TRN BA16

こんにちは。今回は「TRN BA16」です。 TRNの片側16BAの超多ドラモデルですね。2021年にレビューした片側15BAの「BA15」のアップグレード的な存在といえるでしょう。「音域ごとに複数のBAを並列稼働させることで質感を高める」というTRNの多ドラ化の方向性がより鮮明に現れたスッキリとした質感とTRNらしい寒色系の音作りが両立し、ミドルグレードでも唯一無二のサウンドに仕上げられています。

■ 製品概要と購入方法について

TRN BA16中華イヤホンブランド「TRN Audio」は、もともとは低価格の中華ハイブリッド製品でいわゆる「多ドラ化」の流れを牽引してきたメーカーのひとつとして知られます。しかしここ数年は、「低価格」ラインの製品もブラッシュアップしながらも、よりアップグレードされた製品や、Knowles製ドライバーを搭載したハイブリッド機や、平面駆動ドライバー搭載モデルなど、ジャンルにとらわれない幅広いラインナップを展開しているのが特徴的。そのアプローチは、同社の低価格&高スペックな製品ノウハウを活かし、音質で対抗する手段として「価格を抑えつつ他社より高スペックな製品を作ればいいじゃん」みたいな雰囲気も感じられる、結構パワープレイを得意とするブランドとも言えます。2021年に衝撃を持って受け入れられた「BA15」と、今回の「TRN BA16」は、まさにそういった傾向が最も如実に表れたモデルといえると思います。

一般的に、中華メーカーのBA(バランスド・アーマチュア)ドライバーユニットは昨今ではより高音質化しているとはいえ、大幅に低コストで調達できるかわりに高出力時の歪みなど構造的にBAが持つデメリットが高価なKnowlesやSonion等のBAと比べてもより顕著だろうと考えられます。
TRN BA16そこで「TRN」などのメーカーは、マルチBA化による音質強化を進めるなかで、構成として「担当する音域ごとに同じBAを並列で出力」させる方式を採用。ユニット単位での出力を小さくすることで歪みを抑制しつつ十分なゲインを確保する「多ドラ化」の手法を確立していきました。さらにドライバー配置やネットワーク回路によるクロスオーバー調整などのノウハウを積み重ねることで大量のBAを搭載したモデルをリリースすることができるようになります。こうして製品化したのが2021年の「BA15」であり、その発想をよりアップグレードした上位モデルが今回の「TRN BA16」です。

TRN BA16」は高域用「30095」6基、中音域用「50060」6基、中低域用「60040」3基、低域用「22955」1基のBAドライバーの組み合わせによる16BA構成を採用。6基の高域用ユニットはうち2基をステムノズル部に、4基が本体部に搭載されているようです。この構造は「BA15」の仕様をある程度踏襲しており、ドライバー部分の相違点は本体側の「30095」を1基減らしかわりに「50060」を2基増やしています。最近中華イヤホン界隈でミッドセントリック傾向のイヤホンが増えていることを多少意識している変更かも知れませんね。

TRN BA16(16BA): 「22955」 + 「60040」×3 + 「50060」×6 + 「30095」×6
TRN BA15(15BA): 「22955」 + 「60040」×3 + 「50060」×4 + 「30095」×7
TRN BA8 (8BA) :  「22955」 + 「29689」×2 + 「50060」×2 + 「30095」×3

TRN BA16TRN BA16

シェル本体は軽量な金属シェルを採用し、さらに3系統のスイッチコントロールを搭載。6種類のサウンドモードを切り替えることができます。標準では「バランス型」(Equalization mode)に設定されており、さらに「電子音楽向け」(Electronic mode)、「高域強調」(High-frequency mode)、「低域強調」(Low-frequency mode)、「ボーカル強調」(Mellow voice mode)、「ソフトボーカル」(Soft vocal mode)の各モードに設定変更が可能です。
TRN BA16TRN BA16
ケーブルは8芯銀メッキOFC線ケーブルが付属。3種類のプラグ交換式のタイプを採用しています。また同社の「T-Eartips」も3サイズ付属します。

TRN BA16」の購入はAliExpress、アマゾンのTRN Audio直営店にて。
価格は214.5ドル、アマゾンでは34,350円です。
AliExpress(TRN Offical Store): TRN BA16
Amazon.co.jp(TRN直営店): TRN BA16


法令に基づく免責事項:
本レビューではレビューサンプルとして TRN Audio より製品を提供いただきました。機会を提供してくださったことに感謝します。ただし本レビューに対して金銭的やりとりは一切無く、レビュー内容が他の手段で影響されることはありません。以下の記載内容はすべて私自身の感想によるものとなります。


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

「TRN」でも上位モデルということでボックスは大きいサイズ。「BA15」と同様のパッケージサイズですね。
TRN BA16TRN BA16
パッケージ内容は、イヤホン本体、ケーブル、3サイズの交換用プラグ、イヤーピースは通常の黒色タイプ、「TRN T-Eartips」がそれぞれS/M/Lサイズ、ウレタンタイプが2ペア。そしてメタルケースと説明書など。
TRN BA16TRN BA16

本体はアルミ合金製で片側16基もBAドライバーを搭載しているものの非常に軽量です。またサイズもコンパクトでシンプルなフェイスデザインながら本体形状は「BA15」や「TX PRO」などのサイズ感を踏襲しています。これらのモデルより厚みが若干増している点と背面にベント(空気孔)があるのが特徴。BAドライバー自体はほぼ密閉構造ですが「TRN BA16」は一般的な音導管を使用せず出力され、ハウジング内で配置やネットワークで調整する仕様のようなので、ベントによる音圧調整も意味がでてくるものと思われます。
TRN BA16TRN BA16
軽量かつコンパクトな形状と言うこともあり装着性は良好で、大量のドライバーを搭載するマルチBA製品にありがちな巨大なハウジング、という感じとは真逆の印象です。
ケーブルは8芯タイプの銀メッキOFC線ケーブルで、「BA15」に付属した「TRN T3」ケーブルより取り回しも良い印象です。また一定以上のTRN製品で採用されている交換式のタイプも採用されています。
TRN BA16TRN BA16
イヤーピースは通常タイプに加え、「TRN T-Eartips」が各サイズ付属します。付属品も一通り揃っていますので買い足すものは特に必要が無いのも有り難いですね。


■ サウンドインプレッション

TRN BA16TRN BA16」の音質傾向は明瞭感のある寒色系弱ドンシャリの「TRN」らしいサウンドバランスを踏襲しつつ、やや前傾するボーカル域を持ち、全体的に聴きやすいニュートラル方向にまとめられています。優れた解像感とともに各音域のつながりの良さをもったスッキリした印象の音を鳴らします。片側16BAということでCIEMメーカーなどの超多ドラ製品のような音をイメージするとかなり拍子抜けをするかもしれません。それもそのはずで、他のメーカーがこれだけドライバーを積む場合は複数のドライバーによる「和音」による厚みや響きなどを意図するのに対し、TRNはあくまで負荷を分散することで各音域の質を高めるために複数のドライバーを並列に並べているため真逆の音作りになっているのだと感じます。
以前「BA15」のレビューでも「高音質なシングルダイナミックのようなサウンドに仕上げたいのかも」という記述をしましたが、「TRN BA16」では同様の方向性から「もう一段」進んで、さらに「TRNらしい明瞭感のあるスッキリした音作り」を実現しようとしているようにも感じられます。また「TRN BA16」は超マルチBA構成ながらインピーダンス34Ω、感度105dB/mWと、ある程度しっかりした再生環境は必要ながら敏感すぎず、DAPのミッドゲインで普通に鳴らせる使いやすさもあります。言われなければ16BA構成とは気付かない、しかし全体の質感は非常に高く、かつTRNらしさも感じる。同社の意図する方向性を明確に実感出来るサウンドです。

TRN BA16なお、「TRN BA16」は3系統のスイッチコントロールがあり、6種類のサウンドモードに変更が可能です。しかし手元に届いた製品では標準の「バランス型」(Equalization mode)に設定された状態でスイッチ部の上からビニールが貼ってあり、これを剥がさないとスイッチの変更ができないようになっています。スイッチ付きのイヤホンでは通常付いているはずの、スイッチ切り替え用のピンが付属品に含まれていません。これは実際のところ6種類の切り替え機能は「オマケ」みたいなもので、標準モードで十分に勝負できる、という意味かな、と感じました。実際に変更して確認したうえで、各モードはそれぞれ興味深いものですが、個人的には「バランス型」のままで問題ないかな、と思いました。実際に聴いてみてもう少し高域 or 低域が、など気になった場合にのみ変更してみるくらいの感じで良いと思います。

TRN BA16TRN BA16」の高域は、明瞭感のあるスッキリした音を鳴らします。「BA15」と比べてやや硬質な煌びやかさが強調されており、より寒色系の「TRNらしさ」を感じさせるチューニングとなっています。いっぽうで低価格中華イヤホンにありがちなギラつき(要するに歪みの一種ですね)は皆無で直線的な伸びやかさがあり、同時に多ドラ特有の籠もり感も無くスッキリとした見通しの良さも感じさせるのが好印象。個人的には刺さりなどは特に感じないものの、鋭い音は適度に鋭く鳴らすため、気になる人は若干気になるかも。それでも「TRN」の下位モデルのような派手さとは異なりわりと上品に仕上げられているため、高域好きの方にも好感できるのではと思います。

中音域はニュートラルで癖の無い音を明瞭に鳴らします。バランスとしては弱ドンシャリだと思いますがいわゆるU字方向のバランスになっており凹みはほぼ感じません。ボーカルも比較的近めに定位します。「TRN BA16」ではドライバー構成で「BA15」より中音域を強化してることも影響してそうですね。解像感は高く輪郭もハッキリしており、高域同様にスッキリした硬質感があります。
TRN BA16中高域の抜けも良く、マルチBA特有の籠もりはやはり感じず、TRNらしい鮮やかさとキレの良さを感じさせます。おそらく厚みや濃密さ、ウォーム感などを好まれて多ドラ機を購入されるタイプの方には真逆の印象です。しかし「BA15」がシングルダイナミック的な滑らかさを意識したチューニングだっとのと比べるとよりハキハキした印象ですね。同時に自然で正確さのある音場感で十分な広がりと奥行きがあり、定位も非常に捉えやすいのが特徴的です。分離も優れており1音1音を捉えやすく、リスニングバランスですがモニターとしても使えそうな質の良さを感じさせます。

低域は全体と一体化した自然なニュートラルバランスで解像感の高い明瞭な音を鳴らします。ミッドベースは低域用BAに加え中低域の3基のBAユニットによって一体となって奏でられており、つながりの良さを持ちつつ中高域を曇らせること無く鳴ります。情報量は多く密度感もありますが、中高域同様にスピード感とキレの良さがあり、籠もり感はありません。また低域用BAユニットがウーファーとして重低音を下支えしており深さと重みのある音をしっかり鳴らしてくれるのも好印象ですね。


■ まとめ

TRN BA16」は現在の日本での為替レートでは3万円オーバーとミドルグレードのなかでもわりと上位の価格帯の製品になってしまいましたが、音質面に関しては非常に完成度が高く、グレードに見合った仕上がりになっていると思います。既存の「BA15」については「15BAという構成ながら非常に良くまとまっている」ことと「ハイグレードなシングルダイナミックのような音作りにTRNのマルチBA技術で寄せている」という点が好印象であったものの、「ならばあえてBA15でなくても同価格帯のシングルダイナミックでいいんじゃない」みたいな感想も個人的にはありました。
TRN BA16しかし、「TRN BA16」では「16BAという構成で作る意味」みたいなものを感じさせる音作りだと思いました。つまり「BA15」同様に、他社のような「超多ドラ特有の音」ではなく、シンプルに各音域の質を向上させるための多ドラ化とクロスオーバー処理を踏襲しつつ、シングルダイナミックとはまた異質の明瞭感や解像感など「TRNらしさ」を表現することで、他には無いサウンドを実現できているのはと思います。
キレの良い明瞭サウンドを好まれる方でより高い音質を希望される方であれば十分に検討に値する優れたイヤホンだと感じました。