
こんにちは。今回は「KZ AS24」です。こちらもしばらく前に購入したまま書きかけになっていました。低価格中華イヤホンブランド「KZ」による片側BAを12基搭載したモデルですね。この構成は過去にも「KZ AST」や姉妹ブランド「CCA」の「CCA CA24」というモデルがありましたが、内部構成もシェルデザインも一新し全く新たに開発されています。そして何といっても特徴なのはスイッチ付モデルの「8個」のスイッチという他に類を見ない変態構成でしょう。オーディオというよりガジェット的なキワモノ感もありますね(^^;)。
■ 製品概要からのまとめと購入方法について
前回までに引き続き毎度おなじみ低価格中華イヤホンブランド「KZ(KZ ACOUSTICS)」ですが、今回は片側12BA搭載のマルチBAモデルです。この仕様は過去に「KZ AST」およびほぼ同様の構成の「CCA CA24」というモデルがありましたね。しかし今回の「KZ AS24」は全く新しく開発されたモデルで、シェル形状は「AS16 PRO」などに近いデザインで、内部設計からドライバー構成まで全く新しい仕様になっています。さらにスイッチ付きモデルの設定があり、2系統8個というかなりスイッチ数でかなり異彩を放つ内容になっています。


「KZ AS24」が搭載するバランスド・アーマチュア(BA)ドライバーは、低域用の「22955」×1基、中音域用の「29689」×2基、中高域~高域用の2BAユニット「31736」が4基(8BA)、高高域用の「30019」が1基の片側合計12基という構成。過去モデルと比較すると、
KZ AS24 (12BA): 30019 + 31736×4(8BA) + 29689×2 + 22955
KZ AS16 Pro (8BA) : 31736×2(4BA) + 29689×2 + 22955×2
KZ AST (12BA): 30095s +30019s +30017s(2BA) +50024s×3(6BA) +29689s +22955s
CCA CA24 (12BA): 30095s +30019s +30017s(2BA) +50024s×3(6BA) +29689s +22955s
この構成を見ると「KZ AST」および「CCA CA24」がいかに異常だったかが伺えます。実際高域用のBAはほぼ微調整用だったらしく「全然音が出ていない」と海外のネットで炎上したりしましたね。ただ、「KZ AS16 PRO」では3種類のBAが高域、中音域、低域と分かりやすくBAユニットが均等に割り当てられているのに対し、「KZ AS24」では「AST」「CA24」ほどではないものの、「AS16 PRO」では高域を担当していた「31736」が8基を占めるなど多少トリッキーな構成になっています。これが音質的にどのように影響するのかとても興味深いところです。
また「KZ AS24」はシェル部分をDLP 3Dプリンタで出力し各BAユニットからの出力を制御する音導管を精密出力しています。従来のマルチBAモデルは樹脂製の内部パーツでユニットの固定と出力を行っていましたので、よりコストをかけた設計になっています。


そして「KZ AS24」では新たにスイッチ付きモデルを設定。メインチューナー用の4つのスイッチと、補助(Auxiliary)スイッチとして4つ、合計2系統8個のスイッチを搭載します。メインスイッチはスイッチ1が全体の出力を2dBアップし、スイッチ1の2・3・4をONにすると低域が1dBアップします。補助スイッチは1と2をONで中高域を1dBアップ、3と4をONで高高域を2dBアップします。そして8個すべてをONにすることで、全体の感度がアップします。


「KZ AS24」はカラーにより仕様が異なり、「シルバー」はスイッチ無しの「標準版」、「ブラック」がスイッチ付きバージョンとなります。購入はAliExpressまたはアマゾンの主要セラーにて。
標準版(シルバー/チューニングスイッチ無し)が100ドル前後、アマゾンでは16,600円前後、
チューニングスイッチ付き(ブラック)が112ドル前後、アマゾンが19,600円前後です。
AliExpress(KZ Offical Store): KZ AS24
Amazon.co.jp(KZ Offical Shop): KZ AS24 ※プライム扱い/掲載時10% OFFクーポン有り
Amazon.co.jp(LINSOUL-JP): KZ AS24 ※プライム扱い/掲載時5% OFFクーポン有り
「KZ AS24」のパッケージは上位モデルで使用される黒箱タイプ。製品仕様は側面にプリントされたものが貼り付けられています。パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル、イヤーピース(S/M/Lサイズ)と装着済みのウレタンタイプ。さらに「ブラック」のスイッチ付きモデルではスイッチ切り替え用のピンが付属します。


本体形状は以前の「KZ AS16」などのシリーズを踏襲しており、フェイスプレートは金属製で凹凸のあるデザインが施されたフェイス部分に透明な樹脂パーツが貼り付けられています。上位モデルらしくちょっとだけ凝った意匠ですね。本体部分は従来の金型成形のプラスチックではなく、3Dプリンタ出力によるもので内部に音導管を出力し、各BAユニットが接続されています。


「シルバー」のスイッチ無しモデルでは2カ所のスイッチ部分は樹脂製のパーツで埋められているのがわかります。これに対しブラックのスイッチ付モデルでは、メイン基板とは別にスイッチ用の回路が増設され、側面の2カ所にスイッチが取り付けられます。


なお、一般的なスイッチ付きモデルで採用されるピンスイッチと比べて非常に小型のスイッチが採用されています。個々のスイッチの大きさがピンの先端とほぼ同じかむしろピンのほうが大きいくらいのサイズ感のため、ある程度年齢がいっている方はスイッチの切り替えに結構苦労するかもしれません(いわゆる老眼てきな・・・汗)。自覚症状のある方はスイッチ無しモデルの方が無難かも(かくいう私も実は結構苦戦しました^^;)。
イヤーピースはウレタンタイプが装着済みでいつものフジツボタイプが付属しますが、「AST」や「CA24」より若干小さくなったものの大きさのあるシェルのためイヤーピースは交換がお勧めです。定番の「スパイラルドット」や「AZLA SednaEarfit」シリーズなど開口部が大きいタイプ、または「SpinFit CP100+」や「TRN T-Eartips」など密着性が高いもへの交換がお勧めです。写真はウレタンのままですが私は「SpinFit CP100+」を選択しました。
またリケーブルについても本来の実力を引き出すためには「必須」と考えた方が良いでしょう。情報量の多い銀メッキ線などスッキリ目の傾向のケーブルと相性が良い印象です。
■ サウンドインプレッション
「KZ AS24」の音質傾向はやや中低域寄りの弱ドンシャリ。メーカーサイトでも「U字カーブ」でのサウンドチューニングを行っているとの記載があるとおり、KZがいうところの「U字カーブ」のバランスは、最近のKZで増えている、○○ターゲット的なニュートラルなチューニングで、そのなかでもコラボモデルを複数出しているHBB氏の提唱する「Bad Guy Target」に少し寄せた印象がありますね。中高域に8基のBAを割り当てているものの、印象としてはボーカル域を中心にややウォーム寄りの滑らかさを目指しているようで、少し後方で定位することで刺さりを抑えつつ明瞭感な輪郭を維持した高域とミッドベースを中心にインパクトを高めたレスポンスに優れる低域があり、個々の音域は自然につながっています。全体としていかにもマルチBAっぽい音ではあるものの、音源をより精緻に伝えるようなモニター的な解像感を持った製品に仕上がっています。
「KZ AS24」のベースとなるスイッチ無しモデルでの高域は、KZらしい硬質感とともに解像感のある直線的な音を鳴らしますが、やや後方で定位し、少し暗めの印象を受けます。マルチBA特有の鳴り方のためハイブリッド製品に慣れている方はやや「スッキリしない」と感じるかもしれません。ただ実際には籠もりなどは無く、直線的で明瞭な輪郭があり、細かい音を詳細に捉えることが出来ます。刺さり等や歯擦音はコントロールされていますが、再生環境やリケーブルで変化する場合もあります。
中音域は癖の無いニュートラルな印象で1音1音の粒立ちの良さを感じる「情報量の多い」サウンドです。ただ全体として僅かにウォームな印象もあり、キレのあるシングルダイナミックやハイブリッドなどと比較すると解像感や分離性でもう少しスッキリして欲しいと感じる場合もあるかも。それでもあえて多くのBAを重ねることで金属質な歪みを抑制し、自然な滑らかさを演出しようとしている意図は感じられますし、ボーカルや演奏を精緻に捉えるようなモニター的な聴き方も楽しめるチューニングという点では成功していると思います。音場は自然な広さですが立体的な表現力があり「KZ AS24」の魅力のひとつになっています。
低域はミッドベースを中心に直線的で見通しの良い音を鳴らします。マルチBAの仕様から深い沈みなどは得意ではなさそうですが、重低音も可聴域での解像感は比較的高く強さもあります。中音域同様に粒立ちが良く他の帯域をマスクすることはないため、モニター的な聴き方でもある程度は対応出来そうです。低域メインのサウンドではありませんがバランスおよび質的にも調和は取れています。
ちなみに、バランスド・アーマチュア(BA)ドライバーは構造的に解像感の高さや粒立ちの良さがある反面、ドライバー単体での音域が狭く、ダイナミックドライバーのように重低音などの深い低域はあまり得意としません。そのためV字のサウンドバランスに向いたハイブリッド構成に対し、マルチBA構成ではよりCIEM等のモニター用途で用いられることも多いことからフラット方向のチューニングを行うのが一般的です。
しかしKZのマルチBA(ASシリーズ)では現在も人気の「AS06」などの一部機種を除き、あくまでKZ的なドンシャリ傾向に仕上げることが多く、これがマニアの間でもハイブリッド製品に比べて評価が分かれる理由になっています。今回の「KZ AS24」では最近の製品で「U字カーブ」のチューニングにある程度慣れたことで、ようやく(KZ以外のメーカーの)多くのマルチBA機が採用しているサウンドバランスに近づけるアプローチを採用できた、というところでしょうか。そういえばKZは「KZ AS24」をサウンドモニターとして使用するミュージシャンを募集するツイートをしていましたね(^^;)。
とはいえ、既存のKZユーザーへの配慮なのか、KZなりの遊び心なのか、あるいは、やはりKZ的ではないサウンドチューニングに対する自信のなさなのか、「KZ AS24」にはチューニングスイッチ付モデルがあり、その他社のスイッチ付モデルでは類を見ない、スイッチは各音域の感度を増減させるという、ほぼ「ハードウェア・イコライザー」と呼べるような仕様です。
スイッチは「Main tuner」と「Auxiliary(補助) tuner」の2系統に分かれますが、実際のスイッチアサインは全周波数感度をアップするスイッチ1-1および、残りのスイッチで低域、中高域、高域のそれぞれの音域で感度を増加させる設定が割り当てられています。
実際にスイッチを変えて聴いてみると、全周波数感度をアップさせるスイッチ1-1をONにすると実際はBAの数が多い中高域部分がより感度が向上し、相対的に低域が減少する印象になりました。そのため、たとえば低域のみをアップさせたい場合は1-1はOFFで1-2~1-4の低域部分を好みに応じてONにしていくのが良さそうです。同様な理由から、実は「すべてON」より変化が大きいのは「1-1のみOFF、残りをすべてON」だったりします。また各スイッチは対応する音域の感度を変更させる仕組みのため、組み合わせる再生環境やケーブルによっても影響は大きく、最適値は異なると思います。お使いの環境で最も好みのチューニングを探してみることで、イコライザーを使うときもそうですが、自分が気になる周波数帯域を知るという機会にもなりそうですね。
■ まとめ
というわけで、KZのキワモノ製品「KZ AS24」だったわけですが、まあ音質的にはいかにもマルチBA的、という意味では以前の「KZ AST」「CA24」に比べれば良くなっているなと実感は出来ました。ただ国内では約2万円の製品として魅力的かどうか、となると、「どれくらいKZが好きか」とか「ガジェットとして楽しめるか」という要素のほうが強くなってしまいそうな点は否めないかもしれません。
最近のミドルグレードのマルチBA製品がより自然なサウンドを追求していたり、チューニングスイッチ付きでもその意味を感じさせるアプローチがあったりと熾烈な強豪の中でレベルアップを繰り返しており、逆に「いかにもマルチBA」というサウンドが既に「周回遅れ」な感じもします。そのため同価格帯で1個だけを選ぶ、といった場合は残念ながらまず選択されない(しないほうがいい)だろうなとは思いました。
それでもあくまでコアなマニア向けのアイテムとして、いろいろ遊び倒そうという方は価格的に問題なければ買ってもいいかなとは思います。音質的にも「まずまず」ではありますので(^^;)。
前回までに引き続き毎度おなじみ低価格中華イヤホンブランド「KZ(KZ ACOUSTICS)」ですが、今回は片側12BA搭載のマルチBAモデルです。この仕様は過去に「KZ AST」およびほぼ同様の構成の「CCA CA24」というモデルがありましたね。しかし今回の「KZ AS24」は全く新しく開発されたモデルで、シェル形状は「AS16 PRO」などに近いデザインで、内部設計からドライバー構成まで全く新しい仕様になっています。さらにスイッチ付きモデルの設定があり、2系統8個というかなりスイッチ数でかなり異彩を放つ内容になっています。


「KZ AS24」が搭載するバランスド・アーマチュア(BA)ドライバーは、低域用の「22955」×1基、中音域用の「29689」×2基、中高域~高域用の2BAユニット「31736」が4基(8BA)、高高域用の「30019」が1基の片側合計12基という構成。過去モデルと比較すると、
KZ AS24 (12BA): 30019 + 31736×4(8BA) + 29689×2 + 22955
KZ AS16 Pro (8BA) : 31736×2(4BA) + 29689×2 + 22955×2
KZ AST (12BA): 30095s +30019s +30017s(2BA) +50024s×3(6BA) +29689s +22955s
CCA CA24 (12BA): 30095s +30019s +30017s(2BA) +50024s×3(6BA) +29689s +22955s
この構成を見ると「KZ AST」および「CCA CA24」がいかに異常だったかが伺えます。実際高域用のBAはほぼ微調整用だったらしく「全然音が出ていない」と海外のネットで炎上したりしましたね。ただ、「KZ AS16 PRO」では3種類のBAが高域、中音域、低域と分かりやすくBAユニットが均等に割り当てられているのに対し、「KZ AS24」では「AST」「CA24」ほどではないものの、「AS16 PRO」では高域を担当していた「31736」が8基を占めるなど多少トリッキーな構成になっています。これが音質的にどのように影響するのかとても興味深いところです。また「KZ AS24」はシェル部分をDLP 3Dプリンタで出力し各BAユニットからの出力を制御する音導管を精密出力しています。従来のマルチBAモデルは樹脂製の内部パーツでユニットの固定と出力を行っていましたので、よりコストをかけた設計になっています。


そして「KZ AS24」では新たにスイッチ付きモデルを設定。メインチューナー用の4つのスイッチと、補助(Auxiliary)スイッチとして4つ、合計2系統8個のスイッチを搭載します。メインスイッチはスイッチ1が全体の出力を2dBアップし、スイッチ1の2・3・4をONにすると低域が1dBアップします。補助スイッチは1と2をONで中高域を1dBアップ、3と4をONで高高域を2dBアップします。そして8個すべてをONにすることで、全体の感度がアップします。


「KZ AS24」はカラーにより仕様が異なり、「シルバー」はスイッチ無しの「標準版」、「ブラック」がスイッチ付きバージョンとなります。購入はAliExpressまたはアマゾンの主要セラーにて。
標準版(シルバー/チューニングスイッチ無し)が100ドル前後、アマゾンでは16,600円前後、
チューニングスイッチ付き(ブラック)が112ドル前後、アマゾンが19,600円前後です。
AliExpress(KZ Offical Store): KZ AS24
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免責事項:
本レビューは個人的に製品を購入し掲載している「購入者レビュー」となります。
本レビューに対してそれ以外の金銭的やりとりは一切無く、レビュー内容が他の手段で影響されることはありません。以下の記載内容はすべて私自身の感想によるものとなります。
■ パッケージ構成、製品の外観および内容について
「KZ AS24」のパッケージは上位モデルで使用される黒箱タイプ。製品仕様は側面にプリントされたものが貼り付けられています。パッケージ内容はイヤホン本体、ケーブル、イヤーピース(S/M/Lサイズ)と装着済みのウレタンタイプ。さらに「ブラック」のスイッチ付きモデルではスイッチ切り替え用のピンが付属します。


本体形状は以前の「KZ AS16」などのシリーズを踏襲しており、フェイスプレートは金属製で凹凸のあるデザインが施されたフェイス部分に透明な樹脂パーツが貼り付けられています。上位モデルらしくちょっとだけ凝った意匠ですね。本体部分は従来の金型成形のプラスチックではなく、3Dプリンタ出力によるもので内部に音導管を出力し、各BAユニットが接続されています。


「シルバー」のスイッチ無しモデルでは2カ所のスイッチ部分は樹脂製のパーツで埋められているのがわかります。これに対しブラックのスイッチ付モデルでは、メイン基板とは別にスイッチ用の回路が増設され、側面の2カ所にスイッチが取り付けられます。


なお、一般的なスイッチ付きモデルで採用されるピンスイッチと比べて非常に小型のスイッチが採用されています。個々のスイッチの大きさがピンの先端とほぼ同じかむしろピンのほうが大きいくらいのサイズ感のため、ある程度年齢がいっている方はスイッチの切り替えに結構苦労するかもしれません(いわゆる老眼てきな・・・汗)。自覚症状のある方はスイッチ無しモデルの方が無難かも(かくいう私も実は結構苦戦しました^^;)。
イヤーピースはウレタンタイプが装着済みでいつものフジツボタイプが付属しますが、「AST」や「CA24」より若干小さくなったものの大きさのあるシェルのためイヤーピースは交換がお勧めです。定番の「スパイラルドット」や「AZLA SednaEarfit」シリーズなど開口部が大きいタイプ、または「SpinFit CP100+」や「TRN T-Eartips」など密着性が高いもへの交換がお勧めです。写真はウレタンのままですが私は「SpinFit CP100+」を選択しました。またリケーブルについても本来の実力を引き出すためには「必須」と考えた方が良いでしょう。情報量の多い銀メッキ線などスッキリ目の傾向のケーブルと相性が良い印象です。
■ サウンドインプレッション
「KZ AS24」の音質傾向はやや中低域寄りの弱ドンシャリ。メーカーサイトでも「U字カーブ」でのサウンドチューニングを行っているとの記載があるとおり、KZがいうところの「U字カーブ」のバランスは、最近のKZで増えている、○○ターゲット的なニュートラルなチューニングで、そのなかでもコラボモデルを複数出しているHBB氏の提唱する「Bad Guy Target」に少し寄せた印象がありますね。中高域に8基のBAを割り当てているものの、印象としてはボーカル域を中心にややウォーム寄りの滑らかさを目指しているようで、少し後方で定位することで刺さりを抑えつつ明瞭感な輪郭を維持した高域とミッドベースを中心にインパクトを高めたレスポンスに優れる低域があり、個々の音域は自然につながっています。全体としていかにもマルチBAっぽい音ではあるものの、音源をより精緻に伝えるようなモニター的な解像感を持った製品に仕上がっています。「KZ AS24」のベースとなるスイッチ無しモデルでの高域は、KZらしい硬質感とともに解像感のある直線的な音を鳴らしますが、やや後方で定位し、少し暗めの印象を受けます。マルチBA特有の鳴り方のためハイブリッド製品に慣れている方はやや「スッキリしない」と感じるかもしれません。ただ実際には籠もりなどは無く、直線的で明瞭な輪郭があり、細かい音を詳細に捉えることが出来ます。刺さり等や歯擦音はコントロールされていますが、再生環境やリケーブルで変化する場合もあります。
中音域は癖の無いニュートラルな印象で1音1音の粒立ちの良さを感じる「情報量の多い」サウンドです。ただ全体として僅かにウォームな印象もあり、キレのあるシングルダイナミックやハイブリッドなどと比較すると解像感や分離性でもう少しスッキリして欲しいと感じる場合もあるかも。それでもあえて多くのBAを重ねることで金属質な歪みを抑制し、自然な滑らかさを演出しようとしている意図は感じられますし、ボーカルや演奏を精緻に捉えるようなモニター的な聴き方も楽しめるチューニングという点では成功していると思います。音場は自然な広さですが立体的な表現力があり「KZ AS24」の魅力のひとつになっています。低域はミッドベースを中心に直線的で見通しの良い音を鳴らします。マルチBAの仕様から深い沈みなどは得意ではなさそうですが、重低音も可聴域での解像感は比較的高く強さもあります。中音域同様に粒立ちが良く他の帯域をマスクすることはないため、モニター的な聴き方でもある程度は対応出来そうです。低域メインのサウンドではありませんがバランスおよび質的にも調和は取れています。
ちなみに、バランスド・アーマチュア(BA)ドライバーは構造的に解像感の高さや粒立ちの良さがある反面、ドライバー単体での音域が狭く、ダイナミックドライバーのように重低音などの深い低域はあまり得意としません。そのためV字のサウンドバランスに向いたハイブリッド構成に対し、マルチBA構成ではよりCIEM等のモニター用途で用いられることも多いことからフラット方向のチューニングを行うのが一般的です。
しかしKZのマルチBA(ASシリーズ)では現在も人気の「AS06」などの一部機種を除き、あくまでKZ的なドンシャリ傾向に仕上げることが多く、これがマニアの間でもハイブリッド製品に比べて評価が分かれる理由になっています。今回の「KZ AS24」では最近の製品で「U字カーブ」のチューニングにある程度慣れたことで、ようやく(KZ以外のメーカーの)多くのマルチBA機が採用しているサウンドバランスに近づけるアプローチを採用できた、というところでしょうか。そういえばKZは「KZ AS24」をサウンドモニターとして使用するミュージシャンを募集するツイートをしていましたね(^^;)。とはいえ、既存のKZユーザーへの配慮なのか、KZなりの遊び心なのか、あるいは、やはりKZ的ではないサウンドチューニングに対する自信のなさなのか、「KZ AS24」にはチューニングスイッチ付モデルがあり、その他社のスイッチ付モデルでは類を見ない、スイッチは各音域の感度を増減させるという、ほぼ「ハードウェア・イコライザー」と呼べるような仕様です。
スイッチは「Main tuner」と「Auxiliary(補助) tuner」の2系統に分かれますが、実際のスイッチアサインは全周波数感度をアップするスイッチ1-1および、残りのスイッチで低域、中高域、高域のそれぞれの音域で感度を増加させる設定が割り当てられています。実際にスイッチを変えて聴いてみると、全周波数感度をアップさせるスイッチ1-1をONにすると実際はBAの数が多い中高域部分がより感度が向上し、相対的に低域が減少する印象になりました。そのため、たとえば低域のみをアップさせたい場合は1-1はOFFで1-2~1-4の低域部分を好みに応じてONにしていくのが良さそうです。同様な理由から、実は「すべてON」より変化が大きいのは「1-1のみOFF、残りをすべてON」だったりします。また各スイッチは対応する音域の感度を変更させる仕組みのため、組み合わせる再生環境やケーブルによっても影響は大きく、最適値は異なると思います。お使いの環境で最も好みのチューニングを探してみることで、イコライザーを使うときもそうですが、自分が気になる周波数帯域を知るという機会にもなりそうですね。
■ まとめ
というわけで、KZのキワモノ製品「KZ AS24」だったわけですが、まあ音質的にはいかにもマルチBA的、という意味では以前の「KZ AST」「CA24」に比べれば良くなっているなと実感は出来ました。ただ国内では約2万円の製品として魅力的かどうか、となると、「どれくらいKZが好きか」とか「ガジェットとして楽しめるか」という要素のほうが強くなってしまいそうな点は否めないかもしれません。
最近のミドルグレードのマルチBA製品がより自然なサウンドを追求していたり、チューニングスイッチ付きでもその意味を感じさせるアプローチがあったりと熾烈な強豪の中でレベルアップを繰り返しており、逆に「いかにもマルチBA」というサウンドが既に「周回遅れ」な感じもします。そのため同価格帯で1個だけを選ぶ、といった場合は残念ながらまず選択されない(しないほうがいい)だろうなとは思いました。それでもあくまでコアなマニア向けのアイテムとして、いろいろ遊び倒そうという方は価格的に問題なければ買ってもいいかなとは思います。音質的にも「まずまず」ではありますので(^^;)。








