こんにちは。今回は 「Kinera Imperial Loki」です。1DD+6BA+4EST+1BC構成、3千ドル超、約45万円の超フラグシップ級のイヤホンですね。今回レビュー用のレンタルで製品をじっくり聴くことができました。既に国内でも店頭試聴ができますが、ケーブルでかなり印象が異なるなど、お借りできたことでの気づきもありました。非常に興味深い製品だと思います。
■ 製品概要と購入方法について
「Kinera」は2016年に中国で設立されたイヤホンブランドで、紆余曲折を経つつ、製造メーカーとしての実績とデザイン性の高い製品展開で幅広く認知されるようになりました。メインとなる「Kinera」ブランドに加え、2021年に姉妹ブランドの「QoA」を設立し、最近では新しい低価格サブブランド「Celest」を2022年に設立するなどなど幅広い展開をおこなっています。そして「Kinera」自体も上位グレードの製品群を2019年にハイエンド専門ブランド「Kinera Imperial」として分離し、さらなる発展を続けています。
今回の「Kinera Imperial Loki」は「Kinera Imperial」ブランドのラインナップのなかでも超フラグシップ級ともいえる3千ドル超、日本国内では45万円以上の超高級モデルです。
上位グレードではお馴染みとなっているSonion製のEST(静電)ドライバー4基と、6基のKnowles製BAドライバー、6mmのダイナミックドライバー、そして1基の骨伝導(BC)ユニットを組み合わせた「1DD+6BA+4EST+1BC構成」による「12ドライバー・クアッドブリッド仕様」となっています。
上位グレードではお馴染みとなっているSonion製のEST(静電)ドライバー4基と、6基のKnowles製BAドライバー、6mmのダイナミックドライバー、そして1基の骨伝導(BC)ユニットを組み合わせた「1DD+6BA+4EST+1BC構成」による「12ドライバー・クアッドブリッド仕様」となっています。
製品名称の「LOKI」は北欧神話に登場する火の神で、悪戯好きの側面もありますが名は「終わらせるもの」という意味もあります。まあ最近ではMARVELのマイティ・ソーの弟ロキのほうが有名かもですね(^^;)。「Fire Warrior」(炎の戦士)フェイスモデルは、燃えるような赤で溶岩を表現しているとのこと。またフェイスプレートには「Emerald」を選択することもできます。
「Kinera Imperial Loki」は複数の音響ドライバーの特性を併せ持ち、細部まで優れた性能を発揮するよう設計されています。低域用の6mm 自社製ダイナミックドライバー、4基のミッドレンジ用BAと2基の高域用BAの組み合わせによる6基のKnowles製バランスド・アーマチュア(BA)ドライバー、超高域を担う4基のSonion製静電(EST)ドライバー、そしてダイナミックドライバーと連携し超低域を生み出す接触型骨伝導(BC)ドライバーで構成されます。12基のクアッドブリッド構成によりバランスのとれた雰囲気のあるサウンドスタイルを提供します。
また「Kinera Imperial Loki」はアクセサリも非常に充実しており、イヤーピースは「AZLA SednaEarfit Crystal」(3サイズ)、「Final Type E」(5サイズ)、「Spinfit CP145」(3サイズ)、「Symbio F Foam」(2サイズ)の各ブランド、各イヤーピース製品が同梱されます。
さらにケーブルは専用の「Kinera Custom Loki Cable」(金メッキ6N OCCリッツ線&銀メッキ 6N OCCリッツ線ミックスケーブル)に加え、「Effect Audio」製のUP-OCC高純度銅線4芯ケーブル(「Ares S」相当品)の2種類の4.4mmプラグケーブルが付属します。
「Kinera Imperial Loki」は国内版および海外版がほぼ同時期に販売されています。
価格は海外版は3,099ドルで、国内版は468,000円で販売されています。
免責事項:
本レビューではレビュー用のレンタル機をお借りしました。レビューの機会を提供してくださったことに感謝します。ただし本レビューに対して金銭的やりとりは一切無く、レビュー内容が他の手段で影響されることはありません。以下の記載内容はすべて私自身の感想によるものとなります。
■ パッケージ構成、製品の外観および内容について
今回は「Kinera Imperial Loki」の「Emerald」をレンタルしました。ほかにもレビュー用レンタル機が数本レビュアーに送られていますので、あえてメインとは違うカラーで・・・(^^;)。パッケージは「Kinera Imperial」ではお馴染みの6角形ボックスです。ただ今回は超ハイエンドモデルということで内箱が二段構成になっており、そのぶん高さのあるパッケージとなっています。
外箱を空けるとイヤホン本体が入った1段目とアクセサリが入った2段目にわかれています。標準ではKineraではなくEFFECTのケーブルが装着されていますね。
パッケージ内容は、イヤホン本体、Kineraケーブル、EFFECTケーブル、イヤーピースは「AZLA SednaEarfit Crystal」(S/M/L)、「Final Type E」(SS/S/M/L/LL)、「Spinfit CP145」(S/M/L)、「Symbio F Foam」(M/L)、クリーニングブラシ、クリーニングクロス、ハードケース、説明書など。
レジン製のシェルは複雑な12ドライバー構成と言うことでシェルサイズは大きめですが非常に軽量です。仕上げは非常に丁寧ですね。またステムノズル部分の先端は金属製で、側面にシリアルがプリントされています。ベント(空気孔)は側面に3つの穴が開いたプレートがあります。骨伝導ユニットの出力部などは無く、シェルそのものの振動で伝達する方式のようです。そのためかシェルは非常に薄いようで装着時に空気抜けで若干ペコペコ鳴る感じがあります。
大きめのシェルサイズでステムノズルも太めの形状となっていますが、イヤーピースを合わせればしっかり装着できます。ステムノズルはある程度リーチがあり、骨伝導による伝達を確実に受けるため、小さめのイヤーピースで耳奥までしっかりと挿入した方がよいでしょう。
イヤーピースは4ブランドの製品が付属するため多くの場合付属品で十分に対応出来るでしょう。SpinFitまたはAZLA Crystalあたりを中心に、好みの応じてFinal EやSymbio Fを使う、という感じですね。
またケーブルもKinera製のほか、「EFFECT Audio」の「Ares S」相当品が付属します。ただし2pinコネクタ部分はKineraロゴ入りの中華2pin仕様で、プラグは4.4mmバランス仕様。どちらも「ConX」「TermX」の交換には対応しない専用版ケーブルとなっています。
そしてもう1種類の「Kinera Custom Loki Cable」は金メッキ線&銀メッキ線の2芯ミックスケーブルで、より布張りの被膜の太い線材で豪華さのある外観が特徴的です。こちらも4.4mm仕様で取り回しは良好です。また「Kinera Imperial Loki」には他にも円形のレザーケース等、付属品も充実していますね。
■ 「Kinera Fenrir」マルチファンクションケース
また今回、「Kinera Imperial Loki」のレンタル機と併せて、「Kinera Fenrir」多用途ケースも一緒に送っていただきました。こちらは「Kinera Imperial Loki」のような付属品の多いイヤホンなど様々なアイテムを収納できる大型のケースです。
「Kinera Imperial Loki」の付属品をまとめて収納でき、持ち運びにも便利そうです。
「Kinera Fenrir」の価格は89ドルです。
HiFiGo(hifigo,.com): Kinera Fenrir Multifunction HiFi Equipment Case
■ サウンドインプレッション
「Kinera Imperial Loki」の音質傾向は、多少中低域寄りのニュートラルバランスで、チューニングとしてはKineraらしい印象。12基のドライバーが主張し存在感を示すことで非常に深く重厚な音を鳴らします。多少暗めの印象もありますがESTと骨伝導で非常に高い解像感および音場感を実現しており、全体としてリッチかつ上質なサウンドに仕上げられています。
また再生環境での変化が非常に大きく、2種類の付属ケーブルでもまるで異なる印象となります。黒い布張りの「Kinera Custom Loki Cable」をあわせた場合のほうが印象としては暗めで、より多ドラ感のある濃さと響きがあります。これに対し「EFFECT (Ares S)」ケーブルに替えると明瞭感とキレが増しややV字方向に変化します。そのため中高域の主張が増すとともに厚みの中にも多少スッキリした感じになります。ただこれも再生環境によっては低域がかなり強めに出るなど、場合によっては「最適」な状態にたどり着くのに結構苦労するかもしれません。
個人的に手持ちの環境で好印象だったのは「EFFECT(Ares S)」ケーブルと「SpinFit」イヤーピースの組み合わせで、再生環境に「FiiO K9 PRO LTD」を使用しゲインをLowで音量を調整した場合。ポータブルでは「iBasso DC-Elite」でスマホ側をほぼ最大音量に出せる程度にゲインを調整した場合も好印象でした。
多くのDAPなどの場合はゲイン設定を下げると音量によって歪みが出やすくなるためミッドなど一般的なゲイン設定の方が良い場合が多いですが、そうすると製品によっては音量を下げ気味に調整することで低域が強めに感じる場合があります。また逆にアンプ等で強めのゲインで出力される再生環境ではBAがややキツめに出ることでバランスやつながりが崩れ気味になる場合があります。要するに、本体価格で買う人を選ぶだけでなく、最も最適な印象で楽しむためには再生環境についてもかなりシビアに追い込みが必要、という側面があるようです。
最近は多ドラ仕様のイヤホンでもクロスオーバーなどをネットワーク回路や独自のフィルターなどにより「徹底的に制御した音作り」を行っている製品が増えていますが(特許技術のオンパレードでお馴染みの「AFUL」なんかは分かりやすい例ですね)、「Kinera Imperial Loki」についてはおそらくハンドメイドによる職人技で調整されたトラディショナルなチューニングで仕上げられており、構成されるそれぞれのドライバーの特徴をしっかり感じやすい、というメリットがある反面、「いかにも多ドラらしい」環境による変化の大きさも感じるイヤホンになっているのかもしれませんね。
というわけで、以下はこの「最も好印象だった組み合わせ」での感想となります。そのため店頭試聴などとは異なる場合があることをあらかじめご了承ください(私も複数のケースで試しましたが、全てのケースでの印象を網羅するのは不可能なので・・・)。今回レビュー用にレンタル機をお借りしていろいろ試せたことで「あーこのイヤホンはたぶんこれが本気だな」みたいな音をある程度は実感できたと思いますが、正直なところ、短時間の店頭試聴では全く異なる印象であった可能性も高いかもしれません。ケーブル、イヤピの組み合わせや再生環境でかなり印象が変わる、という点でも「相応に人を選ぶ製品」であることを前提にご覧頂ければ幸いです。
「Kinera Imperial Loki」の高域は、Sonion製4×ESTによる超高域とKnowles製の高域用2BAユニットによる割り当てが行われており、BAらしい寒色系の高音とESTらしい直線的な伸び感があります。結構主張のある高域ですがバランスとしては中低域のほうが強く、全体として聴きやすい印象。解像感は非常に高く分離も優れています。
中音域は4基のKnowles製BAで構成されます。分解図を見る限りでは中音域用に割り当てられているのは2BA×2ではなさそうですのでEDが4基入っているのかも。ニュートラルで解像感も高く音場も広い印象ですが「Kinera Custom Loki Cable」との組み合わせではいかにも多ドラ的な和音ぽさがあり濃密ですがスッキリ目の音が好きな場合にはあまり向かない印象。「EFFECT(Ares S)」ケーブルでは自然な輪郭となり明瞭感とキレの良さが向上しました。女性ボーカル曲など中高域の抜け感を重視する場合は「EFFECT(Ares S)」のほうが良いですが、多少V字方向のバランスになります。
骨伝導は超低域に働くという記載ですが、男性ボーカルなど中低域でも骨伝導による独特の響きがあります。これは「EFFECT(Ares S)」のほうが明瞭な中高域との差により癖を感じやすく、「Kinera Custom Loki Cable」のほうが自然に感じるかも。この辺は好みで分かれるところです。
低域も他の音域同様に強めの主張があり、さらに骨伝導により重低音をブーストするため非常に深く重厚な印象となります。しかし、上記の通り「FiiO K9 PRO LTD」や「iBasso DC-Elite」で最適化した状態で聴くとニュートラルなバランスで、分離の良さから存在感はあるものの過度に強すぎることなく自然になってくれます。いっぽうで音場は多層的なレイヤーがあり、広さとともに深さを強く実感する印象となっています。この「深さ」をどの程度心地よく実感出来るかどうかで「Kinera Imperial Loki」の価格に納得できるかどうかが決まるような気がします。
■ まとめ
というわけで、「Kinera Imperial Loki」はニュートラルサウンドだけど色々積まれたドライバーはそれぞれ存在を主張しており、非常に複雑な連携(オーケストレーション)により個性的なサウンドを生み出している「稀有な存在」として完成していました。
3千ドルオーバー、45万円オーバーの価格設定の時点で既に万人向けで無いことは確かですが、オーディオ的にも既存製品のアッパーグレードみたいな単純な良し悪しでは無く、いろいろな理解のうえで、相応に買う人を選ぶ製品だと感じました。
そこには、「稀有さゆえの価値」を見いだせるかどうか、といった、「メーカーのこだわりの集合体」みたいなものを感じますね。個人的にもこの価格帯の製品をじっくり聴くことができたのはなかなか貴重な経験でした。
このレビューが「稀有な誰か」の一助になれば幸いです。