こんにちは。今回は 「iBasso Audio IT05」です。中国のオーディオブランド「iBasso Audio」のミドルグレード級のシングルダイナミック構成のモデルですね。発売されてからしばらく経っていますが、国内販売元のMUSIN様より改めてレビュー依頼をいただきました(^^)。私も発売時の店頭試聴程度のイヤホンでしたので今回改めてじっくりと堪能してみました。
■ 製品概要と購入方法について
中国のオーディオブランド「iBasso Audio」はDAPやポータブルアンプ製品、さらにはイヤホンなども含めオーディオマニアにはお馴染みの老舗ブランド。私のブログでもオーディオアダプター製品をこれまでも何種類か紹介していますが、実はレビューとしては未掲載ながらDXシリーズも現在メインDAPとして使用している「DX320」のほか、過去にも「DX150」「DX220」とアップグレードしながら購入していたり、イヤホンも「iBasso AM05」など何種類か所有していたりします。品質面および性能面でも定評があり個人的にも好きなブランドのひとつです。
今回紹介する「iBasso Audio IT05」は昨年リリースされたミドルグレードのイヤホンで革新的な技術による高性能ダイナミックドライバーを搭載するシングルドライバー仕様のモデルです。このドライバーは「クロムナノダイヤフラム」「1.6Tの強力なテスラユニット」「ヘルムホルツ・デュアルチャンバー」など多くの最先端技術とiBassoの音響技術を踏襲し開発されているそうです。
「iBasso Audio IT05」が搭載するダイナミックドライバーは振動板に11mm「高剛性クロムナノダイヤフラム」を採用。表面には最高水準の高度を持つクロム(Cr)を採用し、高密着強度のマグネトロンスパッタリング定着によりナノレベルの極薄で形成しています。マグネトロンスパッタリング定着については私のブログでもミドルグレード以上の高音質モデルのドライバーで何度か登場していますが、極薄かつ質の高い金属膜を構成することでムラのない振動応答性を実現することが知られています。また磁気回路には「1.6Tの高磁束テスラユニット」を搭載し、優れたレスポンスにより「クロムナノダイヤフラム」の性能を最大限に引き出します。
また「iBasso Audio IT05」が採用するクロム膜の振動板は他の金属素材と比べて応答性能と駆動性能の向上を実現し、透明感のある繊細表現力や煌びやかな高域表現を可能にしています。さらに「iBasso Audio IT05」が搭載するダイナミックドライバーでは独自の音響技術である「ヘルムホルツ・デュアルチャンバー」を採用。ハウジング内のう不要な反響音やノイズを最大限抑制し、滲みが少なくパワフルな低域と質の高い中音域の表現を可能とします。さらに真鍮とステンレスを使用して開発された「スピーカーチャンバー」を採用することで共振によるノイズを抑制しクリアなサウンドへ導きつつ両方の素材の特性を活かし温かみとキレの良さを両立しています。
本体は5軸CNC加工されたアルミニウム合金製で波打つ水面のようなデザインのサンドブラスト加工されたフェイスプレートが個性的な印象を与えます。
そして「iBasso Audio IT05」では交換可能な3種類のサウンドフィルターを備え、ケーブルは高純度無酸素銅線をベースとした3.5mmプラグケーブルと、6N単結晶銅線と6N単結晶銅銀メッキ線のミックスケーブルを採用した4.4mmバランスプラグケーブルの2種類のケーブルが付属します。
「iBasso Audio IT05」の購入はMUSINの直営店または各専門店などにて。
価格は49,500円(レビュー時点のアマゾンでの価格)前後です。
Amazon.co.jp(MUSIN直営店): iBasso Audio IT05[国内正規品]
免責事項:
本レビューではレビューサンプルとして MUSIN より製品を提供いただきました。機会を提供してくださったことに感謝します。ただし本レビューに対して金銭的やりとりは一切無く、レビュー内容が他の手段で影響されることはありません。以下の記載内容はすべて私自身の感想によるものとなります。
■ パッケージ構成、製品の外観および内容について
「iBasso Audio IT05」のパッケージは高級感のある重厚な開閉式のボックス。ハイグレードなイヤホンという雰囲気をしっかり感じさせますね。
パッケージ内容は、イヤホン本体、3.5mmプラグの布張りケーブル、4.4mmのミックス線ケーブル、イヤーピースはシリコンタイプが4種類で各サイズ、ウレタン製が2サイズ、交換式フィルター(金属プレートつき)、メタルケース、ガイドブック。付属品のとても充実しています。
アルミ製のシェルはコンパクトなデザインで交換式フィルターを備えるステムノズルはやや太め。質感は非常に良く価格帯に見合う高級感のある仕上がりです。波模様のフェイスもミニマルですが良いアクセントになっていますね。コネクタはMMCX形式を採用。ケーブルが3.5mm、4.4mmの2種類が付属しているため、頻繁に交換する場合は別途ケーブルリムーバー等を用意する方がよいでしょう。
ややステムノズルが太いものの本体は耳への収まりも良く、イヤーピースをしっかり合わせれば装着感は良好です。イヤーピースはシリコン4種類、ウレタン1種類が付属します。後述しますがイヤーピースによっても結構印象が変わるためしっかり耳にフィットするものを選んだ方が良いですね。場合によっては付属品以外のものを色々合わせてみるのも良いでしょう。
そして「iBasso Audio IT05」はステムノズルのメッシュ部分が交換式フィルターとなっており、3種類のフィルターが選択できます。標準の「シルバー」は装着済みの1ペアの他に予備も1ペア付属します。他に「ブラック」(Balance)と「ゴールド」(Bass)のフィルターが付属します。フィルター材は「シルバー」が多く、「ブラック」はやや少なめ、そして「ゴールド」は異なる材質を使用しているようです。
ケーブルは3.5mmの4.4mmの2種類が付属し、3.5mmは高純度無酸素銅(OFC)ケーブルで布張りの被膜のブラックのケーブル、4.4mmは6N単結晶銅線と銀メッキ銅線のミックスで樹脂被膜のブラック&シルバーの撚り線タイプとなっています。布張りの3.5mmケーブルの方が取り回しは若干良いですがどちらのケーブルも同様に使いやすい印象。
特徴的なのはステンレス製の太いプラ部部分で非常に存在感があります。制振性に優れた特許部品のようですね。このプラグによりケーブルもわりと重量がありますが、プレーヤーやアンプなどにカチッとしっかりプラグできる印象です。
■ サウンドインプレッション
「iBasso Audio IT05」の音質傾向はボーカル域に主張のあるややW字寄りのサウンドバランス。最適な再生環境ではニュートラルなサウンドバランスで高域および低域とも適度な質感があり、最も特徴的な中音域、特にボーカルは瑞々しい描写と濃密さでエモーショナルな印象です。音場も広く奥行きがあり正確な定位のうえで非常に聴き応えのある音を鳴らしてくれます。
3種類のフィルターは標準の「シルバー」(Reference)が最もボーカル域が強調した印象となり、W字傾向をより実感します。あるいは若干カマボコ寄りの印象かもしれません。「ブラック」(Balance)ではよりニュートラルでややU字方向のバランスに感じました。そして「ゴールド」(Bass)は低域強調というよりV字方向にメリハリが増し最も見通しの良い印象となります。個人的には標準の「シルバー」より「ゴールド」(Bass)が最も好印象でした。
ただし「iBasso Audio IT05」はプレーヤー/アンプやケーブルでの印象の違いがかなり大きく、本体のポテンシャルは非常に高いものの、かなり再生環境を選ぶイヤホンです。おそらくiBassoの「DX220MAX」や「DX320MAX」といったこのイヤホンのリリース時の自社フラグシップ機をリファレンスとしているのだろうと思いますが、通常のDAPと据置きのアンプなどで特に低域及び高域がまるで異なる印象となります。
以前から店頭試聴での感想などで「低域が軽すぎる」といった意見がありましたが、そこで今回はまず店頭の環境に合わせて3.5mmの銅線ケーブルを合わせて聴いたところ、据置きの「FiiO K9 PRO LTD」では確かに重低音はやや軽く感じるもののバランスとしてニュートラルに近い若干のカマボコ、といった印象でそこまで違和感は持ちませんでした。しかし数種類のDAPやオーディオアダプタで聴いてみると明らかにやや腰高な方向にシフトし、さらにゲインを上げると中高域がやや派手に鳴り低域はちょっと寂しい感じになりました。
しかし、ここでケーブルを4.4mmのミックス線に替えることでやはり小型のオーディオアダプターなどでは物足りないものの、DAPのハイゲインモード等ではかなり印象は変化し据置き環境での印象に近くなりました。また付属ケーブル以外でもいくつか試してみると、さらに変化を実感し、再生環境と合うことで本来の実力を感じられるようになりました。またイヤーピースでの変化は大きくしっかり耳にフィットするものを選ぶことで低域の質感にも多少の変化を感じました。
興味深いのは後述しますがオーディオアダプターとの組み合わせでも「iBasso DC Elite」などでは標準の「シルバー」フィルターでの組み合わせが最もバランスが良く感じるなど、最適解は「一概には言えない」という点ですね(^^;)。
これら再生環境、ケーブル、イヤーピースにより最適解を得られたときの変化はまさに「化ける」という感覚に近く、本来の実力を引き出すことで、同クラスのなかでもかなり満足度の高いサウンドを楽しめます。
「iBasso Audio IT05」の高域は直線的で見通しの良い音を鳴らします。明瞭さという点では「ゴールド」のフィルターが最も優れており、標準の「シルバー」での高域は中音域に対してやや抑制された印象を受けます(「ブラック」はその中間ですね)。再生環境が合わない場合やや腰高な印象となりゲインを上げると刺激を増す可能性がありますが、本来の環境では極端な刺さり等は抑え、特に最も明瞭感のある「ゴールド」フィルターでは十分な解像感と分離のある煌びやかでスッキリとした印象が得られます。
中音域は全体として強めの主張がありボーカル域は前傾して定位します。見通しは良く透明感のある印象で、演奏との分離も良く1音1音の粒立ちの良い瑞々しい印象です。中高域付近にアクセントがあり、女性ボーカルやピアノの高音などはやや強調され、明瞭感や伸びの良さを感じさせる印象。据置きの「FiiO K9 PRO LTD」で聴いた場合、標準の「シルバー」では解像感はやや抑えられるものの適度に温かく聴きやすい印象になり、「ブラック」フィルターではボーカル域の主張を保ちつつ鮮やかさが増し全体としての音場感も向上します。そして「ゴールド」フィルターではボーカルの主張はあるものの、高域および低域の主張が増すためメリハリ感が向上しました。
しかし先日レビューした「iBasso」のフラグシップ級オーディオアダプターの「DC Elite」で聴いてみると、特にバランスケーブルの場合、「ゴールド」フィルターではメリハリが強くなりすぎてややキツめに感じ、標準の「シルバー」フィルターが最も相性が良く感じました。最適な再生環境では音場はより広く立体的で、奥行きと上方向の広がりを感じさせます。本当に再生環境で相性が変わるイヤホンですね。
※余談ですが、発売後完売のため品切れが続いていた「iBasso DC-Elite」ですが、本レビューの掲載時点で再入荷しているようです。気になっている方はこちらのレビューも参照くださいませ。
→過去記事: 「iBasso Audio DC-Elite」 小型オーディオアダプタながら驚異の音質。同社「MAX」技術を踏襲したフラグシップ級ドングル型DAC/AMP 【レビュー】
低域はほかの音域に比べると量的には控えめで低域を重視する方には物足りない可能性はあります。ただしリケーブルなどで低域の量感はかなり劇的に変化するようです。気になる方は付属のケーブル以外にも低域の厚みを増す傾向の高純度銅線ケーブル等を組み合わせて見るのも良いでしょう。ミッドベースは締まりが良くアタックはスピード感ががあり、直線的なレスポンスを持っています。重低音は再生環境によっては軽く感じるものの十分な深さがありミッドベース同様にタイトでキレのある音を鳴らします。再生環境やケーブルなどで本来の実力を引き出すことで実際には低域の質感自体は良いと思いますよ。
■ まとめ
というわけで、今回あらためて「iBasso Audio IT05」をじっくり堪能することができました。製品自体は昨年末に届いており、年末年始を通じて聴くことができましたので、いろいろな再生環境を試しながらレビューすることができました。
サウンドバランスとしてはW字傾向に近いイヤホンのため、最適なバランスに合わせることで特にボーカル曲においてリスニング的なサウンドを楽しめるイヤホンとなります。そのため癖の無いモニター的な傾向を好まれる方や、ドンシャリ傾向のサウンドに馴染んでいる方には合わない可能性もあります。また繰り返し記載しているとおり、再生環境との相性もあるため、やはりある程度以上のマニア向けの製品ともいえるかもしれません。
とはいえ普段からiBasso製のDAPやアンプ製品を利用されている場合はそれほど相性を気にする必要もなさそうな印象ではありますね(^^)。このクラスの製品を検討している方にとっても非常に興味深いイヤホンのひとつではないかと感じました。
音質と総合評価でのランキングも気になります。