤーピースはウレタンフォーム製が3サイズ付属し、もっとも小さいサイズのものが最初から装着されていました。金属製シェルを採用したことでより硬質感が増すことを意識た選択かもしれませんね。ウレタンタイプは密着製が高いものの、解像感などの理由で好まない方も多いと思いますので、適時交換を行うのが良いでしょう。個人的にはTRNの「T-Eartips」がオススメですが、定番の「スパイラルドット」や「AET07」(互換品含む)、「SpinFit CP100+」などしっかりしたフィット感を得られるものを選ぶのが良いと思います。


■ サウンドインプレッション

KZ ZVX」の音質傾向は比較的バランスの良い弱ドンシャリ。KZ/CCAブランドの最近の製品で記載している「U-shape」(U字のバランス)の方向性を踏襲したチューニングで、ボーカル域を中心とした中音域にフォーカスした印象も感じさせます。全体としてはアンダー20ドルという低価格とイヤホンとしては非常に良くまとまっていると思います。

KZ ZVX全体のバランスとしては同様に金属製のシェルを搭載した「CCA CXS」とも近い印象を持ちますが、特に中高域から高域にかけたチューニングは「KZ ZVX」ではさらに改善されており、より直線的で見通しが良く感じさせます。いっぽうで煌めきや硬質感も中高域を中心に増しており、標準のイヤーピースがウレタンフォーム製なのはこの辺を多少マイルドにするためのアプローチかもと想像させます。同時にウレタンフォームのイヤーピースを装着すると低域の量感が相対的に増して感じられますが、「KZ ZVX」はボーカル域が比較的近く音場は若干狭く感じる場合もあるため、ウレタンイヤーピースにより低域の厚みが増すことで、全体としての臨場感が向上し音場感を補う効果も想定しているかもしれませんね。

また「KZ ZVX」は再生環境にはそれほど影響されず、比較的鳴らしやすいイヤホンのため、スマートフォン直差しなどでも十分に利用できます。とはいえKZ/CCAの以前の製品と比べるとドライバーのポテンシャルは確実に向上しており、ある程度のDAPやオーディオアダプター、アンプ等を利用することで全体の解像感やより詳細な描写などを実感することが出来るでしょう。確かにサウンドチューニング自体は最近のKZそのものという印象ですが、以前の製品と比較しても大きく「質感」が向上していますね。

KZ ZVX」の高域は、明るく明瞭ながら見通しの良い音を鳴らします。KZらしい硬質感とドライさもありますが、全体として質感が向上しており描写も自然かつ詳細な印象です。シンバル音も綺麗に鳴り上の方まで直線的に伸びる感じは好印象です。ただ同様に金属シェルの「CCA CXS」同様にかなり明るい音であるため、イヤーピースや再生環境によっては若干濃淡が飛んでいるように感じるのかもしれません。付属のウレタンイヤーピースでもある程度マイルドになりますが、シリコンタイプの場合はよりフィット感が得られる密着製の高いものをえらぶなどの工夫も良いかも知れません。

KZ ZVX中音域は全体としてはニュートラルで癖の無い音を鳴らしますが、比較的近くで定位し、やや強めの主張があります。最近のKZ/CCAの製品で増えているボーカル域にフォーカスしたチューニングで、より鮮やかさや明瞭感を感じやすいと思います。こちらもウレタンイヤーピースによって多少マイルドにすることでエッジを抑え聴きやすい印象になりますが、個人的には一般的なシリコンタイプのほうが十分な解像感と見通しの良さを感じやすいと思いました。ボーカル域はエネルギーがあり、女性ボーカルは鮮明に、男性ボーカルは力強い音で再生されます。音場は普通からやや狭い印象。とはいえ質感は確実に以前の製品より向上しているため、より情報量が多くメリハリのあるケーブルへのリケーブルなどにより立体感を感じる事ができそうです。

低域は量感を持ちつつスピード感のある「KZらしい」音を鳴らします。ミッドベースはタイトで直線的な印象でアタックはスピード感があります。またウレタンイヤーピースを使用することで、多少厚みが増し臨場感を演出します。この場合も全体のしての見通しの良さから籠もることはありません。重低音は適度に深く沈みます。十分な力強さと重量感がありますが、特にウレタンイヤーピースを使用した場合、ニュートラル傾向が好みの方にはちょっと低域が目立つかもしれませんね。個人的には「TRN T-Eartips」あたりに交換する方が好印象でした。
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また付属ケーブルは最近のKZで付属するブラウンのOFC線ですが、多少明瞭感のある銀メッキ線などにリケーブルすることで解像感やディテール、音場感などが向上します。同時期に届いた純銀線の「NICEHCK RedAg」なども銅線との同軸構造を採用しているため過度に高域が強くなることもないため、同様の改善がえられました。


■ まとめ

KZ ZVXというわけで、「KZ ZVX」はシングルダイナミック構成の低価格モデルにおけるKZ/CCAの進化を確実に実感させるモデルでした。おそらく先行する「CCA CXS」のブラッシュアップモデルであることは間違いないと思われますが、単純に同様の「U-shape」チューニングにまとめるだけでなく、イヤホンとしての使いやすさ(20ドル以下という価格設定は、ライトユーザーも含めたより幅広い層を想定する必要があり、その面も考慮した「使いやすさ」)や、よりドンシャリ傾向の楽しさを感じさせる「KZらしさ」などブランドとしての方向性をしっかり理解して仕上げている点が興味深く感じました。いっぽうで「CCA CRA+」のようにリスニングイヤホンとしての完成度を高めたモデルも作っており、こちらは「CRA」から「CRA+」に進化する際も「あえてKZでは出していない」のも一応のこだわりを感じさせます。このようにブランドとしての安定感もみえるようになった最近のKZの最新モデルとして、「KZ ZVX」は金属シェルの採用も含め、もしかすると今後長く販売することを想定した製品なのかなとも感じました。
分かりやすさとポテンシャルの高さを併せ持ち、マニアからライトユーザーまで幅広くオススメできるイヤホンだと思いますよ(^^)。