TRN Conch

こんにちは。今回は 「TRN Conch」です。最近は幅広い価格帯の製品をリリースしている低価格中華イヤホンブランド「TRN」のシングルダイナミック構成のモデルで、10mm DLC(Diamond-Like Carbon)複合振動板二重磁気回路ダイナミックドライバーを採用し、金属製ハウジング、3種類のチューニングフィルター、3種類の交換プラグ、そしてメタルケース付属と充実した構成でアンダー30ドル、5千円以下を実現した意欲的なモデルです。例によって数ヶ月ほぼ書きかけのままになっていました(汗)

■ 製品概要と購入方法について

TRN Conch」は2023年の秋頃にリリースされたモデルで、高音質ドライバーとしてかつてはミドルグレード製品に積極的に採用されてきたDLC複合振動板ダイナミックドライバーを採用しつつ、アンダー30ドル級の価格設定を実現した、低価格イヤホンメーカーの面目躍如ともいえるイヤホンですね。
またTRNが上位グレードのモデルで採用したことのあるフィルターギミックに加え、メタルケース、交換式プラグ付き4芯ミックス線ケーブルなど、これまで低価格グレードでは付属しなかった付属品を加え、パッケージとして非常に充実した構成となっている点も大きな特徴です。

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TRN Conch」は10mmサイズの二重磁気回路ダイナミックドライバーをシングルで搭載。振動板にはDLC(Diamond-Like Carbon)アモルファスカーボン複合振動板を採用。優れた電気音響性能により分割振動と歪みを低減し、高周波の伸びと解像度を向上させます。また強力な磁束と最適な流れを制御する二重磁気回路設計によりサウンドはリアルで立体的になります。
本体は、音響的に安定した亜鉛合金を使用し、サウンドキャビティの構造とサイズを最適化。独創的なデザインにより過剰なノイズ反射を制御、キャビティの空気孔により空気の流れを制御し、ピュアでナチュラルなサウンドを出力します。
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また「TRN Conch」は3種類の交換可能なノズルフィルターが付属しています。それぞれフィルター内径サイズとフィルターネットが異なり、異なるオーディオ領域を強化します。またケーブルは4芯銀メッキ銅と無酸素銅線のミックス線ケーブルが付属。3.5mm、2.5mm、4.4mmの交換プラグに対応します。また「TRN T-Eartips」やメタルケース等充実した付属品が構成されています。
TRN ConchTRN Conch

TRN Conch」の購入はAliExpressまたはアマゾンのTRN直営店にて。
価格は29.75ドル、アマゾンでは4,550円です。
AliExpress(TRN Offical Store): TRN Conch
Amazon.co.jp(TRN直営店): TRN Conch


免責事項:
本レビューではレビューサンプルとして TRN Audio より製品を提供いただきました。機会を提供してくださったことに感謝します。ただし本レビューに対して金銭的やりとりは一切無く、レビュー内容が他の手段で影響されることはありません。以下の記載内容はすべて私自身の感想によるものとなります。


■ パッケージ構成、製品の外観および内容について

というわけで、レビューをサボりまくっていたら結構前から書きかけになってた「TRN Conch」です。開封写真を撮ったのはいつだったかな・・・(おい)。TRNは他にも未レビューで写真だけ撮った製品が何種類かあるので(実は依頼を受けてないKZあたりはもっと多い)、そのうちまとめて掲載しようと思っていますが、まずは依頼をひととおり掲載してから・・・(滝汗)

つわけで、TRNの低価格中華イヤホンブランドとしての面目躍如、価格破壊の雄、みたいなノリで昨年末あたりに評判になったモデルです。特に発売時のディスカウントでは現在よりさらに安かったためちょっとしたお祭り状態でしたね。積極的なマーケティングもあり海外より日本のほうが活況だった気もしますが、そうなると「まあ、あちこちでレビュー上がってるし急がなくていいかぁ」みたいなテンションになっていたかもしれないです(スミマセン・・・)。
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閑話休題、発売からひと段落して価格も本来の状態に戻っている「TRN Conch」ですが、それでもアンダー5千円、30ドル以下とは思えない充実したパッケージ内容。
イヤホン本体、ケーブル(4芯ミックス線)、交換プラグ(3.5mm、2.5mm、4.4mm)、交換フィルターおよび金属製の固定板、イヤーピース3種類(通常タイプ3サイズ、ウレタン1ペア、「TRN T-Eartips」3サイズ)、メタルケース、説明書。
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本体は亜鉛合金のダイキャスト製。つまり金型に流し込んで固めるタイプの成形ですね。アルミ合金などの場合はCNC(切削加工)が多いですが、ダイキャストは金属シェルのなかでも比較的低コストなのが特徴。アルミより重いですが、オーディオ的には樹脂シェルよりハウジングとしての反響を押さえ安定した音作りができるようです。TRNは「V60」の頃くらいから長年亜鉛合金の金属シェルを採用しているため、3Dプリンタとか使わなくてもかなり自由度の高い設計をできるみたいですね。
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そう考えると「TRN Conch」は一見すると個性的でよく練られたシェルデザインですが、実は前後で金型から抜きやすい形状をしていますし、どうせ金型段階でパーツが分離されるステムノズルを交換式にして(ネジ切りは成形後に切削で行う)フィルターギミックを付けるのもコスト面では合理的な機能強化といえます。このように同社が持っているこれまでの経験値をうまく製品に落とし込んでいる感じがプロダクトとして逆に安心感があります。最近増えている新興メーカーによる主にミドルグレードの製品では、設計者の思いやこだわりを表現するために特許を取得して3Dプリンタなどで精密に設計して、みたいなアプローチが増えていますが、それとは真逆で、工業製品としての合理性があり、ちゃんと価格にも反映している「TRN Conch」は思想こそ無いものの洗練された美しさを感じますね。
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というわけで、適度にコンパクトで交換式ステムノズルは太めですが耳への収まりも良いため装着感は良好。ケーブルもこれまでの上位モデルでも付属しているミックス線タイプで取り回しも安定しています。
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ノズルフィルターは標準の「Reference」がブラックのリング、よりフィルター材の薄い「Transparent」がブルー、逆にもっともフィルター材の濃い「Atomsphere」がレッドで、主に中高域の量感に変化があるようです。


■ サウンドインプレッション

TRN ConchTRN Conch」のサウンドは緩やかなV字を描く弱ドンシャリで、高域の伸び感を維持しつつ、歯擦音を感じる帯域をコントロールし聴きやすくまとめ、低域にも十分な量感と深さがあります。3種類のフィルターは主に高域について調整され、「Transparent」ではよりスッキリとした「TRNらしい」高域になります。また「Atomsphere」では中高域から高域にかけて減衰されるため相対的に中低域~低域がブーストされる印象となります。
この辺のチューニングも非常に良く「わかってる」感じで、どのフィルターでも奇をてらってる印象は無く、「Reference」では最近のニュートラル傾向で聴きやすくバランスの良い傾向でまとめつつ、「Transparent」らしいアグレッシブさ、「Atomsphere」ではボーカルや低音の響きなど、最近の(主に洋楽)ポップスやEDMに配慮したサウンドと、それぞれのニーズに応える印象となっています。なんというか、日高屋でラーメンを選ぶような、決して特徴があるわけではないもののどれでも低価格でかつ及第点で飽きない、みたいな、ライトユーザーからマニアの日常使いまで幅広く対応するオールラウンダーという印象です。

TRN ConchTRNはアップデートしたダイナミックドライバーとしてはCNT(カーボンナノチューブ)の振動板を採用していましたが、「TRN Conch」ではDLC複合振動板(この複合、というあたりに通常のDLCよりちょっとコストダウンしてる要素がありそう)を採用することで、シャープさやキレより多少柔らかさや滑らかさを感実印象に仕上がっています。そのためいかにもTRNといった感じのキレッキレのサウンドとは異なりますが、同社の明瞭さを感じる音作りは反映されており、リスニングイヤホンとして非常に分かりやすさを感じるのも特徴的です。また30Ω、114dB/mWという仕様で、あまり再生環境を選ばない点も使いやすさを感じるポイントとなるでしょう。

TRN Conch」の高域は明瞭ながら聴きやすく自然な伸びのある音を鳴らします。ブルーの「Transparent」らしいではTRNらしいスッキリした高域を楽しめますが、どのフィルターでも歯擦音などは適度にコントロールされており刺さりなどの刺激はほぼ感じないバランスになっています。質感としては同社のハイブリッドほど寒色のキレは無く、「Kirin」や「BAX」などより上位のドライバーを搭載したモデルほどの質感は当然持ち合わせていませんが、この価格帯としては十分に実用的な高域と言えるでしょう。80点主義かもですがちゃんと及第点に達している、という手堅さです。

TRN Conch中音域はV字傾向ですが凹みは僅かで適度な解像感とと分離の良さでボーカル域もしっかり表現されます。音場も自然で、DLC系特有の滑らかさや僅かな温かみも感じますが、全体として癖の無い明瞭なサウンドで仕上げられています。女性ボーカルの高域などは「Reference」および「Transparent」ではやや強調されスッキリした印象にまとめられています。「Atomsphere」では中低域から低域が相対的に強調され、より厚みのある印象になります。オールラウンドな「Reference」に対し、より女性ボーカルの高音が映える「Transparent」と、男性ボーカルの低音に厚みが増す「Atomsphere」といった感じでしょう。

低域は全体としてのバランスの良さを維持しつつ、十分な量感と厚みがあります。DLCらしい滑らかさや深みを感じる音色ですが、同時に既存モデルのCNTのようなキレの良さやアタックの力強さはあまり感じないため、派手さよりやや穏やかな印象の低域と言えるかもしれませんね。それでも中高域との分離は良く適度な締まりでミッドベースは直線的に鳴ります。重低音も深く解像感も適切です。この価格帯のイヤホンとしては質感は良く、ドライバーをグレードアップした効果がよく反映されています。


■ まとめ

というわけで、「TRN Conch」はやや個性的なシルエットと充実した付属品を持ちつつ30ドル以下に抑えたモデルとして評判通りの実力を発揮する「かなりお買い得感のある」イヤホンだと感じました。いっぽうでこの価格設定の裏付けとして、TRNの実績に基づいた手堅い設計や音作りなど、工業製品としての経験値の高さも感じさせ、「俺たちならこれくらいの製品は楽勝で作れるぜ」みたいな余裕すら感じる内容でした。TRNに関しては、いっぽうでは「勝負」だったり「チャレンジ」だったりするちょっと奇妙ぽい製品もたまにありますし、以前の低価格ブランドに固執せず、数百ドル台の製品もリリースしていることも、「経験値の幅の広さ」につながっているのかもしれませんね。
ともかく「TRN Conch」については、ユーザーとしては価格という意味でメリットを享受できるという意味で、日常使いのアイテムとして、あるいは中華イヤホンの入門機のひとつとして幅広くお勧めできるのではと思います。