
こんにちは。今回は「TRN BA16」です。 TRNの片側16BAの超多ドラモデルですね。2021年にレビューした片側15BAの「BA15」のアップグレード的な存在といえるでしょう。「音域ごとに複数のBAを並列稼働させることで質感を高める」というTRNの多ドラ化の方向性がより鮮明に現れたスッキリとした質感とTRNらしい寒色系の音作りが両立し、ミドルグレードでも唯一無二のサウンドに仕上げられています。
■ 製品概要と購入方法について

一般的に、中華メーカーのBA(バランスド・アーマチュア)ドライバーユニットは昨今ではより高音質化しているとはいえ、大幅に低コストで調達できるかわりに高出力時の歪みなど構造的にBAが持つデメリットが高価なKnowlesやSonion等のBAと比べてもより顕著だろうと考えられます。

「TRN BA16」は高域用「30095」6基、中音域用「50060」6基、中低域用「60040」3基、低域用「22955」1基のBAドライバーの組み合わせによる16BA構成を採用。6基の高域用ユニットはうち2基をステムノズル部に、4基が本体部に搭載されているようです。この構造は「BA15」の仕様をある程度踏襲しており、ドライバー部分の相違点は本体側の「30095」を1基減らしかわりに「50060」を2基増やしています。最近中華イヤホン界隈でミッドセントリック傾向のイヤホンが増えていることを多少意識している変更かも知れませんね。
TRN BA16(16BA): 「22955」 + 「60040」×3 + 「50060」×6 + 「30095」×6
TRN BA15(15BA): 「22955」 + 「60040」×3 + 「50060」×4 + 「30095」×7
TRN BA8 (8BA) : 「22955」 + 「29689」×2 + 「50060」×2 + 「30095」×3


シェル本体は軽量な金属シェルを採用し、さらに3系統のスイッチコントロールを搭載。6種類のサウンドモードを切り替えることができます。標準では「バランス型」(Equalization mode)に設定されており、さらに「電子音楽向け」(Electronic mode)、「高域強調」(High-frequency mode)、「低域強調」(Low-frequency mode)、「ボーカル強調」(Mellow voice mode)、「ソフトボーカル」(Soft vocal mode)の各モードに設定変更が可能です。


ケーブルは8芯銀メッキOFC線ケーブルが付属。3種類のプラグ交換式のタイプを採用しています。また同社の「T-Eartips」も3サイズ付属します。
「TRN BA16」の購入はAliExpress、アマゾンのTRN Audio直営店にて。
法令に基づく免責事項:
本レビューではレビューサンプルとして TRN Audio より製品を提供いただきました。機会を提供してくださったことに感謝します。ただし本レビューに対して金銭的やりとりは一切無く、レビュー内容が他の手段で影響されることはありません。以下の記載内容はすべて私自身の感想によるものとなります。
■ パッケージ構成、製品の外観および内容について
「TRN」でも上位モデルということでボックスは大きいサイズ。「BA15」と同様のパッケージサイズですね。


パッケージ内容は、イヤホン本体、ケーブル、3サイズの交換用プラグ、イヤーピースは通常の黒色タイプ、「TRN T-Eartips」がそれぞれS/M/Lサイズ、ウレタンタイプが2ペア。そしてメタルケースと説明書など。


本体はアルミ合金製で片側16基もBAドライバーを搭載しているものの非常に軽量です。またサイズもコンパクトでシンプルなフェイスデザインながら本体形状は「BA15」や「TX PRO」などのサイズ感を踏襲しています。これらのモデルより厚みが若干増している点と背面にベント(空気孔)があるのが特徴。BAドライバー自体はほぼ密閉構造ですが「TRN BA16」は一般的な音導管を使用せず出力され、ハウジング内で配置やネットワークで調整する仕様のようなので、ベントによる音圧調整も意味がでてくるものと思われます。


軽量かつコンパクトな形状と言うこともあり装着性は良好で、大量のドライバーを搭載するマルチBA製品にありがちな巨大なハウジング、という感じとは真逆の印象です。
ケーブルは8芯タイプの銀メッキOFC線ケーブルで、「BA15」に付属した「TRN T3」ケーブルより取り回しも良い印象です。また一定以上のTRN製品で採用されている交換式のタイプも採用されています。


イヤーピースは通常タイプに加え、「TRN T-Eartips」が各サイズ付属します。付属品も一通り揃っていますので買い足すものは特に必要が無いのも有り難いですね。
■ サウンドインプレッション

以前「BA15」のレビューでも「高音質なシングルダイナミックのようなサウンドに仕上げたいのかも」という記述をしましたが、「TRN BA16」では同様の方向性から「もう一段」進んで、さらに「TRNらしい明瞭感のあるスッキリした音作り」を実現しようとしているようにも感じられます。また「TRN BA16」は超マルチBA構成ながらインピーダンス34Ω、感度105dB/mWと、ある程度しっかりした再生環境は必要ながら敏感すぎず、DAPのミッドゲインで普通に鳴らせる使いやすさもあります。言われなければ16BA構成とは気付かない、しかし全体の質感は非常に高く、かつTRNらしさも感じる。同社の意図する方向性を明確に実感出来るサウンドです。


中音域はニュートラルで癖の無い音を明瞭に鳴らします。バランスとしては弱ドンシャリだと思いますがいわゆるU字方向のバランスになっており凹みはほぼ感じません。ボーカルも比較的近めに定位します。「TRN BA16」ではドライバー構成で「BA15」より中音域を強化してることも影響してそうですね。解像感は高く輪郭もハッキリしており、高域同様にスッキリした硬質感があります。

低域は全体と一体化した自然なニュートラルバランスで解像感の高い明瞭な音を鳴らします。ミッドベースは低域用BAに加え中低域の3基のBAユニットによって一体となって奏でられており、つながりの良さを持ちつつ中高域を曇らせること無く鳴ります。情報量は多く密度感もありますが、中高域同様にスピード感とキレの良さがあり、籠もり感はありません。また低域用BAユニットがウーファーとして重低音を下支えしており深さと重みのある音をしっかり鳴らしてくれるのも好印象ですね。
■ まとめ
「TRN BA16」は現在の日本での為替レートでは3万円オーバーとミドルグレードのなかでもわりと上位の価格帯の製品になってしまいましたが、音質面に関しては非常に完成度が高く、グレードに見合った仕上がりになっていると思います。既存の「BA15」については「15BAという構成ながら非常に良くまとまっている」ことと「ハイグレードなシングルダイナミックのような音作りにTRNのマルチBA技術で寄せている」という点が好印象であったものの、「ならばあえてBA15でなくても同価格帯のシングルダイナミックでいいんじゃない」みたいな感想も個人的にはありました。

キレの良い明瞭サウンドを好まれる方でより高い音質を希望される方であれば十分に検討に値する優れたイヤホンだと感じました。